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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第二十七話 彼氏彼女の事情

 
前書き
エックス達の話。
一応X8には繋げます。
 

 
四月上旬の、生命の溌剌とした春の最中、イレギュラーハンター新人の配属式が行われた。
式にはハンターとして戦いに加わる戦闘型の者達。
救護班に加わる者達。
そしてハンターの支援に当たるオペレータとしてスタートを切る者がいる。

エックス「君達はこれから誇りあるイレギュラーハンターとして、今までの戦いで殉職した英雄達の意志を受け継ぐんだ。死んでいった英雄達のイレギュラーハンターとしての想いを。君達の先輩達が命を賭して、力及ぶ限りの全てを守り抜いてきた、強き想いを」

【はい!!】

英雄と謳われるエックスの言葉に新人達が頷いた。
新人の彼らは新たな人生を前に希望に満ちた表情をしていた。







































そして彼らのうち、エックス達のようなトップクラスのハンターをアシストする者達がいる。
ハンターベースの中核を担うオペレータ。
彼女らは配属式の後、先輩のエイリアとアイリスから直々にアドバイスを受けるのだった。
華やかな配属式に比べ、ささやかな会場ではあったが、2人のオペレータ・レイヤーとパレットは緊張の面持ちでエイリアとアイリスの訪れを待つ。
エイリアはアイリスと共に部屋の前に立つと大きく息をついた。
後輩に会うにあたって、決意を新たにするためである。
彼女は胸に抱いた熱き想いを彼女らに伝えようと式に臨む。








































配属式より1週間前である。
この日ハンターベースでは新たに配属される新人達を迎え入れようと、あちこちで整備をしていた。
ちなみにハンターベースで特に忙しいのはシグナスとエイリアである。
ダグラスとライフセーバーはやることはなく、エックス達もすることがないため寛いでいた。
エックスは早いうちにデスクワークを片付けた後、窓の外を眺めていた。
レッドアラートとの戦いが終わり、世界は少しずつ再生を始めた。
ハンターベース周辺に被害はなく、都市は人々で賑わっていた。

エックス「エイリア」

自動ドアが開くと同時にエイリアが入ってきた。
ルインと同じ長い金髪が陽光に輝いて美しい。
スラリとした身体は聡明な彼女をよりパリッとした雰囲気に見せた。
最近アーマーを新調したらしい。
エックスと同じ、腕がバスターに変形するゲイト作の戦闘用に。
ゲイトが作製したので性能は確かであろうが、エックスは戦う必要はないと言ったが、エイリアも譲りはしなかった。
エイリアは1週間後の配属式でスピーチを行うらしく、その原稿を纏めていた。
スピーチのお題は“オペレータの心得”である。
エックスも似たようなことをしなくてはいけないために、内心苦笑していた。

エックス「お疲れ様」

エイリア「ありがとう」

エイリアは疲れていたが、エックスの一言で笑顔となる。
最初の頃はかなりとっつきにくかった彼女は、今ではこんな柔らかい表情を浮かべている。
彼女の笑みに年上の女性の美しさを意識した。
一応製造年は自分が遥か先を行くが、二十代前半に設定された彼女の容姿は青年型のエックスには眩しく映る。

エックス「コーヒーを飲むかい?」

エイリア「頂くわ」

エックスはエイリアを隣の椅子に座らせるとコーヒーを入れた。
湯気立ち上るカップが2つ。
うち1つを取り、エイリアは目を細めた。

エックス「(後で砂糖とミルクを用意しておかないとな)」

ルインがここに来るだろうから、甘いカフェオレを作って待ってようと考えたエックスはエイリアの隣に座る。

エックス「スピーチの準備は終わったのか?何だか忙しそうに見えたけど…」

エイリア「何とか、色々考えたんだけど、もう話すこととか決めたし」

エックス「そうか」

コーヒーを飲むと苦くて柔らかい風味が口の中に広がる。
初めてコーヒーを飲んだ時は、この味に感動したっけ…と昔を思い出しながら天井を仰ぐ。
エイリアはカップを両手で包んだまま、寂しそうな顔をしていた。

エックス「どうした?」

エイリア「ん…」

彼女はふっと遠い目をする。
胸に痛みを抱いて、無理に隠している表情である。

エイリア「私も先輩になるんだなって。アイリスもいるけど後輩が2人もいて、上手くやっていけるのかなって…大丈夫かな、私」

エックス「……」

思わず沈黙してしまうエックス。
脳裏に隊長に就任したばかりの自分の姿が通り過ぎる。
大戦後、彼は精鋭部隊隊長に就いたわけだが、最初は不安で仕方なかった。
シグマを倒した功績があっても自信が持てなかった。
しかしあの頃はハンターも少なく、シグマの残党も多くいたから、悩んでいる暇もなかったのが実際だが…。
エックスが隊長としての自信を得たのは、2度目の大戦を制して友を取り戻した頃である。
そしてルインも帰ってきて、ようやく自分は1人ではないと実感出来たからエックスはここにいる。
そして…。

エックス「(君もいてくれたから…)」

彼女がルインと共に自分を支えてくれたから、今の自分がいる。

エックス「大丈夫だ。君ならやっていける。」

その力強い声にエイリアは息を呑んだ。

エイリア「エックス…」

エックス「俺は君を信じている…エイリアなら大丈夫だって、今までどんなことがあっても乗り越えてこれたじゃないか。自信を持って」

木漏れ日の優しい表情で言う。
エイリアは驚いてしばし、今度は力強い瞳をして頷くのであった。

エイリア「そうね…大丈夫よね、私」

エックス「それにエイリア。この前、君が言ってくれた言葉だけれど。」

エイリア「?」

エックス「俺も…君やルインがいるから頑張れるんだ」

エイリア「え…?」






































戦えなくなったエックスに言ってくれた彼女の言葉。

エイリア『エックス…気にしないで。私は大丈夫だから、もう自分を責めないで…。あなたはもう充分傷ついた。もういいのよ。それにあなたは何も出来ないわけじゃない。あなたがいてくれるから私は頑張れるの…あなたがあの時助けてくれたから今の私がいるの…だから……これ以上自分を責めないで…』

その言葉に救われた。
あの時、礼を言い忘れてしまったけれど。








































エックス「君もいたから俺は絶望から立ち上がれた。」

あの時のエイリアは壊れた腕にそっと触れて、優しく語りかけてくれた。
凄く嬉しかった。

エックス「俺は今でも迷ってばかりだ。昔も今も…でも俺には見守ってくれる人や共に戦ってくれる人だっている。1人じゃないと分かったから。」

エイリア「エックス…?」

彼女はエックスの顔を覗き見た。
顔が心なしか赤い。

エックス「君さえよければ、これからも俺の傍にいて欲しい。ずっと…」

エイリア「エックス…私は…」

2人の顔は赤い。
エイリアが言葉を紡ごうとした直後。

アクセル「ああ!!エックスとエイリアがいい感じだー!!」

お子様達が2人の間に割り込む。
アクセルとルナである。
突然の出現にエックスとエイリアは飛び上がった。

エックス「ア、アクセル…」

しどろもどろのエックスにアクセルとルナはニヤリとする。

アクセル「ルナ…これって…」

ルナ「だろーなあ…お熱いこって…」

アクセル「まあ、頑張ってよね2人共。暖かーく見守ってあげるからさあ」

ルナ「んじゃ、お2人さん。ご機嫌よーう」

ニヤニヤと笑いながら退散していく2人にエックスはとてつもなく不愉快な表情をしていた。

エイリア「アクセルとルナったら…」

エイリアは赤面しながら笑っていた。
怒りやら残念な気持ち、その他諸々な感情が複雑な表情であったが。

エックス「(配属式後の2人の訓練は普段の10倍にしよう…)」

そう心に固く誓うエックスであった。

エイリア「さてと…」

コーヒーを飲み終えたエイリアは爽やかに立ち上がる。

エイリア「私も行かなきゃ。ありがとうエックス。あなたのおかげで直ぐに終わりそう」

エイリアはエックスとルインにしか見せたことのない顔で笑う。

エックス「そうか」

エックスもエイリアとルインにしか見せない顔で笑った。
エックスもエイリアも自室へ戻っていく。
エックスはアクセルとルナの普段の10倍の訓練内容を思案した。











































エイリアはスピーチを纏めていた。
エックスに言われて気づいたことを打ち込んでいるのだ。
部屋は暗い。
パソコンを使うことの多い彼女は、自然光が映りこみするという理由でカーテンを引いている。
オペレータはハンターに情報を伝え、最善の結果をもたらすようにアシストする。
ハンターの視覚情報、戦地の情報、敵のデータを解析し、いかなる時も冷静に対処する。
そして…。











































しばらくしてゼロがエックスの部屋に入って来る。
紙袋を持参して。

エックス「あ、ゼロ。どうしたんだ?」

ゼロ「どうしたんだじゃない。晩飯食ってないのはお前だけだぞ。何をしてるんだ?」

エックス「ああ、配属式後のアクセルとルナの訓練内容さ」

ゼロ「どれ……っ!!?」

内容を目にしたゼロは思わず我が目を疑った。
アクセルとルナは特A級ハンターであるために訓練はかなりきついというのに、普段の訓練の10倍…下手したらそれ以上の内容である。

エックス「これだけやれば、彼らも少しは懲りるだろうねえ。」

ゼロ「(あいつらはまた何かしたのか…)」

これから降り懸かる災難を思うとゼロもアクセルとルナを哀れに思うが、自業自得と判断して、メモリーから訓練の内容を消し去った。
ゼロはエックスに向かって口を開いた。

ゼロ「訓練内容が纏まったところで1つ笑い話でもどうだエックス?」

エックス「え…?」

ゼロの突然の問い掛けに怪訝な顔で小首を傾げるエックス。
そんな彼に構わずゼロは続ける。

ゼロ「なあエックス。アルバート・W・ワイリーという名前知っているか?」

100年前、世界征服を企み自ら製作した数多くの戦闘ロボットを率いて、人類の英雄ロックマンと幾度も戦った悪の科学者の名前だ。
彼の野望は最終的にはロックマンに食い止められ、ワイリーナンバーズと言われる彼のロボット達も尽く滅びたと政府製作の公式資料には記されている。

エックス「そ…そりゃ知ってるけど。そのワイリーがどう…」

ゼロ「そのワイリーの爺が製作した戦闘用ロボット。ワイリーナンバーズがこの世界にまだ生き残っていたとしたらどうだ?」

エックス「え…?」

目を見開くエックス。

ゼロ「それも…お前の目の前にな」

エックス「ちょ…ま…待ってくれゼロ。一体何を言い出すんだ」

激しく狼狽するエックスの前でゼロははっきりと言い放つ。

ゼロ「俺は最後のワイリーナンバーズ。トーマス・ライトが晩年に製作した最後のライトナンバーズ…即ちお前とは前世紀からの宿命の敵同士だと言う事だ」

エックス「(何の冗談…)」

ゼロの目は笑ってなどいない。
真剣そのものだ。

ゼロ「昔、俺は時々老人の夢を見た。痩身の老人は俺に言う“あいつを倒せ”と。俺の製作者があの悪の天才科学者Dr・ワイリーであり、奴の言う“あいつ”とは即ち爺が生涯掛かって勝てなかった伝説の英雄ロックマンの後継者であるお前であると言う事実がな」

エックスに指を突きつけながら冷淡に言い放つゼロ。

エックス「嘘だ…」

声を震わせるエックス。

ゼロ「嘘じゃない。現に俺はかつてワイリーナンバーズとして殺戮を繰り返していた。世に悪名高き“紅いイレギュラー”。それは紛れもなくこの俺の事だ」

エックス「そ…そんな…違う…あのイレギュラーが君である訳が無い。俺にとってのゼロは…君以外に有り得ない…」

今この場においてエックスの言葉は何の根拠もない理想論である。
現実主義者たるゼロならば間違いなく一笑に付すだろう。
しかしそれでもエックスは、そう言うしかなかった。
もしゼロがイレギュラー…更にはワイリーナンバーズである事を認めてしまえば、まさしくロックマンの後継者として生まれた自分にとって、シグマ以上の最大の宿敵と言う事になってしまう。
互いに過去の記憶を失った者同士であったからこその親友関係であったというのか。
無二の親友同士であった彼らだが、一方はDr・ライトの生み出したロックマンの後継者であり、もう一方は最後のワイリーナンバーズ。
それがそれぞれ記憶を失い、友として生きてきたとは何と言う皮肉であろうか。
エックスの心中に絶望の影が色濃く覆っていく。
しかし…。

ゼロ「そうだな。俺もそのつもりだ」

ゼロのその言葉に顔を上げるエックス。

ゼロ「言ったろ?笑い話だってな。ライトと爺の争いはもう100年も前に決着してるんだ。今更俺達に一体何の関わりがある?大体、今の俺はオリジナルボディを失っているからな。爺の干渉はもう受けないし、今の俺が人格として固定されてるんだ。」

そう言ってゼロはエックスに向かって微笑を浮かべる。

エックス「…そうだよゼロ。別に100年前の因縁も宿命も今の俺達には関係ないじゃないか」

そんなゼロに対してエックスも満面の笑みで答えた。
しかしゼロはそんなエックスを制すように手を向けると更に続ける。

ゼロ「ただ俺はワイリーナンバーズであるということから目を背ける気は無い。それを踏まえた上で俺は今の自分として生きていく。」

エックス「そうか…」

ゼロ「零空間での戦いで俺は確かに覚醒したはずなんだ。それでも俺は消えなかった。お前達と共に過ごした記憶がある限り、俺は俺なんだ」

エックス「ゼロ…」

ゼロ「とにかく、飯を食ってしまえ、明日は召集があるんだからな」

エックス「ああ…」

ゼロは部屋から去っていき、エックスはパソコンの電源を切ると夜空を見上げた。










































1週間後、彼女は後輩オペレータの前でスピーチを披露する。
出かけざまエックスに“頑張って”と声をかけられ、にわかに頬が赤く染まる。
そしてそれに頷いて、彼女は笑った。
2人の後輩の前で彼女は言う。
オペレータは見守ることしか出来ないけれど、見守って支えるのが大切な使命なのだと。
そう語る彼女は、とても満ち足りた表情だったと、後に後輩の2人は言うのだった。









































~おまけ~

配属式後のハンターベースのトレーニングルームではアクセルとルナの叫び声が響いていた。

アクセル「わあああああ!!?」

ルナ「どわああああ!!?」

エックスのチャージショットをギリギリで回避したアクセルとルナ。
しかし今度は通常弾の連射が2人に容赦なく襲い掛かる。

アクセル「ぎゃああああ!!エックス、ごめんなさ~い!!」

ルナ「俺らが悪かったから…命だけは命だけは…!!」

ゼロ「(自業自得だな…)」

ルイン「(ご愁傷様…)」

エックス「エクスプロージョン!!」

桁外れの威力を誇るエネルギー弾が炸裂し、ハンターベースに凄まじい悲鳴と轟音が響き渡るのだった。 
 

 
後書き
エイリアがアーマー換装。
 
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