FAIRY TAIL ―Memory Jewel―
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第1章 薔薇の女帝編
Story6 薔薇屋敷
前書き
更新遅れてスミマセン!紺碧の海です!
今回はとあるクエストに行ったっきり帰って来ないウェンディ、シャルル、イブキ。2人+1匹を探す為、ナツ達が向かったのは―――――えっ?薔薇屋敷!?
それでは、Story6・・・スタート!
―1週間前―
真昼間から酒を飲んでガヤガヤ騒いで賑やかな魔道士達が集う魔道士ギルド、妖精の尻尾。
そんなぐ~たらに見える妖精の尻尾の魔道士達だが、有能な魔道士ばかりできちんと仕事をこなしているのだ。魔道士達はこの仕事を“依頼”や“クエスト”と呼んでいる。
人助けや探し物、占いに魔物討伐までレパートリーが豊富な依頼は、魔道士ギルドには必ずある必需品、依頼板に依頼用紙として掲示されている。
依頼を無事完遂すれば、依頼人から報酬を受け取る事が出来、魔道士達はその報酬で食費や生活費、家賃などを費やしているのだ。
「シャルル、今日はどんなクエストにする?」
「そうねぇ・・・短期間で終える事が出来て、そんなに手間が掛からなくて、報酬がそこそこ良い仕事なんかが良いんじゃないかしら?ここ最近、ずっと討伐系の仕事ばっかりだったからね。」
依頼板に掲示された数々の依頼用紙を順繰り順繰り見ながら、ウェンディは腕の中にいるシャルルに問う。
そんな会話を交わしていると、ウェンディの目にとある依頼用紙が目に留まった。右手を伸ばし、目に留まった依頼用紙を手に取ろうとする―――――と、依頼用紙の端を掴んだウェンディの手に、ウェンディの手より少し大きな左手が重なった。
「「あ。」」
2つの声が重なった。
ウェンディは視線を左手が伸びてきた方に移すと、胸元で光る、青い雫型のチャームが付いたペンダントが目に留まった。視線を少し上に上げると、自分の顔を見つめているイブキと目が合った。
「イブキさん。」
「アンタ、こんなクエスト出来るの?」
「これでも手先は器用な方なんだよ。薔薇の手入れくらい、朝飯前だっつーの。」
ウェンディとイブキが受けようとした依頼は、【薔薇の手入れの手伝い 40万J】という内容だった。
男のイブキにはあまりにも似合わない依頼なのだが・・・
「まっ、ここは礼儀として、その依頼はウェンディとシャルルに譲ってやるよ。」
「あ、それってこの前ロキさんに教えてもらったエチケットですよね。」
「何で知ってんだァ!?」
「ロキ本人が言ってのよ。「イブキももう年頃の年代だから、初歩的な恋のエチケットを教えたんだ」ってね。」
「アイツゥ~・・・!」と、イブキは拳を握り締めて唸るように呟いた。
そんな様子のイブキを見て小さく笑いながら、ウェンディは依頼板に掲示されている依頼用紙を仰ぎながら、しばらく考え込むようにこてっと首を傾げていたが、
「イブキさん、よかったら一緒にこの依頼を受けませんか?」
ウェンディが依頼用紙を手に取りながらイブキに問うた。
イブキは握り締めていた拳を解き、驚いたように少し見開いたオッドアイをウェンディに向けた。
「い・・良いの、か?」
「もちろんです。良いよね、シャルル?」
「私は全然構わないわよ。その代わり、報酬は2分の1、20万Jだからね。」
「あぁ、分かってるって。ありがとな。」
礼を言うイブキに対して、ウェンディは大きく頷いた。
「依頼先はローズの街で、依頼人は屋敷の女主人か。ここからだと列車で1時間くらいだな。」
「魔法も使わなさそうだし、案外簡単かもしれないわね。この依頼。」
「そうだね。」
「だな。」
ウェンディ、シャルル、イブキの2人+1匹は依頼用紙と荷物を手に、ミラがいるカウンターに着くと、イブキはミラに、持ってた依頼用紙を見せた。
「行って来る。」
「気をつけてね。あら?ウェンディとシャルルも一緒なの?珍しい組み合わせね。」
イブキの隣に立つウェンディと、抱かれているシャルルを見てミラはニコッと笑う。
「まっ、たまには少人数でも面白いんじゃない?」
シャルルはここ最近、10人+2匹という集大成で行動する事が多かった為、息抜きには丁度いいと思っているのだろう。
「それもそうね。イブキ、ちゃんとウェンディとシャルルの面倒見るのよ。」
「お前に言われなくても分かってるっつーの。」
笑顔のミラとは対照的に、イブキはぶっきらぼうに答える。19歳のミラと15歳のイブキ。年は離れているが、長い付き合いのせいかミラはイブキの態度が気に障る事は一切無いみたいだ。
「それと、ウェンディにちょっかい出したらダメよ。」
「どーゆう意味だよそれェ!?」
逆にミラの言動の方が、イブキの気に障る事が多いみたいだ。
そんなイブキとミラのやり取りに、ウェンディは困ったような曖昧な笑みを浮かべ、シャルルは呆れたように目を細めた。
「ったく。ウェンディ、シャルル、行くぞっ!」
「あ、はい!ミラさん、行って来ます。」
「長くても2日くらいで帰って来るから。」
「いってらっしゃ~い♪気をつけてね~♪」
乱暴に荷物を手に取り足早にギルドを後にするイブキを追いかけ、シャルルを抱いたウェンディもミラに声を掛けてから足早にギルドを後にした。
―魔道士ギルド 妖精の尻尾―
「どーゆう事だよっ!」
バン!と音を立ててナツがギルドのテーブルを思いっきり叩きながら椅子から立ち上がった。テーブルの上に置いてあった、ルーシィが飲んでいたレモンスカッシュが入ったコップが倒れ、バンリが呼んでいた分厚い魔道書が宙に浮き上がった。バンリは何事も無かったように、再びその魔道書を読み始めたが・・・
「ウェンディとシャルルとイブキが仕事に行って、もう1週間も経つんだぞっ!それなのに帰って来ねェなんて、いくらなんでも可笑しすぎるだろっ!?」
「ちょっとナツ、落ち着いて。」
「お前が怒鳴っても、何の意味も無いぞ。」
ルーシィが宥め、エルザに軽く渇を入れられると、ナツはようやくドカッと椅子に戻った。
ギルド内の空気がピリピリしているのは無理もない。ウェンディ、シャルル、イブキが一緒に仕事に行ったっきり、1週間経っても帰って来ないのだ。
「仕事先で、3人に何かあったとしか考えられねェな。」
「3人共、無事だと良いんだけど・・・」
グレイが難しい顔をして呟き、コテツが心底心配そうに呟く。
「ミラ、3人が何の仕事に行ったか分かるか?」
「【薔薇の手入れの手伝い 40万J】という依頼よ。」
アオイの問いにミラはすぐ答えた。
「シャルルは私に、「長くても2日くらいで帰って来るから」って言ったのに・・・」
「ミラさん、そんなに落ち込まないで。」
俯くミラをエメラが励ます。
「確か、依頼先はローズの街にあるとある屋敷で、依頼主はその屋敷の女主人だったな。」
「そうと分かれば・・・行くぞハッピー!」
「あいさーっ!」
確かめるように呟いたエルザの言葉を耳にしたナツは一目散にハッピーと共にギルドを飛び出して行った。
「えっ!ちょ、ちょっとナツ~!?」
「ったく。相変わらず身勝手な野朗だぜ。」
「私達も行こう!」
「つーかアイツ、列車で行く事ぜってェ忘れてんだろ。」
「皆待ってよ~!」
飛び出して行ったナツとハッピーを追いかけて、ルーシィ、グレイ、エメラ、アオイ、コテツの順にギルドを飛び出して行く。
エルザは小さくなっていくルーシィ達の後ろ姿に目をやった後、視線をカウンターに座っているマスターに移した。
「マスター。」
マスターは口に銜えていたパイプを外し、ふぅ~と口から煙を吐き再びカプッとパイプを口に銜えてから口を開いた。
「行けと言えばもちろん、ダメだと言っても、何も言わずに黙っておっても・・・お前達は行くじゃろ?」
そこまで言うと、マスターは一旦話を区切り、ニカッと微笑んだ。
「仲間を探しに。」
エルザはマスターの言葉に大きく頷いた後、踵を返してギルドを出て行こうとする―――――と、未だに椅子に座って魔道書を読み続けているバンリが視界に入った。バンリはエルザの視線に気づいていないのか、黙々と魔道書を読んでいる。
エルザはUターンしバンリに歩み寄ると、バンリが読んでいた分厚い魔道書をバン!と乱暴に閉じ、バンリの首根っこを掴んで、ズルズルと引き摺るようにしてギルドの外に向かって歩き出した。
「まだ全部読ん」
「関係ない。」
「読んでいない」と、言おうとしたバンリの言葉を切り捨てるようにエルザが自分の言葉で遮った。
「お前にとって、イブキは一番傍にいる存在だ。その大切な存在が1週間も帰って来ない。いくら無表情且つ無感情且つ無口のお前であろうと、何とも思わないはずがない。」
「・・・・・」
自分の悪口に近い事を口走っているエルザに対して、無口であるバンリは何も言わないし、表情も一切変わらない―――が、長い付き合いのせいか、バンリがイブキの事を心配しているというのは一目見ただけで分かる。それが例え、バンリの表情が一切変わらずとも―――――。
「それに、お前の力が必ず必要になる気がするんだ。」
バンリの顔の角度からエルザの顔は一切見えないが、バンリには何となくエルザが笑っているように見えたのは気のせいだろうか?
バンリは一度小さく肩を竦めた後、首根っこを掴んでいるエルザの手を振り払うと、エルザを置いて駅に向かって走り出した。エルザもバンリの後ろ姿に目をやり小さく肩を竦めると、その後を追って走り出した。
―列車内―
「ぉ・・ぉぉ・・・ぉ、おぷ・・・・」
「ナツ~、しっかりしてよ~。」
滅竜魔道士である為、“乗り物に弱い”という弱点を持つナツは、真っ青な顔をして目を回したり、口を押さえたりなど、吐いても可笑しくない状況に陥っている。
「毎度毎度の事だけど、ホント大変ね。」
「ウェンディがいないから、トロイア掛けてもらえないしね。」
「運悪いな。」
ルーシィ、コテツ、アオイの順に言う。
「それにしても、イブキが薔薇の手入れなんかするなんて意外だな~。」
「あ、エメラもそう思う?」
「うん。ハッピーも?」
「あい。」
エメラが呟いた言葉に魚を食べていたハッピーが賛同するように頷いた。
「アレでも、イブキは手先が器用なんだ。薔薇の手入れくらい、イブキにとっちゃ朝飯前だ。」
「アレって・・・」
胸の前で腕を組み、目を閉じていたバンリの物言いに、ルーシィは半分呆れ顔をしながらツッコミを入れる。
「ローズの街、だっけな?」
「あぁ。その名の通り、街の至る所に色とりどりの薔薇の花が咲いている街だ。観光名所としても結構人気のあるスポットなんだ。」
「へぇ~、どんな色の薔薇が咲いてるの?」
グレイの問いにエルザが答え、エルザの答えを聞いたルーシィが問うと、スッと1枚の写真が手渡された。ルーシィはその写真を受け取り見てみると、
「うわぁ~!きれ~い!」
赤、オレンジ、黄色、白、青、紫、ピンクの色とりどりの薔薇と時計台が写っていた。
「以前、仕事でローズの街に立ち寄った時に撮ったんだ。参考になるかもしれないと思って、一応持って来た。他にもあるけど、見る?」
「うん!見る見る!」
「ルーシィ、僕にも見せて。」
バンリは鞄の中からワインレッドの表紙のアルバムを取り出しルーシィに渡した。ルーシィは受け取ると皆にも見えるようにしてアルバムを開いた。
1輪の赤い薔薇、白い薔薇の花束、ピンクの薔薇のアーチなど色とりどりの薔薇が写真の中に綺麗に収められていた。もちろん、写っているのは薔薇だけではない。白い天使の石膏像がある噴水、レンガ造りの建物、空飛ぶ鳥、薔薇の絵が刻まれたマンホールなど、ローズの街のあらゆる物が写真の中に綺麗に収められていた。
ふと、写真を1枚1枚じっくり見ていたグレイがある事に気づいた。
「なぁバンリ、この写真誰が撮ったんだ?」
「俺。」
「お前は、ドコにも写ってねェのか?」
「撮るのは得意だし好きだけど、写るのは下手だし嫌いだから。」
「そ、そうか・・・」
グレイの問いにバンリは手短く答える。
「ナツ~、ほら見て~。バンリが撮ったローズの街の写真だよ~。」
「ぉぉお・・うぷ・・・」
ハッピーがアルバムから抜き取った1枚の写真をナツに見せようとしてナツの体を揺らす。が、ナツにはそれが更に悪影響を及ぼす。
「それと・・・」
次にバンリが鞄の中から取り出しアオイに渡したのは、分厚い図鑑だった。淡い水色の表紙には「花言葉大辞典」と書かれている。
「花言葉?」
「もしかしたら・・・と思って、念の為に。」
アオイが首を傾げながらも皆に見えるように図鑑を開いた。図鑑はあ行から始まっていた。
「へぇ~、アネモネの花言葉は“真実”なのか。」
(アネモネ・・・)
アネモネの花言葉を見て呟いたアオイの言葉に、エメラは目を伏せた。
蘇った記憶に映る、風に揺れるアネモネの花―――――。
(あの記憶はいったい、何の意味を表しているの・・・?)
目を伏せるエメラの事を、グレイは心配そうに見つめていた。
「水仙の花言葉は、“神秘”と“尊重”だって。」
「1つの花に複数の花言葉があるのね。」
コテツ、ルーシィが図鑑に載っている水仙の花の写真を見ながら言った。
「おいおい、私達はこれからローズの街に行くんだぞ?薔薇以外の花言葉を見てどうするんだ。」
「あ、そうだった。」
エルザに指摘され、アオイは思い出したように次々とページを捲り、は行のページを開いた。
「あった!」
「へぇ~、薔薇の色が違うだけで花言葉が違うのね~。」
ルーシィが感心したように呟いた。
「えーっと何々・・・赤い薔薇の花言葉は、“永遠の愛”と“情熱”だって。」
「そっか。だから恋人とかにあげる花は赤い薔薇なんだ!」
「じゃあ、グレイはジュビアに赤い薔薇をあげれば思いが伝わるって事なんだね。」
「どーゆう意味だそりゃ。つーかあげねェし。」
アオイが赤い薔薇の花言葉を読み上げ、納得したようにコテツが言い、ハッピーがぷくくと笑いながらグレイを茶化す。茶化されたグレイは眉を顰めた。
「白い薔薇の花言葉は、“素朴”と“純粋”だって。」
「あー、それらしいわね。」
エメラが白い薔薇の花言葉を読み上げ、うんうんと頷きながらルーシィが言う。
「ほぉー、オレンジの薔薇の花言葉は、“信頼”と“絆”なのか。」
「お・・ぉ・・・フェ、妖精の尻尾に・・ぉぷ・・・ぴ、ったり・・じゃねー・・・か・・ぅぷ・・・!」
「そこだけはちゃんと反応するんだね。」
「つーか、あんま喋んねェ方が良いと思うぞ。」
「今度ミラに頼んでギルドに飾ってもらおうよ!」
「良いわねそれ!」
エルザがオレンジの薔薇の花言葉を読み上げ、酔っているナツが辛そうに呟き、ハッピーとグレイがツッコミ、コテツとルーシィが嬉しそうに言う。
「黄色い薔薇の花言葉は確か、“希望”だったはず。」
「おーっ!すげーなバンリ!当たってるぜ!」
(コイツ、図鑑の中身を暗記してるのか・・・?)
図鑑も見ずに黄色い薔薇の花言葉を当てたバンリにアオイは驚嘆の声を上げた。グレイはバンリの記憶力に目を瞬かせた。
「青い薔薇の花言葉は、“奇跡”と“夢”。」
「紫の薔薇の花言葉は、“王座”と“尊敬”。」
「ピンクの薔薇の花言葉は、“誇り”と“満足”と“感謝”。」
ハッピー、エルザ、エメラの順に薔薇の花言葉を読み上げる。
「どの薔薇もいろいろな意味が込められているのね。」
ルーシィがうっとりとした目をしながら言ったのと同時に、
『えー、次はー、ローズ、ローズ。』
列車内のスピーカーからアナウンスが聞こえた。
「ナツ、もうすぐで着くからね。」
「お・・ぉおぉぉ・・・」
ハッピーの言葉にナツは頷く代わりにか細い声で返事をした。
「バンリ、これありがとっ。」
「いろいろ為になったぜ、ありがとうな。」
ルーシィとアオイはアルバムと図鑑をバンリに返し、荷物を持って列車を降りて行った。
返されたアルバムと図鑑を鞄に仕舞うバンリの横にエルザが仁王立ちをする。
「やっぱり、お前を連れて来て正解だった。」
バンリはエルザの事を無視してアルバムと図鑑を仕舞った鞄を持ち、エルザの脇を通りながら列車を降りた。エルザは一度肩を竦めた後、皆を追いかけて列車を降りた。
―ローズの街―
「はぁ~・・・」
一同はため息と共に驚嘆の声を漏らした。
「す・・すごい・・・!」
「あっちも・・・!」
「こっちも・・・!」
「そっちも・・・!」
「薔薇だらけだーーーっ!」
右を見ても、左を見ても、後ろを見ても、前を見ても、辺り一面薔薇、薔薇、薔薇。地面はもちろん、街中を歩く人々の服や帽子、靴にも薔薇の刺繍や飾り、カフェのテーブルや看板にも薔薇の絵、子供が持っている風船にも薔薇の絵が描かれている。
大声を上げてしまうのは無理もない。
「こんだけ色とりどりの薔薇があると、目がチカチカしてたまんねェ。」
目元を擦りながらグレイが呟く。
「エルザ、これからどうするの?」
「一先ず、依頼主が住んでいる屋敷を探そう。」
エメラにそう言うと、エルザは辺りをキョロキョロ見回し、街中で買い物を楽しんでいる2人の女性の方に向かって歩いて行く。ナツ達も黙ってエルザに続く。
「すみません、ちょっとお尋ねしたい事があるのですが・・・?」
「あら?観光の人かしら?」
「ローズの街の事なら何でも聞いて下さい。」
エルザが声を掛けると2人の女性はくるっと振り返りナツ達に優しそうな笑顔を向けた。
「この街に、女主人が住んでいる屋敷ってありますか?」
「「!」」
エルザが問うと、2人の女性は目を見開いたりお互い顔を見合わせたりした。
「あ、あの・・どうかしたんですか・・・?」
「あなた達、まさかその屋敷に行くつもりなの・・・?」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
不安そうにルーシィが問うと、逆に女性の1人から問われ、アオイが首を傾げながら答えた。アオイの答えを聞いた2人の女性は更に困ったような表情を浮かべてお互い顔を見合わせている。
「余計なお世話かもしれないけど、その屋敷には行かない方が良いわ。」
「えっ?」
「何でだァ?」
女性の言葉にコテツとナツが首を傾げた。
「その屋敷は、薔薇屋敷って呼ばれてるんだけど・・・薔薇屋敷に住んでいるのは、ローズの街の権力者のような存在なのよ。自分勝手な権力者が、ね。」
「7人の部下を従えているという噂も流れているの。しかも、ここ最近では更に妙な噂が流れてるのよ。」
そこまで言うと、一旦話を区切り深呼吸をすると口を開いた。
「闇ギルドの人間なんじゃないか、という噂と・・・」
「薔薇屋敷に訪れた人を、コレクションにしてるんじゃないか、っていう噂がね。」
「!!?」
女性の言葉にナツ達は目を見開いたり口元に手を当てたりする。
「そういえば、1週間くらい前にも薔薇屋敷に行った人がいるらしいわよ。しかも子供2人と猫ですって!」
「えーっ!?子供と猫が、薔薇屋敷にいったい何の用でぇ!?」
女性の言葉にナツ達は耳を疑った。
「そ、その子供と猫の特徴、分かるかっ!?」
「え?えーっと・・・子供は藍色の髪の毛の女の子と、紫色の髪の毛の男の子と、尻尾にリボンを付けた白い猫だけど・・・・?」
「あなた達、その子達と知り合いなの?」
エルザに問われた女性のうち1人が特徴を言い、もう1人の女性が不思議そうな顔をして首を傾げた。
(ウェンディとシャルル、イブキの事だ・・・!)
ルーシィの中では確信がついていた。もちろん、ルーシィだけではない。今この場にいる全員がそう思っただろう。
「その薔薇屋敷はどこにあるの?」
「この先の道を真っ直ぐ行けば、色とりどりの薔薇の花が咲いた広い庭があるレンガ造りの建物があるわ。その建物が薔薇屋敷よ。」
「分かった!」
屋敷の場所を聞くと、ナツ、アオイ、ハッピー、コテツ、ルーシィ、エルザ、エメラ、グレイの順に駆け出した。
「あ、あなた達・・観光に来たのに薔薇屋敷に行くつもり・・・?」
「私達が、もっと別な素敵な場所を紹介するわよ。」
1人取り残されたバンリに、2人の女性は尋ねる。バンリは視線をナツ達が走って行った方から一切動かさず、表情を一切変えずに口を開いた。
「俺達は妖精の尻尾の魔道士。1週間前に薔薇屋敷に訪れた子供と猫は、俺達の仲間だ。俺達は、その仲間を助けに来ただけだ。観光に来た訳じゃない。」
バンリはそう言うと、ナツ達を追いかけて走り出した。
―薔薇屋敷 入り口の門前―
「・・・薔薇屋敷、ねぇ。」
「如何にもそのまんま、って感じだな。」
薔薇屋敷に着いたルーシィとグレイは感想を正直に述べた。
その名の通り、薔薇屋敷は色とりどりの薔薇が庭一面を埋め尽くすほど見事に咲き誇っていた。入り口の門から屋敷の玄関まで続く1本道は白、黄色、オレンジ、ピンク、赤、紫、青の順に咲き誇る薔薇のアーチが続いており、道の真ん中には噴水があり、水面に薔薇の花弁が漂っている。
「相当薔薇好きの権力者が住んでいるみたいだね。」
「さっきから薔薇のにおいしか嗅いでねェから、鼻が可笑しくなりそうだ。」
「ナツは鼻いいもんね。」
エメラが辺りを見回しながら呟く。その横でナツは鼻を擦る。
そんな会話を交わしているうちに薔薇屋敷の玄関に辿り着いた。豪華な雰囲気を漂わせている茶色い扉は意外とシンプルなデザインだが、薔薇の絵が刻まれていた。
「扉にまで薔薇か・・・」
「もう見飽きたよ~・・・」
アオイとコテツがガックリと肩を落とす。
「屋敷内に入れば更に薔薇を見る事になると思うけど。」
「うおっ!?」
「バンリ、いつの間に!?」
「今来た。」
皆より出遅れていつの間にかここにやって来たバンリを見てナツとエメラは驚嘆の声を上げた。
「とりあえず、中に入るぞ。」
エルザはそう言うと、薔薇の形をした金色のドアノッカーがあるのにも拘らず、扉を握り締めた右手の拳でガンガンと叩いた。
「たのもーっ!」
「だからどこの時代の人間よっ!?」
古風すぎるエルザの言葉に今回はルーシィがツッコミを入れる(前回はイブキ 参照Story5)。
「あのなー、叫んだだけじゃ出て来る訳」
「どちら様でしょうか?」
「何でーーーっ!?」
「ないだろ」と、言いかけたアオイの言葉を遮るように、ピンク色の長い髪の毛に、裾にピンク色の薔薇の飾りが付いた淡いピンク色の膝丈ドレスに身を包んだ女性が少し開けた扉の隙間から顔を覗かせた。
「妖精の尻尾の者ですが」
「あ、依頼を引き受けてくれた方ですね!」
「えっ?」
「ささっ、どうぞお入り下さい。」
頭に?を浮かべるエルザにお構いなしという風に、女性は顔をほころばせて扉を大きく開けナツ達を屋敷内に招き入れた。
「!」
屋敷内に入ろうとしたグレイは何者かの視線を感じ辺りを見回した。すると、屋敷の陰から何者かがこっちの方を窺っていた。グレイと目が合った瞬間、ヒュンと隠れてしまったが・・・
「グレイー早くー!」
「置いてっちゃうよーっ!」
ハッピーとコテツに急かされグレイは屋敷内に足を踏み入れた。
「妖精の尻尾の皆様、お待ちしてました。」
ナツ達が通されたのは、天上にはシャンデリアが輝き、金色の額縁に飾られた風景画や薔薇の絵、ふわふわの絨毯、硝子テーブルが置かれた広い1室だった。そしてバンリが言ったとおり、硝子テーブルの上には花瓶に生けられた白い薔薇があった。
「私が依頼人のマリーナ・ファージュです。依頼内容は依頼用紙に記入していた通り、この屋敷の庭の薔薇の花の手入れを手伝って欲しいんです。」
依頼人のマリーナはウェーブの掛かった長い黒髪に、スリットの入った黒いドレスというこの部屋にはあまり雰囲気が似合わない女性だった。
ソファーに腰掛けているマリーナを取り囲むように7人の男女が傍に立っている。
(な・・何で、黒い薔薇・・・?)
ルーシィが一番気になったのは、マリーナの頭と胸に飾られている黒い薔薇だった。
「俺達、実は依頼を受けに来たんじゃないんだ。」
「え?」
「1週間くらい前に、僕達の仲間がもうここに来ているはずなんだけど・・・?」
「いえ、妖精の尻尾の魔道士が来たのはあなた達が初めてですよ。そうよね、アイム?」
「作用でございます、マリーナ様。」
マリーナに問われ、青い表紙の手帳をパラパラと捲る青髪の青年、アイムが答えた。アイムの右胸には青い薔薇が飾られている。
「そんなはずないよぉ!」
「ウェンディ達は確かにここに来たはずだっ!もっとよく確かめろよっ!」
「とは言っても・・・」
コテツが喚き、ナツが怒鳴る。マリーナが困ったように眉を八の字にしたその時―――――
「ひィッ!」
「!!?」
「ちょっ・・!エルザ・・・!?」
「バンリ・・・?」
マリーナの首筋に、エルザは別空間から取り出した剣の剣先を突きつけ、バンリは小刀を剣に変え剣先を突きつけた。マリーナの黒い瞳が大きく見開かれている。少しでも動けば、2本の剣の剣先はマリーナの首に刺さってしまう。
「おいお前!」
「マリーナ様に何て事を・・・!」
オレンジ色の髪の毛の青年と赤髪の女性がエルザとバンリをマリーナから遠ざけようとするが、エルザとバンリは一睨みし、青年と女性を怯ませた。
エルザとバンリ以外、何が何だかさっぱりだ。
「いい加減その下らん演技を終わらせて、化けの皮を剥いだらどうだ?」
「もう正体は分かっている。お前等は闇ギルド、薔薇の女帝の連中だろ?」
「!!?」
エルザとバンリの言葉に、ナツ達は目を見開いた。
「薔薇の女帝って、今評議院が最も目に付けている闇ギルドの1つじゃない!」
ルーシィが驚嘆の声を上げる。
余談だが、評議院が最も目に付けている正規ギルドは妖精の尻尾である。
「エルザとバンリはいつから分かってたんだ?」
「街中で会った女が言ってただろう?「薔薇屋敷に訪れた人を、コレクションにしてるんじゃないか」と。」
「風の噂で、薔薇の女帝に“見たものを石化させる魔法を使う魔道士”がいるって聞いた事がある。もしかしたら、と思ったら・・・どんピシャリって訳だ。」
グレイの問いに、マリーナの首筋に剣先を突きつけたまま肩越しでエルザとバンリが答えた。
「なーんだ、バレてたの、かっ!」
「くっ!」
「うあっ!」
「バンリ!エルザ!」
マリーナが不敵に微笑み、油断していたバンリの鳩尾に拳を、エルザの顎に蹴りを叩き込んだ。
吹っ飛ばされたバンリとエルザにコテツが駆け寄る。
パンパンと服の汚れを手で掃いながらマリーナがソファーから立ち上がると、7人の男女がその横に並んだ。
「ようこそ、薔薇の女帝のギルドへ。」
マリーナが両手を横に広げて言った。
「1週間くらい前に妖精の尻尾の魔道士がのこのこと来たのは確かだぜ。」
「でもまさか、モカと同い年くらいの子供が来るなんて思ってもなかったなぁ~♪」
青年がオレンジ色の髪の毛をガシガシ掻き毟りながら言い、モカという名前らしい少女が金髪の巻き毛を揺らしながら言った。
「ウェンディ達はドコ!?」
「教える訳ないじゃん。」
「自分-っ、達のーっ、力とーっ、頭でーっ、探してーっ、みなよーっ。」
エメラが切羽詰った声で問うが、紫色の髪の毛の少女と白髪の少女にバカにされたような口調で押し返された。
(力と、頭・・・?)
白髪の女性の言葉に、バンリは僅かな疑問を覚えた。
「仲間を返して欲しかったら、ここにいる8人の薔薇の女帝の魔道士を全員倒しなさい。そうすれば、無事に返してあげるわ。」
「“全員倒せれば”の、話ですがね。」
マリーナとピンク色の長い髪の毛の女性が挑発気味に言った。
「良いだろう、相手になってやる。」
エルザが断言したのと同時に、薔薇の女帝の魔道士がシュンッと瞬間移動をして、その場から姿を消した。
後書き
Story6終了です!
薔薇の女帝の魔道士達の名前、全員薔薇の名前なんですよ。調べたら「マンマミーア」とかあったなぁ。
次回は妖精VS女帝の対決がいよいよ開幕!そして、ウェンディとシャルル、イブキはいったいドコへ―――――!?
それではオ・ルボワール!
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