魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos45-B空翔ける騎士/蘇る闇の欠片~Fragments~
†††Sideヴィータ†††
いろいろ面倒なことになっちまってる今回の“闇の書”の欠片事件。異世界からの渡航者なフローリアン姉妹、古代ベルカのオリヴィエやクラウスの子孫と思われる女2人組、トーマとリリィっつう騎士と融合騎組の出現、新しい魔法と本当の名前を手に入れたマテリアルの復活、さらには砕け得ぬ闇っつう、リインフォースですら知らなかったやべぇシステムの出現。どんな寄せ鍋だっつうのな。
「ま、あたしらはあたしらの仕事をこなすだけだな」
守護騎士ヴォルケンリッターとして、“闇の書”の闇が起こしてる問題を解決しないとな。あたしらに任された仕事は、砕け得ぬ闇の復活をキッカケとしたように次々と現れた残滓たちの討伐だ。
「えっと、エイミィ執務官補からの通信だとこの近くって話なんだけどな」
あたしとザフィーラが担当することになった無人世界に複数の魔力反応があるってわけで、あたしはザフィーラと分かれて捜索開始。そんで反応地点へとやって来たわけだが。
「・・・お? 魔力反応2つを確認、っと。そんなにデケェ魔力じゃねぇな」
基本的に残滓は本物よりか魔力量が少ないうえに実力も低い。だからそう苦労すること倒せるだろ。そんな風に気楽な感じで飛び続けてそう間もなく、あたしが倒すべき2人の残滓が視界に入り込んで・・・そいつらの姿にあたしは目を疑った。
「お前ら・・・」
「ん? あれ、ヴィータだ」
「ヴィータだ、ヴィータだ! やったね♪」
2人とも30cmくらいの小さな体を持った女で、かつて家族として、戦友として、オーディンやシグナム達と一緒に過ごした、現代じゃ行方不明ってされてる奴らだったからだ。
「アギト・・・」
紅の長髪を頭の左右で結び、鋭い紫色の瞳に上に向いて尖った耳、オーディンと同じデザインだが色違いの長衣、それに膝丈くらいの黒いズボンを穿いて、背中から蝙蝠のような羽を一対生やしてる。
「アイリ・・・」
腰まである雪のように真っ白な長髪を結うことなく流して、水色の大きな瞳は爛々と輝いている。そんで髪や肌と同じように真っ白なロングワンピースを着て、背中から白鳥のような白い翼を一対生やしてる。
あたしの前に現れたのは火炎の融合騎アギトと、氷結の融合騎アイリ。その2人だった。
「いいところに来てくれたよ、ヴィータ。ここがどこか判る?」
「アイリとアギト、気付いたらこんなところに居て、困ってたんだよね」
「まったくさぁ。マイスターとお昼ご飯を食べようと思ってアイリと一緒に意気揚々と帰ろうとしてたら、こんなことに」
「アイリ、早くマイスターに頭撫でられた~い」
気付けば知らない場所に移動していたことに不貞腐れてるアギトと、頑張ったご褒美にオーディンに撫でられたいからと言って自分で自分の頭を撫でるアイリ・・・の偽者。そんな2人が羽と翼を羽ばたかせてあたしのところへ飛んで来て、あたしの周りをクルクル回り始めた。
「あのさ・・・アギト、アイリ」
「「ん、なーに?」」
あたしの前で止まる2人が同時に小首を傾げる。あたしは「オーディンはもう、居ないだ」って伝える。最初は呆けた2人。まずは「あ、どこかへお出かけした?」アギトがそう訊いてきて、あたしは首を横に振る。次に「じゃあ、どこに居るの?」アイリの質問に、「だから居ないんだ」って答える。
「オーディンはもう居ないんだ。死んだんだよ」
あたしら守護騎士は、オーディンと一緒に戦い抜くことが、バンヘルドから護ることが出来なかったんだ。あたしのその一言にアギトとアイリに表情が固まった。
「ヴィータ。冗談だとしても、許せないんだけど」
「アイリね、そういうの大っ嫌い」
さっきまでの笑顔が怒りに変わって、あたしを睨みつけて来た。くそっ。ふざけんな。なんでオーディン大好きなアギトとアイリにこんなことを言わなきゃダメなんだよ。もう問答無用で2人を倒すしかねぇのか・・・。
「ヴィータ。マイスターはどこ?」
「アイリ、判ったよ。こいつ、きっと偽者だね。ヴィータの姿に変身した、イリュリアの残党だ」
イリュリアの残党。つうことはコイツらの意識はイリュリア戦争終結後のもんか。確かに、終結後はイリュリア騎士団の残党が何回か戦闘を起こしてた。そのたびに同盟騎士団で対処してはいた。それでほとんどの残党を討伐したけど、見つかってねぇイリュリア騎士も十数人と居た。騎士団長のグレゴールやその融合騎であるアインス。その他のテウタ派の騎士や政治家連中は、結局最後まで発見することが出来なかったが。
「ちょっ、待て、アイリ! 違う、あたしは・・・!」
「マイスターを、ヴィータを返せ、偽者!」
――アイス・ランツェ――
アイリがあたしに向けて両手を翳し、その周囲に氷の礫を10発と展開して一斉発射してきたから、受けに回らずに躱す。敵意も戦意もないことを伝えるために“グラーフアイゼン”を首飾りに戻して「頼む、聴いてくれ!」両手を上げる。
「マイスターとヴィータをどこに隠した!?」
――フランメ・ドルヒ――
炎の短剣が12発と高速発射されてきた。避けきれねぇとすぐに判ったからパンツァーシルトで防いだすぐ後、頭の上がヒヤッとしたから見上げてみると「アイリ!」が居て、その周囲にアギトの炎とは違って氷の短剣を20発ほど展開させて、「早く返した方が、身の為だよね!」発射した。
――パンツァーヒンダネス――
直線的じゃなくて多方向からの包囲攻撃だったからあたしは、全身を覆い隠す完全防御の多面体バリアを発動して、偽アイリの攻撃を防御。さらにアギトが「ブレネン・クリューガー!」火炎弾をばら撒いて着弾させてきた。
「聴けって話を! オーディンも、あたしらも、死んじまったんだよ!」
「死っ――、信じない! マイスターとヴィータが、みんなが死ぬなんてありえない!」
――フランメ・ドルヒ――
「もし、本当にマイスターとヴィータ、みんなを殺したんだっていうなら・・・絶対に・・・許さない・・・! 殺してやる・・・殺してやるぅぅーーーーッッ!!!!」
――フリーレン・ドルヒ――
アギトの怒気とアイリの殺気に満ちた炎と氷の短剣による何十発っていう弾幕爆撃があたしの衝撃を砕こうと降り注いで来る。いくら本物より弱いとは言ってもこの数には耐えきれねぇ。ピシピシとヒビが入り始める。
(くそ・・・! やるっきゃねぇ・・・のか・・・?)
弾幕が一瞬だけとは言え途切れたその瞬間、障壁を解除してその場から離脱。そのうえで「アイゼン・・・」を起動させる。 “グラーフアイゼン”の柄をギュッと握りしめる。
「ヴィータの武装を使うなぁぁぁぁーーーーッ!!」
――轟炎――
アギトの頭上に発生する小型の太陽。それがあたしに向かって落ちて来た。そいつを横に向かって飛んで避ける。
――氷牙――
避けた先の頭上からとんでもなくデカい氷塊が落ちて来た。高速移動魔法のフェアーテを使っても完全には避けきれないと判断したあたしは“アイゼン”のカートリッジをロード、強襲形態のラケーテンフォルムへと変形させる。
「ラケーテン・・・」
歯噛みしながら“アイゼン”のブースターを点火させ、「ハンマー・・・!」落下して来た氷塊に突撃して打撃を打ち込む。バキバキと砕いてる中、「ブレネン・クリューガー!」破砕した氷の破片を蒸発させて足元から迫って来るのはアギトの火炎弾。
「キツイ・・・!」
左手を柄から離して、迫って来る火炎弾に翳してパンツァーシルトを展開、その8発を防ぐことは出来た。けど、その代わり「ぅぐ、ぐぅ・・・!」アイリの落とした氷塊を砕き切る前に押し切られちまった。あたしは氷塊と一緒に落下。
「悪かねぇ場所で助かったぜ・・・」
眼下に広がるのは深い森で、背の高い木々に落下したのが救いになった。氷塊が木々に落ちたその瞬間だけ、落下速度が落ちた。その隙にあたしは氷塊の隙間から脱出・・・したところで、「グラーフアイゼンを返せ!」10歳前後の人間大の姿に変身したアギトとアイリが目の前に現れて、あたしから“アイゼン”を奪い取ろうとしてきた。
「やめろ、もうやめてくれ・・・!」
「「きゃあ!?」」
体格差じゃ負けてんけど、力勝負ならあたしの方が上だ。力の限り2人を振り払う。そんで2人は体勢を立て直して「なんで・・・なんで・・・!」ポロポロと大粒の涙を零し始めた。あたしはすぐさま近寄って「悪ぃ、大丈夫か!?」どこか怪我をさせたのかって心配する。
「なんであたしとアイリだけ置いてっちゃったんだよ・・・!」
「マイスター、マイスター! うわぁぁぁん!」
ついにはわんわん泣き始めたアギトとアイリ。あたしはゆっくりと語り始める。まずは2人が本物じゃないことを、包み隠さずに。最初はやっぱり訝しんでたが、あたしの真剣さが伝わったのか話だけは聞いてくれるようになった。
「つまりあたしとアイリは、闇の書の悪い部分が再現してる記録ってこと・・・?」
「ああ。お前ら、いきなりここに来て、しかもどうやって来たかも判んねぇんだろ。実体化したその時からの記憶しかねぇからだ」
「アイリ達が偽者・・・? そんな実感ないんだけどね」
「そういうもんらしいぜ、残滓ってのは」
次に語るのは、イリュリア終結後の日常。話を聴いた限りじゃ、2人の意識は、バンヘルドとの戦いの数日前のものだってことが判った。その数日後、オーディンは、オーディンの目的だった“エグリゴリ”の1機、バンヘルドとの戦いに臨んだ。もちろん、あたしら守護騎士やアギトとアイリも参戦した。けど、バンヘルドが怪物過ぎたんだ。
「今でもハッキリと脳裏に浮かぶんだ、あのバンヘルドの圧倒的な火炎攻撃が」
体がブルッと震える。ザフィーラを、シャマルを、シグナムを、そんであたしを、その火炎で殺した。そこまで言うと、アギトとアイリの顔が青褪めた。そんで「本当に、負けたの?」って同時に訊かれたから、「ああ」簡潔に一言で答えた。
「その後、オーディンは、お前たちを逃がしたんだ。バンヘルドとの戦いに巻き込まないために、って・・・。あたしら守護騎士には次がある。転生して、新しい主に仕えて・・・。でもお前らはそうじゃない。死んだらそれで終わり。オーディンも言ってたろ」
「「・・・・うん」」
次の転生先で聞いた話だ。シュリエルは、死んだあたしらのリンカーコアで“夜天の書”を完成させて、その後にオーディンはアギトとアイリを避難させた。そしてオーディンと融合を果たしたことでバンヘルドを斃せたって。
「そこまでは良かった。オーディンとシュリエルはバンヘルドを斃せた。だが、悲劇は起きた。居たんだ、近くに。別のエグリゴリが。オーディンとシュリエルは、その別のエグリゴリの奇襲によって・・・殺された」
「「っ!!」」
少し治まってた涙をまた流し始めるアギトとアイリ。あたしは「その後のお前らについては判んねぇんだ、悪い」ってその2人に謝る。行方不明。現代にまだ続いててくれたシュテルンベルク家ですら、2人の居所が掴んでいないって話だ。
「今の話が全部本当なら・・・あたしとアイリ、もうヴィータ達とは会えないのかなぁ・・・」
「うぅ、ぐす、やだ、ひっく、そんなの、ひぅ、アイリ、やだ・・・!」
もう再会できないのかと泣くアギトとアイリに「逢える!!」あたしは叫んだ。ビクッと体を震わした2人の肩に手を回して抱き寄せる。つってもあたしの方が小さいから、あたしが2人に抱きついたみたいになってっけど。
「絶対にまた逢える! これ見ろ!」
「「マイスター!?」」
アギトとアイリに八神家の家族写真データを見せて、「名前はルシリオン! その、なんだ、オーディンの子孫だ!」って伝える。ルシルの話じゃ、オーディンもこのルシルも、元々は対“エグリゴリ”用生体兵器で、ルシリオンっつう超古代の王様のクローンらしいんだが。今はそんなこと関係ねぇ。
「オーディンと丸っきり同じなんだぜ、コイツ。性格も仕草もほとんど。確かに、あたしらの主だったオーディンはもう居ない。けど、オーディンの遺志はこうして生き続けてる。だからきっと、あたしらはまた逢える。つうか探し出す! アギトとアイリ、お前たちを絶対に探し見つけるから! だから・・・もう少しだけ、待っててくれ」
「「ヴィータ・・・」」
あたしの頭の上に置かれるアギトとアイリの小さな手。知らず泣いてたあたしは、涙で滲むその目で2人を見た。
「まぁ、ヴィータはそこまで言うんだもん。きっとまた逢えるよ」
「アイリ、待ってるからね。みんなでアイリとアギトを見つけてくれるの」
「ああ。待っててくれ」
「それじゃあアイリ。そろそろ起きようか」
「ん。目を醒ましたら、そこにマイスターの意思を受け継いだルシルと、ヴィータ達が居ますように」
最後は笑顔を浮かべて、アギトとアイリは消えて行った。あたしは袖で涙を拭って、手に残ってるアイツらの温かみを逃がさないようにギュッと握り拳を作る。
「アギト、アイリ。約束だ。絶対に、また逢おうな!」
拳を突き上げて、あたしは地平線にまで広がる空に向かって改めて誓った。
†††Sideヴィータ⇒ザフィーラ†††
我ら元“闇の書”の一部でさえも知らぬ、ナハトヴァールすらも超越するシステム、砕け得ぬ闇――システム:アンブレイカブル・ダーク。外見は幼き娘だが、その魔力量は絶大。それを攻撃や防御に回されたとなれば、最早戦闘で勝利するという方法は取れぬだろう。
(だがそうも言ってはおれん。あの者に対抗する術が見つけねば・・・)
我らが主やその友人、あの街を守るためにも。しかし今はその術もなく、今はただ砕け得ぬ闇の復活を切っ掛けとしたように出現した闇の残滓を狩る、それのみだ。闇の残滓は海鳴の街だけではなく、地球の近隣に存在している無人世界にも出没している。それらに対処するべく、我ら守護騎士は散開した。
「エイミィ執務官補の話では、この辺りというが・・・」
空を翔けて魔力反応を探る。そしてその反応を捉えることが出来た。眼下に広がる草原。高度をギリギリにまで落とし、反応へと向かって飛ぶ。徐々に残滓の輪郭が確かとなって行き、「お前は・・・」その姿を確りと捉えることが出来た。
「どこ?・・・どこなの?・・・私の闇の書・・・!」
肩に掛かるほどの薄緑の髪を揺らし、獣のような黄金の瞳をぎらつかせ、その身に纏う白銀の甲冑を鳴らす女、我ら守護騎士のかつての主であり、ナハトヴァールという凶器の産物を“闇の書”に組み込んだ者――アウグスタ・マリー・カタリーナ・ルイーゼが、そこに居た。
「死してなお、闇の書より解放されてもなお、こうして悪夢に彷徨わねばならぬとは、お前も哀れだな」
「っ、盾の守護獣!・・・どこに、どこに行っていたの!? 今すぐ戦装備に着替えなさい! 敵はすぐそこまで迫っているのよ!」
ヒステリックに叫ぶアウグスタ。かつては怒りとも憎しみとも抱いた者だが、こうなっては哀れむだけだ。かつての主であるあの者に我が出来ることはただ1つ。あの者の悪夢を今度こそ終わらせるのみ。
「アウグスタよ。もう眠るがいい」
草原に降り立つと同時に地を蹴ってアウグスタへと向かう。両拳を強く握り締め、「ふんっ!」振り被った拳をアウグスタへ目掛けて繰り出す。アウグスタは目を見開き驚愕の色を表情に浮かべるが、背負っていた大剣を目にも留まらぬ速さで引き抜き、その腹で我の拳を防いだ。
「主に向かって殴りかかるとは何事か!」
薙ぎ払われる大剣を一足飛びで後退して躱し、振り戻されるより早くに最接近し左の拳打を繰り出す。首を傾けることで躱したアウグスタへ右の拳打を放つ。それも首を傾けて躱し、「今すぐやめよ!」と命令を下した。
「その命は聴けぬ。すでにお前は我らの主ではないのだから」
連続で繰り出す我の左右の拳打を、紙一重を狙って躱し続けるアウグスタへそう告げる。あの者は「世迷言を!」と聞く耳持たずという風に我の繰り出した左拳打をまた紙一重で躱し、空いている右手で我の手首を鷲掴み反転。そのまま我を背負い投げした。
宙に放り出される感覚を得る。背中から地面に叩き付けられるのを防ぐために、しっかりと両足で地面を踏み付け、腹筋の力で体を起こす。直後、「むっ・・!」我の背中に叩き付けられる痛み。アウグスタの大剣の腹が打ち付けられたのだ。すぐさま反転し、あの者と向かい合う。
「烈火の将、紅の鉄騎、風の癒し手、そして管制融合騎は今どこに居るの!? 私が主ではないなどと世迷言を言っている暇があるのであれば、急いで連れてきなさい!」
振り上げられた大剣が勢いよく地面を打った。穿たれて大穴を開ける地面。そして我に向かって飛来してくる岩の礫。それらを障壁で防ぎ、「縛れ、鋼の軛!」拘束条をアウグスタの足元から突き出させるものの、「ふんっ!」大剣を横薙ぎに振るい、軛を全て寸断した。
「牙獣走破!」
アウグスタへと飛び蹴りで接近。振り戻された大剣の刃と打ち合う。僅かな拮抗、我とアウグスタは共に後方へと弾き飛ばされた。地面へと着地し、すぐさま一足飛びでアウグスタへと突進する。対するアウグスタは「それ以上の狼藉、地下牢では済むとは思わぬことね!」と大剣を振り被りながら、我へと駆けて来た。
振り下ろされる大剣を、体を横向きにすることで躱し、間髪入れずに前へ向かって跳ぶ。アウグスタの顔面へと膝蹴りを打ち込もうとしたところで、大剣を振り下ろした勢いで飛び跳ねたあの者は弧を描くように宙を舞い、我の背後に着地。
「せいッ!」
振り上げの際に発生した石礫が反転途中の我を襲った。魔力の無い、単純な物理攻撃。守護騎士一の防御力を持つ我の肉体ならば構う必要無し。礫の中を駆け抜け、「ふんっ!」上段蹴りを打つ。爪先がアウグスタの側頭部を捉え、「うぐっ・・・!」蹴り飛ばした。しかし距離は開かぬ。大剣が重しとなり、アウグスタを留めた。着地した後、「ぺっ」と折れた歯を吐き捨てた。
「アウグスタよ。お前は戦に敗れたのだ。ナハトヴァールを組み込み“闇の書”の力を強化しようとした。確かに、融合管制騎は強化された。しかしそれに頼り、我らを強行軍として扱い、全滅させた」
「っ!?・・・一体何を言って・・・!」
「烈火の将シグナム。紅の鉄騎ヴィータ。風の癒し手シャマル。我、盾の守護獣ザフィーラは、何の策もなしに大国の騎士団との戦闘に駆り出され、討たれた」
「馬鹿なことを。では、そうして私の前に立ちはだかるお前は一体なんだというの? 守護騎士が主である私から逃れるための嘘だと思うのが普通でしょう」
「我らが討たれた後、唯一生き残った融合騎は我らを復活させようと魔力の蒐集を始めた。しかし、書の完成に焦ったお前はまたも無理に強い魔力持ちの騎士に挑み、返り討ちに遭ったのだ。しかしお前は生き延びた。だが撤退途中、これまでの無謀な戦を仕掛けたことで付き合わされてきた臣下の抱く不平不満をついに限界を迎え、お前は――」
「黙れっ! 我が優秀なる騎士たちが、この私を裏切りなどするものか!」
大剣を担いでの高速突進。刃渡り2m近い大剣を担いだあの体勢から繰り出されるのは最早振り下ろしのみ。次の一手が見えていれば恐れることはない。迫りくる大剣の重圧を腹に力を入れる事で耐え、「さっさと騎士を呼び戻せッ!」怒声を上げながら振り下ろされた大剣を半身分横に移動して躱し、即座に上空へと跳び上がる。大剣は地面を穿ち、先程以上の大穴を開けた。
「牙獣・・・!」
上空からの飛び蹴りでアウグスタを強襲。アウグスタは大剣を引き上げるようにして我と自分との間に大剣を入れて盾とした。構わずに大剣の腹に一撃目を打ち込むと、「ぅぐ・・・!」アウグスタが苦悶の声を漏らした。
「走破ッ!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
二撃目で大剣をへし折る。半ばで折れた大剣の先端側の刃が宙を舞う。我の重さに耐えかねたアウグスタは大剣の柄を離しており徒手空拳となっていた。呆けていたアウグスタの腹へと「うおおおおおおおおおッ!!」拳打を打ちこんだ。
「ごふっ・・・!」
女性らしく華奢な体格であるアウグスタは我の一撃で十数mと飛び、地面を何度か跳ね転がった後で止まった。歩み寄る中、アウグスタは四肢をついて立ち上がろうと試みているが、結局それは叶うことはなかった。
「っ? 体が、私の体が、崩れて、消えて、無くなってしまう・・・!?」
「醒めるのだ、永き悪夢から。恐れることはない。それはお前にとって救いでもある」
「救い!? ベルカの天地に覇を成してこそ私は救われるのよ!」
アウグスタは蹲り、両拳を何度も地面に叩き付けた。消滅するその瞬間までずっと。我は踵を返し、泣き喚くアウグスタに背を向けた。そして「・・・申し訳ありません・・・グレゴール様・・・」微かな声で何かを呟いた後、もう背後からは何も聞こえなくなった。
†††Sideザフィーラ⇒ルシル†††
どうも、ルシルです。残滓を狩り続けること数時間。気が付けば地平線に朝日が昇り始め、朝焼けに目を細めています。ふっ、太陽が眩しいぜ♪とか、市街地上空を飛びながら思っている。
「お父様ぁ~❤ 小さくて抱き心地が最高です♪ あ~ん、離れられないです❤」
「・・・・あのさ、プリム。そろそろお前も・・・」
「いーえ、ダメです! お父様が戦に出るというのであれば、娘である私も共に戦うのが当然! この戦が終わったら・・・ちゃんと消えますから、それまではお父様のお側に居させてください」
俺を後ろから抱きしめているプリムが寂しげに言った。マテリアルの姿を模した残滓たちを束で相手にしたにも拘らず無傷で撃破し、自慢の雷撃で消滅させた。その後すぐ、俺が置かれている状況を伝えた。
プリムの意識年代は堕天使戦争勃発後で、“戦天使ヴァルキリー”や“ノルニルシステム”の凍結直前のものだった。当然、イヴ義姉様、カーネル、フォルテシアの戦死も知っていた。その後のアンスールの結末や俺の“界律の守護神テスタメント”化について話すかどうか迷ったが、俺の様子から察してくれたのかそう深くは訊いてくることはなかった。
「はぁ。プリム。もしこの時代での俺の友人から通信が入った時、俺のことは名前で呼んでくれ」
「はい、判りました。では、ルシリオン様とお呼びしますね♪」
「あー、まぁ、それでいいや。セインテスト家の使用人だったっていう設定で頼むぞ」
「はいっ!」
とまぁそんなやり取りをしながら、俺とプリムは海鳴市の上空を翔けていた。と、「お父さ――コホン、念のために、ルシリオン様。魔力反応です」プリムからそう報告を受けた。遅れて「ああ、俺も確認した」と、近場に魔力反応が発生したのに気付いた。
「プリム、向かってくれ」
「はいっ!」
プリムが飛翔術式を担ってくれているため、この娘に進路変更を指示する。そう間もなくして「ヴィヴィオ・・・!」の残滓を発見。防護服のカラーリングからして、聖王のゆりかご時の聖王ヴィヴィオで違いないだろう。ということは、この次元世界でも起きるということか、JS事件。ほら見ろ、やはりスカリエッティは敵だ。
「ママ・・・、どこ? どこに行っちゃったの、ママ・・・?」
「迷子でしょうか?」
「・・・ああ。放してくれ、プリム」
「あ、はい。では」
――我を運べ、汝の蒼翼――
プリムに放してもらって墜落するより早く背より12枚の剣の翼を展開して浮遊する。そして「こんにちは、お姉さん。どうしたの?」と優しく声を掛ける。
「居ないの、ママ、どこにも・・・ずっと、ずっと捜してるのに・・・」
「おと――ルシリオン様。これほど大きな娘が迷子というのも、少々おかしいような・・・」
「成人ほどにまで変身した姿だからな。元の姿は6歳ほどの少女だ」
小声で訊いてきたプリムに俺がそう答えると「そうなのですか。あの、お姉さん達も一緒に捜そうか?」プリムはヴィヴィオの残滓へと近寄り、目線を合わせた上でそう提案した。プリムの製造・起動時期はかなり遅かったが、それよりも起動の遅かった弟・妹の面倒をよく見てくれていたのがプリムだ。姉属性、というものか。
「で、でも・・・知らない人について行っちゃダメだって、お城のみんなが言ってたから・・・」
「あ、それもそうね。あぅ、ルシリオン様、どうしましょう」
おいおい早いな、諦めるの。もう少し頑張ってくれ、プリムお姉さん。しかしそれにしても、お城のみんなが、か。ヴィヴィオとオリヴィエの記憶が僅かばかり混同しているのかもしれないな。俺の知るヴィヴィオにオリヴィエの記憶はなかったような気がしたが、こっちの次元世界では受け継いでいるのか。
「えと、えと、あ、とりあえずお話をしましょう。お姉さんのお名前は、プリメーラ。プリムです♪ あなたは?」
「・・・ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオちゃん、か。素敵なお名前ね♪」
泣き止み始めたヴィヴィオが「・・・ありがと、プリムお姉ちゃん・・・」そう礼を言うと、プリムは、強い日差しに当てられてクラっと倒れそう、みたいな体勢になった。
「お父様。この娘、貰っていいですか?」
「ダメです」
お前たちは共に残滓だろうに。悪いが残らんよ、一欠片も。プリムは「仕方ありませんね。それじゃあヴィヴィオちゃん。ゆっくりお喋りしたいから、降りようか」と提案するものの「やだ」ってヴィヴィオは首を横に振るだけ。
「やぁだぁーーー!」
「待って、待って、ヴィヴィオちゃん・・・っく!」
急に暴れ出したヴィヴィオが振り上げた拳、正確には裏拳がプリムの顎を正確に捉えた。普通の人間なら軽い脳震盪くらいは起こすだろうが、「痛・・・!」そう痛がったのはヴィヴィオの方だった。プリムの常時展開型の不可視障壁の前に物理攻撃は通用しない。
「ご、ごめんね! 大丈夫だった!?」
「う、うぅ、ぐす・・・うわぁぁぁぁん!」
駄々っ子のように暴れるヴィヴィオの繰り出してくる正確な拳打を、「お父様、どうすればいいですか!?」片手で受け流しているプリム。俺は「悪い夢から醒まさせてやってくれ」と答える。その意味は「・・・了解です、お父様。苦痛のないよう、眠りへ誘いましょう。おやすみなさい、ヴィヴィオちゃん」残滓の撃破。
「アースガルド同盟軍・戦天使・ランドグリーズ隊シリアル01、雷滅の殲姫プリメーラ・ランドグリーズ・ヴァルキュリア。戦闘執行」
「へ・・・?」
プリムの姿が消え、次の瞬間にはヴィヴィオの背後に居た。ヴィヴィオの首筋にプリムは右手の人差し指と中指をスッと這わせた。そしてパリっと放電した音が聞こえた。ヴィヴィオの目がすぅっと閉じて行き、トサッとプリムの胸にもたれ掛った。それ以降、ヴィヴィオの残滓が目を醒ますことはない。
プリムは電流を相手に流し込み、自律神経系を乱して筋肉の活動を停止させることも可能。プリムはヴィヴィオに電流を流し込み、一瞬にして心臓を止めた。うーん、説明不足だったな。気絶させるくらいでちょうどいいと言うべきだった。
(すまないな、ヴィヴィオ)
消滅したヴィヴィオの残滓を見送っていると、「おと――ルシリオン様」小声で俺の名を呼んだプリムに、「ああ」と首肯する。見られている。魔力探知をされないためか、防護服の着用すらしていないようだ。視線を探っていくと、とあるビルの屋上から「本物のヴィヴィオと、アインハルトか・・・」2人の気配を探知。
「魔力反応増大。戦闘甲冑の装着時かと」
「ああ。・・・ん? こっちに向かって来る・・・?」
なのはやすずかから逃走し、これまでもずっと逃げ回っていたヴィヴィオとアインハルトが変身し、さらに俺たちの元へと向かって来る。観念して投降する気になったのだろうか。それならそれで助かる。
「あの子たちですね。ヴィヴィオちゃんのオリジナル」
「ああ。手を出さないようにな」
「はい、もちろんです」
2人とゆっくり話すために眼下にあるビルの屋上へと降り立つ。そしてヴィヴィオとアインハルトが肉眼でハッキリと確認できたところで、ヴィヴィオが勢いよく俺の方へと突進して来るのが判った。プリムが警戒に構えたから、「待て」と制止。そしてヴィヴィオは満面の笑顔で俺のすぐ目の前に降り立って・・・
「フォルセティ~~~~~♪」
俺の両手を取ってブンブンと上下に振った。
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