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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  8話

「姉上、覚悟!!」
おお、おお、今日も今日とて元気だなハナビは。以前、道場での勝負で勝ってから暇があれば彼女は私に挑んでくるようになった。
私としては余り話す機会のなかった妹とこうして遊ぶ事ができて嬉しいのだが、親父殿はハナビはこうして挑んできている事を知っているのか?
そもそもハナビの普通の鍛錬は一体どうしたんだ?明らかに日々襲撃のペースが上がっているのだが……いや、諸悪の根源は私なんだがな。
「あっはっはっは、このバナナミルクは美味いぞ」
「それを!!渡しなさい!!」
以前、流石に私に勝つという目的だけでは少々ハナビも精神的に辛かろうと考えた私は、数日前とある計画を思い付いた。
やはり、どれほど決意を持ってしても一向に果ての見えない戦いを延々と続けるというのは、相当の精神的な負担を強いるからな。
で、聞くところによるとハナビは日向の当主となるべくかなり厳しい教育を受けているらしく、食生活もかなり限定されているらしい。
ネジとヒナタが言うにはハナビの食事は精進料理の類が多く、甘味も殆どないようだ。
そこで私はハナビの好物をヒナタにそれとなく聞かせた結果、彼女の好物はバナナとミルクという情報を得た。成る程、ハナビの食生活ではそうそう食えないものだ。
そして、ある日私はハナビが私のいる離れにくる前に、今日は用事があって相手をしてやれないという謝罪の文を残し、お詫びの品としてバナナと牛乳をミキサーにかけて蜂蜜で味を整えたもの、要するにバナナミルクを作っておいた。当然、彼女の好みを考えて甘めに作ったものを、だ。
結果、私が戻ってきた時には用意していたコップは空になっており。コップには明らかに飲み干した形跡があった。
そうなればこっちのものだ。ハナビにとって今まで飲んだ事のない大好きなバナナミルクは、彼女の通常の生活ではどうやったところで飲めない。では、どうするか私に頼むしかない。
とはいえ、年不相応にプライドの高いハナビは私に対して直接、作って下さいなど言える筈もない。が、年相応に好物への欲求も彼女にはある。それは普段抑圧されてきただけあって、その欲求は相当なものだ。
事実、その次の日の彼女は何かを期待するような視線を私に向けつつも、そのプライド故に言い出せないという様子だった。いや、本当に可愛いな。
そこで私はその日の勝負の終わりに彼女の耳元で、
「次から私を驚かせる事が出来たら、また作ってやろう」
そう囁くと、次の日から彼女の動きは一変した。今までは力押し一辺倒だったのが、様々な策を弄するようになったのだ。鼻先の人参とはよく言ったものだ、物で釣るというのは単純だがその分効果もあるということだな。
具体的に上げるとすれば今までは柔拳の攻撃である掌打や突きしか使わなかったが、足に柔拳の要領でチャクラを纏わせての蹴りや掴みからの投げ技など型にとらわれない戦い方を加えてきた。
まだまだ荒削りではあるもののこういった変化は好ましい。
そもそも親父殿がハナビにやらせている型の反復練習というのは最も重要でありながら、最も難しい鍛錬だ。千手やうちはが暴れまわる戦争を経て発展した日向の柔拳の型というのは、長年の積み重ねによりあらゆる状況、あらゆる敵に対して有効であるよう研磨された最適解とでもいうものである。
が、その鍛錬は極単純な動きを何度も繰り返すというものでしかない。いや、この世のあらゆる物が単純な物事を幾度も繰り返すことで学ぶのだから、それは柔拳に限ったことではないか。
まぁいい、反復練習の効果は周りから見ればよく分かるのだが、やっている本人はその効果を実感するのは非常に難しい。
では、どうするか?一度視点を変えさせるのだ。型に嵌らぬ自由な動きをある程度させ、その上で再び再び型の動きをさせる。そうすれば以前までは気付かなかった発見があり、各々の型の動きの意味を理解することができる。
加えて型に嵌らぬ動きをすることで柔軟な発想を得る事ができ、それは様々な点において役立つだろう。創意工夫というののまた一朝一夕で身に付くものでもないからな。





「あ、姉上……今日はどうですか?」
ふむ、今日は頭突きだったわけだが……余り慣れていないようでぶつけ所を誤り、私よりハナビの方が悶える事になっていた。いや、意表を突くのは結構だが、身長差を考えるべきだぞ?
無理やり跳躍してまでやるとは思わなかった……正直、割と私も痛かった。
「まぁいい、驚いた事は確かだし及第点はくれてやろう。少し待っていろ、ハナビ」
私はハナビを置いて、離れの冷蔵庫から作っておいたバナナミルクを取り出してコップに注いで、期待に満ちた瞳で此方を見る彼女に手渡す。すると彼女はコップを両手で持ち大事そうに飲み始めたんだが……なんというかその様子はクルミを盗られないように齧るリスのようだ。
「ヒジリ様、お時間よろしいですか?」
む、折角私が和んでいる最中に……相変わらず空気の読めん男め。
「なんだ、ネジ」
「先ほど、アカデミーからこのような手紙が」
「なになに……他学年との交流戦?なぜ私にこんな物を渡すのだ?お前が出ればいいじゃないか、天才だろ君は」
「貴女に言われても嫌味以外の何物でもありませんよ。大体、俺が出ようにも貴女の方が成績は上じゃないですか」
「……むぅ、ネジよ何故体術勝負で私に負けるのだ。あれさえなければ君がトップだったろうに」
「貴女にどうやって体術勝負で勝てって言うんですか!?無茶を言わないでください!!」
「そう怒鳴るな……大体、そんな事親父殿が許しを出す訳が無いだろ?親父殿の意向を無視して、折角手に入れたそれなりの自由を手放すのはごめんだぞ?」
「それなら問題ありません。ヒアシ様の許可は既に出ていますから、そもそもヒアシ様はアカデミーでの行事に関しては一切ヒジリ様には口出ししないとお伝えした筈ですが?」
「そうか、済まないな。激しく興味がなかったから聞いていなかったのだろうな」
「でしょうね。で、どうします?」
「面倒だな……そも、やるとしたら相手は誰だ?」
「うちは一族の生き残り、うちはサスケでしょうね」
うちはか……本当に面倒だな。噂では絵に書いたような天才タイプらしいが……私としては面白みのない相手だろうよ。
数手打ち合えば手裏剣、忍術の遠距離攻撃に切り替えられ、延々と私は手裏剣の迎撃を続けた上でサスケのチャクラが切れるまで忍術を回避……負けることはないだろうが楽しくもなんともない。
そもそも噂で聞くところによると、ネジのように弄り甲斐のあるような男でもないようだしな……
「よし、ネジよ。私は辞退するぞ。私の代理は君が出たまえ、日向の天才とうちはの天才の手合わせという方が盛り上がるだろう」
「はぁ……分かりましたそれでは」
「兄上、その手合わせは私も見学できるのでしょうか?」
バナナミルクを飲み終えたハナビがネジに対して質問した。
「ハナビ様が?そうですね……ええ、一般公開はされていますから可能ですよ」
「姉上、私は姉上が本気で戦っているところが見たいです」
「ネジ、私が出るぞ。うちはなど薙ぎ払ってやる」
「……分かりました、出席するんですね」
「当たり前だ!!」
「……このシスコン」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」







 
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