退学
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1部分:第一章
第一章
退学
「何っ、退学!?」
宇山良太は教室でそれを言われてまずは驚きの声をあげた。
自分の席に脚を投げ出して座っている。ブレザーの着こなしはかなり乱れている。袖からは赤いシャツが見えており銀のチェーンのネックレスやピアスまでしている。如何にもといった感じの不良であった。
「俺、そこまで悪いことはしてねえぞ」
確かに不良で成績も悪い。だが万引きやカツアゲもしないし勉強も留年しない程度にはしている。煙草もシンナーもしない。やるのはビールだけだ。部活ではこれでもサッカー部で青春しているつもりである。とりあえず退学になるようなことは記憶にはなかった。
「髪だってよお」
自分の茶髪を指差す。ロンゲである。
「こんなの今時普通じゃねえのかよ。何で俺が退学なんだよ」
「馬鹿、御前じゃねえよ」
そんな彼に赤い今時珍しいリーゼントの少年が言った。
「まあ御前も目つけられてるけれどな」
「そうなのか」
「御前は停学候補だからな、常に」
「そういうこともしてねえぞ」
「じゃあ朝からビール臭い息出すなよ」
そのリーゼントの少年奥村は良太にこう言った。
「そんなんしてると太るぞ、ビールでよ」
「まあ昨日は飲み過ぎたけどな」
頭を掻きながら答えた。
「けど現場は見つかっていねえぜ」
「家でか」
「ああ、おとんとおかんも知ってるさ。っていうか酒位いいだろうに」
「だから飲み過ぎなんだよ。先生もそれ言ってるだろ」
「知らねえよ、そんなの」
それはとぼける。
「で、まあ俺は退学じゃないんだな」
「ああ」
「じゃあ誰なんだよ」
彼は奥村に問うた。
「俺じゃないんならよ」
「倉田さ」
「へっ、倉田!?」
その名前を聞いてまた声をあげた。
「倉田っていうと倉田麻奈美か!?このクラスの」
実はそれは二人のクラスメイトである。だから彼も驚きの声をまたあげたのだ。
「おい、嘘だろそれ」
「馬鹿、声がでけえよ」
奥村はそう言って彼を静かにさせる。
「大声出すなよ。そんな話じゃねえんだからよ」
「ああ、済まねえ」
言われて一旦黙る。それからまた聞いた。
「それでな」
「ああ」
二人は小声で話しはじめた。良太は問う。
「どうもな、やばいらしいぜ」
「やばいって何がだ?」
良太はその言葉の意味が読めなかった。
「あいつ何かやばいことあるのかよ」
「わからないのか?マジで」
「だってよ、あいつ真面目だしよ」
彼は言う。
「成績もいいじゃねえか。それでどうして学校やめるって話になるんだよ」
「学校行くには金が必要だろ?」
「ああ」
これは良太にもわかる。
「当然だろうが」
「それだよ」
ここで奥村はまた言った。
「それであいつ学校やめるらしいぜ」
「!?」
言われて余計に話が見えなくなってきていた。
「金で!?何でだ!?」
「なあ、宇山よお」
奥村はそんな彼をみて呆れた顔になっていた。声も同じである。
「御前やっぱり酒止めろ」
「おい、何でそうなるんだ」
「だからな、金がないんだ、あいつの家は」
「何でだよ」
「この前あいつの親御さん両方共死んだだろうが。俺も御前も葬式行っただろうが」
「ああ、そうだったな」
ここまで言われてやっと思い出す。
「そういやそうだったんだな」
思い出して自分で納得して頷きだした。
「あの時のことは覚えてるぜ」
珍しく制服をちゃんと着てピアスやネックレスも外してお葬式に出た。それで線香を捧げたことは覚えていた。というよりは思い出したのであった。
「あれでか」
「ああ、働き手がいなくてな。あいつの家弟や妹が大勢いるから」
「それで学校やめて働くってのか」
「そういうことだ。まあまだ噂だがな」
「そうなのかよ」
良太はそこまで聞いて大きく息を吐き出した。
「何か可哀想な話だな」
「御前はそう思うのかよ」
「まあな」
奥村にそう返す。両手を頭の後ろで組んでいた。
「これが俺みたいなのだったら遂に、とかやっぱり、とか言われるところだしな」
「そうだろうな」
「せめてそうじゃないとか言えよ」
「今の酒でぼけた言葉聞いてそんなの言えるかよ」
奥村はムッとした顔でそう言い返す。
「ちぇっ、けど御前はどうなんだ?」
今度は良太が問うた。
「可哀想とか思わないのかよ」
「まあ思わないって言ったら嘘になるな」
奥村はそれは認めた。
「けどな。仕方ないことなんじゃねえのか?」
「仕方ないのかよ」
奥村を見て問う。
「だってよ、やっぱり本人の問題だろ?」
「ああ」
言われてみればその通りである。それ以外の何者でもない。
「だからな。俺達があれこれ言ってもな」
「本人がどうなるか、っていうとそうじゃねえか」
「ああ。そうだろ?」
奥村は言う。
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