リトルマーメイド
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2部分:第二章
第二章
「私と一緒に泳ぐの。嫌?」
「別にそんなこと言ってないじゃない」
明信は女の子に対して言い返した。
「一つもね」
「じゃあいいわよね」
「うん、いいよ」
これが返事だった。そしてだ。
二人は並んで海を泳ぎだした。何時間も、何時間も。
泳ぎながらだ。話もするのだった。
「それでだけれどさ」
「どうしたの?」
女の子が明信の言葉に応える。
「君何処から来たの?」
「何処からって」
「そうだよ。何処からここに来たんだい?」
また女の子に尋ねる。
「一体何処から」
「広島からなの」
「広島から?」
「そう、瀬戸内の島でね」
瀬戸内は実に多くの島がある。そこに住んでいればだ。泳ぐ機会に恵まれている。だからそれで今も泳ぐのが上手いというのだ。
「そこで暮らしてたの」
「そうだったんだ。それで」
「泳ぐのは得意よ」
笑顔で言う彼女だった。
「それはね」
「だからなんだ」
「そうなの。それでなの」
「じゃあ」
ここでまた問う明信だった。相変わらず泳ぎながらだ。
「今度はね」
「ええ。今度は?」
「名前は?」
次に尋ねたのはそれだった。
「名前は何ていうのかな」
「摩耶っていうの」
「摩耶?」
「そう、神名摩耶」
名字まで言うのだった。
「神名摩耶っていうの」
「ふうん、いい名前だね」
「そうかしら。私のいたところじゃ多い名前よ」
「摩耶って名前が?」
「神名っていう名前よ」
名字の方がだというのだ。そちらだというのだ。
「この名字は私のいた島じゃ普通だったのよ」
「普通って。そんなに多かったんだ」
「私の島はね」
また言うその摩耶だった。
「この名字が本当に多いのよ」
「親戚とか?皆」
「ううん、たまたま名字が同じだけ」
つまり維新の時に多くの人間がその名字を選んだということなのだ。そこの土地の名前を皆で名字にしたりといったことが維新の時には多かったのだ。だが摩耶も明信もまだこのことは知らない。子供だからだ。
「それだけなの」
「ふうん、何か面白いね」
「面白い?」
「うん、面白いね」
また言う明信だった。
「そういうのって」
「ううん、私は別に」
「面白くないんだ」
「別にね」
これが摩耶の返事だった。
「面白いって思ったことないから」
「そうかな」
「まあそれは人それぞれね」
「そうだね。じゃあね」
「今度は何なの?」
「何処まで泳げるか勝負しない?」
彼女のことをある程度聞いたうえでだ。明信はこう彼女に提案したのだった。楽しく笑いながらだ。そのうえでの提案であった。
「これからね」
「何処までなの?」
「あそこまでね」
かなり前を指差す。するとだった。
そこにはだ。小島があった。岩の小島である。彼はそこを指差すのだった。
「あそこまで泳げるか勝負しない?」
「一キロはあるわよね」
摩耶はその小島を見て距離をざっとであるが予測した。
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