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ロード・オブ・白御前

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オーバーロード編
  第15話 一心同体

 ――紘汰たちが市民を避難させている頃、すでにタワー内に侵入を果たした人間がいた。
 関口巴と、初瀬亮二だ。


『邪魔よ!!』

 白鹿毛がインベスの群れを一閃で全て斬り払う。爆散するインベスの火で廊下を這う植物も焼けた。

「トモ! ドライバー!」
「はい!」

 巴は変身を解いて、ロックシードをセットしたままの量産型ドライバーを外して、初瀬に投げた。初瀬が量産型ドライバーをキャッチする。

「――変身!」

 初瀬が黒鹿毛に変身し、後ろから迫りくるインベスを乱れ突きにした。

《 アーモンドスカッシュ 》

 打突にソニックブームが加わることで、一突きが必殺に変わる。刺突は零れなくインベスを全て突き、爆散させた。

 黒鹿毛が変身を解く。

「くそ、キリがねえ」
「上に行けば行くほど増えてますね。これ、確実にラスボスは上ですよ」
「何とかと煙は、ってやつか。ラスボス行く前にゲームオーバーにならねえことを祈るしかねえな」

 廊下の角で一度止まり、進行方向を伺いながら初瀬が言った。

 ――彼らはタワーに乗り込んだのではなく、わざとインベスの人攫いに遭うことでタワーに入り込んだのだ。
 その後は簡単だった。隠し持っていた量産型ドライバーで、巴と初瀬が交替で変身してインベスを撃破しつつ、タワー内を進んでいた。ドライバー交換は、互いに相手に守られるなど真っ平な性格ゆえの、まさに一心同体のバトルスタイルだった。


 エレベーターは停止中、植物の根で通れない階段もあるので、相当の遠回りを強いられている自覚はあったが、文句を言う暇は彼女らにはない。

 そうやって1階、また1階と、地味に、堅実に進んで行き、彼女らはようやく例の赤いラボに出た。


 ラボは酷い有様だった。途中で切られた切株に空いた大クラック。そこから、床が見えないほどに伸びたヘルヘイムの植物。
 むせ返りそうな甘い香り。前に“森”で碧沙が果実の香りのせいで体調を崩したのが、今では巴にも理解できる。

「こっち側じゃなかった――」

 巴は碧沙を助けに来たのだ。攫われた沢芽市民も、ヘルヘイムの植物に侵食されたこの部屋も、今の巴には関係ない。碧沙のいないここに留まる理由はない。

「トモ」
「引き返しましょう。まだ医療フロアにいるかもしれません」
「ああ……いや、ちょっと待った」

 初瀬が手招きするので、巴は初瀬の近くまで行ってしゃがんだ。

「これ、何かの機械のケーブルだよな」

 しゃがんだ初瀬がなぞるのは、植物に紛れて見えなかった、何本ものケーブルやコード。全てが大クラックを超えて“森”へと延びている。

「こんなもん、あったか?」
「いいえ。前に来た時はありませんでした。はっきり覚えてます」

 巴の得意分野は、一度目にあったことを二度目は覚えていることだ。かつてクリスマスゲームでこのラボに招き入れられた時、機材は全て電池か充電式で、わざわざ中から外へ電源を繋ぐ機材は一機もなかった。

「何か特別な物なのかしら……」

 もしかしたら碧沙が関わっているかもしれない。

「亮二さん、この線、辿ってみましょう」
「言うと思った」

 初瀬は笑って賛成してくれた。巴はほっとした。強気に出ても、初瀬が反対したらと想像すると、碧沙が同じことをするのと同じくらいに怖い。
 その心理の根を、巴自身はとうに突き止めていた。突き止めて、あえて触れずに来た。

 巴は思考を切り替え、ラボの外へ続くケーブルを見据えた。




 巴と初瀬は、往路と同じく、地味に堅実に時間をかけて、ケーブルを辿って行った。

 着いたのは、薄暗いホールだった。面積だけならラボと同じくらい。薄暗いのは、照明が床近くの壁にしかないからだ。

 ホールにはぎっしりとベッドが並べられ、一つ一つのベッドに人が横たわっていた。全員が一様にマスクらしき物を着けられ、ヘルヘイムの蔓が点滴のチューブのように、ホール中央の機械に繋がれている。
 追ってきたケーブルは、その中央の装置に繋がっていた。

「何だよこれ……」

 初瀬の呆然とした呟きがホールに反響した。

 手近な一人のマスクを外そうと、巴はマスクに手をかけた。だが、外れない。初瀬がやっても同じだった。

「ろくでもないことをされてるのは確かですね。こっちがダメなら」

 巴は装置の前に行き、量産型ドライバーを構えた。

「待った! 精密機械だったら、下手に壊すと止まらなくなるかもしれねえ。やめといたほうがいい」
「っ、そう、ですか」

 巴はドライバーを下ろした。

「誰だ!?」

 ホールのドアから光が雪崩れ込み、闇に目が慣れていた巴はとっさに目元を手で庇った。
 ドアが閉まることで人物のシルエットが見えた。

「光実さん」

 スーツ姿の光実がホールに入ってきた。まだ高校生のはずなのに、彼は大人が着るようなダークスーツを着ていた。その格好がひどい違和感を巴に覚えさせた。

「お前、ここの人たちに何して……!」
「碧沙は!?」

 初瀬が言い切るより早く、巴は一番知りたかったことを最短の単語で光実に問うた。これには光実も驚いたのか、目を白黒させている。

「トモ、お前なあっ」
「だって……」
「碧沙ならヘルヘイムの森にいるよ。“森”の一番深いとこに遺跡がある。そこの城跡」
「ヘルヘイムですね。分かりました」

 巴はつかつかとホールのドアに歩いて行き、部屋を出ようとした。ラボからここへ来たのはとんだタイムロスだった、と思いながら。

「こんなことしてる僕を放置して行くの? 僕はオーバーロードと共謀して、ここの人たちにヒドイことをしてるんだよ?」

 巴はふり返り、冴え渡った目を光実に向けた。

「行きます。わたしの一番は、碧沙です」
「そう――ヘルヘイムに行くなら、相当覚悟しといたほうがいい。特に関口さんは」

 意味が分からず首を傾げた。光実はそれ以上言葉を重ねることなかった。
 巴は今度こそドアの外へと進み出た。




 巴はホールから初瀬が出るなり、ロックビークルをここで使えないか食い気味に尋ねた。あのラボに戻る時間さえ惜しい。

「わたしの持っているチューリップビークルは、ここで出すには天井が低すぎるんです。だから」
「んー……通路の長さからして、ギリギリ行けなくもないってとこだな」

 初瀬はロックビークルを投げた。ローズアタッカーが展開し、初瀬はそれに跨った。

「後ろに乗れ。緊急事態だからノーヘルも二人乗りも無視で行くぞ」
「はい、お願いします」

 巴はローズアタッカーの後ろに乗り、初瀬にきつくしがみついた。
 初瀬がローズアタッカーのエンジンを吹かし、アクセルを回した。直後、衝撃が巴を襲い、ロックビークルは発進した。相当のスピードを出していることが、運転していない巴にも分かった。

 顔を出して前を覗く。廊下の終わりはもう目の前だ。壁に激突する――そう思った瞬間、花形のクラックが開き、ローズアタッカーはヘルヘイムの森へ抜けた。

「このまま光実が言ってた遺跡とやらまで突っ切る! 離すなよ!」
「は、はい!!」

 クラックを抜ける前とほぼ変わらないスピードで、ローズアタッカーは“森”を駆け抜けた。 
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