バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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序曲~overture~
第一話 初めての環境
僕は編入試験の日に至るまでほとんど眠れなかった。
文月に最初に登校することになる今日の編入試験から、女性として過ごさなければならないのだから。
女装で通い通さなければならないということだから、ばれないように出来る限りのことはして見せたつもりなのだけれど、それでもばれてしまったなら即刻退学ものだろう。
そうなったなら母さんに勘当をさせてしまうことになる、僕のことがどうなるって言うのはこの場合においてある意味どうなってもいい。
だけれど、母さんにこれ以上つらい思いをさせるわけにはいかない。
僕の不登校にどれだけ心配をかけてさせたのか、それが今回の事態に発展しているのだから、この状況に甘んじなければならない。
「千早様、お顔の色が優れておりません。やはり連日の寝不足が原因ではないのでしょうか?」
「史……ありがとう。とは言え今日は絶対に出席しないといけないんだよ。」
史に心配される、なんといっても学校という閉塞的な空間に僕が行くことから危ぶまれているのだろうけど。
「千早様、本当によろしいのですか?」
「今更聞かないでくれるかな、これでも応分に後悔はしているんだよ。それに、この方法でしか赦されないというならば、ここまで自分を追い詰めた自分が悪いのだから。」
「千早様のお気持ちを確認させていただいたまでです。それならば史はただ千早様のために尽くすだけです。」
「ありがとう、史。じゃあ行って来るわね。」
「行ってらっしゃいませ、千早様。」
折り目正しいお辞儀に送られながら、僕は女装生活の一歩を踏み出したのだった。
振り分け試験の休み時間、解答用紙の回収が終わり周りの生徒たちは各々の友達とついさっきの試験の出来具合について話し合っていた。
「これは……参りました」
先ほどのテストはうまく出来た方だと思う。
ここ文月学園のテストは一時間以内に制限無しで好きなだけの問題の回答が出来る。
テスト前に西村先生という生徒指導の先生に聞いたところでは、そもそもこの学力テストに満点などはなく、能力次第では一科目で300点台を超える点数を保持する者もいるらしい。
調子にのってしまい、解き終わった解答用紙の枚数の方にだけついつい気が向いていたけれど見直しはしなくてもよかったのだろうか。
なにより眠れない状態が続きすぎたせいか、妙に熱っぽい。
酷い頭痛に襲われながら試験を受けているせいで、三番を選んだつもりが二番を選んでいたとか、笑えないことになっていたようにも思える。
頭痛は収まる気配も無く、かといって途中退席をするとすべての受験教科が零点で評価されてしまうという。
「やっぱり、きついわね……」
「貴女、大丈夫?」
顔を上げてみると、一人の女生徒が僕を見下ろしていた。
顔色が目立つほど悪かったのか、それとも無意識のうちに何かを呟いてしまっていたのか。
性根が曲がっていなければきっと心配してくれていると受け取っていたのだろうけれど、今の僕にとって正体を見破られるわけには行かないとの考えが先行してしまう。
それでも心配してくれているのはニュアンスで伝わってくる。
そのことが何となくこそばゆく感じる。
見知らぬ人から僕のことを心配するような言葉を聞くのは、あまりにも久しぶりすぎた。
「失礼致しました。その……ご迷惑はお掛けしませんので。」
彼女に頭を下げると相手を慌てふためかしてしまった。
「えっ、あの、べ、別に迷惑なんてないから。それよりも貴女、熱があるみたいだけど大丈夫なの?」
「そうですね、確かに大丈夫だとは言えません。ですが振り分け試験はこの一回しか実施されませんし、それに途中退室は零点になってしまいますから。少々熱っぽくはありますが最後までやり遂げるつもりですよ。」
今の自分に出来る精一杯の笑顔を困惑した顔をしている女生徒に向けると、彼女の顔は不思議と少し紅く染まる。
「あの、私は小山友香。友香で良いわ。貴女の名前を教えてくれないかな…」
「私は妃宮千早と申します。私のこともどうぞ千早と呼んでください。今年から編入することになりましたので至らぬところなど多々あるとは思います。どうかよろしくお願いしますね、友香さん。」
笑顔を浮かべ続けたまま、彼女の様子をうかがい続けていると、彼女に顔を俯けられてしまった。
何かまずいことでもしてしまっただろうか。
「これより問題用紙を配布します。着席し、参考書など筆記用具等以外は鞄の中に仕舞いなさい。」
先生が教室に入ってくる。次のテストは確か数学だったはず。
彼女の様子に若干の違和感を覚えたけれども、今は眼前のテストが第一であろう。
「…席に座りましょう、友香さん。」
「いや、その、うん、そうね…テスト……がんばってね、千早さん。」
バネ仕掛けの人形みたく、肩が跳ね上がったのはご愛敬だろう。
しかしそんな心落ち着く出来事があっても、体の調子はよくはならなかった。
数学のテストの最中に体調は悪化して、試験どころではなくなってしまったのだ。
途中退室を余儀なくされたために、僕の受けてきたテストは全て無効。
その場で最低クラスへの編入が確定してしまったのだった。
僕の方を心配そうに見つめる友香さんの目線を肌に感じる。
テスト中に目立つことをしてしまったこと、僕の具合など本当なら無関係な彼女に集中力を切らせてしまったことに罪悪感を覚えながら、僕は教室を後にした。
後書き
物理
最初回路のスイッチは開いていて電流は流れていない。
直流電源に対して、コイルと「 」を並列につないだものを20Ωの抵抗と電流計を直列につなげている。
スイッチを入れた瞬間の電流計は2Aを示すが、十分に時間がたつと電流計は5Aを示した。
問
「」には抵抗かコンデンサーが入るのだが、このとき抵抗が入る。
何故そのように言えるのか理由を述べなさい。
妃宮千早の答え・コンデンサーが入った場合、電流を流し始めた瞬間においてコンデンサーは導線と見なすことが出来る。また十分に電流が流れた後ではコイルを導線と見なすことが出来るため、この時最初に示した2Aを示しているはずであるが実際には5Aを示しているため、コンデンサーが入っているという仮定に矛盾する。
よって抵抗が入っていると言える。
教師のコメント
正解です。
つなげている抵抗の値はキルヒホッフの法則から求めることが出来ますね。
須川亮の答え・コンデンサーではないから。
教師のコメント
間違いではありませんが、正解ではありません。
吉井明久の答え・超未来合金
教師のコメント
未来の物なら何でもあると考えないでください。
それ以前に設問に従ってください
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