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シチリアの夕べ

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第一章


第一章

                        シチリアの夕べ
 エリーは遠いこの国まで来ていた。
 イタリアの長靴の先の石シチリア。そこにいてだった。
 一人バーで飲んでいた。そこで明るい顔立ちのマスターに声をかけられた。
「あれっ、お姉さん」
「はい」
「イギリス人だね」
 こう言われたのだった。
「違うかい?」
「わかるのかしら」
「うん、わかるよ」
 背が高くすらりとしてそれで赤い髪を長く伸ばしている。長い睫毛の目の色は奇麗なグリーンである。鼻がとても高く彫がかなり深い顔だ。
 そしてグレーのズボンにスーツ。その格好の彼女を見ての言葉であった。
「ちゃんとね」
「何故わかるのかしら」
「顔でね」
 それでだというのだった。
「それでわかるよ」
「顔で?」
「顔っていうか雰囲気かね」
 マスターはまた彼女に言ってきた。
「それでわかるんだよ」
「そうなの」
「何処か堅苦しいところがあるからね、イギリス人は」
 その雰囲気とはどういったものかも話すのだった。
「だからね。それでね」
「堅苦しい、ね」
「しかもあんたは」
 そのエリーを見ての言葉であった。
「今落ち込んでるかな」
「御名答よ」
 エリーはその前にあるグラスを指と指で軽く持ってからだ。こうマスターに返した。
「それもわかるのね」
「それも雰囲気でね」
「雰囲気っていうのは言葉よりもずっとお喋りなのね」
「そうだよ。特にこういう商売をしていたらね」
「そうなるのね」
「うん。それであんたは」
 また彼女への話になった。
「その落ち込んでいることを何とかする為にここに来たんだね」
「ええ、はるばるリバプールからね」
 やはりイギリスであった。あのビートルズの出身地として世界的に知られている街である。彼等により有名になった一面の強い街である。
「来たのよ」
「霧の国から太陽の国へ」
「その通りよ。確かに太陽が凄く奇麗ね」
「イタリアだからね」
「そうね。それに」
「それに?」
「風景もいいわ」
 次に褒めるのはこのことだった。シチリアそのものがいいというのだ。
「とてもね」
「そうだろ、だから観光地としてやっていけるんだよ」
「そうね。太陽の下に緑と岩場があって」
「からっとしているだろ」
「イギリスとは全く違うわ」
 その霧の国とはというのだ。
「イギリスじゃ。こんなに晴れることは」
「やっぱり少ないんだね」
「そうよ。雨と霧よ」
 まさにその二つだというのである。
「そればかりよ」
「やっぱりね。じゃあ楽しんだらいいよ」
「このシチリアの風景をなのね」
「いや、全部だよ」
 だがマスターはこう言うのだった。
「全部だよ、このシチリアの」
「全てをなの」
「そうだよ。シチリアは風景だけじゃないんだ」
「食べ物やワインもというのかしら」
「勿論。例えば」
 言いながらであった。早速ボトルを一本出してきた。それは。
 
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