ソードアート・オンライン 幻想の果て
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プロローグ
世界で初めて完全なバーチャルリアリティ、仮想世界へのフルダイブを実現させたゲームハード、ナーヴギア。
それによるMMORPG《ソードアート・オンライン》のサービス開始初日、スタート地点である《はじまりの街》の広場に集められたプレイヤーたちは紅く染まった空を、正確にはそこに現れた中身の無い魔導師然としたローブを見上げていた。
『私の世界にようこそ』
ローブのがらんどうから響いた第一声がそれだった。
ローブの男はこのソードアート・オンライン、のみならずフルダイブ技術の生みの親である茅場晶彦を名乗り淡々と言葉を紡ぐ。
そして全てのプレイヤーに途轍もない衝撃を与える信じがたい説明がなされた。
このゲームにおいてプレイヤーは自発的にログアウトすることは出来ない。それが可能になるのはこのMMOの舞台である百層からなる浮遊城《アインクラッド》の全てを攻略した時のみだということ。
――そしてゲーム内でプレイヤーのHPがゼロになった時、アバターが消滅するのみならず、現実世界のプレイヤーの脳は装着しているナーヴギアが発する高出力マイクロ波により破壊されるということ。
外部の者が装着者のナーヴギアを解除しようと試みた場合も同様の処理が行われるという。
つまりゲームをクリアするまでこの世界から出ることはかなわない、そしてこの世界での死は現実世界での死と同義であるということだ。
プレイヤー達にとってあまりに唐突かつ理不尽な説明を終えたローブ、茅場晶彦はいかなる趣向かゲーム開始時に作成したプレイヤー達のアバターを現実の容姿に変更させると一連の流れをチュートリアルと称し、溶けるように宙へと消えていった。
血のような紅に染まった空に夕暮れの色が戻った時、残されたプレイヤー達の間に理不尽に対する悲鳴、怒号、あらゆる絶叫が響き渡る。
喧騒が満たす広場で現実の姿に戻ったプレイヤーの一人、黒部鷲は茅場晶彦が消えた空を見つめていた。
父、逸貴が経営するショットバーの常連であった電気家具販売店の店長のつてにより購入できたこのゲームでは予想もしえない出来事が待ち受けていた。
命の危険が身近にあるファンタジーの世界に放り出されたような現状。辺りでいまだどよめき続ける人々と同じく、鷲の胸の内にも不安や憤りといった感情が渦巻いている。
しかしそれらの感情をよそに追いやってしまうほどに、鷲はある思考にとらわれていた。
そのきっかけとなったのはプレイヤー達が抱くであろう何故こんなことをするのか、とう疑問に先回りして答えた茅場晶彦と言葉だ。
『この状況こそが私にとっての目的、この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、ソードアート・オンラインを造った』
「茅場晶彦、あんたは……」
希代の犯罪者となった男を憐れむような呟きは誰の耳に届くこともなく、周囲の怨嗟に飲み込まれて消えていく。
それが一年と半年の前、ソードアート・オンラインという名のMMORPGがデスゲームとして真の開幕を告げた日だった。
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