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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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ドニ、襲来

 その日、東京は闇に包まれた。

 午後八時。突如として、都市全ての電力供給がストップしたのだ。それだけなら、大規模な停電としても考えられる。しかし不可解なのは、車や携帯電話、時計などといった、送電に頼らない代物までが軒並み動かなくなったことだ。

 更に、停電対策として自前の発電設備を持つはずの大規模病院すらも、発電設備を始めとした全ての機械が動かなくなり、病院は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 街では、走行している最中に突然コントロール不能になった乗用車同士の衝突事故が多発し、至る場所で火災が発生している。当然救急車両など出動できない状況なので、被害は拡大する一方である。
 一切の明かりを絶たれた都市は、月と星明かりと、炎により彩られている。

 そんな東京の海に、手こぎボートで入ってきた愚か者が一人。

「ふぅー・・・。やっとついたよー。」

 彼の名はサルバトーレ・ドニ。裏の世界では、【剣の王】として恐れられる、神殺しの一人であった。

 ほぼ同時期に日本を目指していたヴォバン侯爵と違い、彼は近くの国までは飛行機で、そのあとは船で、日本へと近づいていた。ヴォバン侯爵も彼も、生粋の戦闘狂である。本当なら飛行機でさっさと到着したかったが、彼が興味を向けている【混沌の王】草薙護堂と戦うには、どうしても【伊織魔殺商会】が邪魔だったのだ。

 三月に行われた鈴蘭との戦闘で、彼女が『隔離世』と呼ばれる場所へ強制的に連れて行く能力を持っていると知っている彼は、鈴蘭がドニと草薙護堂との戦いを邪魔してくる可能性を考えていた。
 空間転移を自在に行使する彼女には、距離の概念など存在しない。自分が日本についたとバレれば、即座に邪魔しに来るはずだ。

 だからこそ、彼が考えた対処法は一つ。

 ―――自分の居場所を、把握されなければいい。

 飛行機では、空港にしか行けない。いや、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を発動した上で、ハイジャックして飛行機ごとビルにでも突っ込めば行方を眩ませるには十分かも知れないが、本命と戦う前に余計なダメージを喰らい、呪力を消費するわけにも行くまい。
 そこで彼が取ったのは海路であった。

 海は広い。特に夜間の海であれば、人一人が漕いでくるボートを見つけるのは至難の業となる。

 ・・・とはいえ、海上自衛隊の存在もあった。だからこそ―――

 だからこそ、彼はこの手札を切ったのだ。自分を監視する機械類を無力化し、更に、信じられないほど高度な技術力を持つと言われる【伊織魔殺商会】の戦力を削ぐための手段として。

 彼は、公表していない、三つ目の権能を使用した。

 【いにしえの世に帰れ(Return to Medieval Style)】。この権能は、ローマ神話の火と鍛冶の神ウルカヌスから簒奪した権能である。周囲一帯の文明を半日ほどの間中世レベルまで退行させ発明を封じる。発動時には、何らかの物体に『nudus ara(裸で耕せ)』『sere nudus(裸で種を蒔け)』とラテン語で刻むのが条件で、文字を刻んだ物を破壊すれは権能を解除できる。規模としては小都市を覆う程度だが、呪力を振り絞れば範囲は大都市レベルまで跳ね上がり、持続時間も日単位まで延長させることも可能である。

 この発動媒体は、今は彼の背負った小さなリュックに入れられている。

 この権能を発動したままのドニが日本に近づくにつれて、その付近の海上自衛隊などの船は全ての機能を停止する。彼は、邪魔者が一切いない海を、悠々と漕いできたのだ。

 まつろわぬ神や神殺し同士の戦闘などより、無差別テロに効果がありそうな権能だが、唯一、【聖魔王】名古屋河鈴蘭には通用する。この権能と、もう一つ彼が隠し持つ権能を合わせれば、彼女は完全に無力化されてしまうのである。

「さて、さっさと探そうかなー。」

 本来なら、彼には機械による監視の他に、術による監視も張り付いていた。・・・が、彼は監視の術など片手間にぶった斬る事が出来るので、既に彼を補足している人間はいないのである。

「どっちかなーっと。」

 彼は、元々呪力を溜め込めない体質だったが故に、テンプル騎士としては落ちこぼれであった。カンピオーネとなり、その体質が改善した今でも、呪術を習う気など、彼には一切存在しない。

 ・・・ならば、機械も使えないこの状況で、どうやって護堂を探すのか?

「あっちかな。」

 答えは、『勘』である。

 ただ、カンピオーネの勘は、たかが勘と侮る事ができない。闘争本能が高ぶるにつれ、まるで未来予知でもしているかのような超直感を使うことが可能だからだ。ドニの闘争心は、既に最高潮に達している。

「さーて。どんな人かな。【混沌の王】って。強ければいいなー。」

 こうして、一人目の災厄が、【魔界(日本)】へと侵入したのだ。 
 

 
後書き
という訳で遅くなりました。最新話でございます。
いやー、書けなくて困りました。最初に考えてたのがどうにもうまくいかなかったんで、かなりを書き直しまして。
危うくエタるかと・・・。
カンピオーネも最新刊発売されましたね。最後の王がまさかあの神だったとは。一切考えつきませんでした。でも、後書きで作者さんが『簡単過ぎましたかね?』とか言ってましたし、分かる人は結構いたのかも。
・・・でも、ぶっちゃけドニと羅翠蓮が組めば、どんな敵でも倒せるんじゃないかというのは素人考えなんでしょうかね? 
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