『自分:第1章』
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『母さんと』
怪我した足裏を消毒して絆創膏貼ってたら、背後から母さんが『何その怪我?何やってんのよ』って。
自分の心音がうるさくて、周りに神経がいってなかった。
『兄ちゃんがこの前言うてたよー。広島ナンバーのセダンの男と居たって。浮気相手?』
兄ちゃんの性格なら、笑いながら平気でユウに言うに決まってるのに...。
不思議に思った。
『ユウ君来る少し前やったかな?あんたが高松泊まった日。で?ユウ君とは別れるの?良い子やのに勿体無い!』
おどれが言うな。
腹立つ。
何基準で良い子や言うてんねん。
こんな私に育てられて、可哀想な娘を大事にしてくれて良い子って意味?
育てられて無いけどな。
こんな私を、この子の母親として接してくれて優しい良い子って意味?
それとも深い意味は無く単純に優しいから良い子?
無性にカンに障った。
悪意が無いことくらい解ってた。
無神経とゆうか純粋とゆうか、子供とゆうか...この母親に悪意なんか無いことは昔から知ってる。
悪意どころか、親の自覚も無いし。
コッチも、理解し合う事を諦めてる。
それでも、それでもやっぱり、許しきってるワケじゃ無いから...ふとした拍子に沸き上がる、この人への憎悪。
マダ反抗期みたい...
自分にムカつく。
乗り越えた筈やのに。
どうにもならんのも知ってる。
我が子のどんな傷より、自分の学生時代の傷が癒えて無いままの、可哀想な母さん。
零那は全然可哀想なんかじゃない。
うん、解ってる。
零那が母さんを受け止めてあげなあかんのよな。
うん...
頭では解ってる。
でも...
庭のベンチに寝そべった。
星が落ちてきそう。
島やからかな?
たまに、ほんまに届くんちゃうか?って錯覚するくらい近いときがある。
深呼吸。
落ち着こう...
母さんが出て来た。
既に酔ってグダグダ。
いつもの如く『零那チャンのことは産む予定無かったんよ』って。
今日はこのまま聞き入れてあげる自信は無かった。
胸の真ん中。
ブラで挟んで在るカッター。
咄嗟に自分を切った。
気が紛れる。
鬱陶しい声も霞む。
平気な顔で娘をどうしたいのか。
このオンナは...
昔、養父が釣りで不在の時、姉と喧嘩の際、首に包丁突きつけた事がある。
殺意は勿論あった。
そんな時ですら、このオンナは特に何も感じてなかったんだろうな...
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