【IS】例えばこんな生活は。
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例えばこんな貴族はとてもじゃないが逆らえない
前書き
黒騎士ですか?そんなもの生まれてませんよ。
亡国機業の最終目的は――全人類を管理下に置くことによる人類の存続、という御大層なものらしい。
人類は余りにも無秩序に増えすぎた。増加の一途を辿る人間に対し、この星の資源は有限だ。人類が文明などというものを築いてしまったがゆえに、人類は世界中で大量の動植物を食いつぶし始めた。そして人類には戦争という他の生物にはない大量虐殺行為を行う種族である。資源を求めて互いの欲望を臆面もなくさらけ出す愚劣な指導者たちはいつか戦争によってその身を滅ぼし、人類という種族は絶滅を迎えるだろう。
ならば、絶滅しないように人類で人類を管理すればいい。人口増加も減少も、食糧生産も文化も、何もかもを統制して人類が存続するようにすればいい。
たしか、組織のトップはそんな熱弁を振るっていた筈だ。どちらにしろ、興味はない。
私はただ織斑千冬を殺せればそれでいい。
私を捨てた姉さんを殺せればそれでいい。
その為に立ち塞がる有象無象など知ったことか。
――とか余裕ぶっていた1分前の自分を殴りに行きたい。
ブルーティアーズが現在展開しているのが、完全機動のBT10機。
これがいかに異常な事かは、BTを扱った人間にしか分からないだろう。
現在エムが操るBT兵器搭載型IS二号機「サイレント・ゼフィルス」でさえ同時使用は攻撃用6機と防御用2機で計8機である。正確には「戦闘機動に支障を来さないレベルでの並列思考」は8機が限界なのだ。現在の人類の兵器応用理論では。普通ならば8機同時操作などしたら思考が追い付かずに戦闘で動きを鈍らせる。実戦で支障をきたしていないエムが異常なのだ。それほど並列思考によるBT制御は難しい。
前回戦った時は、セシリア・オルコットのBTは同時8機・・・固定砲台同然の2機を除けば6機だった。偏光制御射撃も完全にものにした状態での攻撃に油断が過ぎて、想像以上の泥試合になってしまった。だが今回はパッケージも使用して性能を強化しておいたし、同じ失敗は侵さない。そう思っていた。
しかし、これは。
「お行きなさい、僕たちよ!ダンスの時間ですわっ!」
一斉に4機のBTがレーザーを放つ。その4つが全てバラバラな機動とタイミングで偏光してエムへと殺到する。2発が掠めてどうにか回避した、その瞬間に既に他より大型のBTが真正面からレーザー。シールドで受け流しながら迎撃のBTで攻撃するが、先ほどまでいた場所に既にセシリアの姿はない。
直後、上方と下方から熱源反応。咄嗟にバレルロールで飛来したレーザーを躱したが、回避後の隙を狙っていたミサイルが降り注いで命中する。狙いすましたように正確無比な射撃だ。背中に走った衝撃をぐっと抑え込み、上方を睨みつける。
「がッ・・・この!調子に乗るなぁぁぁぁ!!!」
推力を全開、速度で圧倒してやる。ライフルもレーザーも最大出力で、こちらも偏光を使って弾道を読めない縦横無尽のレーザー砲撃で迎え撃つ。直撃コースに入った。思わず頬を吊り上げて笑う、が、その笑みはすぐさま驚愕で彩られた。
命中したと思ったレーザーが切り裂かれたのだ。切り裂いた正体はそのまま飛来してゼフィルスの装甲を深く抉った。強烈な衝撃と共にエムが見たその飛来物の正体――それは、ショートブレード。
「接近武装を改造して作った新BTですの。遠隔操作が可能でレーザー技術を刀身に反映させたので、切れ味は抜群ですのよ?――お怪我にお気をつけ遊ばせ」
「ソードBTだと・・・!?どこまでもふざけた真似をぉぉッ!!」
自分に傷をつけられたことに激昂したエムがその剣を撃ち落とそうとするが、BTと同じ速度で飛行するソードBTを捉えきれない。それ所かセシリアがもう1機ソードBTを追加したことで逆にその身を切り刻まれる。
振り払うしかないと加速した先に、他のBT。一斉射撃に加えて拡散レーザーが襲う。拡散レーザーもまた偏光によってその弾道を読めなくしている。直撃は避けたがライフルの砲身が融解したことに舌打ちして、邪魔になったそれを正面に投げ飛ばして自分のBTで撃ち抜く。エネルギーパックが大爆発を起こすが、その爆風に巻き込まれた相手BTはいなかった。その瞬間に更に背中を撃たれる。今度は直撃だ。
「ああ、言い忘れていましたが・・・新型BTにはレーザーを反射する機能もありますの。背中にお気をつけ遊ばせ?」
「遊ばせ遊ばせとッ!私は遊具じゃないんだよ!」
「なら抵抗して見せなさいな。前の戦いではそれなりにやりごたえがありましたのに、いざ再会してみると期待外れですわ」
「―――殺す」
さも残念そうなセシリアの態度を見て、ぶちりと血管の切れる音と共にエムの怒りは頂点に達した。
そこからは前と同じレーザーの応酬だった。しかし、誰がどう見てもエムに勝機はない。
エムが6発レーザーを撃つうちにセシリアは11手の手札を切れる。エムが偏光によって弾道を変化させるレーザーを撃っても、セシリアにはそれを反射させる兵器がある。なによりも――セシリアの先読みと空間把握及び並列思考が、最早純粋な人間の域を逸脱していた。
エムの行動を全て先読みしたうえでBTを撃っている。一方的にだ。勝負にすらなっていない。
勿論、それもティアとの意思疎通、いや意識共有によるもの。簡単に言えば、セシリアの脳は現在ティアの処理能力を疑似的に使用している状態にある。シャルとファリンを含む他のISもそうだ。今までのISには起きていなかった現象・・・名付けるならば相互意識接続と呼ばれる、IS操縦者の新たな境地だ。
2人分の能力と思考を以て一人の戦士になる。ISという人知を超えたポテンシャルを秘める存在と、それを操る操縦者の意識融合。
ISが、新たな時代へ突入していた。
その新世代を前にすれば、既にエムはロートルに過ぎない存在だった。
その頃、他の亡国機業幹部は悪夢を見ていた。
「ヒヒイロ・ブーメラン!!」
飛来する3メートル大のブーメランがISに直撃して吹き飛ばされる。ダンプカーに撥ねられたように錐揉みになったISはくるくる回りながら海に落下した。浮いてくる気配はない。
「ヒヒイロ・キャノン!!」
龍咆の熱量に負けない巨大ビームがISに直撃し、薙ぎ払った。ビーム発射後から全身の装甲が黒こげになったISが姿を現し、ブスブスと黒い煙を上げながら海に落下した。やはり浮いてくる気配はない。
「ヒヒイロ・ブレード!!」
巨大な鉄の棒に数機のISが虫のように叩き落された。有無を言わさぬ超威力で海に水柱が立つ。意識を保っていたとしても当分浮いてこれないだろう。
「ヒヒイロ・ミサイル!!」
絨毯爆撃ですかと聞きたくなるミサイルが降り注ぎ、IS操縦者が阿鼻叫喚になった。爆炎に包まれたパイロットは出来損ないの紙飛行機のようにふらふら水面へ落下した。ぷかぷか浮かんでいるが動く気配が無い。
「リューガ先輩、篠ノ之博士・・・この子は最強です!!」
『正義は・・・ま、負けないんだから!』
――学園の守護神「日緋色打鉄」と、それを操る簪&フタバの独壇場がそこにあった。
ISが展開するIS。第5世代IS。世界最高の技術者によって造られたこの世界に唯一無二の「スーパー・インフィニット・ストラトス」が、巨人のように佇んでいた。機業も必死で攻撃しているが、そもそもスーパーロボットにしか見えない赤、白、青のトリコロールカラーに付け足された黄色のカラーリングのそいつは装甲が堅牢過ぎた。全然効いていない。ゴーレムのレーザーがスキンバリアだけで弾かれた。
これ、なんなんだろう。本当にISなのかな?
寧ろスーパーロボットなんじゃないか。そうであってくれ。
それが戦っている機業の皆さんの素直な感想である。一応ハチ型ISとかカブトムシ型ISとかダンゴムシ型ISとかいろいろいたのだが、文字通り虫扱いである。サイズが違い過ぎて子供に遊ばれているようだ。
なお、ISにはパイロット保護用の酸素が量子圧出して格納されているため海面に出なくとも窒息しない。量子化した酸素は二酸化炭素と共に再量子化され、その際に二酸化炭素を酸素と炭素に分解させて無限ループをするとか。
ノリノリで技名を叫んではISを蹴散らす簪。その表情はどこか解放されたようで、まるでヒーローになりきっている子供のように天真爛漫な笑顔を振りまいている。フタバもそんな簪と意識を共有しているためとってもノリノリだ。
『簪・・・あれ、やろう?』
「うん、せっかくだしやろう」
(え!?これ以上やるの!?)
日緋色打鉄の手に持つ巨大な剣が膨大なエネルギーを纏って極光を放つ。これは、アカン。
「やめろー!死にたくない!死にたくなーい!!」
『ファイナル・ヒヒイロ・フィニィィィッシュ!!!』
冗談染みたエネルギーは天を貫く光の大剣となって亡国機業ごと海を抉り、モーゼの十戒どころかぱっくりと海の下の岩盤をも切り裂いた。攻撃のエネルギーで起きた大爆発を背に、日緋色打鉄のツインアイが誇らしげに瞬いた。
『「絶対無敗ッ!学園超神、ヒヒイロ・ウチガネェェェェェェッ!!!」』
これ以降、「日緋色打鉄」は世界最高の抑止力にして日本の守り神として、ちびっこから絶大な人気を得る事になる。
後書き
タグに戦闘殆ど無しと書いたのに今回戦闘ラッシュなのは、流石にこの戦いを戦闘カットで書くとあっさりしすぎていて寂しかったからです。
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