仮面ライダー真・智代アフター外伝
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二話「記憶」
前書き
シンがライダーになります。
「……」
暗い空間に、俺は浮かんでいた。自分の体以外は何も無い寂しく怖い、そんな場所に。
『トモヤ…』
「…?」
だが、誰かが俺を呼んでいた。いや、その名が俺の本当の名なのかはわからない。だが、その懐かしげな名前に俺は振り向く。だが、先ほども言ったように、この暗闇の空間には俺以外誰もいなかった。ただ、その声だけが俺を呼び続けている。
「誰だ…?」
『トモヤ…トモヤ…』
「トモヤ…誰なんだ?」
俺は、ひたすら呼び続けるその名を耳に、その空間から目を閉ざした。
*
「……!」
次に目を開けると、そこには見知らぬ木の天井と蛍光灯、そしてカーテン越しの窓から刺し照らされた日差しが俺の視界を遮った。
「ここは……?」
俺は布団に寝かされており、上体を起こして周囲の風景を目にする。畳みの和室で、それほど広くない小さなアパートのようだ。しかし、妙に懐かしさがこみ上げてくるのは何故だろう?
「あ、もう目が覚めたのか?」
「……?」
横から呼びかけられた女の声に俺は振り向く、そこにはエプロンをした一人の女性がこちらを見つめていた。
「アンタは……?」
訪ねるも、俺は彼女に見覚えがあった。昨夜、俺は確か暴走して彼女に襲いかかったような……?
「私は坂上智代、昨日の夜の事は覚えているか?」
「……ああ」
俺は布団から起き上がり、立ち上がると、彼女に問う。
「何故、俺を……?」
俺は、アンタを殺そうとしたかもしれないのに、何故助けた?
「人を助けるのに、理由がいるか?」
もっとも、王道的な理由だ。しかし、普通ならその場で逃げるだろうに、何故彼女は逃げなかったのにか、おそらくそれ相応の理由があるだろう。
「ところでシン?」
「シン……?」
智代は、俺をそう呼ぶが、俺は首を傾げた。
「それが、お前の名前ではないのか?ほら、手首のリングにそう書かれているぞ?」
「……?」
すると、右腕の手首に腕輪のリングがつけられ、腕輪には細い文字に「Shin」と刻まれていた。これが、俺の名前だろうか?いや、妙に違和感のある名だ。
「記憶には……ない」
「記憶?」
俺の隣に智代が座り、記憶を思い出せないでいる苦しげな俺の顔を覗いた。
「何も……わからない。俺が、誰なのか思いだせない……」
「……シン、お前は宛てはあるのか?」
智代がそう問うが、正直俺には記憶が無い故に宛てなど無いし、そもそも何処へ行けばいいのかもわからない。
「知らん……思い出せない以上、何処へ行きばいいのかわからない」
「……なら」
智代は立ち上がってエプロンを外した。
「暫く、ここに住んでいくか?」
「……いいのか?」
「ああ、それにここは元々私の部屋でもないしな?」
「……?」
「ま、気にするな?それよりも、お腹は空いていないか?先ほど朝食の支度が出来たところなのだが……食べるか?」
「……」
しかし、俺は少なからず遠慮があった。今まで俺が取らされていた食事は、カプセルの粒か、固い栄養食だ。目の前に出された食事は、それらの物とは対称的に、柔らかみのある温かそうな食べ物だった。
「嫌いな物でもあったか?」
「いや……写真でしか見た事のない食べ物だから」
施設では、一様目の保養と言うこともあり、研究員が様々な画像を俺に見せてくれた。そのなかで、俺以外の人間達が食べている食物がこういった物らしい。当初、食事の希望を出しては見たが、俺の味覚には合わないと言われて断られてしまった。
しかし、見た目が旨そうなため、不味くはないと思いたい。
俺はなれない手つきで箸を持って茶碗を手に米と、おかずを口へ運んだ。
「……温かい」
食事をして最初に出てきた言葉が、飯の温かさだった。
「旨いな……」
そして、研究員からの評価とは裏肌に、心地よい食感があって、どれも始めて味わう物だが不味くはなく、むしろ美味だ。
「そうか、口にあってよかった!」
ご機嫌になった彼女はドンドン俺に飯を進める。俺も、もっと食事をするべく、遠慮せずに朝食を頬張った。
「しまった!もう、こんな時間か……」
すると、彼女は立ち上がるとエプロンを外してスーツ姿になる。
「どうした……?」
「すまない、そろそろ出勤しなくてはいけない。お前は、ここに居てくれ?」
そういうと、急いで玄関で靴を履いて部屋を出ようとした。
「おい、俺はどうしていれば……」
いくら居候の身とはいえ、何もしないのは申し訳ない。
「私が返ってくるまでこの部屋を出るな?あと、昼食は冷蔵庫の中から適当に食べておいてくれ?」
それだけ言い残すと、彼女は出て行った……確かに俺が外へ出て、あの「姿」をさらけ出せば、彼女に多大な迷惑をかけてしまうだろう。ここは、大人しくこの部屋で引き籠っているよりないか?
俺は、畳へゴロンと横たわって、卓袱台に置いてある新聞を手にした。
外の世界には前々から興味があったため、施設を抜け出したからには、しばらく外の情勢に目を通さなくては。
「……?」
しかし、新聞の表記事にカラーで乗っていた一面を見て、俺は目を丸くして記事を見つめた。
「……女性連続殺人事件?」
それは、とある怪奇事件で、夜になると幾人もの女性が何者かに背後から襲われて殺害されると言う出来事だ。それが、ここ一カ月の間に11件も起こっている。
物騒な事件だと思うが、それ以前に俺はこの事件に深くかかわりがあるのに気づく。
数日前の事はあまりよく覚えていないのだが、昨夜の事は今でも頭に残っている。
俺は、異形の姿となり智代を襲おうとした。なら、もしや俺は智代へしたような事を以前にも犯していたのだろうか?
「……!」
俺は、自分の掌を見つめると恐怖感に包まれて、頭を抱えて苦しみだした。
「お、俺は……!」
俺は……俺は……殺人犯だというのか?女性を次々と殺して行った化け物なのか?
頭を抱え込んで苦しむ俺にさらなる追い打ちが来た。
それは、頭の中から映し出される幾つものフラッシュバックだ。見知らぬ女性の死に顔が俺の頭へ次々飛び込んできた。
「ッ……!?」
俺は勢いに身を任せ、ここから逃げ去るかのように玄関の扉へと手を伸ばし、部屋を飛び出してしまった。
感情の高まりを必死に抑えつつ、俺は我武者羅に走り出す。だが、目の前の角から横に出て来た相手とぶつかって、俺はともかく、相手は尻もちをついてこけてしまった。
「いてて……おいコラ!どこみて走ってんだオッサン!!」
相手は口調の悪い女子高生だった。ツインテールに生意気な顔をした。だが、彼女は暫く俺を睨むと、目を丸くして俺に近寄った。
「うそ……!?」
少女は俺の顔をじろじろと宥めると、こう呟く。
「…明也?」
「……!?」
またその名前か、俺はその名を聞いて感情的になると両手で少女の両肩を抑えて問い詰める。
「お前……俺の事を知っているのか!?」
「な、何だよ!離せ!この野郎!!」
「答えろ!」
「わ、わかったから離せよ!?」
「……!」
ジタバタ暴れるし、この状況を見られると、俺の方に非があるように思われるため、とりあえず彼女の肩を離した。
「……お前は、俺を知っているのか?」
「いてて~……まぁ、あたしの知っている人に似ているだけだっつうの」
「俺に似ている?」
もしや、その人物が俺だとしたら……その人物の事に付いて彼女に尋ねた。
「そいつは、今どこに……?」
「……死んじまったよ」
少女は、そう暗い表情で答えた。気の病む事を言ってしまったようで、俺は詫びる。
「す、すまない……」
「別に?で、オッサン誰だよ?」
「オッサンじゃない……シンだ」
「シン?変な名前だな」
「俺でもあまり気に入っていない……」
「じゃあ、河南子がシンオッサンの名前つけてやんよ?」
そうニヤけるなり、この河南子と言う少女は俺にへんちくりんな名前を口に出してくる。いうなれば、ふざけている。
「シンだから……新太郎なんてどう?」
「違和感がある……」
「じゃあ、新三郎でいいじゃん♪」
「それも違う……」
「うぅんと~……新五郎はどうっスか?」
「いい加減「シン」を頭に付けるのを止めろ……」
「じゃあ、シンオッサンはどういうのが良いんだコラ」
腕を組んでイラ付く河南子に俺も、腕を組んで考えた。どういう名か、それが暫く浮かんでこなかった。唯一、許せる名前はコレしかない……
「……朋也」
「はっ…?」
「……朋也、だ」
彼女が口にしたその「朋也」、それが俺にとって受け入れやすい名前だった。しかし、
「…ざけんな!」
「は……?」
それを、河南子は許さなかった。
「ふざけんなつってんだよ!お前が、アイツの名を語るなって言ってんだろうが!?」
「別に名乗るまでには至らないぞ?俺はただ……」
「とにかく!その名前はアイツ限定の名前なんだ!候補に挙げんな!!」
よくわからないが、俺は怒鳴られてしまった。とりあえず、その名前は場外となったわけだ。
「……くだらん。もう名前を考えるのは良い」
「つうかよ?シンオッサンはどうしてそんなに急いでたんだ?」
「あ……」
河南子と名前を考えている間に、俺はフラッシュバックを起こして逃げ出した事をすっかり忘れていた。
「……」
もうコイツと話をしていたら恐怖感はとっくになくなっていた。
「まぁ……いろいろとな?」
とりあえず適当にごまかす。すると、彼女は俺に歩み寄ると。
「じゃあさ?河南子とサボらねぇ?」
「はぁ?」
「なんか、こう……吹っ切れた時は何もかも忘れて気分展開すんのもいいとおもうッスよねぇ?」
「俺は別に吹っ切れては……」
「いいから、早く!早く!」
そういうなり、河南子は俺の手を引っ張って何処かへ連れ出して行った。俺も、それほど抵抗も無く、彼女の誘いに付き合ってやることにした。
しかし、これからどこへ連れて行かれるのかは不安ではあった……
「……で、何処へ行くんだ?」
「まぁ、まぁ!河南子に任せて♪」
「……」
最初に連れてこられたのは、ゲームセンターという何やら思い入れのありそうな場所だった。初めて出入りする場所だと言うのに、俺はよくここへ通った気がする……
「シンオッサンはゲームとか得意かよ?」
隣で河南子が尋ねる。
「初めてだが……」
俺は辺りを見回しながら、こう答えた。
「……自信は、ある」
何故か、それが俺の返答だった。本当に始めて来る場所だと言うのに、俺はやけに自信と、やる気が湧き出ていた。
「へぇ?そんじゃあ、此処一体を遊びつくした、超~プロゲーマー河南子様と一戦お手合わせねがいましょうか?」
ニヤニヤした顔で河南子は俺に挑戦してくる。俺も、遠慮なくその挑戦を受けて立った。
彼女の挑戦を受けてから数十分後、河南子の先ほどの自身は嘘のように落ち込み、俺に連敗だらけの結果を残して終わった。
「ば、ばかな……この河南子様が負けるとは……!」
シューティングゲームだけじゃない。そのほかの、彼女が得意とするゲームは全て俺に通用せず、俺が全勝という結果になった。
「その程度か……?」
俺はなぜか勝ち誇っていた。そんな俺の隣には、ひざを突いてオーバーに落ち込む河南子がおり、俺は謎の達成感を持った。
「チキショー!まだまだぁ!!」
しかし、河南子は諦めが悪く俺に挑戦を続けてくる。よほど、自分よりも上手いのが気に入らないのだろうか?が、そのとき。
「あ!いたいた……」
俺たちのもとへため息をつきながらこちらへ河南子と同い年の少年が歩み寄ってきた。
「やっぱり此処にいた……生徒指導の先生が顔を真っ赤にしてるぞ?
「鷹文、なにしてんの?」
首をかしげて河南子が、歩み寄ってきた鷹文という少年に尋ねる。
「それはこっちのセリフだよ!勝手にサボるんだから先生に言われて探しに来たんだぞ?」
「だってあのゴリラすんげぇ嫌なんだもん……先公なんかより、シンオッサンと遊んだほうがいくらか面白かったし?」
「シンオッサン……?」
そう鷹文は河南子の隣に立つ青年こと、俺に目を向ける。すると、鷹文も河南子と同じように俺を見て目を丸くする。
「……え!うそ……」
「……?」
俺は、そんな驚きを隠せない鷹文を見て、またかと思った。
「あの人に、似ている……」
呟く彼は、俺に尋ねた。
「あの、どちら様ですか?」
そう丁寧に尋ねる鷹文に、俺は河南子との経緯を話した。
「いや、偶然道端で出会って……この子に誘われてここまで連れてこられたんだ」
「ハァ……またかよ?」
再びため息をつく少年は、河南子へ振りかえって彼女に説教をした。
「河南子!お前いい加減、関係ない人を自分の遊びに巻き込むなよ!?」
「別にいいじゃん、シンオッサンだってノリノリだったんだし……」
「いい加減に、その「シンオッサン」って呼ぶの、やめてくれねぇか?」
俺は苛立つ。
「すみません、シンさん。あとでコイツにようく言っておきますから……その、河南子がご迷惑をおかけして。すみません……」
河南子に代わって謝罪する鷹文だが、俺は別に迷惑でもなかった。
「いや、俺は構わなかったぜ?それよりも、河南子……お前は早く学校へ戻れ」
そう、俺は河南子のことを案じ、鷹文に彼女を引き渡そうとするが、
「はぁ?ざけんなよ、今日の河南子さんは休暇中だっつうの!」
「遊びはこれで終わりだ。早く、ソイツと一緒に学校へ帰れ」
「真面目ぶってんじゃねぇよ!」
ゲスッ……
「痛……!」
そういう河南子は往生際が悪く、俺の膝を蹴ると一目散にゲーセンから出て行ってしまった。
「おい!河南子!!まったく……シンさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
「すみません、いろいろと……では!」
そういうと鷹文は、俺に背を向けるが、
「おい、待ってくれ……」
「え?」
俺は呼び止めた。
「一緒に探したほうが早い。俺も探そう」
「え、でも……」
しかし、鷹文には抵抗があった。確かに、見ず知らずの人間からの協力を受け入れるのは遠慮と俺に対する不信感があるに違いない。
「……わかりました。では河南子が行きそうな場所を言いますので、とりあえず二手に分かれましょう」
「ああ……」
この町の地理は知らないが、一様探してみよう。
「では、10時になったらこの公園の広場に戻ってきてください」
「わかった……」
道を忘れないよう俺は、鷹文が教えた河南子の行きそうな場所へ向かう。一つ目は駄菓子屋という小さな菓子屋だ。平日の日頃に出向く客となれば大抵は河南子しかいないらしい。
「ったく……世話の焼けるガキだ」
だが、駄菓子屋を除いてみても彼女の姿はなかった。俺は二つ目の場所「三丁目の公園」へ向かうことに。しか……
「くそ……ここもハズレかよ?」
こうしているあいだにも時間がけが過ぎていき、10時数分後に俺は広場へと戻っていた。ちょうど一足先に鷹文が俺の帰りを待っていた。
「どうでしたか?」
「どこもハズレだ……」
「あいつ……本当にどこへ行ったんだよ?」
「なぁ、交番にでも行けばどうだ?」
ふと、俺はそう尋ねた。鷹文だって学校があるんだしこのまま続けば、彼もサボり扱いを受けてしまう。
「……そうですね、じゃあ、僕が交番に行っておきます。わざわざ、ありがとうございました」
律儀にお辞儀をして鷹文は去って行った。しかし、俺は河南子の捜索を再開する。アイツは、俺のことを、明也という男に見間違えた。もしかすると、俺はその明也とかいう奴と深く関係しているんじゃないのか?そう、俺は河南子を探して彼女から明也に関する詳しい情報を聞き出したい。
「……」
俺は迷子にならない程度に街中をうろついて河南子らしき人影を探し始めた。しかし、何度探し回っても彼女らしき姿は見当たらない。
そうこうしている間にもあたりは次第に明るさを失い、夕暮れ時になった。俺は仕方なく河南子の捜索を断念して今日は智代のアパートへ帰ることにした。早く帰らないと言いつけを守れなかったことで怒られそうだ。
「シン!?」
「と、智代……」
そこには、俺の身を案じて探し回っていた智代がいた。
「どうしたんだ!心配したんだぞ?」
「あ……すまない。人を探していてな?」
「人を?もしかして記憶の一部が戻ったのか?」
「いや、そうではないが……記憶に関係あるかもしれない人物でな」
「そうか……で、どういう人物なんだ?私も協力しよう」
「名前は河南子という生意気な学生だ」
「か、河南子!?」
すると、智代は驚く。どうやらその顔だと知っているようだ。
「知っているのか?」
「……私の後輩だ。手が付けられなくてな?彼女が、何かお前に失礼な事でもしたか?」
俺は河南子と出会ってからの経緯を彼女に話した。
「そうか……膝は大丈夫なのか?」
「いや、特に気にはしない。だが、彼女がどこへ行ったのかが……」
「……」
智代は、少し困った顔をして、俺に話した。
「……シン、河南子は今私の部屋に来ているんだ」
「本当か?」
「私から彼女に注意しておく。それと、謝罪させよう」
「謝罪なら鷹文という子にさせておくよう言っといてくれ?」
「鷹文を知っているのか?」
「知り合いか?」
「私の弟だ」
「そうか……なんとなくだが、似ているな」
「さ、とりあえず部屋に入ってくれ?ここだと体が冷えるだろ?」
「すまん……」
その後、俺が部屋に入ると、本当に河南子がアイスキャンディーを加えて居間に寛いでいた。
「あぁ!シンオッサンじゃないっすか?」
「なるほど、逃げ込むところというのなら、智代の部屋というのもあり得なくはないな」
「なんでシンオッサンが先輩の部屋にいんだよ!?」
「いろいろあって、世話になっている」
「せ、先輩!どういうことっすか!?」
河南子が台所で夕食の支度をしている智代に振り向く。
「ただ助けただけだ。お前には関係ないだろ?」
「うぅ……だけど……」
「後で鷹文に謝っておいたらどうだ?あの後、結構街中を探し回ったんだぞ?」
「別にいいじゃん……ガッコなんて行く気しなかったんだし」
そういって彼女は俺から目をそらした。
「河南子、そんなことだと留年するかもしれないぞ?」
呆れた智代はお盆にできたばかりの夕食を載せて居間に入ってきた。
「先輩には関係ないじゃん……」
「とにかく、明日からはちゃんと学校へ行くんだぞ?」
智代に言われて、河南子は少ししょぼくれる。
「ま、今日は夕飯を食べていけ?家に電話はしてある」
「あざーす……」
「やれやれ……」
俺はそんな河南子にため息をついた。しかし、本当にため息をつくのは食事である。こいつはこともあろうに俺のおかずを横取りしたり、代わりに自分が嫌いなものを入れたりと、ゲーセンでの仕返しをしてきた。
「河南子!それは俺のだろ?」
「まぁまぁ?そんなことよりも、シンオッサンにはこれあげる♪」
「嫌いなもんを押し付けてるだけじゃねぇか!?」
そんな俺たちをみて、久しぶりに騒がしい食事ができて何よりと智代は静かにほほ笑んだ。
「……おい、そろそろ帰れよ?」
テレビを見ている河南子に俺が言う。
テレビでは、ニュースがやっており最近多発している女性連続殺人事件についての話が放送されていた。
「河南子、近頃は物騒だ。私も帰宅に付き添おう」
「智代、俺も一緒に行こう……」
俺も心配になり、智代についていこうとするが、
「いや、私一人でも大丈夫だ。お前は先に寝ていてくれ?」
「ああ……」
やはり、俺が犯人だと思っているのだろう?昨夜は、あのような登場で出てきてしまったのだから無理もない。しかし、どうしてあんな俺を彼女は助けたのだろうか?
「……」
智代らが部屋を出て数分後、俺はやけに胸騒ぎを感じた。そもそも、新聞を読み返してみたが、事件の現場はこの町の他にも遠方の隣町からもう一人の被害者が発見された。それも同じ時間帯でターゲットが殺されているのだ。一人を殺してから隣町まで行くのにはさすがに一時間以上はかかる。それを殺してすぐ隣町まで行ってもう一人殺害するのはさすがに不可能だ。これは、犯人が複数存在するということになる。
もちろん、俺もそのうちの一人かもしれない。だが、もう一人の犯人がいるとしたら、そいつの行動が気にかかる。
「智代……!」
俺は、部屋を飛び出し、急いで智代を探した。あの姿になって以来、なぜか自分と同じ気配が近くに感じる。それが、本当だとするなら急がないと!
*
一方、智代は河南子を自宅へ送り届けた後、一人暗い夜道を歩いていた。シンに襲われそうになったのも、確かこんな不気味な夜道だった。
「寒いな……早く帰らないと、シンが心配しているかもしれない」
今度はおとなしく留守番してくれるよう思いながら彼女は歩き続ける。
だが、そんな彼女の耳元にある不気味なうめき声が聞こえてきた。
「……!?」
立ち止まり、辺りを見渡す。しかし、人影は見当たらず声だけが聞こえてくる。
「……!」
恐怖に見舞われ、智代は小走りから駆け足に代わってうめき声から逃げるようになった。
だが、その彼女の目の前にある人影が現れた。
「し、シン……いや、違う!」
シンのようなバッタを象った姿ではない。髑髏のような白いロボットの頭部に不気味な金属製の体を持つ人の姿をした化け物であった。化け物は、右腕を刃物へと変形させ、それを智代へ向けて襲い掛かる。
「……!」
振り下ろされる三比腕の刃を彼女はかわしながら、背を向けて逃げ出す。そんな彼女を化け物もつかさず追いかける。
智代は、シンの時のように反撃をすることはしなかった。見た目からしてあのような漫画やアニメに出てくるような異形の存在を相手にするにはディスクが高すぎる。
しかし、一瞬の出来事だった。
「なに!?」
逃げる智代を、化け物があっけなく追い越し、彼女の前で立ち止まった。どれほど逃げたとしても見つかった以上助かる見込みはないのだ。
「どうすれば……」
徐々に近づく化け物に対し、智代は必至で考える。しかし、そんな有余もなく化け物の刃物が彼女に振り下ろされようとしていた。
「……!」
智代は目をつむった。だが、彼女に振り下ろされるはずの刃物は、ある別の叫び声によってフッと止まった。
「ガアァ!」
バッタの姿を象ったもう一人の化け物が横から飛び出し、もう一人の化け物へ殴りかかった。その姿は紛れもなく、異形の姿へ変わったシンであった。
「し、シン……!?」
「……!」
シンは、まるで智代を守るかのように背を向けて、目の前の化け物と対峙している。
「……」
化け物は、白い金属の顔から赤い眼光を光らせ、刃の先をシンへ向ける。
そして、両者の戦いが始まった。化け物の振り下ろす刃をシンがかわし、防ぎ、反撃を与えていく。
だが、シンの拳や蹴は金属に覆われた化け物の体に傷をつけることは難しく、さらに相手は刃物を使うことからシンからして苦戦であった。
そして、隙をつかれたことでシンの胸板を化け物の刃が切りつけた。胸板からは紫色の血が流れ出る。
「シン!?」
傷を負わされたシンに智代が叫ぶが、下手に叫んで戦いに集中しずらくしてはいけないと、彼女は黙ってシンの戦いを見守った。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
しかし、出血が激しくシンは息をあらくしだした。化け物はゆっくりと近づきシンの頭上へ刃物を振り下ろした……が、
「……!?」
一瞬の合間、シンは刃物を片手で受け止めて握りしめた、刃物を握りしめる片手からは紫の血が刃を伝って爛れ落ちる。
「……!」
化けののは力任せに刃で押し切ろうとするが、シンの握る手はびくとも動かない。そして、その腕が左右へと力を入れて、火花とともに刃上の腕をへし折ったのだ。
「グゥ……!?」
化け物は後ずさりし、その隙にシンの渾身の一撃が腹部へと決まった。金属のボディーには深い凹みができ。化け物の体中からは火花が生じ始め、敗北を予測した化け物は颯爽とシンのもとから姿をけして走り去った。
「……」
そして、シンは戦いが終わったことを知り、変身を解き、バッタの触覚が額から引っ込み緑色の不気味なごつごつとした肌は次第に人間の柔らか味とぬくもりのある肉体へと変わっていった。
「智代……」
シンは、智代へ歩み寄ると、腰を抜かした彼女へ手を差し伸べる。
「立てるか?」
「……あ、ああ」
我に返った智代はシンの手を借りて起き上がり、彼におぶさって自宅へと帰った。
「シン……?」
「ん?」
帰りの道中、智代は彼に問う。
「お前は……私を、助けたのだな?」
「ああ……」
「その……先ほどはすまなかった。私が河南子を送っていく際、お前の同行を断ったりして……お前が、あの事件にかかわっていたらと思うと、怖くなって……」
「もういいさ……でも、否定はできない。現に俺は、お前を襲おうとしたんだ」
「それは、もう済んだことだ。現にお前は私をこうして助けてくれたじゃないか?」
「……化け物染みた俺を、見ず知らずのお前が助けてくれたことには感謝している。だから、そんなアンタのために尽くしたいと思ったから」
「シン……」
月の光は、二人の影をやさしく照らしていた。
後書き
次回
「朋也」
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