【IS】例えばこんな生活は。
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例えばこんなのは殲滅戦と呼ぶと思うな
10月10日
「黒兎隊全員、レールカノン!構ー!」
ラウラの一声と共に、休暇がてら日本に来ていたハーゼの面々が装備品のレールカノンを一斉に敵集団に向ける。がこん、がこん、がこん、と次々に抱えられた銃口。しかも今回は大盤振る舞いで砲撃戦パッケージ「パンツァー・カノニーア」+携行のレールカノンで一機に付き計三門の大砲を抱えている。
弾丸は貫通力重視の徹甲弾ではなく発射後一定距離で自動爆発する新型炸裂弾。敵の総数は60機近くに上るが、この大火力の一斉射撃を受けて平気ではいられまい。
発射準備完了をクラリッサが告げる。
「隊長!各員発射準備完了しました!」
「うむ・・・一斉射撃だ!てぇーー!!」
号令と共に振り下ろされたラウラの右手に合わせ、レールカノンが一斉に空へプラズマ光を輝かせる――一瞬遅れて、空を無数の爆炎が包んだ。敵の主戦力であるゴーレムⅢは確かに高性能だが、レールガンはそもそも射程距離の長さと弾速の速さから回避が難しい武器だ。
加えてこの広範囲爆発。避けきれなかったISはそのシールドエネルギーを多く削られることになった。
「呆れるほど有効な戦術ですね、隊長!」
「流石隊長!我々には思いつかないことをやってのけます!」
「というか我々、IS史上初めて集団IS戦闘で先陣を切ったんじゃないですか?」
「ドイツ軍の誉ですね!鉄十字勲章貰いたいであります!」
「ならもっと働かんとな・・・次弾装填急げー!」
正面に陣取って次々に広域攻撃を叩きこむことによって相手側の一斉射撃を防ぐこの攻撃は一先ず成功した。と同時に、それを潜り抜けた敵への迎撃準備も完了していた。
『あの子たち、近寄ってこないと良いけど・・・接近戦はヤだなぁ』
「心配無用だ、レン。頼もしい味方がいるからな・・・・・・鈴音!3時の方角は任せた!」
「あいよ了解!!行くわよシャロン!!」
『最大出力超火力!熱血正義一直線!!』
学園襲撃という不届きな悪漢にかける情けは無用と言わんばかりに本陣から飛び出した鈴とシャロン。その姿は攻撃特化パッケージ「崩山・改」によって更に攻撃的になっている。既にリューガの改造で四肢に電撃発生装置『雷晃』を内蔵し、4門の『龍咆』にも手が加えられた。
雷晃は既にエネルギーチャージを終えて激しく帯電し、龍咆からはからは溢れ出んばかりの超高熱が漏れ出す。そのISとは思えない強烈な威圧感は、もはや中国神話に記されなかった魔神が現代に顕現したかのようだ。
「『燃え上がれ、アタシ達の・・・ 魂 ィ ィ ィ ッ!!』」
瞬間、熱殻拡散衝撃砲が4つの巨大な火柱を上げて接近しつつあったゴーレムⅢを呑み込んだ。周囲の酸素を瞬時に焼き尽くし、骨の髄まで焼き尽くす神龍の炎。その火力は既に昔学園に乱入してきたゴーレムすら一撃で葬れるほどの熱量で敵を薙ぎ払う。
そして――それに雷晃が止めを刺す。
『唸れ轟け霹靂よ!!』
「来たりて我等の敵を討てぇぇぇぇッ!!!」
それは、横に飛ぶ雷としか言いようのない極光。両手両足、更には衝撃砲のスパイクさえも発射口に変えた雷撃が雨霰と敵に降り注ぎ、激しいスパークと共に敵を完全に叩き落とした。遠くにいれば炎の柱に呑み込まれ、近づけば神罰の如き雷鳴が轟く。
触れればその身を焼き尽くす彼女たちは、もはや生きた災害発生装置。勝つとか負けるとかではなく――手を出したこと自体が、答えになる。
「次は誰よ、後がつっかえてるんだからどんどん来なさい!!」
『墜ちろ墜ちろ!バンバン墜ちろ!!怯えた眼に焼き付けろ!!』
「『これがあんた達が喧嘩を売った相手の姿よッ!!』」
さて、鈴の射線上がどんどん地獄みたいな焼野原と化していくのに対し、別の場所でも当然戦闘が勃発している訳だが――流石生徒会長は格が違ったというか。楯無とミリアは敵を目の前に呑気にお喋りしている。余裕ぶっこき過ぎだが、これも強者の余裕なのかもしれない。
「清き熱情ってあるじゃない、私たちの技」
『あるわね。でもあれナノマシンを充満させるのが面倒くさいのよね』
「それで私思いついたんだけどさ、ミリア」
『何を思いついたのかしら、楯無?』
「――アクア・クリスタルでまどろっこしく充満させるより、ナノマシンを爆発的に散布させるパーツを別に使えば速かったんじゃない?」
ぽーん、と複数投げ出されたナノマシン製造プラント「アクア・クリスタル」を大型化させたような装置は、1秒と立たないうちに周囲をナノマシンの霧で包み込んだ。その名も「オヴォノ・クリスタル」。攻撃範囲はあれよあれよという間に霧に包まれ、数十機の敵が霧に囚われる。
無人機達は戸惑った。ナノマシンで構成されたその霧は自然発生する霧とは訳が違う。ハイパーセンサーでも見通せないその真っ白な空間はISの方向感覚すら狂わせた。ふと影が見えたと思い銃口を向ければ何もいない。大きな影が出現して発砲すると、それは味方。混乱はさらなる混乱を呼び、その霧の先に何がいるのかが確認できない恐怖が動きを鈍らせてゆく。
「霧の先に何があるか・・・知りたいなら、教えてア・ゲ・ル♪」
次の瞬間に、無人機は全て爆炎と轟音の中に放り出された。霧の空間が突如として目も眩む大爆発を起こし、範囲内にいたIS達は虫けらが殺虫剤を喰らったように次々落下していった。余りにも一瞬で、霧の妖精にでも騙されたような気分にさせられる。
「屋外じゃ破壊力ありすぎて使えないから封印してたんだけど、こういう時は便利よね」
『ところで楯無。オヴォノ・クリスタルのオヴォノって何?』
「ああ、それは・・・・・・日本の霧吹き妖怪『オボノヤス』から」
『ダッサ。名前変えなさい今すぐに。そんなダッサイ名前の装備なんて身に着けたくないわ』
「酷い!?しょうがないじゃない、昨日存在を思い出して名前決めたんだから!!」
『せめて霧の中の針鼠とかにしなさいよ。一応ロシア代表でしょ?』
知識量的にロシア語は無理である。誰がとは敢えて言わないが。ミステリアス・レイディって名前も装備もロシア彷彿とさせる要素あんまりないよね、と同級生に言われたことを思い出して悲しみを背負う楯無であった。
さて、そんな大爆発や轟音で大地を揺らす大量破壊兵器共とは別の場所で全然方向性の違うしてる人が3人。
「一夏、篠ノ之!お前たちは右をやれ!私は左をやる」
「了解だ千冬姉!何気にパワーアップした白式の初陣だ!派手にやるぜぇぇぇ!」
『調子に乗りすぎてエネルギー管理を怠らないでよ?』
『心配あるまいヴァイスよ!何故なら減った分のエネルギーは我と主さまが回復させるからな!!』
「おいおい、私も前へ出るのだぞ?自分の戦闘エネルギーも勘定に入れておけよ、ツバキ!!」
2振りの雪片。
2つの零落白夜。
つまり、2人の一撃必殺持ち。
そしてその後ろに控えるは、唯一使用能力「絢爛舞踏」によるエネルギー回復が可能な最新型IS。
これが意味する事柄はたった一つ。
I S 無 双 開 幕 で あ る 。
「せい!はっ!とう!でりゃぁぁぁッ!!」
輝く刃が振るわれるたび、無人機のゴーレム達が無残に叩き斬られていく。一発一発が一撃必殺なため当てれば当てるほどバタバタと敵が落ちていく。その上消費した端からエネルギーが回復していくのだから敵にとっては悪夢以外の何物でもない。その様は現代兵器の戦闘というより時代劇の乱闘シーンのようだ。
飛んで回って切り結ぶ。その一連の動作はまるで舞を披露するようでもあり、一種の美しさを纏っている。
『次!12時方向、距離20!』
「喰らえ無双剣、唐竹割りッ!!」
『次!2時と3時の方角、距離15!!』
「天空剣Vの字斬りぃぃぃッ!!」
『正面!』
「火炎剣十文字斬りーッ!!」
『上方に3機!!』
「ファイナルゴッドマーズ!超・重・剣!ゴッドライジンソードッ!!」
『あの・・・・・・もうちょっと普通に斬ってくれない?』
「何言ってるんだ!まだまだ叫び足りないぞ!?断空剣もハイパーオーラ斬りもニューバクソードも草薙の剣もザウラーマグマフィニッシュも電光雷鳴崩しもシャイニングフィンガーソードも・・・叫びたい技沢山あるのに!!」
『叫ぶだけなら後でも出来るじゃない!!10時の方角!』
「今叫ばないと燃えないじゃないかぁぁーーーッ!ハイパービームサーベルッ!!」
『よくあれで戦えるものだ・・・』
「ああ、あいつは馬鹿だからな」
遠目で見ながら無人機を斬り倒していく箒とツバキだった。性能が高いのはいいがあまりエネルギーを消費しすぎると白式の回復が間に合わないので消極的な攻めだ。あまりすごくない。
(早くゴエモンが帰ってこないだろうか・・・・・・最近ときたまボーっとしていて元気がないし。食事の誘いを機に聞いてみようか。えっと、次の休日はいつだったか・・・ああもう、この無人機鬱陶しいな)
訂正、余計な事を考えてよそ見しながら一夏を回復させて敵を斬る事を同時に行なっているらしい。やっぱりすごい。
なお、その奥では千冬と暮桜ことクレアが目にも止まらぬ速度で殺陣をしていた。刃が一度光った時には4,5機のISがバラバラに引き裂かれ、既に彼女の足元には死屍累々ならぬ残骸累々である。その作業効率、一夏とその援護をする箒の5倍以上。こんなもん作業っすよと言わんばかりの手際の良さだ。
「変わって無いな、この感覚・・・やはり私の居場所はお前の中らしい、暮桜」
『・・・・・・(怒)』
「あ、いや・・・クレア。こ、これでいいか?」
『・・・・・・(満足)』
「ほっ・・・」
ゴエモンですら彼女の声を聞いたことが無い驚異の無口、クレアであった。
華々しく戦っている人もいれば、堅実に戦っている人もいる。真耶とマリアがいい例だ。
「アルパ隊、左方を食い止めてください!2年生は正面を!私がバックを固めます!!」
幾ら専用機連中が獅子奮迅の大暴れをしているからと言って、相手はIS。バリアエネルギーを一発で削りきるのは難しいものだ。まして数が60機近くで、火力も機動力も高い。波状攻撃や大爆発を潜り抜けたり辛うじて直撃を免れたISは優先順位を変えて、真耶たちに襲いかかっていた。
だがしかしそんな彼女をおちゃらかす人もいたりする。
「ならばまやちーのバックはこのウェージが固めさせてもらう!さあその安産型のヒップをレッツスパンキング!!」
「何でお尻叩かれなきゃならないんですかッ!?というかなんで小村センパイがここにいるんですかッ!!」
この忙しいときに何故か見たこともないISを装着した小村順子ことウェージが背後に立っていた。自由人すぎる。
「フッ・・・可愛い後輩に助けを求められたなら、たとえそれが地の果てだろうと!」
「求めてません。指揮系統が混乱するから帰ってください」
「ああっウソウソ!IS委員会の依頼で共同戦線張りに来ただけだから!!」
「・・・・・・そういうことにしておきます」
胡散臭いが敵ではないと思いたい。随分ごつい見た目のISだが、一体どこでくすねてきたのやら。
「まぁいいです。火力支援お願いします」
「りょかーい!我が愛機マルムークことムーちゃんの雄姿をその目に焼き付けるのだぁー!」
役割を与えられたウェージ小村(芸名?)は早速武器を展開する。
右手に2連装40mmバルカン砲。
左手に大型アサルトライフル。
右肩に12連装ミサイルランチャー。
左肩にレールカノン。
腰から2門のロケット砲。
足からショートレンジミサイル計20発。
「――は?」
ちょっと待って、何その鬼のような火器。真耶が突っ込む間もなく一斉に火を噴いた。
「火力支援とは・・・こういうものだぁぁぁーーーッ!!!」
唸るバルカン、吠えるレールカノン。次々と煙を吐き出しながら加速するミサイルの群れ。突如出現した物理的破壊力の壁に対応できている無人機はほぼおらず、必死で逃げようとする者も最早遅い。
雨霰と発射された砲弾たちは鉄のシャワーとなって戦場に降り注ぎ、正面の敵無人機が全て一機のISによって爆炎に飲まれてしまった。
呆然とする周囲。唖然とする真耶。毅然とするウェージ小村。
「支援してもいいが、別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「あ・・・んなものぶっ放して味方に誤爆したらどうする気ですかお馬鹿先輩ぃぃぃーーー!!!」
「いやーははっ。メンゴメンゴ」
「軽い!軽いです!!真剣さが感じられません!!」
S.A.本格参戦の巻であった。なお、その他のメンバーは真面目に戦っている。
次回に続く。
後書き
※この戦闘で破壊されたISコアや人的損害はありません。
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