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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第二話 ソロからパーティーへ

≪セルムブルグ≫は六十一層にある美しい城塞都市である。

華奢な尖塔を備える古城を中心とした市街はすべて白亜の花崗岩で精緻に造りこまれ、ふんだんに配られた緑と見事なコントラストを醸し出している。市場には店もそれなりに豊富でここをホームタウンにするプレイヤーも多いが、部屋がとんでもなく高価ため、よほどハイレベルのプレイヤーでなければ入手するのは不可能に近い。

四人が転移門で到着した時には、すっかりと日も暮れかかっており、最後の残照が街並みを深い紫色に染め上げていた。

アルゲートとは違う空気のためか、キリトが大きく深呼吸をした。

「うーん、広いし人少はないし、開放感があるなぁ」

「確かにな。空気が澄んでていいところだ」

「なら君たちも引越せば?」

「そうそう、結構癒されるよ、ここ」

「金が圧倒的に足りません」

「ソレイユ君は?」

「今の場所が気に入ってるからな」

肩をすくめながら答えてから、キリトは表情をあらため、遠慮気味にアスナに尋ねた。

「・・・そりゃそうと、本当に大丈夫なのか?さっきの・・・」

「・・・・・・」

「「・・・・・・」」

その言葉だけで察したのか、アスナは後ろをふりむくと、俯いてブーツのかかとで地面をトントンと鳴らした。

「・・・私一人の時に何度かいやな出来事があったのは確かだけど、護衛なんていきすぎだわ。要らないって言ったんだけど・・・。ギルドの方針だから、って参謀職たちに押し切られちゃって・・・」

「私は反対したよ。たった一人のためにいきすぎだ。副団長なんだから自分の身くらい自分で守れるだろう、ってね。そしたら、何かあってからでは遅い、なんて言って数の暴力で無理やりね。参謀長なんて役についてるけど数の暴力にはかなわないよ」

「昔は、団長が一人ずつ声をかけて作った小規模ギルドだったのよ。でも人数がどんどん増えて、メンバーが入れ替わったりして・・・最強ギルドなんて言われ始めたころから、おかしくなっちゃった」

後半は沈んだ声で話すKoBのなかでトップクラスのプレイヤーである二人。ソロプレイヤーとして生きてきたキリトには何を言えばいいのかわからなかった。しかし、考えあぐねているキリトをよそソレイユは目をつむり黙ったままである。その表情から読み取れるものは何にもなかった。

沈黙が続いたが、場の雰囲気を変えるようにアスナとルナが歯切れのいい声を出す。

「まあ、たいしたことじゃないから気にしないで」

「そうだね、早くいかないと日が暮れちゃうよ」

そういって、先に立つアスナとルナに続いて、キリトとソレイユも街路を歩きだした。


アスナの住む家は目抜き通りから東に折れてすぐのところにある小型の、しかし美しい造りのリゾネットの三階だった。しかし、何を考えているのか、キリトは建物の入り口で躊躇している。

「しかし・・・いいのか?その・・・」

「ここまで来て何言ってんだよ、お前は・・・・」

「い、いや、だって」

溜息をつきながらあきれ果てるソレイユ。しかし、キリトはいまだ覚悟が決まらず躊躇している。

「なによ、君から持ちかけてきた話じゃない」

「私とソレイユは便乗だけどね。でも他に料理のできる場所なんて私の家くらいよ?」

「ソ、ソレイユの部屋とかは?」

「道具がない(嘘)」

ソレイユが簡潔に答えると選択肢がなくなったので覚悟を決めて階段を登っていく。それに続くようにソレイユとルナも続く。ドアをくぐった先には、広いリビング兼ダイニングと隣接したキッチンには明るい色の木製家具がしつらえられ、統一感のあるモスグリーンのクロス類などで飾られている。

「なぁ・・・これ、いくらかかってるの・・・?」

即物的な質問をキリトがする。後ろでソレイユが呆れ、ルナが苦笑している。

「んー?部屋と内装合わせると四千Kくらい。着替えてくるからキリト君とソレイユ君はそのへん適当に座ってて。行こう、ルナ」

「は~い」

サラリと答えるとアスナとルナはリビングの奥にあるドアに消えていった。ちなみに、先ほどアスナが言った四千KとはKが千の単位を表すので四百万を意味する。

「そんなもんか、意外と安いな」

「え゛っ。お、お前、この部屋と内装、全部買えるのか?」

「いや、最前線にいるんだからそれくらい貯まるだろ?・・・ああ、そうか」

「な、なんだよ」

何やら納得がいったという表情でソレイユは頷く。それを見たキリトはいやな予感を感じずにはられなかった。そんなキリトをよそにいい笑顔でソレイユはサラリと言った。

「無駄遣いは程々にな、少年」

その言葉を聞きガクリと肩を落とすキリト。そのようなやり取りをしていると着替えに行ったアスナとルナが戻ってきた。アスナは簡素な白いチュニックと膝上丈のスカートに着替え、ルナは水色のチュニックとジーンズに着替えていた。

「それで、キリト君はいつまでそんな格好してるの?」

ルナ指摘にキリトはあわてて戦闘用コートと剣帯などの武装を解除した。ソレイユのほうを見るといつの間にか着替えていたらしく、その姿は長袖の黒色のパーカーにカーゴパンツといったものだった。

ラフな格好になったところでアイテムウインドウを開き≪ラグー・ラビットの肉≫やほかのS級食材をオブジェクトとして実体化させ、テーブルに置く。

「これが伝説のS級食材かー。で、どんな料理にする?」

「オレはシェフの二人に任せるよ」

「オレもシェ、シェフにお任せコースで・・・二人?」

ソレイユが言ったことに疑問を持つキリト。その疑問にルナが答えた。

「私も料理スキルはマスターしてるよ。この量をアスナ一人で調理するのは時間がかかるから私もすることにしたの」

「そ、そうか、じゃあ、たのんだ」

「りょうか~い。じゃ、アスナとっととはじめちゃお」

「そうね。ちょっと待っててね、二人とも」

それだけを言い残しルナとアスナはキッチンへと消えていく。その二人を見送ったソレイユは今までの疑問をキリトに聞いた。

「そういえばキリト君」

「な、なんだよ、ソレイユ?」

笑顔で話しかけてくるソレイユに再び嫌な予感を覚えた。

「アスナとは家に呼び合うまでの仲になったのか。前に聞いたときはそんな感じじゃなかったのに」

「い、いや、その、向こうから言い出したことなんだけど」

その言葉を聞きソレイユは溜息を吐きあきれ果てる。訝しげな表情のキリトだがソレイユは構わずつぶやいた。

「なんもわかってねぇのな、お前」

「?」

それでも首を傾げ続けるキリトを無視し、キッチンで料理をしているであろうアスナに憐みの念を送る。それから十分近く最近のことで雑談しているとキッチンからアスナとルナが戻って食卓が整えられた。キリトとアスナ、ソレイユとルナが向かい合わせで席に着いた。
それから、料理のうまさと豪華さが伴ったのか、四人は一言も発することなく食べることに集中して黙々と美味を味わった。



「ああ・・・いままでがんばって生きててよかった・・・」

「そうだね、久しぶりにこんなおいしいものを食べたよ」

アスナとルナのその言葉に同感といったようにうなずくキリト。ソレイユもリアクションを起こさないだけでそう思っている。しかし、その饗宴の余韻をアスナが破った。

「不思議ね・・・。なんだかこの世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」

「・・・俺も最近、あっちの世界のことまるで思い出せない日がたまにある。俺だけじゃないな・・・この頃は、クリアだ脱出だって血眼になる人が少なくなった」

「攻略のペース自体落ちてるよ。いま最前線で戦ってるプレイヤーは、五百人もいないよ。危険度のせいだけじゃない・・・みんな、この世界に馴染んできてる。この世界に・・・」

「それはそうだろう。だってこっちのほうが生きてるという実感がある。毎日惰性的に生きていた現実より生きる、ということを深く実感できるからな」

ソレイユの言葉にキリトが頷く。

「でも、わたしは帰りたい」

「そうだね。向こうでやり残したこともたくさんあるし」

「・・・そうだな」

アスナとルナの言葉になずくソレイユそれにキリトが付け加えて言った

「それに、俺たちががんばらなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな・・・」

そして、キリトが真面目な顔になり何かを言いかけるより早く、ルナが微笑みながら言った。

「キリト君って結構女たらし?」

「・・・・・はぁっ!!」

いきなりの爆弾発言にキリトが驚いて声を荒げた。そして、いち早くキリトがその言葉に反論した。

「ち、ちょっと待て。なんでいきなりそんな結論になったんだ!」

「ん~、なんとなく、かな?」

首をかしげながら疑問形で返すルナ。それを見てキリトは焦りだす。そして、なおもその意見を覆すため、隣に座っていたソレイユに弁護を頼みこんだ。

「そ、そうだ。ソレイユからも何か言ってくれよ」

「いきなりこっちにふってきたな、おい。・・・あながち間違ってねぇんじゃねぇの?」

見方だと思っていたソレイユの言葉を聞きさらに焦るキリト。目の前にいるアスナのほうに視線を向けると訝しげな表情でキリトをにらんでいた。

「キリト君・・・」

「いや、待て、誤解だ。誤解なんだって」

その様子をよそに、ソレイユとルナは小声で話していた。

「女たらしの前に天然って言葉が入るな」

「そうだね。それにしても・・・」

「ああ・・・」

「「なんか恋人同士だな、あの二人」」

ソレイユとルナが同じ方向に視線を向けるとキリトがアスナに必死に弁解しているが、アスナはそれを全く聞き入れていない。そのやり取りは恋人そのものだといっていいだろう。

「まあ、本人たちはまだのようだし、静かに見守ろう?」

「そうだな。・・・くっついた時には盛大にからかってやるか」

「程々にしないとだめだよ?」

「大丈夫だ、問題ない」

そう言って、キリトとアスナの様子を静観する二人。その後二人が落ち着いたのは数分後だった。



「「「「・・・・・・」」」」

誰もしゃべろうとせず、気まずい沈黙が支配している。そして、その沈黙に耐えられなくなったのか、もしくは雰囲気を変えるためかアスナがソレイユとキリトに聞いた。

「そ、そういえば君たちはギルドに入る気はないの?」

「え・・・」

「・・・・」

「ベータ出身者が集団に馴染まないのはわかってる。でもね、七十層を超えたあたりから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきてるような気がするんだ」

「そうだね、パーティーを組んでいてもあぶない時が何度かあったもんね」

真剣に話すアスナとルナ。キリトとソレイユも思い当たる節があるのか黙ったままである。

「ソロだと、想定外の事態に対処できないことがあるわ。いつでも緊急脱出できるわけじゃないのよ。パーティーを組んでいれば安全性がずいぶん違う」

「安全マージンは十分とってるよ。忠告はありがたく頂戴しておくけど・・・ギルドはちょっとな。それに・・・」

「「それに?」」

「パーティーメンバーってのは、助けよりも邪魔になるほうが多いし、俺の場合」

キリトがそういった瞬間、三方向から閃光が走った、と思った時には、鼻先に二本、首筋に一本のナイフが突きつかれていた。それを見たキリトはひきつった笑いとともに、降参のポーズをとった。

「・・・悪かったよ、あんたたちは例外だ」

「「「そ」」」

面白くなさそうに三人は答えナイフを戻し、指で遊ぶ。それをしながらアスナはとんでもない事を口にした。

「なら、しばらくわたしたちとコンビ組なさい。ボス攻略のパーティーの責任者として、君たちがウワサほど強い人なのか確かめてみたいし。約一名にはわたしの実力も教えて差し上げたいし。あと今週のラッキーカラー黒だし」

「な、なんだそりゃ!」

「それって俺も?」

「もちろん、そうよ」

「あきらめよう、ソレイユ。アスナはこうなったらテコでも動かないよ」

「・・・わかった」

キリトの驚いた声とソレイユの疑問とルナのあきらめのつぶやきが響いた。ソレイユはルナのつぶやきを聞いてしぶしぶ納得したようだがキリトはまだ納得していないのかがんばって反対材料を探している。

「お、お前、ギルドはどうするんだよ」

「うちは別にレベル上げのノルマとかないし」

「じ、じゃああの護衛の二人は」

「置いてくるし」

そんな魅力的なお誘いにも頑なに拒み続けるキリト。時間稼ぎのつもりなのかカップを口に持っていくが中身は空である。それをアスナがすまし顔で奪い取り、ポットから熱い液体をおそそぐ。それを受け取り、再び口をつけるがその表情はすぐれない。そして、

「・・・・・・最前線は危ないぞ」

という言葉が響いた瞬間、アスナの右手のナイフが持ち上がり、今度はライトエフェクトを帯び始めた。それを見たキリトはあわてて頷いて事なきことを得た。そのやり取りが終わったのを確認したルナは全員に言った。

「じゃあ、明日朝九時、七十四層のゲート前に集合ってことで」

その言葉を聞いて反論する者はいなかった。



いつまでも女性の部屋に世話になるわけにもいかないのか、キリトは暇を告げ、そそくさと帰ろうとする。それに便乗する形でソレイユとルナ帰る様子である。建物の階段を降りたところまで見送ってくれたアスナとルナが、ほんの少し頭を動かして言った。

「今日はご馳走様。キリト君、ソレイユ君」

「ほんとにありがとう」

「まぁ、こっちも料理する手段がなかったからな。助かったよ」

「そうだな、また頼む・・・と言いたいけど、あんな食材二度と手に入らないだろうな」

「あら、普通の食材だって腕次第だわ」

「そうそう」

そういって切り返したアスナとルナは上を振り仰いだ。すっかり夜の闇に包まれた空には、星の輝きは存在しない。鉄の蓋が陰鬱に覆いかぶさっているだけだ。それをつられてみていたキリトがつぶやいた。

「・・・今のこの状態、この世界が、本当に茅場晶彦の作りたかったものなのかな・・・」

しかし、その問いに答えられるものはこの場にはいなかった。
 
 

 
後書き
更新が遅れて申し訳ありません。

更新がなかなか思うようにいかないorz

今から次話の作成に取り掛からなければ・・・

 
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