閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第6話~交易町ケルディック~
前書き
約一週間ぶりの投稿です。大学と閃Ⅱのダブルパンチで思うように進んでいません。申し訳ない。まぁ、後者がクリアできれば少々早くはなるかな、と考えています。今回から数回はケルディックのお話です・・・たぶん。
「へえぇ・・・ここがケルディックかぁ」
「のんびりした雰囲気だけど結構人通りが多いんだな」
「あちらの方にある大市目当ての客だろう。外国からの商人も多いと聞く」
「なるほど、帝都とは違った客層が訪れているのね」
「まぁ、帝都は専ら貴族中心、って感じだからな」
一時間ほど列車に揺られ、ケルディックにケイン達A班は到着した。
木造建築の家が林立し、所々に木々が生い茂っている。駅から出た方向の奥には、大市のの屋台らしきものが立ち並んでいて、それ目当ての客が行き交っているようだ。
「ちなみに特産品はライ麦を使った地ビールよ。君たちは学生だからまだ飲んじゃだめだけどね~」
「いや、勝ち誇られても」
「別に悔しくありませんけど・・・」
「至極どうでもいい情報ありがとうございます・・・っていうか、教官。
まさか飲むために、A班に着いてきたんですか?」
「ギクッ・・・さてと、それじゃあ早速今日の宿を案内してあげるわ」
(あ、今ごまかしたわね)
(ごまかしたな・・・)
(やっぱりプライベート用だったのか)
ケインの考えが図星であったのか、少々引きつった笑みで彼らを宿へと案内するサラ教官であった。その時ケインは背後から何者かの気配を感じたが、殺意は無いようなので放っておくことにした。宿、風見亭に入ると、サラ教官の知り合いらしい女将のマゴットさんに宿に案内してもらうことになった。
「あっ、中尉?中尉じゃないですか!!お元気してましたか?・・・モゴモガ」
「ちょ、中尉はよしてくれよ、ルイセ」
ケインは、赤い髪をポニーテールにした少女に話しかけられ、珍しく狼狽した様子で彼女の口を両手で塞ぐ。名前はルイセといい、この宿のカウンターで働いている。
「ぐむむ・・・フーッ」
「お、おい!いきなり息を吹きかけるなよ!」
「中尉が口をふさぐからですっ!」
置いてけぼりを食らっている他の4人は、ひとまずマゴットさんに案内されて実習期間中に泊まる二階の宿泊部屋へ向かった。ケインとサラ教官は揃ってカウンター席に腰かける。
「君もなかなか隅に置けないわね~」
「なんの話ですか。そんなことより、昼前から飲むつもりなんですか?」
役目を終えたサラ教官は、ちゃっかり地ビールとつまみをルイセに頼んでいた。てへっと可愛く舌を出す教官を篭手で殴りたくなるケインだが、ルイセが戻って来たので自重する。
「はい、どうぞです」
「ありがとう。ビール、ビール♪」
(・・・殴りたい)
サービスとしてルイセから冷水を貰ったケインは、彼女にお礼を言う。
「中尉はよせってどういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ・・・俺はもう、中尉じゃないんだ」
「そう、ですか。でもどうして辞めちゃったんですか?」
「・・・目的を果たすため、かな」
「頑張ってくださいね!わ、私、ケインさんの事、応援してますから!」
その言葉で微笑を浮かべたケインは、「サンキューな」と言ってルイセの頬にそっと右手を添える。触れられた頬を髪と同じぐらい赤くしたルイセは、カウンターの奥に走り去った。
(俺は応援されるような人間じゃないんだ。すまない、ルイセ)
「天然たらしなのね・・・」
「えっ?まぁ、エリオットにアホとか言われましたけどね」
「んくっ、んくっ、んくっ・・・ぷっっはあああああッ!!この一杯のために生きてるわねぇ!」
(・・・やれやれ、聞いてないな)
今のこの人に会話のキャッチボールは無理だろうと判断したケインは、冷水を一気飲みする。そんなタイミングで4人が降りてきていたため、サラ教官の気敏かつ豪快な飲みっぷりは、A班全員に目撃されてしまっていた。
「完全に満喫してるし・・・」
「しかもまだ昼前なんですけど・・・」
「俺もさっき、似たようなこと思ってたよ」
エリオット、アリサのコメントにケインは苦笑しながら同意しておく。アリサが特別実習の内容について尋ねると、サラ教官は必須のもの以外は任意だからやってもやらなくてもいいとだけ助言した。どうやら放任主義らしい。
「だ、だからそうやっていい加減なことを言わないで・・・」
「いや、そうした判断も含めての特別実習というわけですか」
的を射たらしいリィンの言葉に頬を緩めるサラ教官。他のメンバーからはえっ、とかどういうこと?などど声が上がるが、ケインがそれを一番聞きたかった。
「うふふん・・・実習期間は2日。A班は近場だから明日の夜にはトリスタに戻ってもら
うわ。それまでの間、自分たちがどんな風に時間を過ごすのか、話し合ってみることね」
それ以上は助言しないと感じ取ったのか、リィンたちは教官に挨拶だけして宿の外に出て行った。ケインは気になったことを教官に耳打ちしておく。
「サラ教官。不穏当な気配が一つ。あなたを見ていたようですから、一応警戒はしておいて下さい」
「了解よ・・・それにしてもあたしのこと、心配してくれるのね」
「当然ですよ。サラ教官だって、Ⅶ組の一員ですからね」
「!・・・ふふん、ありがと♪」
彼女のからかいをサラリとスルーして、ケインも宿の外に向かった。
「あっ、ケイン。何してたの?」
「・・・ちょっとな。それより、実習の内容とやらを俺にも見せてくれよ」
リィンから封筒を拝借して中身を見る。中のプリントには以下の内容が書かれていた。
特別実習・1日目 実習内容は以下の通り
東ケルディック街道の手配魔獣(必須)
壊れた街道の導力灯の交換(必須)
薬の材料調達
実習範囲はケルディック周辺、200セルジュ以内とする。
なお、1日ごとにレポートをまとめて、後日担当教官に提出すること。
「この特別実習。ケインはどう思う?」
書いてあった内容は、魔獣討伐もあれど、簡単な町のお手伝いのようなものだった。
最後の一文を凝視してうへぇ、レポートかぁなどと思っていたことは口が裂けても言えないケインは、一つ咳払いをして今の考えを脳の片隅に追いやり、率直な意見を述べる。
「典型的な遊撃士スタイルだな、としか言えないんだけど」
「遊撃士・・・!」
「民間人の保護を第一とする大陸各地に支部を持つ団体。
支える篭手の紋章を掲げる民間の使い手たちだな」
「そうだな・・・リィンも何か気づいていたんじゃないのか?」
「ああ、それは・・・」
リィン曰く、彼の自由行動日の過ごし方と類似したものであったのだとか。生徒会からの依頼を回されていた彼は、それをこなしていたらしい。が、旧校舎の調査以外にハードなものはなく他の依頼は比較的イージーな、手助け程度のものだったらしい。一通りすると学院やトリスタの街について理解が深まったとのことだ。
「場所は違うけど、誰かひとりに実習の実体験をさせたかったって腹かな?」
「凄いな・・・!全くその通りだよ」
「まぁ、リィンに目を付けた時点で予想はついてたけど、今の話を聞いて合点が行ったよ」
少々話が逸れてしまったが、ラウラがその土地ならではの実情を自分たちなりに掴むのは得がたい経験になるだろうと言い、満場一致でとりあえずは周辺をまわりつつ依頼を消化していくことにした。まずは近隣への被害が及ぶ可能性のある大型魔獣を討伐すべく東街道へと向かう。町を出る前に領邦軍に遭遇し、面倒を起こさぬように釘を刺された。その時、彼らがケインを凝視していた事に気づいたラウラはそれを訊いたが、彼は独りごちるような声で「気のせいだよ」とだけ言った。
「風車がたくさん・・・ふふっ、のどかでいいわね」
「うん、癒される光景だな」
「ああ、いい風が吹いているようだ」
「ケイン?もしかしてガイウスのマネしてるの?」
「・・・これも風の導きだろう」
「いや、違うからね?」
突然ガイウスのモノマネをするケイン。かなりの完成度であったため、アリサがツボって笑っている。ラウラも微笑ではあるが、顔が笑っている様子。これから大型の魔獣を相手にするため、みんなの緊張を少しでもほぐそうとするケインの努力だ。
「はは、本当に似てるな。その調子で魔獣も倒そう」
「フフ、任せてくれ」
「もういいから、やめてあげて!アリサが・・・」
「わ、分かった。まさかこんなに笑ってくれるなんて・・・この半月の努力の賜物、かな」
「ホント、何やってるのさ?」
「フッ、今度はⅦ組男子全員のモノマネを、この二年間でやり遂げてみせるよ・・・!」
「ケインの野心がとんでもない方向に!?」
大胆不敵な笑みで宣言するケインは、魅力的に見えたのだとか、そうでないのだとか。
「ふむ、どうやら手配にあった魔獣のようだな」
「さすがに強そうね・・・」
「ああ。だが、農家の迷惑になっている以上、退治するしかない・・・行くぞ、みんな!」
街道はずれの高台付近にて見かけた手配魔獣と思しき恐竜のような青い大型魔獣を発見し、交戦を開始する。ケインは普段とは違い、黒剣の切っ先を地に対して垂直に構え、左手を腰のあたりに添える。その後、消えるほど速く魔獣に肉薄し、肉質柔らかな腹に横なぎの一閃を加え、爪の引っ掻きをバックステップで回避する。腰を落としたケインは、魔獣の片足へと二連突きをお見舞いし、体勢を崩したところで、再び水平斬りで腹部に追い打ちをする。ラウラがもう片方の足を叩き、移動力を奪った。
「宮廷剣術、なのか・・・?」
「お、驚いてる場合じゃないわ!今はケインのフォローをしないと」
「そうだったな。アリサ、エリオット、援護頼む!」
「任せて!」 「判ったわ!」
その後、生み出された好機の逃さず、戦術リンクを駆使して手配魔獣を討伐した。
「みんな、お疲れ」
「あ、ああ。それにしても驚いたな。まさか、宮廷剣術が使えたなんて」
「まぁ、たまにはこっちも使っておかないと剣技が鈍るかもしれないからな」
「洗練されたその剣捌き、見事なものだ。
・・・そちらの剣術を使うそなたとも、是非手合わせしたいものだな」
「大袈裟だよ。でも、そうだな。機会があれば手合わせしてみたいな」
「フフ、そうか」
ケインがラウラの申し出を快く引き受けると、彼女は笑顔になる。
珍しいものでも見たような心地のケインは、暫し彼女を見つめていた。
「?何をジロジロと見ている?」
「笑顔のラウラは可愛いなって思っただけだよ。それより、依頼主に報告しに行こう」
「か、可愛い!?」
(あんなこと言って、ケインは恥ずかしくないのかしら?)
(うーん、褒められる方が照れてそうだけど、よく分からないな)
彼女の笑顔にサラリと恥ずかしいであろうコメントをして街道沿いに引き返していくケインの背中を暫時見送ってから、わずかに頬が紅潮したままのラウラを連れ、彼を追いかけるのだった。そして、ケインたちは、魔獣討伐の依頼主であるサイロさんのいる自宅に入り、彼に討伐の旨を伝える。ケルディック自体がクロイツェン州の北端にある田舎であり、領邦軍も周辺の住民の悩みにあまり熱心に対応してくれないことや、農家である彼の家は、輸送手段の進歩、人口の増加に伴って近年増加してきた安価な輸入農作物のせいで経営が苦しくなってきているなど、その地での実情の一端を思い知った。依頼のお礼としてケルディック産の新鮮食材をおすそ分けされ、挨拶をしてサイロさんの家を後にした。
一旦町へと戻り、ケインたちは、ある武具工房に足を運ぶ。無論、依頼の話を詳しく聞くためだ。工房のカウンターにいたサムスさんという若い男性の話によると、西街道の街道灯の一つが動かず、原因がその中にある導力灯の故障であり、導力灯自体の交換をお願いしたいとのこと。一通り聞き終わると、彼から新しい導力灯を彼から受け取る。注意点は整備パネルを開く解除コードがあることと、街道に使われる導力灯の光には、魔獣よけの効果が多少あるらしい。つまり、それを外した際に魔獣が寄ってくる危険性があるため、入れ替え役と護衛役が必要になる。そういう作業も多少は手馴れているケインは、交換役を申し出、サムスさんから解除コードを訊き、記憶した。その後、西街道に出て(交換の際に魔獣に囲まれるなどはあったが)難なく依頼を果たす。任意の依頼ではあったが、一応三つ目の依頼も達成し、一日目の課題が終了した。ケルディックの町に戻ると、エリオットやアリサは少し疲れた顔をしているようだが、リィンやラウラは流石に鍛えられているのか平気のようだ。ケインに至っては涼しい顔をしており、ポーカーフェイスが全く乱れていない。鍛えているみたいだなとラウラにコメントするリィン。ラウラはこの程度は日々の修行になるなと返し、だが、と続けるが、その先が彼女の口から発せられることはなかった。怪訝な顔をするリィンに詮無いことだと告げる。
「・・・ふざ・・・ッ!」
「それは・・・の台詞だ!」
ケインの提案で宿に戻ろうとしたが、大市の方から諍いめいた喧噪を聞き、そちらへ向かうことにした。不穏なトラブルの予感を、それぞれが胸に抱いて。
後書き
特別実習一日目ぐらいは丸々書きたかったのですが、字数の都合で二つに分けました。微妙なところで切れてしまいましたが、どうかご容赦下さい。
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