美しき異形達
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第二十二話 菊の日常その十五
口を大きく開きそこから舌を出した、蛙の舌を。
その舌で菊を襲う、だが。
菊は上に跳びそうしてその舌をかわした、そこから。
左手を右から横に払った様に見えた、だがそれは払ったのではなかった。
手裏剣を投げた、十字の手裏剣をだ。それは三つあり。
三つの手裏剣が怪人を襲う、しかしその手裏剣を。
怪人もまた上に跳んでかわした、そして空中でだった。
菊にまた舌を放つ、菊は今度は忍者刀でそれを払った。だが舌は斬れなかった。
弾き返しただけだった、そしてそのうえで二人は同時に着地した、菊は着地してから怪人に対してこう言った。
「流石蛙ね」
「わかるか」
「ええ、舌とね」
「そうだ、跳躍がだ」
その二つがというのだ。
「私の力だ」
「そういうことね」
「あともう一つの力があるがだ」
「水ね」
菊は蛙のもう一つの力についてすぐに答えた。
「蛙といえばお水だからね」
「その通りだ」
「生憎だけれどここにはお水はないわよ」
「いや、ある」
「ある?」
「そうだ、ある」
こう言うのだった。
「生憎だがな」
「ないものは出せばいいわね」
「そのこともすぐに察したか」
「ええ、あんたはお水も作るのね」
「その通りだ、では行くぞ」
怪人はこう菊に告げてだ、そのうえで。
その右手蛙の指にある五つの吸盤からだ、水を出して来た。だがその水は当然ながら只の水ではなく。
鉄砲水だった、その凄まじい勢いの水を菊に向けて放ってだった。
菊を貫こうとする、だがその水を。
菊は素早く右にかわした、そうしてまた言った。
「こういうことね」
「今のもかわしたか」
「生憎だけれど私は忍者だから」
それで、と言うのだった。
「動きは速いわよ」
「その俊敏さでか」
「そうよ、かわしてみせるわ」
そうするというのだ。
「あんたの攻撃もね」
「そう言うのだな」
「ええ、どんな攻撃でもね」
「ではだ」
「では?」
「動けなくすればいいな」
怪人は冷静なままで菊に告げた。
「それだけだな」
「動けなくする、ね」
「そうだ、水は万能だ」
こうも言う怪人だった、そうして。
今度はだ、その水をだった。
地面、即ちアスファルトに放った。するとその水が。
忽ちのうちに拡がり菊の足元まで来た、そして。
菊の足にまで来た、そのまま足に粘り付いて。
動けなくさせてきた、菊はそれを見て眉を顰めさせた。
「くっ、これは」
「貴様は確かに素早い」
菊自身の言う通りとだ、怪人はその菊に告げた。
「しかしだ」
「それでもっていうのね」
「その素早ささえ封じればだ」
「私に勝てる」
「そういうことだ」
こう言うのだった。
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