豚さん
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第一章
豚さん
鴻上綾音は悩んでいた、それでだった。
会社の先輩である上西園紗友里に飲み屋でビールと豚の角煮で二人で飲んでいる時にだ、こう言って相談した。
「私のアパートペットいてもいいんですよ」
「彼氏っていうペット?」
「いや、リアルのペットです」
このことは真面目に返した。黒い綺麗な髪を丁寧にボブの形で切り揃えている。やや細長い白い顔にある鼻は少し高めだ。唇は小さめで綺麗なピンク色である。目は大きく瞳の部分も大きい。その黒い瞳からは楚々とした光が見える。
背は一五七程であり胸が目立つ、その彼女が大きな綺麗な目にさらに大きな眼鏡をかけ茶色くした細い髪を後ろで束ねている紗友里に話しているのだ。見れば綾音と紗友里の胸ではかなりの違いがある。だがよく見れば紗友里のスタイルは背は綾音と同じ位だが脚はかなり綺麗だ。
「そっちです」
「犬とか猫とか」
「はい、何を買おうかって思ってまして」
「ザリガニにしたら?」
紗友里はここでこう言った。
「あれね」
「何でザリガニなんですか?」
「決まってるじゃない、私が買ってるからよ」
実にあっさりと答えた紗友里だった。
「だからよ」
「先輩ザリガニ飼ってるんですか」
「そうよ、旦那が好きでね」
「というか先輩結婚してたんですか」
「そうよ。知らなかったの?」
「初耳ですよ」
驚いた顔でだ、綾音は紗友里に返した。ビールを飲む手が止まっている。
「先輩が結婚されていたって」
「この前結婚したのよ」
「指輪は」
「まだ籍入れてないから。籍を入れたらね」
「指輪をですか」
「はめるわ。もう結婚式はお互いの家族内でして同居もしてるわよ」
「そうなんですね」
綾音は驚きを隠せない顔で澄ました顔で述べる紗友里に応えた。
「いや、びっくりしました」
「とにかくね」
「はい、ペットですね」
「私はザリガニ推しよ」
「そうですか」
「どう?いいでしょ」
「出来れば哺乳類がいいんですけれど」
綾音は自分の好みを紗友里に述べた。
「私としては」
「哺乳類ね」
「はい、ザリガニじゃなくて」
「そうなのね。それだったらね」
「どんな生きものがいいでしょうか」
「そうね、ザリガニが駄目で哺乳類ならね」
どうかとだ、こう答えた紗友里だった。
「牛とか」
「一トンありますよね」
「大きいからね」
「そんなのアパートで飼えないですよ」
シリアスに答えた綾音だった。
「無理です」
「まあそうでしょうね」
「わかって言っておられるんですか」
「ジョークよ、結婚してることは本当だけれどね」
「そっちは本当なんですね」
「ザリガニ飼ってることもね」
それもだというのだ。
「本当だから」
「そうなんですか」
「とにかく哺乳類ね」
「はい、ペットにするなら」
「じゃあ豚はどうかしら」
紗友里が今度話に出してきたのはこの動物だった。
「豚さんね」
「豚、ですか」
「そう、豚よ」
まさにその生きものだというのだ。
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