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喪服の黒

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第二章

 しかしだ、二人だけになって半年程してだった、美也子は侑里に二人だけでの夕食の場で困った顔になってこう言ってきた。夕食は侑里が作ったものだ。母の負担を少しでも減らそうと自分から申し出て作ったものだ。
「お母さんね、実はね」
「実は?」
「困ったことになってるの」
 こう言うのだった。
「今ね」
「困ったことって?」
「お父さんのお友達だった飯田さんって人がいるじゃない」
「あの人ね」
 侑里も知っている人だ、悪い人ではない。
 そしてだ、悪い人でないと共にだ。
「確かあの人今独身よね」
「そうなの、奥さんに先立たれてよね」
「その飯田さんがどうしたの?」
「お母さんに言ってきたの」
「何て言ってきたの?」
「結婚しないかって」
 そう言ってきたというのだ。
「そう言ってきてるの」
「そうなのね」
 侑里は母のその言葉を聞いても驚かなかった、あの葬式の時の母を見ているからだ。
 娘から見ても美しかった、喪服もそうだったが。
 その涙に濡れた顔もだ、今思うとだった。
 綺麗だった、普通にはない美がそこにあった。ただでさえ整っている顔の母だったがそれはその時は特にだった。
 それでだ、今母にその話をされても特に驚かなかった、それで納得した顔を隠さないまま母に答えたのだった。
「それでお母さんはどうするつもりなの?」
「飯田さんのプロポーズを受けるかどうか」
「どうするの?」
 自分の考えは言わず母に問うた。
「一体」
「だからお母さんは」 
 その困った顔で答える母だった、困っている顔もそれはそれで魅力を感じるものだった。娘である彼女から見ても。
「お父さんだけだから」
「ずっとなのね」
「そう、ずっとよ」
 古風な倫理さえ出して言う。
「ずっと一人でいるわ」
「それだけお父さんが好きなのね」
「今もね」 
 先立たれた、それでもだというのだ。
「だからね」
「それじゃあ」
「ええ、お母さん飯田さんの申し出は断るわ」 
 そうするというのだ、
「飯田さんにもそう申し上げるわ」
「わかったわ、じゃあね」
「それでいいっていうのね」
「私が言うことはないから」
 実際最初からそのつもりだった、侑里は。母のことなので母に全てを任せるつもりだったのだ。それで言うのだった。
「お母さんがそう決めたのならね」
「そうなのね。それじゃあ」
「ええ、じゃあね」
 こうしてだった、美也子は侑里の言葉を聞いたうえで。
 このポロポーズは断った、だが暫くしてだった。
 まただ、侑里は夕食の場で母にこう言われたのだった。今夜も侑里が作った夕食を二人で向かい合って食べながら。
「また言われたの」
「プロポーズね」
「ええ、今度は権藤さんね」
「お父さんの部下だった」
「まだ二十九なのよ」
「まだかしら」
 もう結婚してもいい歳だとだ、侑里は思った。
「それ位だと」
「お母さんよりずっと年下の人じゃない」
 このことに困惑していることがだ、美也子の顔に出ていた。
「だからね」
「困ってるのね」
「このことでもね」
「そうなのね、それでだけれど」
 今度もだ、侑里は母にこう問うた。 
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