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全てを賭けて

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第七章

「そのうえ我等に素晴らしい特典を多く与えて下さっている」
「奴隷であった我等をな」
「確かに訓練は厳しいがな」
「その訓練より遥かに素晴らしいものを下さっている」
「だからこそだ」
「我等は陛下に忠誠を誓いだ」
 そして、というのだ。
「全てを賭けてだ」
「戦うのだ」
「つまりですね」
 子爵は己の目の鋭い輝きを消して彼等にさらに言った。
「認めてもらい素晴らしい待遇を受けておられるから」
「そうだ、我等はだ」
「陛下に全てを捧げるのだ」
「この命も何もかもな」
「そうしているのだ」
「左様ですか、いや」
 あくまで己を隠して言う子爵だった、ペルシャの商人として話すのだった。
「困りましたな」
「ははは、ペルシャと我が国も争ったことがあるからな」
「だからだな」
「はい、手加減してもらいたいものです」
「いやいや、そうはいかん」
「戦いになればな」
 今トルコとペルシャは仲がいい、だからイエニチェリ達は笑って話すのだった。
「容赦はせぬからな」
「覚悟はしておれ」
「左様ですか」
「そうだ、ではな」
「そういうことでな」
 ここまで話してだった、イエニチェリはというと。
 全て飲んで食べてからだ、こう子爵達に言った。
「御主達が払うと言ったが」
「ここは我等に任せてくれ」
「商人達に払わせる訳にはいかぬ」
「こうした時はな」
 こう笑顔で言うのだった。
「我等が払う」
「御主達は気にするな」
「何、この店は安い」
「御主達が気にすることはない」
 こう言ってだ、彼等は自分達が店に金を払った。そのうえで陽気な挨拶をしてから別れたのだった。
 その彼等を見送ってからだ、子爵はヒメルス達に言った。
「聞いたな」
「はい、彼等から」
「そういうことなのだな」
「認めてもらったからですね」
「彼等は戦うのだな」
「皇帝の為に」
 ヒメルスも言う。
「そういうことですね」
「彼等も人間だ」
 ここでこうも言った子爵だった。
「サラセン人であるがな」
「人間だからですね」
「そうだ、人間だからな」
 子爵は確かにイスラム教徒達は嫌いだ、敵に他ならないからだ。しかしそれでも彼等は自分達と同じ人間と見ている。そこが他のキリスト教徒とは違うところだろうか。彼等の多くはイスラム教徒を人間とみなしていなかったのだから。
「それ故にな」
「認めてもらうとですね」
「そして用いてくれればな」
「その相手の為に働きますね」
「しかも待遇もいい」
 イエニチェリとしてのそれもだ、というのだ。 
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