燃えよバレンタイン
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第八章
第八章
「鍵だけれど」
「鍵って?」
「お部屋の鍵。閉めていいかしら」
こう言ってきたのだ。
「今から」
「閉めるって」
「誰か入ってきたらいけないから」
そこまで聞いてだ。これまで戸惑ってばかりだった。猛もだ。ようやくわかってきたのだった。
それでだ。彼は雅に問い返した。
「まさかそれで」
「詳しいことは後で話すから」
雅はこう言ってだ。猛が言う前にもう部屋の扉の鍵を閉めてしまった。するとガチャリ、という金属の音が鳴った。この音が知らせだった。
「これでいいわね」
「あのさ、まさか」
「私から一本取ったから」
言いながらだ。猛の方に近付いてきた。その二人の横には。
「ゲーム止めてね。それで」
「そっちに」
「丁度お布団があるから」
無論猛が寝る為の布団である。彼の部屋は畳なのだ。今は座布団の上に座ってそのうえでゲームをしていたのだ。そこに雅が来たのだ。
「そこで」
「そうだね。じゃあ」
雅は猛の布団のところに来ると腰を下ろした。そこに猛が来る。
雅の動きがここで急に強張ってきた。それで彼に囁いてきた。
「あの、私」
「まさか」
「ええ、こういうことはじめてだから」
暗がりの中でもだった。顔が赤くなっているのがわかった。
「だから」
「僕もだけれど」
「そうだったの」
「うん、けれど」
それでもだった。知識はあった。それに従い何とか動きながらだ。そうしてそのうえで雅の上に覆い被さる様になって告げた。
「僕でいいんだよね」
「ええ。猛だから」
こう告げてだった。全てが決まったのだった。
その後でだ。二人は布団の中にいた。乱れた服をかろうじてなおした姿でだ。布団の中にいてそうして話をするのだった。
「それでだけれど」
「それで?」
「何で今夜ここに来たのかな」
こう雅に尋ねるのだった。自分の横で向かい合って寝ている彼女にだ。
「それで」
「実はね。叔父様に言われていたの」
「父さんに?」
「ええ。猛が私から一本取れたらね」
「一本取れたら?」
「私の好きなようにしていいって」
そう言われていたというのだ。
「猛とのことをね」
「僕のって」
「猛。ここの道場継ぐわよね」
雅は今度はこう言ってきた。
「それで私も言われてたの」
「雅もって」
話が見えずだ。どうもぼんやりと返す猛だった。今雅としたこともまだよく把握できていなかった。夢の様に思えていたのだ。
「好きなようにしていいって言われてたんだ」
「私も道場を継げって言われてたの」
ここでだ。雅はこう猛に話した。
「つまり。私と猛で」
「二人で道場を」
「けれど猛私から一本も取ったことなかったわよね」
彼の顔をじっと見詰めて。そのうえでの言葉だった。
「そんなのじゃ流石に話にならないって。道場を継ぐには」
「だから僕に一本取れって言ったんだ」
「そうだったの。それで私から一本取ったから」
「そういうことだったんだ」
「私、ここに来たの」
「じゃあ僕とこれからも」
「宜しくね」
熱い声と目での言葉だった。
「これからも。ずっとね」
「うん、こちらこそね」
笑顔で言い合う二人だった。そうして。
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