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第六章
第六章
そのオムライスとハンバーグを見て。智哉はあることに気付いたのだった。
「あれっ、純ちゃんそのオムライス」
「んっ、どうしたの?」
オムライスを食べながら顔をあげてきた。実はずっと食べることに夢中なのだった。
「何かあるの?」
「カレールーかけてあるんだ」
「そうよ、カレーオムライス」
料理の名前を智哉に答えた。
「ライスもドライカレーよ。そういうオムライスなのよ」
「うちと同じなんだ」
彼はそのことに気付いた。純の話を聞いて。
「それって」
「同じなの」
「うん、うちも実は今日オムライスなんだ」
このことを純にも告げた。
「それで。うちのオムライスは」
「このカレーオムライスなのね」
「そう、そのままなんだよ」
ここでハンバーグを見ると。これもまた。
「このハンバーグだってね」
「ハンバーグも?」
「ほら、これ」
ハンバーグの中央を指差しつつ純に教える。
「これだよ。バター」
「バター?」
「うちの家じゃハンバーグにバターを乗せるんだ。そうやって食べるんだよ」
「そうだったの」
「そうすると美味しいじゃない」
にこりと笑って純にまた言った。
「だから。そうやって食べるんだ」
「智哉君の家でもそうなのね」
「純ちゃんもそうやって食べるんだ」
「ええ」
今度はハンバーグを食べていた。奇麗にフォークとナイフを使いながら答える。
「そうよ。これが一番美味しいから」
「成程ね」
「智哉君だって」
今度は純が智哉に言って来た。
「同じよ。私と」
「純ちゃんと同じって?」
「今鳥なんば食べてるわよね」
「うん」
彼女が最初に指摘してきたのはまずはうどんだった。
「それに親子丼よね」
「この組み合わせがどうかしたの?」
「その組み合わせなのよ」
組み合わせのことをまた指摘するのだった。
「私も親子丼か鳥なんばを食べる時はね。いつもそうやってるじゃない」
「そうだったんだ」
「天麩羅うどんの時は天丼」
天麩羅で揃えている。
「まあこれはあまり食べないけれどね」
「食べるのはやっぱり鳥なんばなんだ」
「そういうこと。智哉君も同じなのね」
「鶏好きだから」
これが理由だったがお母さん仕込みなのはここでは内緒だった。
「だからね」
「私も同じよ」
純はにこりと笑って智哉にまた答えた。
「鶏好きなのよ」
「純ちゃんもなんだ」
「そう、それにカレーが」
今度はカレーだった。これもまた智哉にとっては驚くべきことであった。
「チキンカレーね、やっぱり」
「一緒だ」
思わず出てしまった言葉である。
「そこまで。一緒なんだ」
「?一緒って?」
「うちの家と一緒だよ」
うどんをすすりながら純に述べた。
「うちの家でもカレーはチキンカレーなんだよ」
「そうなの」
「しかもね」
話はさらに続く。
「買うハンバーガーはいつもダブルチキンバーガーで」
「そう、ハンバーガーはやっぱりそれね」
これはもう付き合いだして最初でわかっていたことだが。それが自分の家と全く同じだということには今はじめて気付いたのであった。
「それが一番よ」
「そうそう」
「あとラーメンは」
「豚骨よね」
「当たりだよ、うちもラーメンは豚骨」
これもわかっていたことだが同じだと気付いたのはやはり今がはじめてだった。
「これも同じなんだね」
「そうね。全部同じね」
「少なくとも食べ物はそうだね」
智哉はあらためてこのことを知り驚きを隠せなかった。
「何てことなんだ」
「けれど何で同じなの?」
「うちのお袋の好みなんだ」
今はじめてこのことを純に教えた。
「うちの家じゃさ。お袋が料理は全部取り仕切ってるから」
「それでなのね」
「最近じゃ妹も作ってるけれどね」
しかしであった。
「あいつも。お袋と舌は同じだから」
「じゃあ全部一緒なのね」
「そう、料理は全部一緒」
このことも純に教えた。
「何もかも一緒さ」
「いいわね、それって」
純はここまで話を聞いたうえでにこりと笑って智哉に言ってきた。
「そんなに一緒だとね」
「いいのか?それって」
「だって。全部私の好きな食べ物だし」
彼がまず言うのはここであった。
「かなりいいわね。何でもそんなに好きなのを作ってるなんて」
「全部純ちゃんの好きなものだったんだ」
「そうよ。全部ね」
それをまたにこりと笑って告げた。
「全部好きよ。そこに名前が出たのはね」
「そういえば」
さらに気付いた智哉であった。
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