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面影

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第二章


第二章

「行こうね」
「ダブルチーズバーガーに」
 ここで純はさらに言うのだった。顔は満面の笑顔になっている。
「飲み物はコーラね」
「コーラもちゃんとあるよ」
「いいわね。その二つがないとハンバーガーじゃないわ」
「ハンバーガーじゃないんだ」
「私はそう思うわ」
「ふうん、そうなんだ」
 智哉は今の純の話を聞いて何故かデジャヴューを感じた。しかしどうしてそれを感じたのかはぼんやりとでもありわからないのであった。
「まあそうだよね」
「じゃあ放課後にね。待ち合わせは」
「学校の門の前でね」
「そこでね。遅れたら駄目よ」
「遅れないよ、絶対にね」
 自分から誘って遅れるわけにはいかなかった。この辺りは真面目に考えている智哉であった。
 何はともあれこれがはじまりだった。智哉は純と付き合いだした。周りからは早いうちに可愛い娘をゲットしたとあれこれ言われることになった。
「おいおい、やるじゃねえか」
「御前意外と手が早いんだな」
「早いって何なんだよ」
 この時彼は男友達と一緒に昼食を食べていた。食べているのはそれぞれの弁当である。
「だってよ。純ちゃんって最初から人気だったんだぜ」
「奇麗だしな」
「そうだな。奇麗だよな」
 智哉もそれは認める。
「性格も明るいしな」
「ちょっと騒がしいけれどな」
「悪い娘じゃないよな」
「ああ、確かにな」
 それもまた認める智哉だった。
「一緒にいて楽しいな。いつもな」
「余計に羨ましいな、おい」
「そんな彼女が一緒かよ」
「ただな」 
 だがここで彼は言うのだった。
「どうも引っ掛かるものもあるんだよな」
「引っ掛かるもの?」
「あいつダブルチーズバーガー好きなんだ」
 まず言うのはこれであった。
「それとコーラがな」
「ああ、駅前のハンバーガーショップな」
「あそこのだよな」
「それとラーメンは豚骨」
 彼は純のラーメンの好みも述べた。
「うどんは鳥なんばだな」
「うどんもか」
「お菓子はドーナツが好きだしな」
 なおどの店も駅前にあるのである。
「お好み焼きは大阪が贔屓だ。こんなところだ」
「随分と二人で食べ歩いているんだな」
「それもかなりな」
「否定はしないさ」
 友人達の今の突っ込みはあえて正面から受け止めたのだった。
「何かデートっていえば二人で食べているしな」
「けれどデートはもうしているのか」
「一応はな。ただな」 
 しかし智哉の顔に微かに困ったものが混ざったのだった。
「仲は進んでいるけれどな。キスはまだなんだよな」
「ははは、そりゃそうだ」
「そう簡単にそこまで行くか」
 これは友人達にすぐに笑い飛ばされてしまった。
「キスっていってもそう簡単にはいけないさ」
「ましてやベッドまではな」
「簡単じゃないか」 
 実はこうしたことには疎い智哉であった。だから友人達が笑ったのをそのまま受けてしまったのである。顔も少し惚けた感じになっている。
「それは」
「当たり前だろ。まあ純ちゃんがどんな娘か知らないぜ」
「俺達は可愛いってだけしか知らないからな」
「ああ」
 友人達はこう前置きしてきた。
「それでもな。大抵の女の子はな」
「ガードしてるんだよ」
「ガードか」
「高校一年だぜ」
 友人の一人は学年についても言及した。今彼等は花の一年生というわけである。先輩からはこき使われるが初々しい年頃である。
「経験もまだだろうしな」
「キスもか」
「だって御前もまだだろ?キス」
「まっ、まあそれはな」
 戸惑いつつこの質問に答えた。実はその通りだ。彼はキスもまだなのだ。
「まだだけれどよ」
「俺もだしな」
「俺もだ」
 何とそれは友人達も同じであった。これには智哉も驚いた。それですぐにそのことを彼等に対して突っ込むのであった。突っ込まずにはいられなかった。
「ちょっと待て、御前等もかよ」
「あのな、そうおいそれと中学生で経験してるか」
「幾ら何でも早いだろ」
「早いか」
「中にはやってる奴もいるだろうけれどな。最後までな」
「それでもだ」
 彼等の言葉はかなりの割合で自己弁護になっていた。それでもあえて言うのであった。
「普通はないからな」
「俺達一応普通だしな」
「普通はか」
「何度も言うが純ちゃんがどうかはわからないぜ」 
 このことがまた話に出る。
「しかしな。普通はまだキスもまだだろ」
「そしてはじめてはだ」
 ここからの話は智哉もよくわかるものであった。
 
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