宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説
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第三章 四話 激突宇宙
前書き
またせたな…あまりに忙しくて数ヶ月に渡り更新が止まってしまったことはお詫びのしようもない…
惑星ルッキオ 酒場
クルーを求めてエルメッツァを旅していた白野は、最近世間を騒がせているルッキオとアルデスタの両国の間で勃発した紛争の漁夫の利を得るべく、紛争で資源が不足しているであろうルッキオへと前回停泊したドゥンガから商用でやってきていた。
やってきていたと言ってもその方面の交渉を担当するのは主計のバウトである。大マゼランでのタフな交渉をこなしてきた彼ならば、現在ユニコーンにストックされている商用の資源を最大限の利益で売り込んでくれるだろう。
そして白野はその結果を待つために酒場にいたのである。
本来ならばグラスをゆっくり傾けながら料理を注文して吉報をリラックスして待つ予定だったのだが、世の中そうそう予定通りにはいかないものらしく血気盛んなルッキオ人青年達が激論を近くのテーブルで交わしておりリラックスどころではなかった。
議論の内容は国益だのなんだの、白野のような0Gドッグにはまったく無縁のものであった。
国民に害を及ぼす国家などとっとと滅びてしまえばいい、というのが0Gドッグの国家に対する意見の最大公約数的見解である。国家が消え去っても国民と惑星は残る。人の集団の名詞として【国家】が存在するのであって人の存在意義が国家にあるなどという政治家の常套句は0Gドッグにとって冷笑の対象なのである。
それはともかく、若く血気盛んなルッキオ人青年達の議論は白野が運ばれてきたジャーマンポテトを食べている間にどんどん過激になってきていた。
曰く、現在のルッキオ代表のオオハラ氏はアテにならぬので排斥して俺たちで新しくルッキオを立て直そう、とのことである。
勇ましい限りだが実現性の面で見ると頼りない限りである。
「マスター、スルメはあるか?」
「はい、お持ちします」
白野がジャーマンポテトを平らげツマミを注文した頃になると、青年達は居ても立ってもいられなくなったのかガタガタと音を立てて椅子から立ち上がると徒党を組んで酒場から出て行った。
暴動でも起こしそうな勢いである。まさか丸腰で行政府に殴り込んだりはするまいが、他人事ながら心配である。
「やあ、艦長」
白野がスルメも平らげた頃、ようやくバウトが酒場にやってきた。表情からするに交渉は成功したらしい。
「来たな。首尾はどうだった」
「大成功です。国有企業の連中から搾り取れるだけ搾り取りました」
満面の笑みで愛用のソロヴァンを見せてくるバウト。その金額表示項目には20500Gの表示があった。破格も破格である。
バウトはルッキオの国有企業から比喩抜きで搾り取ったに違いない。
「上出来だ。よくやってくれた。ボーナスも付けておこう」
「期待しておきましょう。それよりも、交渉の場でさらに面白い情報が聞けたんですよ」
そう言いながら、白野の座っている席の対面に座るバウト。白野は彼のためにビールとスルメを注文する。
一通り酒が進んだあたりで白野は話を促した。
「それで、その面白い情報とは?」
「ええ、この紛争にあたって誰かがルッキオの戦力増強に間接的に協力しているそうです。それも、ルッキオ側からの要請も無しに」
グラスを傾けていた白野の手が止まった。
「ほう?そんなことをして利益が出る奴がいるのか?」
口に出した疑問にたいする答えは既に白野の頭の中にあった。
が、それとは別に妥当な推論もできる。白野が口に出して続けたのはその妥当な推論の方である。
「死の商人辺りが紛争を煽っている、と?」
紛争が長引いて喜ぶのは武器を売る商人達である。艦船、武装、戦闘用内装などなど大規模な紛争は武器商人達にとって同時に大規模なマーケットでもある。
「いや、それは少し違うようです」
しかし、バウトはその推論を否定した。
「ルッキオに敵対するアルデスタの方ではこのような誰がやっているのわからない戦力増強は無いそうです。ルッキオ政府は無邪気に喜んでいますが…」
「戦力比が崩れれば、全面衝突までそう時間はかからないだろうな」
「ええ。問題は、その異常に肥大化した戦力を一時的にとはいえルッキオ政府が養えるだけの経済基盤があるかどうかです」
軍隊はとにかく金を食う。よく使われる表現ではあるが全軍の兵士一人一人が一杯のコーヒーを飲むためだけでも莫大な費用が掛かる。
白野が見たところ、ルッキオ政府は不況では無いがお世辞にも繁盛しているとは言い難い。そもそも繁盛しているようなら紛争の危険を犯してまでベクサ星系に固執はしないだろう。
ルッキオ政府が常識的な範囲で保有、稼働させ得る最大限のの艦船は大体10隻から50隻といったところだろう。今はそれがどんどん増強されているらしい。短期的ならともかく長引けばルッキオ政府の財政は回復不能なダメージを被るに違いない。
その辺りを理解しているかは微妙なところである。
「ないだろうな。このままだとルッキオは遠からず借金抱えて立ち往生といったところか」
「その可能性は高いでしょうね。哀れなことです」
憐憫の意を込めた台詞を言うものの、バウトの視線はソロヴァンの金額表示を見つめていたから心情の比率がどちらにあるかなど考えるまでも無いことだった。
二人はその後、雑談しながら料理と酒を楽しみマスターにチップと代金を渡して酒場から出た。今後の予定は特に無く、海賊退治をしながら気長に優秀なクルーを探すつもりであったのだが、その予定はしばらく狂い続けることとなる。
*
ユニコーン ブリッジ
ルッキオの地上からユニコーンに戻って来た白野は、ブリッジに詰めていたゲイケットからギリアスの伝言を聞いていた。
曰く、
「スカーバレルの拠点の場所がわかったから攻めてくるぜ!早く来ねえと獲物がいなくなるぞ」
とのことである。ギリアスは血気盛んであるし、確かな勝算と情報を集めるだけの周密さも最近身につけて来ている。海賊の拠点を攻めるのであれば相応の準備を整えたはずである。心配する必要もないだろう。問題は白野がそれに乗るが今までの決定通りクルーを集めることを続けるか、二者択一というわけである。
「どうする艦長?補給は万全に整えてあるが」
「そうだな…まあいいだろう。最近腕の立つ相手とやり合う機会も無かった。拠点となればそれなりにデキる奴もいるだろう」
白野としては、ここ最近ずっと続いている強敵との戦いが無い状況をそれなりに憂えているのである。彼個人の戦闘への欲求もあるが、それ以上に新しく小マゼランで参入したクルーの実戦経験を積ませなければならない。
シミュレーションなら何時でもできるが、実戦は何時始まるかわからない。如何なる場合でも最高の練度で対抗出来るよう、クルーの習熟は新規参入があった場合の急務なのである。
それに、艦載機部隊である。
白野とバークで浪漫と情熱の赴くままに書き上げて建造したジェガン。それにはまだまだ改良点もあるだろう。実戦でそれを浮き彫りにし、改修とマイナーチェンジを重ねてゆけば何れジェガンは最強艦載機の名を欲しいままにするだろう。同時にパイロット達も高確率で生き残る。良いこと尽くしである。
「よし、ではスカーバレルの拠点へ進路を向ける。バウンゼィから座標情報も送られて来た」
「表示してくれ」
「了解」
ゲイケットがコンソールを操作すると、指揮席のモニターに表示されたエルメッツァ中央の星図の左下辺りの惑星が赤く光る。
その惑星の名は【ファズ・マティ】と表示されていた。
「人工惑星…またこれは豪勢な…」
「それだけスカーバレルは潤っているということだ。羨ましい限りだな」
皮肉げにそう言うと、白野は大声で指示を出した。
「ユニコーン、出航する。目標地点、スカーバレル拠点人工惑星ファズ・マティだ。各員、戦闘に備えておけ」
了解の声の無数の斉唱の後、クルー達がバタバタと忙しく持ち場に着いてゆく足音が続く。
スカーバレルと白野達の戦いが始まろうとしていた。
*
バウンゼィ ブリッジ
一方、一足先にスカーバレル海賊団の拠点の情報を嗅ぎつけて出航したギリアスとその愛艦バウンゼィは惑星ドゥンガの少し先の航路で一隻のスカーバレル駆逐艦と接触していた。
早速沈めて出陣の景気付けにしてやろうと戦闘準備を整え、今まさに襲いかからんと主砲で照準を合わせた矢先、スカーバレル駆逐艦から慌てた通信が入ったのである。
「ま、待ってくれ!降参だ!いや、そもそも俺たちゃ海賊は辞めたんだ!」
半ば命乞いの通信であったが、ギリアスも狂犬ではない。降参するというなら手出しはしない。しかし、しっかり主砲の照準は駆逐艦のブリッジ付近に向けたままである。
「海賊を辞めたぁ?そいつはどういうこった」
ギリアスの疑問も最もである。今、スカーバレルという【商売】は最高に景気がいい。エルメッツァ中央政府の軍隊が役に立たないからである。略奪、暴行なんでもし放題。力のみがものを言う世紀末的状況でそれを辞める旨味はあまりない。
その疑問に、バウンゼィの主砲に恐れ慄きつつスカーバレル駆逐艦の艦長は答えた。
「お、俺たちはルッキオ軍に参加するんだ。艦を持ってエントリーすれば相当の手当てがあるらしい……わ、わかったよな?も、もう行っていいよな?」
震え声である。哀れではあった。
「運のいい奴だ…俺は今、ちょっくら急いでる。とっとと消えな。俺の気が変わらねぇうちにな」
駆逐艦の艦長は涙目になって通信を切った。そして、モニターに映る駆逐艦は急速転進すると一目散に逃げ出して行ったのである。主砲の射程内から駆逐艦が出て行ったことを確認すると、ギリアスは再びファズ・マティを目指す。
「待ってろよぉ、海賊共。俺が行って片付けてやるからな」
モニターの星図に映るファズ・マティにギリアスは戦闘意欲に燃えた熱い視線を送った。
*
ユニコーン ブリッジ
快速で鳴らすユニコーンは、惑星ルッキオを出た後凄まじい巡航速度で惑星ドゥンガの上空に到達していた。所謂出戻りであるが今回はドゥンガには停泊しない。一直線にファズ・マティを目指すつもりである。
「ゲイケット、惑星の重力圏を利用してスイングバイを行う」
「了解」
一流の0Gドッグともなれば、エクシード航法のみならず惑星の重力を利用して加速を行うこと程度朝飯前にやってのける。
スイングバイは惑星の有する重力を利用して船体の軌道及び速度を変化させることの出来る技術である。
かつて、地球において人類が宇宙に進出する技術を開発した黎明期において、このスイングバイ技術は遠い宇宙の彼方へ無人探査機を送る際の燃料節約と探査機器搭載スペース確保のため積極的に行われた。
スイングバイには加速、減速、軌道調整などの種類があるが、加速する場合は惑星の公転軌道後方に突入する必要がある。
さらに、スイングバイ時に宇宙船の推進力を併用するパワードスイングバイと呼ばれる手法もあり、白野は今回これを使う。
「惑星ドゥンガの公転軌道計算完了。突入、行けるぞ」
「よし、突入」
ユニコーンはブースターで加速しつつドゥンガの公転軌道後方へと突入する。
惑星の重力、さらに自身のエクシード航法によりユニコーンは最高速度を叩き出しつつあった。
*
バウンゼィ ブリッジ
さて、ユニコーンが怒涛の勢いでファズ・マティに驀進し、すぐ近くにまで来ていることなどつゆしらずバウンゼィは惑星ネロへと接近しつつあった。
「惑星ネロ、確認しました」
「そのま進もうぜ。ファズ・マティまでは結構あるからな」
「了解」
道中、先程のスカーバレル駆逐艦との遭遇以外で海賊と出会うことは無かったバウンゼィはとてもスムーズに航行している。
出陣前の景気付けの生贄にされなかったあの駆逐艦は幸運であったろう。しかし、ルッキオとアルデスタの紛争で死亡する可能性も無きにしも非ず。0Gドッグは宇宙を征く限り常に命を危険に晒す。その覚悟は、勿論あるだろう。多分。
「……あ、これは…」
ちょうどネロ上空を通過しようとしていた時、レーダー監視していたクルーが驚きの声を上げる。
「どうした?敵か?」
聞くギリアスの声には緊張感がある。
「いえ、これは…ユニコーンです」
「……おい、マジか?」
「マジですよ…あの船どうなってんだぁ!?」
本気で困惑の声を上げるレーダー監視クルー。バウンゼィとユニコーンとの距離は一般的な艦船ならば一日程度はかかる位あいていた。ユニコーンは船足が早いので大体半日で追いつかれるだろうと思っていたが、予想の上を行かれて六時間弱で追い付かれた。ユニコーンの船足を甘く見ていたようである。
光速の二百五倍という異常速度でカッ飛んできたユニコーンはバウンゼィのすぐ横まで猛進したのち、バックブーストを吹かせて減速し並進を始める。
「遅かったじゃないか…」
「いや、あんたが早すぎんだよ。一体どうやったんだ?」
半ば呆れるように通信を入れて来た白野にギリアスは言い返した。
「お望みとあらば見せてやろう。ギリアス、よく見ておくんだな」
そう言って通信を切ると、ユニコーンは再びスイングバイの突入体制に入る。そして、惑星の公転軌道を計算すると凄まじいブーストを吹かせて公転軌道後方へ突入。重力により更に速度を増してバウンゼィから遠ざかる。
「スイングバイ?なるほど、そういうことか!わかったぜ!」
ギリアスも宇宙開発が始まった頃から脈々と続く先人の知恵に思い至ったようである。
「操舵手!ネロの公転軌道後方に突入だ!最大船速でな!」
「了解!惑星公転軌道、計算開始します…………計算完了!バウンゼィ、軌道修正開始!」
バウンゼィはサイドブースターを幾つも起動し、突入角度を調整する。そこにはまだユニコーンほどの有機的な滑らかさは無かったが、少なくとも誤謬はない。
「突入角度、調整完了しました!」
「よし、いけ!」
それと同時に、操舵手は思い切りブースター操作ペダルを踏み込む。
バウンゼィはその推進力を遺憾なく発揮し、惑星ネロの公転軌道後方へと突入。
重力の力を利用して加速したバウンゼィは、宇宙を切り裂いて飛ぶ赤い火矢のようだった。
*
人工惑星ファズ・マティ メテオストーム周辺
「…本日午後12時頃、ルッキオ政府とアルデスタ政府の間で緊張状態にあったベクサ星系採掘権を巡る紛争に遂に一応の目処がつきました。調停に当たったエルメッツァ中央政府軍政官のルキャナン・フォー氏によりますとルッキオ軍の一部暴動分子を鎮圧しに急行したところ…」
海賊船、デスペラードのブリッジではその主である海賊ドミニコ・ルースが指揮席でだらしなく机の上に投げ出した状態で受信したニュース番組を視聴していた。
海賊だろうがフリーの0Gドッグだろうが情報には万金の価値があるのである。
「ありゃー、紛争、終わっちゃったみたいでゲスね」
「ま、いいんじゃねえの?そういや他の奴らもチラホラアレに参加しに行ってたっけな」
「なんか暴動分子が鎮圧されたって言ってるでゲスね」
「……」
「……」
「ま、いっか」
「そうでゲスね」
割と軽い奴らである。まあ、根城にしていた所が自分達を除いて一人残らず叩き潰されたことに比べれば海賊船の一隻や二隻どうということもないというのが正直なところである。
「そんなことよりも敵が来ねぇ」
「仕方ないでゲス。今更オイラ達スカーバレルに歯向かおうなんて酔狂な奴はいないでゲス」
「奴らで以外はな…」
「そ、そうでゲスね…」
二人の脳裏に浮かんだのはネージリンスで散々に暴れていた大マゼラン製のヤバい二隻の船である。もしもアレがやってきたら全力で逃…後ろに突撃することを二人は決めていた。
しかし、それまではやってくる不届きな0Gドッグの船を不意打ちで宇宙の藻屑にするための待ち伏せを続けなければならないのである。下っ端の辛い所だ。嫌ならば逃げ出せばいいのだが、好い加減スカーバレルという名前に愛着も湧いている。
「それよりもバルフォスの旦那に多弾頭ミサイルのことはばれてないだろうな」
「多分、きっと、メイビーでゲス」
この二人、下っ端のくせに妙に抜け目なく幹部の一人のバルフォスが彼を以前のした小生意気な0Gドッグとの決戦のために持ち込んだ多弾頭ミサイルを一部拝借して搭載しているのである。
性能は高い。カルバライヤ製の実弾兵器は一定の評価を得ているのて信頼性も高い。
この多弾頭ミサイルとバルフォスの乗艦であるカルバライヤの重巡洋艦【バゥズ級】はスカーバレル古参の老海賊ロデリックによってカルバライヤから持ち込まれたものである。
その老海賊ロデリックはエルメッツァの宇宙を気ままに回って輸送船や0Gドッグの船を狙っており今はファズ・マティには居ない。
「それならいいさ。待とう。阿呆な奴らが攻めてくるまで」
「ハイでゲス」
この二人はもうすぐ近くまで悪魔に等しい存在が迫っていることに気が着いて居ないのである。かわいそうなことであった。
*
ユニコーン ブリッジ
惑星ネロからスイングバイで超加速を行い凄まじい速度で宇宙空間を切り裂くように進んでいたユニコーンは、この度速度を落としてバウンゼィと並進していた。並進しつつギリアスとファズ・マティ攻略の具体的なプランを練っていたのである。
「スカーバレルは相当数の艦船を揃えているそうだ」
「相当数って、どのくらいだ?」
「おそらく百隻単位だろう。どれもこれもが純粋戦闘用とは言えないだろうから実質五十隻程度が相手になるだろうな」
「楽勝ってわけにはいかねえだろな」
「ああ。星図で見るに、このファズ・マティは明らかに天然の要害だ。攻めるは難く守るに易い。迂闊に突っ込めばいかに艦船の性能差があろうとも対抗手段を捥がれて料理される」
「メテオストームが途中の航路に流れてやがる。デフレクター積んでなかったらミンチになるな」
「そこは心配ない。問題はメテオストーム突破後の奇襲だ」
「出て来たばっかりとこに仕掛けてくるって?」
「俺ならばそうする。突破後にデフレクターの出力を低下させているところに質量弾を撃ち込めば容易くダメージが通る」
「だろうな。そんじゃ、最大速度でメテオストームを突っ切るか」
「それなら奇襲も受けまい」
プランをまとめながら星図のメテオストームの流れを計算させ、その流動的な隕石の波へどの角度で突入するかを綿密に確認して行く。
「突入角度は流れに対して45度。最大船速で突入すれば突入地点とほぼ変わらない位置で突破可能だ」
「オーライ。そんじゃ、俺は先に行くぜ」
そう言ってギリアスは通信を切り、バウンゼィの最大船速を出してゴッゾの上空を突き抜けて行った。
「さて…面倒なことにならねばいいが、な」
遠ざかるバウンゼィのブースター光を目で追いながら、白野は一瞬だけ感じた嫌な予感を振り払うようにゲイケットに指示を下した。
「ユニコーン、最大船速だ。メテオストームに突入する。デフレクター展開準備も同時に行う」
「了解。機関出力上昇開始、デフレクター第一層まで展開」
粛々と仕事を進めてくれるゲイケットの存在をありがたく思いながら、白野は前方に広がる宇宙空間に目を向けた。
今は静謐な宇宙ではあるが、一度戦いが始まれば一気に喧騒が支配することとなるその空間を。
「そういえば…ベクサ星系での紛争が終わったそうだな」
準備を終わらせたゲイケットが白野にそう話題を振った。ベクサ紛争では持ってきた資源で随分と甘い汁を吸ったのである。金蔓のその後くらい知っておいてもいいだろうということである。
「…少々早くないか」
「なんでもルッキオ軍の暴動分子を鎮圧するという名目でエルメッツァ中央政府が動いたらしい。艦隊引き連れて示威行為というやつだ」
「大義名分は整っているというわけか。うまくやったものだな」
「エルメッツァ政府の連中は権力で遊んでないで商売人にでも鞍替えすればいいのだ。あの才覚なら政治なんぞに手を出さずとも一時代作れるだろうに」
皮肉を言いながらも白野の脳内には今後の打算が渦を巻いていた。まず、ユーリ少年との接触案である。
ベクサ紛争が終わった以上次に来ることになるのは此れから行くファズ・マティであろう。そこでならば会えるやも知れぬ。会ってどうするかは考えていなかった。まあお互い0Gドッグである。利害が一致すれば共闘でもなんでもできるだろう。
というか、そろそろ原作云々どうでもよくなってきた。学生の甘い願望は消え去り宇宙を泳ぎ回った歴戦の0Gドッグの感性が今の彼の行動原理である。
力無き者は死ぬ。それが宇宙の掟。
問題は十年くらいすれば宇宙全体が未曾有の危機に見舞われることである。多くの者がふるいにかけられるだろう。果たして人類はどのくらい生き延びることやら。
「まあいい。何時も通りやるだけだ」
誰にも聞かれることなく呟いた白野は、指揮席の操艦ハンドルに軽く触れると瞑目した。
*
惑星ネロ 改装工廠
サウザーン級巡洋艦【バルバロッサ】
ユニコーンやバウンゼィがスイングバイでスルーした惑星ネロの改装工廠では、エルメッツァ正規軍の正式採用巡洋艦サウザーン級が船体の各所に火花を散らせて改装作業を行っていた。
それを工廠のキャットウォークから遠目に見やる少年が一人。
黒い空間服にスークリフブレードを下げたその少年の名は【ユーリ】と言った。
「よお、ユーリ!どうだ、デフレクターは載っけられたか?」
そのユーリ少年の方に歩いてくるぽっちゃりした少年【トーロ・アダ】は火花を散らすバルバロッサを見て「おお、すげえすげえ」と感心する。
「もうすぐできるそうだよ」
「そんじゃ、とっととファズ・マティでバルフォスのヤローをとっちめようぜ!」
意気込むトーロ。ユーリも同じく意気込む。
「そうだね。スカーバレルみたいな海賊は放っておけない。ティータのお兄さんのこともある。必ず倒そう」
「おう!」
二人の少年は語り合う。彼らの未来にはまだまだ無限の沃野が広がっているのである。
続く
後書き
最後にちょっとだけユーリ君を出せた…でもこれはキツイ…
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