ハイスクールD×D 力ある者
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旧校舎のディアボロス
イッセー死す
学校が休みの日曜日。俺――兵藤 一誠は、彼女の夕麻ちゃんとデートしている。
黒歌姉さんの組んでくれた、デートプランにそって楽しんでいた。
……さすが、黒歌姉さん。俺が考えてみたものより、十倍くらい楽しい!夕麻ちゃんもすごく楽しんでくれてるよ…今度、何かお礼でもしようかな。
時間が流れるのは早い。もう夕方の六時をまわり、辺りは夕日に包まれている。
俺たちは、学校帰りに恋人になった公園に来ている。
「……あのぅ、一誠くん?」
ベンチに座ってこっちを見て、ほんのり頬を赤くした夕麻ちゃんが訊いてきた。
「ん、なに?」
自然に返事をした俺。
「……えっと、その…キ…」
「き?」
「…ス…して…ください!」
ん?キスって聞こえたような?
「えっと、勘違いじゃいけないから、もう一回言って」
「えっ!あぅ……キ…キスしてください!!」
「……」
マジで『キス』だったぁぁぁぁ!!!!
天国にいる父さん、母さん、俺…今むちゃ幸せだよ!!
「ダメ…かな?」
顔を盛大に赤くして、涙目で見てくる夕麻ちゃん。
「……っ」
「……っ!!!」
俺は無言で、夕麻ちゃんの唇に俺のそれを軽く押しつけた。
軽く目を開けると、夕麻ちゃんは目を閉じて、嫌がらずに応じてくれた。
その時、俺は頬に何か濡れる感触に気づいた。
…涙?
その時、俺の耳に聞きなれない金属音が聞こえた。
パキンッ!
「そこまでよ、堕天使レイナーレ。イッセーは殺させない!!」
そこにいたのは、夕麻ちゃんの持っている槍(?)に地面から腕と頭を出して、それを握りつぶしている兄さんと……夕麻ちゃんの腕をつかんでいる黒歌姉さんがいた!!
D×D
……あれは、やばい!!
公園の茂みに隠れて様子を見ていた俺と黒歌。イッセーの彼女『天野 夕麻』こと、堕天使『レイナーレ』がキスをしている隙に槍を出現させようとしていた。それに気づいていないイッセー。
それと同時に駆け出す黒歌。俺も『土遁・心中斬首の術』を使い、レイナーレとイッセーの足元まで移動し…使い方が違うが、そこから腕を突き出して槍を――。
パキンッ!
握り潰してやった。
「そこまでよ、堕天使レイナーレ。イッセーは殺させない!!」
直後、レイナーレの腕を握る黒歌。
「なっ!何で……って、どこから腕と顔を出してるんだよ!兄さん!!」
混乱していて、アタフタしているイッセー。
「なっ……」
地面から飛び出す&槍を握り潰されていることに、レイナーレは唖然としていた。
「よっと……」
ブワァァァァ!!
一瞬の砂ぼこりのあと、俺は地面から脱出して二人の目の前に立っている。
「「――っ!!!」」
二人は信じられない光景を目の前にして、声が出なかったようだ。
――と、その時!!
「「……くっ!!」」
ブォッ――ドオォォォォン!!!!
とっさに俺はイッセーを、黒歌はレイナーレを抱きかかえる形で飛び退いた。
目の前のベンチは跡形もなく吹き飛んで、代わりにクレーターができていた。
「……大丈夫か?イッセー」
「……痛っ…大丈夫だよ、兄さん。……夕麻ちゃんは!?」
「こっちも無事よっ!あんたの彼女も一緒にいるわ!!気絶してるけど…」
…どうやら、全員無事なようだ。
クレーターのほうを再度見る。そこには…光の槍が食い込んでいた。
飛んできた方向を見ると、そこには長身の男…黒い翼を生やした堕天使が宙に浮いていた。
「ほぅ、いまのを避けるとは……ただの人間ではないな?」
男は腕を組んで、こっちを見ている。
「おまえは誰にゃ!!」
「おっと失礼。まだ名乗っておりませんでしたね…私はドーナシーク。そこにいる脅威になる少年を殺しにきましたが……感化され、役立たずの堕天使も始末しようかとね」
こいつ……仲間の命まで奪うつもりかっ!
「……上からの命令でしてね。『役に立たなくなれば殺せ』と、申し付けられておりまして」
…何だと!確かドーナシークの上司は…ここにいるレイナーレじゃなかったのか!?
「おまえの上司は誰なんだっ!?」
「これはこれは。一介の人間に答えるつもりはありませんが…先ほど、私の攻撃を避けることができたので…冥土の土産で教えましょう。………名は、コカビエル!」
コ、コカビエルだとっ!!
「それに、先ほどの攻撃は一割も出していません。……これが私の真の姿です」
バサササッ!!
一対二枚の黒い翼が…四対八枚に増えた!?
「……うっ…その翼の数…上級堕天使じゃないの!」
目を覚ましたレイナーレが、目を見開いて驚く。
「はい、確かに私は上級堕天使です。あなたの下につく際、少しばかり騙させてもらいました」
「――っ!!」
言葉も出ないレイナーレ。中級の彼女でも見破れなかったことは、あいつはかなりのやり手になるようだな。
「ん?どうやら、増援が来たみたいですね。こちらと、そちらの……」
…どういうことだ?結界は張ってあったはず――。
「どうもこの娘、人払いしか張ってなかったようね」
目の前にいる黒歌が教えてくれる。
「……ということは、白音たちも来るのか?」
「そうね。カミュと白音、花楓の気を感じるわ…龍巳は来ないみたいだけど」
気を操る猫又の黒歌。素の状態でも結構感知できるようになったんだな。
…と、その時!
「まだ…攻撃は終わっていませんよ?」
ヒュンッ!
立ち上がれないレイナーレに向けて、ドーナシークは光の槍を投げた!
「クソッ!間にあわ――」
ダッ――。
その瞬間に、俺の手元からイッセーがレイナーレに向けて走り出していた!
ザシュッ!
俺と黒歌、レイナーレは目の前で起きている光景を認識できなかった。
「……ハハ。兄さんが助けてくれたのに、結局死ぬんだな…俺……でも、大事な夕麻ちゃんを守れて本当に……」
バサッ!
その倒れる音と共に、俺たちの意識が引き戻された。
「「――っ!!イッセー」」
俺と黒歌は急いでイッセーのもとに駆け寄る。
「う、嘘……一誠くん?一誠くん!!」
レイナーレもどうしたらいいか判らず、イッセーを仰向けにして光の槍を抜く。
「しっかりしろ!イッセー!」
「しっかりするのよ!」
俺は急いで手当に移る。
「間にあえよっ!創造再生!!」
ブゥゥゥゥン!!
ポッカリ空いたイッセーの腹に術をかけ、細胞組織を再生させる。
「「レイナーレさまっ!」」
空中から二人の女性の声が聞こえる。呼んでいる名前からして、堕天使だろう。
その堕天使がレイナーレの横に着地した。
「レイナーレさま、ご無事ですか?」
「えぇ、私は無事よ。でも……」
「この子は……」
二人の堕天使が治療中のイッセーを見る。
「そうなの…でも、私はその計画を破棄したわ。いまは……」
レイナーレがドーナシークを見上げると、二人の堕天使もドーナシークを見上げた。
「「っ!!ドーナシーク!!」」
「そうです。私がレイナーレを殺そうとしました…しかし、そこの目 標だった少年が楯となり、身代りとなりました」
それを聞いた二人は、またイッセーを見る。
ものすごい心境だろうな。殺そうとした少年に守られたなんて…皮肉としか言えないな。
ブゥゥゥゥゥゥゥン!!!
「クソッ!なぜ塞がらないんだ!!」
治癒を始めて二分が経過していた。しかし、イッセーの腹部の傷は一向に塞がらない。
「お兄ちゃん!イッセーくん!黒歌さん!無事!?」
「遅くなってすみませ――」
花楓と白音も駆けつけてきた。白音が気を感じ取ったんだろう。
「……っ!!イッセー兄さま!しっかりしてください!誰がこんなことを……!!」
「私だよ。愚かな人間だ…そこにいる堕天使を守ろうと身代りになるとは」
その言葉に――白音がキレた!
「――っ!!よくも!よくもイッセー兄さまを!!」
「やめろ、白音!あんな奴の挑発にのるんじゃない…いまは、イッセーを助けることが最優先だ!」
「…わかりました。龍介お兄さま」
俺はカミュに言った。
「カミュ!俺たちが回復させる間、守ってくれ!」
「わかっておる!!」
カミュは俺たちの前に立ち、紅蓮の炎をもらしていた。
白音はイッセーの右側に座ると、猫耳と尻尾を生やして手を握る。黒歌はとっくに左側でしていた……気を使った治療だ。自然治癒力を高めるため、気をイッセーに流し込んでいる。
しかし、一向に穴が塞がらない。徐々にだが、塞がってきているものの…。
「くっ、出血が多すぎる!このままだと…ショックを起こすぞ!!」
――その時だった。イッセーが最後の力を振り絞り、声を出す。
「……もういいよ。兄さん、黒歌姉さん、白音ちゃん、花楓ちゃん。これ以上したら、ゲホッ…力使い果たしちゃうよ。……思い出したんだ、十一年前のこと……兄さんだよね?あのとき、記憶を消したのは、兄さんの善意だったんだね。その力を使って…ゲホッゲホッ」
「もうしゃべるな!」
俺はイッセーを黙らせようと、怒鳴った。だが、イッセーは話を続けた。
「……ううん、言わせてほしい……ありがとう、兄さん。一緒にいられた時間は少なかったけど……楽しかったよ。……白音ちゃん、ごめんね。白音ちゃんの気持ちわかっていて………その、気づいてないふりしていてごめん」
「……気にしないでください。もう怒ったりしてませんから」
「……優しい白音ちゃんでよかったよ。……黒歌姉さん…ゲホッ……いつも弁当作ってくれてありがとう。……食事は、ほとんど黒歌姉さんに任せてた……」
「いいのよ、イッセー。また作ってあげるから」
「……そうだな…兄さんのと比べて食べてみたいな。……花楓ちゃん、短い間だったけど、すごく楽しかった。前世の話、もっと聞きたかったなぁ」
「……はい。家に帰ったら、皆に話しましょう。お兄ちゃんの赤裸々な過去など」
「……興味深そう、兄さんの過去。……カミュ…父さんと母さんが亡くなってから、ずっとそばにいてくれてありがとう」
「ううん、私こそ…心の穴を埋めてくれたのはイッセーよ。…ありがとう」
「…初めて『ありがとう』って、カミュから言われたな……ゲホッ…あと、ここにいない龍巳によろしく…ゲホッゲホッ……頼みます、兄さん。十二年間楽しかったって……夕麻ちゃん…デート楽しかったよ。また行きたいよ……それとゴメンね。…ゲホッ……あのデートコース、黒歌姉さんに考えてもらったやつなんだ…」
「…何となくだけど、そんな感じだったわ。でも、とても楽しかった。ありがとう」
「……よかった。これ言ったら、すごく…怒られるかと思った。…ゲホッゲホッ……」
イッセーが先ほど駆けつけた堕天使を見ると、その堕天使は口を開いた。
「私はカラワーナ。こっちはミッテルトだ」
「…ありがとうございます。カラワーナさん、ミッテルトさん…ゲホッゲホッ……夕麻ちゃんが一人にならないように…ずっと、そばにいてあげてください。…ゲホッゲホッゲホッ…」
「わかってるわよっ!ウチらは…ずっと一緒にいるから……」
「…よかった…ゲホッゲホッ……俺は皆に見守られて、父さんと母さんのところに逝けるよ。ゲホッゲホッゲホッゲホッ…楽しかった。この…十……な…ん…………――――」
イッセーの手から、力がスーと抜けていく…。目も閉じ、苦しみのない安らかな顔だった。
「イッセー!帰ろう!!俺たちのマイホームへ!!」
「イッセー!!」
「イッセーさん!」
「イッセー!」
「イッセー兄さま!」
「イッセーくん!」
「「………」」
イッセーの目は…もう、二度と開かない。死んだんだ……この世から。
「イッセーの仇を取りに行く」
「花楓も行くよ!お兄ちゃん」
俺と花楓はドーナシークの前に立つ。
「ダメよ!」
「皆は、そこから動かないでくれ。もし、巻き込むようなことがあったら、イッセーに顔を見せられないから」
俺は黒歌の制止を振り切り、ドーナシークに言う。
「…ドーナシーク。おまえはミスをした」
「…どういうことでしょうか?」
「治療中に攻撃をしなかったことだ。高みの見物をしていたことで、おまえは命を落とす」
「そうですか。なら、それを実現してもらいましょうか?」
唐突に花楓が俺の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん、花楓がこのまえ言った『至れるには?』って、覚えてる?」
「あぁ、覚えている。いまがそのときみたいだ」
「花楓もそうみたい。内の二人がそう言ってた」
「そうか。なら、一緒に至るか?」
「そうだね。転生兄妹の力…あの堕天使に見せようよ!」
「あぁ。いくぞ?花楓」
「うん。いいよ」
「「禁 手 化ッッ!!!!」」
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