アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
52話
「あ、マキナ起きた?」
目が覚めるとイザナミが隣にいた。どうやら俺より早くにハンニバルの方を終わらせたらしいな。とりあえずジルの方はオラクル細胞の侵食は止まったようだし、苦しんでいる様子も無く成功したのだろう。
イザナミは別段疲れた様子もなく、むしろ嬉しそうな笑顔すら浮かべている。そして、その後ろにハンニバルが正座して……い……る?
「は、はじめまして、マキナさん!!僕、レオナルド・アンダーソンっていいます、レオって呼んでください」
……ん?あ、ああ、そうかハンニバルが喋ったのか。意識やらは取り戻せても姿は元に戻らないんだったな……ってことはレオと名乗った彼がジルの弟なんだろうな。しかし、あの物騒なハンニバルから少年の声が聞こえてくるというのは違和感以外のなにものでもない。
「レオ、マキナさんじゃないでしょ?」
イザナミがレオに嗜めるような口調でそう言うとレオはしまったというような表情を浮かべて……っていや、表情ではなく動きなんだがな。なんというかハンニバルが人間のように感情を持って反応するというのは慣れない。
「ごめんなさい、お母さん。お父さんって呼ばなきゃダメだったよね」
「ちょっと待ってくれ」
今、変な単語が聞こえたぞ?
「いやーこの子達を引き取ろうと思うんだけど、いいかな?」
……本当にちょっと待ってくれないか。状況が全く読めないんだ。
「う……ううん……」
ちょうどいいタイミングでジルが目を覚ました。これで一旦場の空気をリセットできると考えた直後、イザナミがジルの両肩を掴んでこう言った。
「ねぇ、私達の娘にならないかな?」
「はい?」
うん、結局のところどう足掻いてもイザナミはイザナミのままだと実感できたな。
「で、状況を整理するとジルとレオはマグノリア・コンパスって孤児院のような場所で暮らして、ゴッドイーターとしての適合試験時にマグノリア・コンパスの所有者でもあり、お前らの母親代わりだったラケル・クラウディウスに何かしらの細工をされてアラガミ化。その後、見たことも無いアラガミに襲われていたところをレオがジルを抱えて逃げ出したってことだな?」
「はい……」
レオは悲しげに項垂れながら返事をする。確かにたかだか12歳にして人としてまともな人生がおくれなくなり、信用していた相手に裏切られたのだから落ち込むのも当然か。
「それで、イザナミはレオとジルを可哀想に思ったから引き取りたいと……」
「そういうこと、ダメかな?」
「ダメ以前に母親代わりに裏切られて殺されそうになったレオやジルが、素性も知れないアラガミの夫婦の養子になることを望むかって話じゃないのか?」
「あ、あの、僕は構いません。イザナ、じゃなくてお母さんはそういう事をしない人だって分かってるから……」
その口振りから察するにイザナミがレオに心を読ませて信頼を得たってところか。確かに俺達はレオ達をどうこうするつもりはないので見せたところで困ることはないし、もはや原作知識も朧げなものなので大した問題じゃない。
「だが、ジルはどうする?お前は納得できているのか?」
先ほどまでずっと口を閉じていたジルに問いかける。
「そうですね……マキナさんの事は信用していますし、アラガミであるお二方にとって一部アラガミ化しただけの人間である私達に利用価値があるとは思えません。私達にはさしたる価値はない、その上で引き取りたいというなら断る理由もありません。それに……」
一旦言葉を切って、自分の腕とレオの姿を見てから自嘲気味な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「こんな姿ではどうやったって普通には生きられませんから」
確かにジル言う通りなのだが、そんな風に言われてしまうとこちらとしても引き取らざるを得ないというか、こんな状態で助けてしまったという責任を感じずにはいられない。
「どうかな、マキナ?」
「分かった、ここで断れる程冷たい人間でもないから引き取ることには何も言わないし賛成しよう」
そもそも、こんな場の空気の中断れる奴はそういないだろう。
「おや?こんな可愛らしい少女と人懐こい素直な少年を引き取るというのに随分な態度ですね?」
「ね、姉さん!?お父さんに失礼だよ!!」
「いや、レオ……ジルはこういう性格だってのは助けた時に理解してるつもりだからいいんだ。それと可愛らしいと言っても喋らなければってのが付くってのを自覚しろ、ジル」
すると、ジルは意地の悪そうな笑みを浮かべて、
「私が可愛らしいというのは否定しないんですか?」
「俺の価値観においてイザナミには劣るって前置きが付くけどな」
「……親の惚気程うんざりするものはないという知識を得ましたよ」
「……言わないでくれ、俺自身さっきのは地雷だって言ってから気がついたから」
「えっと……夫婦仲がいいのはいい事だよ、お父さん?」
「レオ、フォローは有難いがちょいズレてるからな?」
そんなやりとりを見ていたイザナミは楽しそうにな笑みを浮かべながら、黒い腕でレオとジルを抱き寄せた。
「こういうのを家族って言うんだね」
「え、ええ、そうらしいですよイザナミさん」
「こら、イザナミさんじゃなくて?」
イザナミはジルに向かって少し頬を膨らませて嗜める。とはいえ、ジルも母と呼ぶには少なからず抵抗があるようで言い淀むばかりだ。
「姉さん、ちゃんと言わなきゃダメだよ?」
しかし、弟であるレオにまっd言われた事で諦めがついたようだ。
「はぁ、レオにまで言われるなんて……ごめんなさい、お母様」
顔を真っ赤にしていうとジルはそれきり黙り込んでしまったが、イザナミはジルの頭を撫でながら嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
少し前までのイザナミであればあり得ない事だったんだろうが、イザナミも精神的に成長しているという事なのだろう。それは言うまでもなく歓迎することであり、俺が彼女に望んでいた事だ。
まだ親としての実感などなに一つ抱いていない俺よりも、彼女の方が母親としての自覚を少しづつだが持ち始めている。そう考えると、俺もこいつらを自分の子供として受け入れられるように努力を払わなければな。
「ところでさ、レオ?」
「どうしたの、お母さん?」
イザナミがレオの頭を撫でながら、ふと彼女は何かを思いついたように声をかけた。
「少し外見変えない?その姿だとは間違えられそうじゃない?」
「うん……正直アラガミに襲われるよりゴッドイーターに襲われる方が怖いよ。アラガミなら……戦う気はあるけど人殺しは絶対に嫌だ」
ふむ……確かにレオは外見だけ見れば間違いなくハンニバルなので、アラガミから襲われるよりゴッドイーターに狙われる方が多いだろう。しかもハンニバルはまだ発見されていない種なので、新種としてゴッドイーターに狙われるのは目に見えている。
どうしようもない状況になれば俺かイザナミがゴッドイーターを殺すことになるだろうが、それは間違いなく最悪の手段だろう。それだけはなんとしても避けたい。
「ジルもいいかな?」
「ええ、無茶なことはしないという前提なら」
「うん、それなら大丈夫。家族は大事にしなくちゃね!!」
イザナミは俺の前に立つと手を差し出して、
「マキナ、男神のオラクル細胞だして」
「ん?ああ、そういうことか……」
男神を何の為に保存していたのかを知っている俺としては、イザナミの言わんとする言葉の意味が分かった。少々オーバーテクノロジー気味だが、これなら誤魔化すのも少しは楽になるだろうな。
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