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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos36とある少年のハッピーバースデー~Interval 5~

†††Sideルシリオン†††

慌ただしかった12月、それぞれの将来を考えその道を選択した1月も過ぎ、今日は2月の4日。俺は今、本局は捜査部・特別技能捜査課のオフィスに居る。八神家は配属手続きを終えたその翌日から研修生として特別技能捜査課のメンバーに付いて事件現場へと赴いて勉強だ。そしてなのは達は、それぞれ士官学校に通いながらも日常である聖祥小に通うという荒行寸前の生活をしている。
彼女たちと近況報告をし合っていて、なのはとアリサは色々学べて嬉しい、フェイトはそんななのは達と一緒に居られることが嬉しいと言っていた。そしてすずかは、なのは達とは別の技術者の士官学校に通いながら、マリエル技術官やスカリエッティを師事して頑張っている。俺たちの中で一番忙しいかも知れないな。ミッドの技術士官学校、本局の技術部、聖祥小&自宅と移動しなければならない。だから・・・

「あぅ~、気持ち良いぃ~~~♪」

「本当にお疲れ様だ、すずか。これからドクター・スカリエッティの第零技術部へ行くんだろ。倒れないか心配だぞ?」

オフィスの応接区画のソファを借りて、そこにうつ伏せに寝かせたすずかの全身に手を翳して治癒魔法コード・ラファエルを掛ける。ラファエルは傷の治療、状態異常を引き起こす付加術式の解呪などの効果を持つ。そのどれにも該当しない状態でのラファエルは、身体・精神の疲労回復となる。これなら無茶をしているすずかを守れるだろう。

「ごめんね、ルシル君。お仕事中に」

「すずかが倒れるよりはマシだよ」

すまなさそうに目を伏せるすずかの横顔を見下ろしながら微笑んでみせる。すずかに限らず彼女たちの誰かひとりでも倒れでもしたら大事になる。それを防ぐことが出来るのなら何も問題はない。むしろ「見捨てるのもどうかと思うし」俺の考えを代弁したセリフが俺の背後から掛けられた。

「「マーヴ二尉」」

俺の勉強(元一佐まで上り詰めた俺にとっては復習程度だが)を手伝ってくれていたエレフテリア・マーヴ二等陸尉が、ヒラヒラと片手を振りながら俺たちの元へとやって来た。なのはと同じ栗色をしたセミロングの髪を俺のようにうなじで結った女性で、特別技能捜査課のナンバー4。そんな彼女は優しさを湛えた青い瞳で俺とすずかを見ている。

「ルシル君は本当に頭が良くて捜査のノウハウを瞬時に呑み込んでくれるから、逆に時間が余りそうだったから何も問題ないよ。ふふ。この課に配属してくれて助かるよ。戦力的にも色々と」

エレフテリア二尉や他のメンバーの捜査に付いていくと、時には戦闘になる場合もある。というより幾度もあった。その際は俺やシグナム、ヴィータで魔導犯罪者たちを何人も潰したため、すでに重宝され始めている。

「ルシル君。すずかちゃんの回復が終わったら昼食にしましょう。お姉さんが2人に奢るよ」

そう言って離れて行くエレフテリア二尉に俺とすずかは「ごちそうになります!」そう応え、すずかの回復を続ける。そんな中「みんなも頑張ってるんだね。私も負けてられないな♪」すずかが新たに意を決した。

「だからと言って無理はダメだぞ。先週、風呂で水死しかけたって大騒ぎだったじゃないか」

俺たちの中で一番忙しいすずかは当然の如く寝不足となり、聖祥小が休みの日には下宿するシャルの家(俺たち八神家は4月まで下宿することになっている)の大浴場で溺れかけた。同じように休日はシャルの家に下宿するなのは達も一緒に入っていたから最悪なことは起きなかったが、もし自宅だった場合は・・・想像したくもない。

「うぅ、倒れないように頑張ります・・・!」

「十分頑張っているじゃないか、すずか。すでに自分やなのは達のデバイスを看られるレベルまでのスキルを得たって話じゃないか」

「う~ん、看ることが出来るだけで直すことは出来ないから、まだ何も出来ないと同じだよ。それに比べてはやてちゃんは、ミミルさんと一緒に融合騎――リインフォースⅡちゃんを開発してる・・・。なんていうか負けた気分で・・・」

そう。はやては研修が休みの日にはミッドはベルカ自治区サンクト=オルフェンへと出向き、融合騎技術者のミミルの元を訪れ、リインフォースⅡの開発を手伝っている、というよりはミミルが教授しながら手伝いをしているといった感じか。はやてが主任となったことで開発速度がガクッと落ちただろうが、それでもはやてとリインフォースの意思だ。何も言うまい。

「焦らなくても良いさ、すずか。時間はたくさんある。それに、はやての場合はあくまでリインフォースⅡの開発だけ。デバイスマイスターを目指すすずかとはまた別だ。自分の道をしっかりと見据え、一歩一歩確実に進んで行けば、今の努力は報われるよ」

頑張りを労うためにすずかの頭を撫でると、「うん。ありがとう。・・・ふふ」彼女が小さく笑ったから、「どうかしたか?」と訊く。血行が良くなったことで頬に赤みが増しているすずかの横顔が魅力的な笑みに変わる。

「ルシル君ってなんだかお兄ちゃんみたいだな、って。誕生日で言えば私の方が早いのに。それでも・・・もしお兄ちゃんが居たら、ルシル君のように励ましてくれたり助言してくれたりするのかな、って。ふふふ♪」

「お兄ちゃんかぁ~。・・・呼んでみるか?」

「ええっ? えっと、その・・・」

からかうつもりでそう言ったらすずかはさらに顔を赤くして言い淀み・・・「あ」そう漏らした。すずかの視線を追ってみると、「何してんの?」両手を腰に置いての仁王立ちをして、半眼で俺やすずかを見下ろしているシャルと視線が合った。そのシャルの背後にはブロンドのセミロングの髪を靡かせている女性が居た。

「あ、お疲れ様です、フィオーレ三尉」

「お疲れ様です、ルシル君。いらっしゃい、すずかさん」

シャルの研修教官を務めるフィオーレ・マクス・ミッシール三等陸尉だ。俺たち八神家も一度フィオーレ三尉に付いて捜査現場を訪れ、そして犯人を捕まえたこともある。その時にフィオーレ三尉のレアスキルを見たが・・・。見た瞬間、大戦時に名を馳せた魔術師を思い出した。プリムス・バラクーダ・ウトガルド。あの子のあの魔術を・・・。ま、偶然だろうがな。

「お邪魔しています!」

レアスキルや固有スキル保有者は、上級キャリアなどの昇級試験において特別措置が受けられる。早い話が未保有者より試験に受かりやすくなっている。ゆえにエリート思考の持ち主も多く、スキル未保有者を見下す奴も居る。
とある契約にて管理局のような組織、能力者・未能力者を抱えた軍部に就いた時は酷い差別があったものだ。まぁ、そう言った連中は、粛清の権限を持っていた俺が張り倒ししてやったが。
話が逸れたが、そう言ったエリート集団である特別技能捜査課のメンバーにはそう言った感情はない。誰もが等しく管理局に務める仲間として見ている。だからこの1ヵ月で出会った部外者とも言うべきなのは達みんなに対して本当に優しく接してくれている。

「お疲れ、エレフ」

「お疲れ、フィオ。これからお昼だけど、一緒にどう?」

「ごめん。お弁当持参だから」

「さっすが将来の夢がお嫁さ――」

「わあわあわあわあ!!」

エレフテリア二尉とフィオーレ三尉の喧騒(じゃれ合い)をBGMにすずかの回復を続けながら、「ルシルぅ~、わたしも疲れたぁ~」と俺の右肩に頬ずりしてくるシャルに「ちょっと邪魔」と軽く注意。

「ひどい! わたしだって執務官補と捜査官の二足のなんとかなのに!」

「二足の草鞋だよ、シャルちゃん」

「そう、それ!」

シャルはクロノの執務官補佐を続けながら捜査官の研修生をしている。4月になれば正式に次元航行部から特別技能捜査課へと転属となる。それまでは二足の草鞋が続く。確かに疲労度から言えばすずかと同程度か。
一応、執務官補の試験をパスしているため捜査官としては俺やはやて達よりは先輩だが、それでも捜査の経験――ノウハウが足りていないため、先輩特別捜査官であるフィオーレ三尉に付いて現場で捜査を学んでいる。

「よし、完了だ、すずか」

「ありがとう、ルシル君。心も体もスッキリだよ♪」

体を起こしたすずかはソファから立ち上がり、ソファに掛けられていた局の制服(うわぎ)に袖を通す。ちなみに俺も制服を着ている。色は茶。これが基本的な管理局員の制服の色。研修生は配属が次元航行隊であろうと先ずはこの茶の制服を着ることになっている。だからシャルも今は青ではなく茶の制服だ。執務官補と研修生、その時どちらに就いているかで着替えている。

「ず~る~い~、ず~る~い~、わ~た~し~も~~~」

「ああもう、判った、判った。ほら、上着を脱いで座れ」

「やった♪」

上着を脱がせてブラウスを露わにさせたシャルをソファに座らせる。そして「ほら、これでいいだろ?」両肩を揉みながらラファエルを発動すると、「ふわっ!?」 シャルが変な声を上げた。というかプニプニだなぁ、思った以上に。やはり騎士でも女の子、か。女の子特有の柔らかさが手に伝わって来る。

「おおう・・・これは効くぅ~~~。すずかぁ~、これ良いねぇ~~❤」

「あ、うん。疲労が全部飛ぶから、ちょっとの無茶も出来るんだよね」

「だからと言って無茶はしないように」

「「はーい♪」」

シャルの背後に居るから彼女の表情は判らないが、シャルと向かい合っているすずかが笑顔である以上、彼女もまた笑顔なんだろうな。

「あ、そうそう、ルシル。明日のあなたのバースデーパーティ、リンディ艦長たちも参加するからね~」

はやてやシャルがこれ見よがしに俺の誕生日当日の予定を何度も確認して来るから、サプライズも何もない。ま、そのおかげで俺は本当の誕生日を忘れることもないだろう。

「ねえ、ルシル。会場をなんで本局のレクリエーション区画の多目的野外ステージにしたの? 確かにあそこは広いし許可を取れば局員の誰もが使用可能。一般人も入れるし、よく局員同士の結婚式場としても使える。でもさ、どうせならわたしの家でやろうよ。今日明日となのは達も下宿するし、ルシル達も帰って来るんだし」

確かにシャルの家ならその広さも十分あるし、私有地であり持家であるし、大騒ぎをしても問題ないだろう。が、「それじゃつまらないだろ?」そう言いつつ肘を使ってぐりぐりと肩をマッサージ。

「おわわわわ。き、効くぅ~~~」

「つまらない、ってどういう・・・?」

すずかの疑問に「それは明日の秘密だ」とウィンク。俺が、俺を祝ってくれるはやて達にサプライズだ。いい機会だ。先月の罰ゲームも執行させてもらおう。なぁに、ただ恥ずかしい思いをするだけじゃない。上手く行けば面白い結果になるぞ。

「ルシル君、何か企んでるよね・・・?」

「判るか?」

「なんとなく。ルシル君との顔合わせの回数、はやてちゃん、シャルちゃんに続いて多いから。こうして直接会ってお話しすることも多いし。だからかな、ルシル君の考えてること、ちょっとだけ判るよ」

そう言って微笑むすずか。どうも最近の俺は考えがよく顔に出るようになってしまっているようだ。よくない傾向だ。隠し事や嘘が下手になるにつれて俺の立場が悪くなる。気を引き締めて今後も過ごさないとな。あぁ、気が重い。

「・・・よし。もう大丈夫だろ? シャル」

「ふわぁ、気持ち良かったぁ~。これ、ホントに体も心もスッキリするね!」

満足そうに腕を、首を回すシャル。すずかとシャルの回復も終え、俺とすずか、そしてシャルは、エレフテリア二尉に昼食を奢ってもらう。それにしても本当に俺は運が良い。権威の円卓メンバーのガアプ一佐を始めとした特別技能捜査課のメンバー全員が人格的にも素晴らしい局員だ。この1ヵ月、直に話をして判った。彼女やこの課になら八神家を預けられる。

(安心できる仮宿の他に、メンバーのレア・固有スキルを全て複製し、手に入れることが出来た。これは大きな収穫だ)

メンバー全員が魔導師ランクA以上であり何らかのスキルを有する。そこに総合Sランクのはやて、固有スキル・蒐集行使。空戦S+ランクの俺、固有スキル・複製、そして八神家全員が有しているレアスキル・古代ベルカ式魔法が加わるわけだ。脅威対策室で編成される特務部隊並に強力だな、改めて考えてみると。
そうして俺たちは昼食を終え、オフィスへ戻るエレフテリア二尉、第零技術部へ向かうすずかと別れ、シャルと2人きりになる。

「そう言えば、オフィスに戻る時に廊下でシグナムとヴィータと会ったよ。ヴィータがマスコット扱いされてた」

契約通りにはやて不在の際はシグナムとヴィータは航空武装隊へ、シャマルは医務局へ出向するため、俺たちは今日それぞれ別行動だ。それでも研修生ということで下手な残業もなしであるため、家族そろってシャルの家に帰ることが出来る。

「まぁ、あの小ささだからな、ヴィータは。はやても抱き心地が最高だっていうくらいだ。現在局に就いている局員の中で最年少じゃないか? 外見上は8歳だし」

「それを言ったらルシルもでしょ? 身長は別として」

「・・・・あ」

いま気付いた。確かに戸籍上は8歳だ。あのヴィータの外見設定と同じ年齢だ。誕生日は忘れなくなったとしても自分の年齢を忘れてしまう。ヴィータと一緒。なんか変な汗をかいてきた。そんな時、「シャル、ルシル!」俺たちの名前を呼ばれた。
振り向いて見ると、そこにはトレイに昼食を乗せた「ユーノ」がこちらに向かって歩いて来ていた。ユーノは無限書庫司書という本局勤めとしては先輩で、本局勤めになってからのこの1ヵ月でよく話すようになった。あぁ、素晴らしき哉、男友達。

「明日のルシルのバースデーパーティだけど、正午から13時までの1時間だったよね?」

「そうだよ。明日も仕事入ってるし。その1時間だけが勢揃い出来るんだよ」

「僕もその時間だけ無限書庫を空けていいって司書長が言ってくれたから、僕も参加できるよ、ルシル」

「ああ。ありがとう、ユーノ」

俺たち全員の時間を合わせ、そして会場を手配したのもリンディ提督だ。そんなリンディ提督と俺、エイミィの3人である結託をしている。俺にとってアリサ達に罰ゲームを下す場であり、リンディ提督やエイミィとってなのは達への歓迎の場である、俺のバースデーパーティ。さぁ、明日は頑張ってくれ、みんな。



そして日は明けて2月5日。俺の誕生日となった。俺の誕生日を祝うために用意されたのは、本局員がオフを過ごすことの出来るレクリエーションエリアの中に有る多目的野外ステージ。公園のような憩いの場所で、ほぼ全域に芝生が敷かれている。
俺たち八神家が来たころにはほとんどの準備が終わっていた。並べられた長テーブル、その上に乗るのは半球状の蓋に閉ざされた大皿の数々。唯一土が出ているところにはバーベキューコンロとその周囲には食材。

「お、来た、来た。待ってたよ~、主役~♪」

エイミィが大手を振って俺たちを迎えてくれた。側には制服姿のフェイトと私服姿のアリシア、アルフ、そしてクロノ、ユーノの姿がある。フェイト達と合流すると「誕生日おめでとう!」祝いの言葉を贈ってくれたから「ありがとう」と笑顔で受け取る。

「しかし母さんもどうしてここでルシルのバースデーパーティを決行しようとしたんだろうな。何か知っているか? エイミィ」

「い、いやぁ、知らない、かなぁ・・・あはは」

誤魔化し方が酷いぞ、エイミィ。念話で注意しようにもエイミィは魔力保有者――魔導師じゃないため出来ない。そんなエイミィの様子に「そうか」と頷きながらも訝しんでいるクロノ。どうフォローしようかと考えていたところに「お待たせー!」なのは、アリサ、すずか、シャルの4人が駆け寄って来た。

「「お誕生日おめでとう、ルシル君!」」

「おめでとう、ルシル」

「ありがとう、なのは、すずか、アリサ」

「ルシルぅー! プレゼント・フォー・ユー❤」

なのはやすずか、アリサからの祝いの言葉、そしてシャルの突撃からのキス攻撃をスッと半歩分だけ横移動して回避。ズザザと芝生を滑る音が背後から聞こえ、「ホワイ!?」とか言って詰め寄って来た。

「ホワイも何も、そんな重いプレゼントなんて要らない。普通に祝いの言葉で十分だ」

それに、今でも若干不機嫌そうなはやてだ、もし受け取っていたら本日のテンションは終日最低を維持するだろう。それだけは阻止しなければ。で、はやてのテンションに影響を及ぼそうとしていたシャルは「チッ」とみんなには聞こえない程に小さく舌打ち。頼むからマセた身体接触行為はやめてほしい。

「はーい、みんなー。ちょっと早いけど、ルシル君のバースデーパーティ、は~じめ~るよ~~♪」

エイミィの開会の合図で、俺のバースデーパーティは幕を切った。すでに並べられていた料理を、それぞれ受け皿によそっての立食パーティ。まずリンディ提督とエイミィの狙い通りに、「なに、立食パーティ?」「みんな小さーい」「制服ってことはなに、局員?」「新入り?」などなど、おそらく俺も含めた子供たちを見て様々な反応を示している。

「なんや目立っとるなぁ、わたしら」

「そうですね。僅かに聞こえる話し声からして、主はやてやルシル、なのは達の小ささ、そして管理局の制服を着ていることに対する驚きのようです」

「あたしだってこんなナリの所為か、研修先の航空隊の中じゃマスコット扱いでさ。嫌ってわけじゃねぇんだけど、ベッタリされ続けんのはちょっと疲れる・・・。シグナムはシグナムでこの1ヵ月、男女関係なく色々誘われてっし」

「女性隊員からは昼食を、男性隊員からは・・・逢引を。まったく。食事くらいなら受けるが、逢引など何度断っても誘ってくる輩も居る。困ったものだ」

「シグナムは美人だから。誘われて当然かもしれないなぁ~。なぁ? はやて」

「うん。ルシル君の言う通りや。シグナムはただの美人さんだけやなくて騎士ってカッコええから。わたしかてそんなシグナムに惚れてるんやもん。男の人はなおさらや」

「っ! あ、う、その、あ、ありがとうございます、主はやて・・・」

はやてにべた褒めされたシグナムは珍しく顔を赤くし、下宿先のシャルの家では聞いたことのない話を聞けたとはやては満足気だ。そしてヴィータのフリに流されるまま隠していたことを自ら話したことに気付いたシグナムは「忘れてください」と俯くのみ。別に隠さずともいいだろうに。逆に胸を張れる話じゃないか、人気を得たと。

「シャマルはなんか隠し事とかしてへんか?」

「私ですか?・・・これまでにお話ししたことが全て、でしょうか・・・。私も男性から食事に誘われることはありましたけど、1対1での食事の誘いは断ってます」

シャマルも医務局での仕事の際、男の患者から誘われているそうだが、2人きりの場合は断り、数人での食事会なら受けている。とは言え、あくまで昼食のみ。朝と夜はシャルの家で、家族みんなで摂るからだ。

「シグナムやヴィータだけやなくてシャマルも人気者で、家族としてホンマ鼻が高いわぁ~♪」

はやてやリインフォースもまたベルカ自治区サンクト=オルフェンの技術開発室では人気者だという。それだけではなくはやては――というより俺たち八神家は、騎士カリムを始めとした聖王教会の一部とも懇意にしている。確実にコネクションを築いていっている。

「それにしても見学客が増えてきたな」

リインフォースが周囲をチラリと確認しながら呟いた。クロノとエイミィが焼いている食材の香りに釣られる者、パーティ参加者の見た目に釣られる者、理由は様々だが人だかりが出来始めていた。うん、順調だ。チラッとエイミィに視線を送ると、彼女と目が合って・・・。

(そろそろだ、エイミィ)

(うん、そろそろだね、ルシル君!)

アイコンタクトして頷き合う。まぁ、↑の思考は俺の想像で、実際のエイミィはどう考えているかは判らないが。だがキラキラ目を輝かせている以上は明らかにノっている。あとは、「お待たせ~!」お待ちかねのリンディ提督が合流だ。リンディ提督はキャスター付きのワゴンを押し、料理の追加を運んで来てくれた。彼女の側にはアースラの女性(年齢的にはまだまだ少女だけど)スタッフが4人居て、その娘たちもまたワゴンを押して来ていた。

『ルシル君。人目も十分集まって来たことですし、そろそろ・・・始めましょうか♪』

『了解です!』

リンディ提督と念話を繋げる。コクリと頷き合った後、俺は「ちょっと席を外すよ」とはやて達に一言断ってからステージ裏へダッシュ。ステージの上手袖より舞台裏へと上がる。このステージは多目的利用施設であるため、「スピーカーにマイク、それにミキサーもクリア」ミキサーは空間モニタータイプ。操作方法を表示するモニターを展開しようとしていたら、「ハーイ」背後から声を掛けられた。

「ニコレッタ三尉。どうして・・・?」

特別技能捜査課のニコレッタ・クロス三等空尉。紫色のロングストレートヘア、チョコレートブランの瞳を有す、対空戦魔導師戦では敵味方関係なく脅威となるレアスキルの持ち主。そんな彼女が「ハラオウン提督にお願いされてね」と、手慣れた様子で操作していく。

「ハラオウン提督から貰った楽曲データ、どの順で流せばいい?」

「えっと・・・、こういう風に・・・でお願いします」

「ん。じゃあ・・・悪巧みしておいで・・・?」

ポイッと放り投げられたマイクをパシッと受け取り「してきます!」と応じてステージに立つ。マイクをONにして、「えー、本日は俺の為にこんな素敵なバースデーパーティを開いてくれてありがとう!」一礼する。

「何やってんのよ、そんなところで?」

「なになに? ルシル、マイクパフォーマンスでもするの?」

アリサやアリシアは真っ先に反応。はやてやなのは達は「おーい!」と大手を振ってくれている。でも、ごめんな。その笑顔、もしかしたら途絶えるかもしれない。だからと言ってもう中止には出来ないけどさ。
見学者の視線が確実に俺たちに向いたのを確認して、「はやて、なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、シャル。ステージへどうぞ」と彼女たちをステージに招待する。「なになに?」と取り皿をテーブルに置いてステージに上がって来る彼女たち。

「これからみんなにはこのステージで歌ってもらいます」

「「「「「「「・・・・えええええええ!!?」」」」」」」

「いきなり何を言い出すんや、ルシル君!」

「ちょっ、待ちなさいよ!」

「考え直せないかな、ルシル君!」

「む、無理、私は無理だよ!」

「私たちだけならいいけど、他の局員さんたちが見ている中で歌うなんて・・・!」

「ただでさえ目立っていたのに、今そんなことしたら・・・!」

「まるで罰ゲーム!」

はやて、アリサ、すずか、なのは、フェイト、シャル、そして最後にアリシアがそう言った後、「ハッ!」彼女たちは理解したようだ。

「そう。これが先月、正月に行った小テストにおける罰ゲーム、だ! 1人1曲順番に歌ってもらう! 楽曲はみんな三が日に一度は歌ったもの。だから練習なしでもいいだろう。それに歌詞もモニターに表示される! だから安心して歌うといい! もちろん、拒否権は・・・無し!!」

俺はそう宣告した。もうどうしようもないと俺の様子を見て悟ったのか、みんなは罰ゲームを受けることを承諾。

「じゃあ順番を発表する。はやて、なのは、すずか、フェイト、アリシア、アリサ、シャル、だ」

「「「えっ!?」」」

後ろの方になるシャル達が一斉に俺に振り向いた。最初の方より最後の方が目立つからな。こんな騒ぎが起きていれば今居る見学者たちから他の局員へと連絡が入り、さらに見学者が増えるだろう。そんな中で歌っていれば否応なく有名人入り。
彼女たちにとっては罰ゲームになる。が、リンディ提督とエイミィは、この手で彼女たちを局の有名人にするつもりだ。つまりお披露目会というわけだ。9歳という幼さであるにも拘らず一線級の戦力を持った魔導師であるなのは達。ここで有名になり、なおかつコネを作ることが出来れば、後々に有利な局員生活・・という算段。しかし変態はお断り。

「はやてには〈☆に祈りを〉、なのはには〈フライング・ハイ!〉、すずかには〈きっとスタンバイ・ユー〉、フェイトには〈ツバサ〉、アリシアには〈ハートフル・ソング〉、アリサには〈Precious☆time〉、シャルには〈Give Me Everything〉。はーい、早速はやてからぁ・・・どうぞ!」

「あぅ~・・・了解や」

車椅子を押してステージの真ん中へ向かうはやてに俺も続く。

「えー、これより時空管理局の研修生たちによる歌唱会を始めます! よろしければご拝聴ください!」

「ちょっ、そんなハードルを上げ――・・・むぅ、もう!」

はやてにマイクを手渡した俺は舞台裏へと戻り、音響機器を一手に操作するニコレッタ三尉にアイコンタクトで合図。曲が流れ始め、はやてが歌いだす。

「ルシル、あんた・・・最悪な罰ゲームを思いついたものね。まさか公衆の面前で歌わされるなんて思いもしなかったわ」

「うぅ、とんだバースデーパーティだよ・・・」

「腹を括れ~、アリサ、シャル。というか、君たち全員の歌唱力は確かだ。堂々と歌えばいい」

「それは友達の家で、友達だけの場で歌ったからだよ。緊張で音程とか外したら・・・」

「は、恥ずかしい・・・」

「そう思うと、余計に緊張して・・・」

なのはとフェイトとすずかも緊張で身を震わせている。が、「こうなったら全力で歌うしかない!」アリシアだけは気持ちを切り替え、自分の歌う楽曲の歌詞を確認しだす。だから「何事も楽しめばいいさ」とちょっと他人事張りに励ます。そうこうしている内にはやてが「ふわぁ、緊張したー!」と歌い終えて戻って来た。

「お疲れ、はやて。どうだった?」

「最初は緊張で一杯一杯やったけど、聴いてくれてるみんなが歓声を送ってくれたから、最後の方はわたし自身も楽しめたわ♪」

歌い切って楽しかった、と満面の笑顔が物語っている。はやてのそんな笑顔に触発されたのか、なのは達も「楽しむ、うん!」やる気を見せた。そしてなのは、すずか、フェイトと順に歌い終わった。見学者たちははやて達の可愛らしさと歌声にテンションはうなぎ上ぼり。

「よしよし。良い感じだ。次は、アリシアだな」

「う、うん!・・・行って来ます!」

アリシアと一緒にステージに立つ。ここでさらに見学者を増やし留まらせるための策、「えー、見学をなさっている局員の皆様の中で昼食がお済みでない方は、どうぞご飲食なさってください」を発動。まぁ、すでにリンディ提督やエイミィ、俺の為に時間を割いてくれたガアプ一佐ら同課メンバーが同僚や友人を招き入れ、そこからさらに輪が広がっていき、とんでもなく大所帯になっているが。

「なんかすごいことになってる・・・」

「だな。企てた俺もビックリだが、リンディ提督やエイミィは満足そうだな。ま、とにかくアリシアの番だ」

「・・・・うし!!」

アリシアと彼女の歌う楽曲を紹介し、俺は舞台裏へひとり戻る。そこでアリシアの歌唱を見学。歌い終えて戻って来たアリシアが次に歌うアリサとハイタッチを交わし、マイクを俺に預ける。そしてアリサと共にステージへ。

「うわぁ、やっぱドキドキだわぁ~」

「アリサはこういう場の雰囲気には慣れていると思っていたが?」

「なんでよ?」

「社交界だよ。見知らぬ大人たちとパーティの時にいくらか話すだろ?」

「ま、まぁ、そうだけど。でもそれとこれとは別よ。デビット・バニングスの娘っていう立場での社交界だとそう顔合わせする機会もないわ。でも局員アリサ・バニングスっていう立場じゃ、これからの顔合わせ回数に関係なく何かしらの繋がりが出来る。あたし個人の責任としてね。だからここで下手打つわけにはいかないでしょうが」

緊張すると言いながらも凛とした表情は変えないアリサに「そうか」とだけ返す。そんな格好いいアリサと楽曲を紹介し、再び俺は舞台裏へ。そこでみんなと堂々としたアリサの歌唱を見守る。

「ねえ、ルシル。みんなで話し合って決めたんだけどさ」

もう少しで終わるというところでシャルがはやて達を率いて俺の前に並んだ。

「ルシルの誕生日なのに、ルシル、ずっと司会みたいなことばかりだよね」

「主役がそれだけじゃ可哀想だなって思うんだ」

フェイトとアリシアがそう言う。続けて「ルシル君にも楽しんでもらわなな」はやてが微笑み、「だからルシル君もさ、歌おう?」なのは小首を傾げながらそう言い、「ルシル君も紹介してあげるよ♪」すずかが笑う。

「いいよ、主役は、どっしりと構えて楽しませてくれるみんなのことを眺める役だから」

とは言うものの、彼女たちの視線は逃さないと言っている。だから仕方なく「判った。シャルが歌い終わったら、俺も歌うよ」変にごねらずに素直に従うことにした。そしてアリサも歌い終わり、シャルの番となる。
一緒にステージに上がると、「イリスー!」と声援が上がる。見ればシャルとの付き合いのある局員――アコース査察官やティファレト医務官、それに「セレス・カローラ・・・」先の次元世界で俺の主だったセレス・カローラが大手を振っていた。
それに彼女の側にはセレスに似た10代後半ほどの少女――おそらく姉のフィレス・カローラも居る。ベルカでカローラ一族の騎士に会っていたからな。もしかしたらと思っていたが・・・やはり。

「時空管理局本局、最年少で執務官補佐となった騎士、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトで、“Give Me Everything”!」

シャルと楽曲の紹介を終え、俺はそそくさと舞台裏へと引っ込む。シャルの歌唱力は前世と比べるまでもなく上手く、手振りを交えて会場に自分の歌声を届けている。文句を垂れていた割にはノリノリだ。そんなシャルも歌い終わり、歓声に対して両腕を大きく振って応えながら戻って来た。

「そんじゃラストはルシル!」

「「「「「「いってらっしゃいっ♪」」」」」」

シャルからマイクを受け取り、はやて達から送り出される中、「ルシル君。君の楽曲、入ってないけど・・・?」とニコレッタ三尉に確認された俺は、「アカペラで行きますから問題なしです」と答える。俺のその言葉に絶句するはやて達の視線が、大丈夫?と語っているが、アカペラくらいどうってことない。何度も経験しているしな。

「僕、八神ルシリオン・セインテストの9歳のバースデーパーティを開いてくれた友人のみんなに感謝します。・・・・そして様々な理由で会場に足を運び、これまでの歌い手に声援を送って下さった局員の皆様へお礼を。・・・よろしければ最後まで聴いて下さい」

そうして俺は、ゼフィランサス姉様が俺やシエルの為に作ってくれた、出逢えた奇跡をその人に伝える為の歌を歌う。どうかこの歌が少しでも人の心に残りますように、と祈りながら。歌い終わった後に巻き起こった大声援の中で俺ははやて達を呼び出し、改めて局員たちに一礼。

「それでは最後にもう一曲、よろしければ皆さんもどうぞ♪」

はやてがマイクを両手で握りそう言った。よく見ればなのは達はそれぞれマイクを持っている。これは想定外。なんの歌を歌うのかと疑問。

「「「「「「「・・・ハッピーバースデー・トゥ・ユー♫ ハッピーバースデー・トゥ・ユー♬ ハッピーバースデー・ディア・ルシルく~ん♩ ハッピーバースデー・トゥ・ユ~~~♪」」」」」」」

誕生日を祝う歌を合唱してくれた。局員たちも手拍子を入れながら歌ってくれた。歌い終わったはやて達も「おめでとう!!」と拍手し、俺を祝ってくれる。やばい、涙もろくなった俺にこれはキツイ。涙を流さないように努めながら「ありがとう!!」笑顔を作る。
その後ははやてたち全員の合作ケーキをみんなで頂き(はやてとシャルの、あ~ん合戦、には困ったものだが。甘いものが好きで良かったな、俺・・・)、俺のバースデーパーティは幕を閉じた。

「――そうそう。みんな漏れなくファンクラブが出来たから、公式にしてもいいよ、って子はファンクラブの会長さんに話を通すから、まずはこの私に言ってね♪」

数日後、エイミィからその話を聞いた俺は、やりすぎた、とひとり反省した。

 
 

 
後書き
タシデレ。
さて今回は、ルシルの誕生日2月5日を祝うバースデーパーティという話でした。ちゃっかり他の局員とコネを作りやすくさせようとしたり、カラオケという名の罰ゲームを発動したりと暗躍したルシル+リンディ・エイミィでした。彼らの企み通りファンクラブが結成されるなどして若干迷惑なはやて達。そんな彼女たちに歌わせたのはキャラソンです。アリシアとシャルは、別作品のキャラソンです。
そして次回からようやく「GOD」編に入って行きます。バレンタイン? そんなものはエピソード3に回す!・・・はず・・・。

お知らせ:エピソード2に1年近く使った事で、今後の展開を大幅に練り直しです。丸々1つのエピソードを潰します。エピソード5:通称・再誕編をエピソード4:STS編と合体、そして削減します。これでも完結まで3年以上かかりそうだ・・・orz さらに削るか・・・?

「とにかくどうか読者さま方に飽きられませんように!!」(切実
 
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