戦国異伝
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第百七十七話 安土城その十一
「十二郎、左介」
「はい」
「我等もですな」
「そうじゃ。御主達にも接待役を命じたが」
「お任せあれ」
「必ずや見事な宴にしてみせます」
荒木と古田は信長に自信を以て答えた。
「山海の珍味を揃え」
「美酒も」
「奉行は十兵衛じゃ」
明智だというのだ。
「十兵衛の下励むがよい」
「では十兵衛殿」
「是非共」
「お願い致します」
腰の低い明智は二人にも畏まって応える、このことは織田家の重臣でもかなりの地位になった今でも変わりはない。
「共に最高の宴にしましょうぞ」
「さて、竹千代がどれだけ驚くか」
信長は今から楽しそうであった。
「見ものじゃのう」
「殿、公卿の方々も招かれますな」
林通具が主にこのことを問うた。
「そうされますな」
「主だった方々はどの方もな」
「そして茶会も開かれ」
「これまでにない宴にする」
「それでは朝廷にも使者を出しますか」
「そうする。そして宴の後でじゃ」
それからのこともだ、信長は家臣達に述べた。
「あれ等を天下に見せるぞ」
「天下の政を」
「あれ等をですな」
「うむ、天下は幕府から定まる」
政が行われるというのだ。
「これからはそうなる」
「宴の後は政ですな」
「それも見せますか」
「そうするのじゃ。戦はあくまで天下を一つにする為にするが」
しかしなのだ、信長はそこから先も見据えていて言うのだ。
「それからはな」
「政ですな」
「それを行うべきものだからこそ」
「政なくして天下はない」
信長が常に思っていることだ、彼はそれを忘れたことはないのだ。
そうした話をしてだ、そしてなのだ。
信長は家臣達に命じてだ、全体の政を執っていた。彼はもう安土において天下の政をはじめていた。そしてその彼を見てだ。
松永は安土に用意された己の屋敷に戻ってからだ、自身の家臣達に実に楽しそうに語った。
「よいのう」
「何がよいのですか」
「一体」
「殿の為されることがじゃ」
まさにそれが、というのだ。
「よいのう」
「あの、何がよいのですか」
「全くです」
家臣達はこう返した。
「あの城の何処が」
「そして織田家の政が」
「あの城はです」
家臣達はまずはその天主閣から話した。
「まさに結界です」
「天主もですが」
「石垣もです」
「実に不吉です」
「我等にとっては忌むべきものです」
「見ているだけで」
まさにだ、そうしているだけでだというのだ。
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