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高嶺の花園

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再びの出会いは突然に

ピチュピチュピチュ…


「ん…もう朝…」



朝日の差し込む窓辺から聞こえた、小鳥のさえずりに私は珍しく素直に目を覚ました。

運のいいことに、私の楽しみにしていた今日は、素晴らしい快晴とともに訪れた。




そう…今日は…

やっと…テツヤくんに会える日…







            *









「はぁ…はぁ…っ!おりゃぁああ!!」



今日も元気な火神くんの声が、バッシュのキール音とともに体育館中にこだまする。



「よし…休憩!!!」


監督が『ピーッ』とホイッスルを響かせる。


全員が全身の力を抜き、自らの荷物の下へと歩みを進める。

誰もがきついメニューで書いた汗をタオルで拭き、水分を欲する。



「おい、黒子。お前のドリンクくれ」



「嫌ですよ。自分の飲んでください。」



「終わっちまったから言ってんだろ…ったく。監督。ちょっくら買ってくる…です。黒子が。」


「なんで僕なんですか」


「いいだろ?そんくらい。ほら、これ」


ぽーんと自分の財布から出した小銭を僕に向かって投げる。

まぁ…これくらいいいか…。

深くため息をつきながらも、受け取った小銭を持って校門の外の自動販売機へと向かう。



校門へ出ると、おどおどしながら学校を覗く小さな女子高生がいた。

…女子高生?中学生?はたまた小学生?

でも、制服を着ている…。

気になりながらも、僕はそのまま女の子の横を通り過ぎ、その横にある自動販売機で火神くんと自分の分のドリンクを買う。

そのまま体育館に戻ろうと…していた。


「もしかして………テツヤ…くん??」








             *







「そろそろはじめるわよ!!だらだら休憩してないで!!」


「ったく…監督、黒子がまだもできてねえよ…です。」


「え?黒子君、まだ買いに行ってるの?」


「いえ、僕はここにいます。」


会話を続ける監督と火神の間に、『ぬっ』という効果音が合うように黒子が現れる。

しかも、一人ではなく。


「…うわぁっ!!黒子!いつの間に戻ってたんだ!!」


「ってあれ…?黒子君の後ろに隠れてるその子は…?」


おどおどしながら黒子の後ろからこちらを見る、ひとりの少女。

そう、少女という言葉がぴったり似合う…。

黒子の似た色の、長く輝く髪。

双方違った煌めく二つの眼。

華奢で小柄な白く透き通るような体つき。

まさしく、『美少女』だ。



「「「「「「「誰だ子の天使・・・・!!!!」」」」」」」←全員の心の声



「あ、あのぅ…す、すみません…その、見学させていただいてもよろしいです…か?」


「って、その制服は…泉真館…?!」



キャプテン、日向順平先輩が驚いた様子で私を指さす。

それもそのはず。泉進館はバスケ部で有名なライバル校と言っても過言ではない。

体育館での練習が見られてしまえば、相手の攻略の罠にはまってしまう。


「あ、その…あの…この制服は…たまたまっていうか…仕方なくっていうか…」


「おい黒子!なんでスパイを体育館に連れてくんだよ!」


「スパイじゃありません。転校生です。」


黒子の声とともに体育館が一瞬、凍りつく。


「転校って…誠凛に?」


遠くにいる部員たちも様子が気になって黒子と美少女の周りに集まる。


「あの…その。申し遅れました…」


ちらちらと部員の顔を見渡した後、黒子の後ろから横へと移り、下を向きながらゆっくりと言葉を発する。

全身が見え、あらためて感じさせられるその美貌に、部員全員が顔を赤らめる。

少女はそんなことを気にも留めず話し始める。






「元泉真館高校1年、また明日より誠凛高校に転入することとなりました。水無瀬杏莉沙と申します。」






「水無瀬…杏莉沙…?!?!?!」


「あの…『高嶺の花園』と言われた…!!??」


少女の名を聞き、誰もが驚く。

全国にとどろかせた、その名を…。





「水無瀬…杏莉沙…って誰だ?…です」

アメリカに住んでいた火神には、到底知るはずもないその名。

黒子は淡々と彼女について説明していく。





「杏莉沙さんは、1年間だけでしたが、僕たち帝光中バスケ部マネージャーでした。

有名になったのは2年になってからでした。杏莉沙さんは、2年で古塔中に転校したんです。

杏莉沙さんは小学校の頃からバスケを続けていましたから、古塔中では女子バスケ部に入ったんです。

そして全中優勝した古塔中のスタメン、杏莉沙さん達を『高嶺の花園』と呼ぶ人が増えていったんです。

杏莉沙さんはその中のエースでした。

その実力は帝光時代の青峰君を抜くほどでしたね。」






「あの青峰を…?!?!?!?」






「抜いたというか…私、一度キセキの世代の5人に勝負を挑んだんです。

5対1で、私が一度でも点を決めればいいという条件で…。

その勝負に、勝っただけです。今の5人には適いません。」






彼女のその言葉に、誰もがど肝を抜かした。

あの5人を抜いた…最強と言われる怪物達を。

その実力はいかほどなのか、ただでさえ計り知れない彼らを抜くその実力。

それも、こんな小柄で華奢な体で…。

そんな光景、誰も想像できなかった。

最強女子中学生であったとしても、最強男子中学生を倒す。

性別の差も関係ないほどのその力を

誰もがその目で確かめたがった。






「おもしろい…俺と、勝負しろ!水無瀬!!!!!」

今まで以上の彼の、火神くんのその大声が体育館に響き渡った。

その声に、杏莉沙の表情が変わったのにいづいたのはたった一人。

黒子だけだった。 
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