ソードアート・オンラインの二次創作、第九話となります。 よろしくお願いします。 今回説明文ばっかになってしまいました……。しかも途中ちょっと迷走してます。 一応、二話構成です。 今回は前回のように三話になったりしないです! 何しろ実はもう半分くらい書いてたり……。 武器元ネタ ゲッタ、蛇矛→MapleStory同名武器。 アルスの仲間ということで、同ゲームから取らせていただきました。SAOは遊びじゃねーんだよ!の元ネタは、MHFの有名コピペ、モンハンは遊びじゃねーんだよ!からです。 戦わなければ生き残れない→仮面ライダー龍騎より。 表紙はまた例の如くできてません……。 ニコニコの方もよろしくお願いします→//www.nicovideo.jp/watch/sm19174284
九月上旬 第三十五層
初夏にあんなことがあって以来、別段変わったことのなく、俺は普通に生きている。
ザサーダやユイツーが何を考えているのかはわからないが……。
近いうちに、またアイツらと会うことになるだろう。
それに対応するべく、俺はグリュンヒルの強化を怠らず、レベル上げも怠らなかった。
まぁそっちに力を入れすぎて、ボス攻略線にはあまり参加できなかったが……。
兎に角、そんなこんなで、俺は今日、野良で狩りを行おうと思っていた。
ギルドのメンバーはそれぞれ私用があるらしいからな……。
玖渚もグリーンポインターに復帰してからは、ギルドの店の手伝いがメインだ。
あまり泥棒や略奪行為もしなくなった。
それ故か、桜花やレイカと仲がいい。
スユアもそれを見て微笑んでいるようだし、非常にほのぼのしていい感じだ。
天乃も女子四人に囲まれてるんだから、幸せだろう。
まぁ、あいつはあいつで殆ど狩りに出れないせいで激浪の強化が捗ってないみたいだけどな。
よく野良で狩ってるクーレイトやガンマさんから差し入れをもらってるから大丈夫だろう。
因みに、今回の野良にクーレイトとガンマさんは参加してくれるらしい。
忙しい中、申し訳ないとは思うけどな。
そんなこんなで、俺は三十五層の広場でまずあの二人を待っている。
暇な時間、適当なフレとメッセージでチャットでもしてようかと、ウィンドウを開こうとした瞬間。
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、二人の人物。
眼鏡を掛けた好青年と、サイドテールの女の子。
その背後に、コッテコテの日本鎧をつけた武者みてーなやつと、小太りのちょっと痛いやつ。
そんなバランスの悪いやつらの中で、女の子が、俺を見ていた。
……残念だが、俺はあんなやつは知らない。
そして今更、フラグキタ、とか思うような歳でもない。
あと10若けりゃそう思ったんだろうけどな……。
しかし隣にいる眼鏡のやつがこちらに気づいたようで、なんだか殺気立っている。
こりゃあれだな。 あの子の彼氏かなんかだな。
厄介事に巻き込まれる前に、とっとと退散させてもらうか。
俺はウィンドウを閉じ、逃げるようにその場を後にした。
……しかし、だ。
もうそろそろSAOを始めて一年になるが、俺がSAOに誘ったやつを未だ見つけてない。
30歳の同僚で、顔は覚えてるハズなんだけどな。
アイツあんまり機械に詳しくないから、もしかしたらやってないのかもしれない。
死んだ、なんてことになったら相当嫌だな……。
いや、もしやってたとしても、アイツなら死なないと思う。
仕事でも図太く生き残ってたやつだ。 この世界でもうまくやってるハズ。
そんな淡い希望を抱きながら歩いていると、メッセージが届く。
宛先は、クーレイトから。
内容は、着いたよ、だけ。
どうやら、広場についたみたいだな。
俺はすぐに足を止め、広場のさっきいた場所へと引き返す。
さっきいた連中はもういないみたいだし、心置きなく、クーレイト達と会えるわけだ。
そう思いながら、集合場所に向かうと。
そこに、クーレイトと、ガンマさんが待っていた。
「忙しい中悪いな」
「いや、いいんだよ。 こちらこそあんまりギルドの方に顔出し出来なくて申し訳ないよ。
でも今週一週間はスケジュール開けてきたから大丈夫!」
そう言って爽やかに笑うクーレイトに、好感を覚えると同時に、素直に敬意を覚える。
コイツは本当にすげぇなぁ……。
あっちこっちから引っ張りだこだってのに、嫌な顔せずによくまぁここまで出来るもんだ……。
そんなことを思っていると、隣にいるガンマさんが口を開く。
「クーレイト様。 開けてきたスケジュールは一週間と言いましたが、正確には7日後の23時までです。
23時から聖龍連合の幹部クラスの方々と親睦会。 その後朝6時から中間層でのビギナー層への狩りの手伝いおよび指南。
その後、夕方より攻略組の皆様とボス攻略会議が……」
ガンマさんがそこまで言葉にした瞬間、クーレイトは困ったような顔をしながら。
「いや、まぁ、それはわかってるって。 夕方頃にはこっちから離れるからさ。
それから少し寝てから行くよ。 それでいいでしょ? 折角のギルメンとの野良狩りなんだから、ちょっと気軽に狩りたいな」
苦笑しながらそう口にするクーレイトに、ガンマさんは暫く黙った後。
「了承しました。 失言、申し訳ありませんでした」
「いや、いいよ。 気にしないで。 それに忠告してもらえるのはありがたいからね」
そんなやり取りを、二人は交わす。
……やっぱ人気者は違うな。
ガンマさんはクーレイトの秘書とかマネージャー的な感じなんだろうか……。
ちょっと羨ましい気もするが、実際そんなんなったら気が滅入りそうだ。
「まぁ、まぁ、とりあえず募集かけようぜ。 三人で狩るより人が多い方が楽しいだろ」
「ああ、そうだね。 二人くらいいれば十分かな」
そんなやり取りを交わした後、広場で早速募集をかける。
ネットゲームの募集はもちろん、ネットゲームによって異なるが。
基本の募集は同じ。
人数指定、狩場指定、レベル指定、武器指定の四つが基本だ。
そこから細かくスキル指定なんかが入ったりするが……。
今回行うのは効率狩りじゃなく、あくまでも気軽に行う狩りだ。
攻略組の血盟騎士団とか聖龍連合なんかは、ギルドの外部との人間とPTを組むことを嫌う人間もいる。
特に聖龍連合の極一部は完全指定型の効率重視の狩りを行ったりもしてるって話だ。
俺もそういう狩り方を知ってはいるが……。
ぶっちゃけ、ありゃあ狩りじゃない。
ただの作業ゲーだ。
簡単なやり方だと、6人組の4PT程度に分かれてそれぞれ沸くポイントで只管沸かしまくる。
6人PTのうち三人はメインアタッカー、二人が盾、一人が遊撃だ。
アタッカーは俺のグリュンヒルにあるバーサークのような攻撃力上昇スキルを使い、只管攻撃。
ヤバくなったら背後の盾役とスイッチで交換。
遊撃役が回復および補助を担当し、盾役が足りない場合盾役に回るというもの。
よって指定スキルとして攻撃力上昇スキルは必須。
盾役は一定以上のスキルを持ってないと話にならない。
遊撃役は回復ポーションの大量持込は必須、料理スキルで自炊できれば尚よし。
PT全員結晶系の所持は必須で無いと相当叩かれる。
武器は攻撃力と範囲、リーチの広い大剣、槍、一部の昆、小回りも利いて盾役にもなれる直剣が好まれる。
それ以外は大体地雷扱いされる。
一部で流行ってる盾無し直剣もNG、核地雷扱いされる。
攻撃力指定もある時もあるし、俺みたいな強化武器だと事前に強化レベルと現時点での攻撃力を聞かれる。
そういう場合はスクショでも取って配布するのがスムーズだ。
当然レベル制限もあり、PTを組んだら当然、よろしくお願いします。 ありがとうございます、ごめんなさい、お疲れ様でした等の社交辞令は当然。
それが出来ないやつは厨房扱いか地雷扱い。
一回聖龍連合の誰かが地雷に向けてキレて、SAOは遊びじゃねーんだよ!って言ってたな……。
地雷が涙目で去っていったのがやたら記憶に残ってる。
まぁ一人でも変なの混じると崩れて命の危機もあるからしょうがないっちゃしょうがないんだが……。
それに嫌気がさして、俺は最近あんまりそういう効率狩りはしてない。
さて、話を戻すが、今回募集する条件は。
人数指定、二人、狩場指定、35層、レベル一部指定、40以上、武器指定無し。
こういった軽い指定だ。
スキル、アイテム等の指定は一切なし。
あくまでも気軽にやりましょうってやつだな。
まぁこういう条件に応じてくれる人はもちろん少なからずいるわけで……。
「あ、募集見ました! Lv58ランサーですがいいですか?」
早速一人目ゲット。
見た目は男だか女だかよくわからないやつだ。
声も中性的な声でよくわからないが、まぁいいだろう。
「お、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
早速挨拶すると、あちらも挨拶を返してくる。
あと出来りゃ一人ほしいが……。
「あの、僕もPTいい? Lv53の短剣使いなんだけど」
そんな言葉と共に、二人目が現れる。
見た感じ、小学生高学年か中学一年くらいのやつだな。
ただ、それとは裏腹に服装は紳士服のようだ。
頭に中折れ帽子も被っている。
まぁ今回はある程度ゆるいから、十分いいだろう。
「ああ、どーぞ。 んじゃこれで募集締め切ります!」
言葉通り募集を締め切り、狩りに行く前のミーティングを始める。
と言っても、狩場の確認、武器の確認、あとは各種回復アイテム、結晶の確認と購入。
そういった下準備だ。
もちろん、これが効率狩りなら確認だけしかしない。
最悪、確認しないところもある。
そういうのの準備は事前にやってある、っていうのが基本で絶対条件だからな。
今回はとりあえず俺達は用意はしていたが、今回参加した短剣使い。
キャラ名、【スラム】がアイテムを購入してなかったのでそれに付き合うことになる。
因みにもう一人のランサーの方は【シャム】というらしい。
しかも所属ギルドはあの聖龍連合。
ただ前線やメインで戦闘することはなく、野良に近い状態らしい。
故に、聖龍連合が好んで使うガチガチに固めた鎧のようなファッションをしていない。
本気で戦う時はそういった装備にするらしいが……。
持ってる武器はスラムが【ゲッタ】と呼ばれる取ってから両側に三角形上の刃がついている特殊な形状の短剣。
寧ろ短剣というには巨大すぎるが、ちゃんとした短剣だ。
露店で1Mで買ったらしい。
シャムが装備してるのは【蛇矛】という槍で、レアドロップ武器。
先端が蛇のようにうねっており、ブラッディレッドにペイントされている。
リーチは通常の槍と同じで、別に特別なスキルや付与効果もないが、シンプルに強い。
よくも悪くも使い手の技量に左右される武器と言える。
俺は当然、グリュンヒルだが。
クーレイトは、珍しい投擲武器をメインとしている。
大体の武器は使いこなせるらしいが、投擲武器が一番安全だから、という理由で選んだらしい。
ガンマさんはそれを補助する形で直剣だ。
バランス的には、悪くは無い。
盾役がいないのがちと怖いが、最悪俺がやればいいことだ。
「じゃ、アイテムも揃えたことだし、狩場に向かいましょうー」
適当に率先し、狩場へと向かう。
まぁ、予め狩場は確保してあるから他人が取るなんてことはない。
つまり、当たり前で、事前から組んでいた当然のこと。
だから、今回の狩りに関しては、俺は特に何も無いであろうと思いながら、比較的ラフに挑んだのだった。
――――――
世界とは、限られた者だけが、上にいける世界だ。
それに気づいたのは、いつだっただろう。
多分十代後半の頃だ。
この僕、クーレイトは、SAOでこそここまでの地位を得ているけど……。
現実ではそうも行かなかった。
リアルでの僕は、俳優だ。
昔から、演技が好きだった。
子供の頃から、ごっこ系遊びが好きで、友達とよくやっていた。
中学生になって、演劇部に入って、部長まで上り詰めた。
もちろん、容姿に恵まれていたからってのもあっただろうし、努力を怠らなかったのも大きい。
高校になっても相変わらず部活三昧で。
大学には進まず、俳優になるために専門学校へと進んだ。
講師達からも褒められ、この時、学校を卒業したら、俳優になるのは間違いないと思っていた。
その考えは……何一つ間違っちゃいなかったんだ。
僕は俳優になった。
けれど、違った……。
求めていた理想と、現実が、あまりにも違うものだったんだ。
暫くの間は下働き。
俳優だけじゃ生きていけないから、バイトもこなして。
寝る暇も惜しんで、演技に磨きをかけることと。
バイトで必死に成果を残そうと、酷い残業もこなした。
僕は頑張った。 ただ只管に。 理想を求めるために、頑張ったんだよ。
けど……。
「オイ! そんな演技じゃダメダメ! 全然なりきってないよ! やる気あんの? これでリテイク何回目?
ねぇ君、君一人でみんなに迷惑かけてるんだよ? 君がここちゃんとやらないと、次に移れないの、わかる?」
「はい……すみません……」
現場監督から怒られ、周りからも冷たい目で見られ。
撮影が終わっても、裏で陰口を叩かれ続ける日々。
容姿が幾らよくてもダメだ。
演技が幾らうまくてもダメだ。
それが、現実だった。
「あのさぁ。 須藤クンだっけ? ああ、そうそう、須藤 敬一クン。 君さぁ、ぶっちゃけAVとかの男優になった方がいいんじゃないの?
はっきり言って、演技はスカスカだし。 ただ綺麗にやろうとしてるだけだよね。
この業界、君みたいなの幾らでもいるんだよ。 まぁみんなすぐやめてっちゃうんだけどさー。 替わりは幾らでもいるからいいんだけどね?
君、見た目は色男だし、AV女優とかには好かれるよ? ああ、あれだね、ホストとかでもいいかもね! ハハハハハ!」
綺麗ってなんだ……スカスカってなんだ……。
ただ、一生懸命、言われたことをやろうとしているだけなのに……。
「まーた須藤か。 君、演技ヘタすぎ。 リアリティ全然ないじゃん。 棒読みと一緒だよ。 この業界ナメてんの?
台本に書かれてあることが全部じゃないんだよ。 察しろよ! こっちもこれで飯食ってんだから、お遊戯じゃないんだよ?
君もこれで飯食っていきたいんじゃないの? なぁ?」
リアリティってなんだよ……!
棒読みなんかじゃないっ……!
僕は、やるべきことをやっているだけなんだ!
僕の演技は、間違ってなんかいない!
「ほら見ろよ、先輩のあの演技。 うまいでしょ? あれ彼じゃないと出来ないから。 ああ、知ってる?
次に実写化するあのドラマ。 ネットではあの先輩が適役なんて言われてるんだよ。
見た目似てないけど、やっぱ演技に定評があるからねぇ。 それに比べて君。 モブキャラ以下だよねぇ。
こういう職場にいたいなら、アシでもやれば長生きできるんじゃないかな。 いや、これ嫌味じゃなくてね?」
わからない……僕と、あの先輩の演技の違いが。
心はこもってるんだ……ちゃんと、なりきっているんだ……!
「あー、須藤クンね。 まぁさっきの演技はまだ大目に見るけど。 あの死亡シーンはないでしょ……。
ギャグでやってる? これそういうドラマじゃないから。 ちょっとさぁ。 いい加減にしてよ。 こっちも君みたいなのに金払いたくないんだよね」
わからないっ……!
ただ、涙が出て、悔しい。
人が死ぬなんてわからない、見たことがない。
本当の喜びも、わからない。
ただ、悲壮な演技だけがうまくなっていく。
知らないことはわからない。 知らないことは出来ない。
監督の言っていることがわかった。
僕にはリアリティが足りない……。
圧倒的な経験不足……想像力の欠落。
そんなもの、学べるわけがない。
ドラマのようなことが、現実で起こるわけがないんだ。
そんな時、たまたま息抜きで買ってきたSAO。
元々ネットゲームは嫌いじゃなかったし、ふと、やってみようと思った。
それで始めたこのゲーム。
ただの偶然で出会っただけなのに……。
この世界は……僕が求めるものが、全てあった。
デスゲーム宣言時の、あの絶望感。
人の本物の悲鳴、叫び、嘆き。
初めて敵を倒した時の喜び。
仲間との一体感。
そして何より……。
リアルな死が、身近で見れる。
初めて見た死は、転落死だった。
第一層で、スタート直後の数時間後に、一人が飛び降りた。
あの光景だけは、忘れられない。
同時に、石碑に記された事実を見た時のあの衝撃。
身近な死を認識させてくれた、あの恐怖。
それがずっと、脳裏に焼きついて、離れてくれない。
けど、今なら、できる。
転落死する演技が……。
現実に戻った時、きっと監督は褒めてくれるだろう。 僕を認めてくれるだろう。
どこでそんな演技を覚えてきたんだって。
だから、僕はもっと褒めてもらうために、自分を認めてもらうために。
様々な人の、様々な表情、感情を知らなければいけない。
そのために、SAOでは善人を演じ続けている。
コミュニティの輪を広めて、常に人の表情、感情を知り続けるために。
だが、最近それも、マンネリ化してきた。
僕に向けられる感情は常に一定で。
僕が見る表情は殆ど変わらない。
正直、ギルドの活動の方がまだみんなの新しい表情が見られる。
けれど今まで築いてきたものが大きすぎて、壊すことが出来ない。
苛立つジレンマを、表に出せないまま、僕はただ狩っている。
気がつけば、今日の狩りももう終わり。
アルスがシャムとスラムとフレンド登録をし、明日からこのPTで狩ろうと提案している。
僕はそれに異論はないし、それで構わないと言って、アルス達と別れた。
本当はギルドに顔を出そうと思っていたけど、ちょっと今日はそんな気分じゃない。
寧ろ、今、僕の横についてきている彼女を、どう放すかだ。
「クーレイト様。 この後のご予定は?」
「ああ、ごめん。 ちょっと僕一人で行く用事があってね。 悪いけど今日はここで解散しようか」
「……………………わかりました」
長い沈黙の後。
ようやく、彼女が去り、フリーになれる。
……正直、彼女にも迷惑している。
別に僕らは付き合っているわけでもないし、僕は彼女をそういう対象として見てない。
秘書にした覚えもないし、勝手についてきているだけだ。
悪い気はしないけど、常に付きまとわれるのはどうかと思う。
宿では部屋に鍵をかけて入ってこれないようにはしているけど……。
ストーカーされていると思うと気味が悪い。
本人曰く、僕のファンらしいけど……。
いや、もう忘れよう。
今、僕はようやくフリーになれたんだ。
少し、人気の無い酒場でも見つけて飲むことにしよう……。
そう思いながら歩いていると、丁度、人気の無い通りで酒場を見つけた。
初めて見る店だけど、まぁいいか……。
「ごめんくださーい」
挨拶をしながらドアを開けると、店内には、女性が三人。 それと、男性一人。
一人は、紅色の髪の毛の長い女性。
もう一人は、紺色の、セミロングの髪型の女性。
最後に、まだ年端の行かぬ少女。
男性の方は、眼鏡をかけ、黒と金の軍服のようなものを着た真面目そうな印象を受ける。
「やぁ、いらっしゃい。 お客さん見ない顔だね。 もしかしてアレかな? 初めて?」
男性が柔らかな物腰でそう口にし。
僕は、それに軽く会釈をして、挨拶を返す。
「どうも。 初めてです。 ちょっと、知り合いがいない店で飲みたくて……」
僕の言葉を聞くなり、紅色の髪をした女性は、クスクスと笑って。
「成る程。 お忍び、とかそういうことなのかな? 安心していい。 この店の存在を知る人間はあまり多くはないからね。
知り合いに会うことはまずないだろうさ」
そう言って、彼女はカウンターの奥から酒瓶とグラスを取り出し、僕の目の前にゆっくりと置いた。
「とりあえずこれは初めて、ということでお近づきの印の奢りだよ。 ウチのオリジナルでね。 飲み易くはしてあるつもりなんだけれど」
「ありがとうございます。 最近こういう気配りのできるお店は少ないので、早速好印象です」
そんなやり取りをして、目の前にあった酒を飲む。
流石に、オリジナルというだけあって、飲んだことがない味だ。
けれど、まずくは無い。 寧ろ……かなり美味い分類に入るだろう。
そんなことを思いながらグラスの中を眺めていると、店内にいた少女が僕を見た。
「お兄さん。 何か悩み事があるみたいですね?」
その言葉に反応し、少女の方を向くと。
少女は、無邪気に微笑んだ。
「まぁまぁ。 私達でよければ、お悩み聞きますよ。 ほら、折角の酒場ですし。
酒のせいにして吐き出した方が多少はマシになりますよ」
そんな、彼女の甘い誘惑に。
いつもなら遠慮しているはずが、気がつけば、口を開いていた。
「……そう、だね……。 ネットゲームでリアルのことを話すのはちょっとアレだけど……。
聞いてもらってもいいかな……」
そんな僕の言葉に、その場にいた四人は、各々が頷いてくれた。
それから、僕は、ありのままのことを話した。
リアルで悲惨な売れない俳優を送っていることも。
それを克服するため、SAOで様々な人達と、己を装って接していることも。
そして、それが最近、マンネリ気味で、ジレンマになっているということも……。
僕が話を終えた後。
少女は、再び無邪気な笑顔を浮かべ。
「あはは! それなら、簡単に解決できちゃいますよ」
そんなことを、サラっと口にした。
「っ……本当かい?」
心の中では、すぐにでも聞きたい思いだったが、抑え、疑問をぶつける。
すると、少女は先ほどと全く変わらない無邪気な笑顔のまま。
「本当ですよ。 話を聞く分には、まだ見てない、リアルじゃ絶対見れない表情を、まだ見てないみたいじゃないですか。
それを見ればいいんですよ。 自分でそういう状況を作り出して、ね」
……まだ見てない表情?
それは……いや、しかし。
心の中で湧き上がる、姿の見えない、しかし知っているもの。
同時に、理性がそれを必死に抑え始める。
しかし、その理性は、少女の一言で。
「人の死。 人の真の絶望。 死の瞬間への恐怖。 あっけない死、そういった歪んだものを、まだ見てないでしょう?
けれど、このゲームなら、SAOという夢の世界なら。 それを、限りなくリアルに、合法的に、見ることが可能なんですよ?」
歪んでいく……。
僕の理性が、得体の知れないものを前にして……。
「このゲームは素晴らしいゲームです。 製作者も素晴らしい。 合法的に殺せる世界。 死までの瞬間、歪んだ感情が明確に見れる。 時間さえかければ解除できるペナルティ。
うまく、よくやれば、人を殺してもペナルティを受けない。 人の夢、人類の未来は、こんなに素晴らしいゲームを生み出してくれました」
…………僕は。
違う、違う……! そんなことをやるつもりなんか……!
「お兄さん。 いいことを教えてあげましょう。 人の性は。 結局、何処まで行っても争いです。
競争社会。 格差社会。 技術の裏に常に潜む殺傷性。 上へ上がるには誰かを下さなければいけない。
自分の地位を維持するためにも、努力や根性論なんて綺麗事を言っても、結局は人との競争。
より優れた人種になる人間は、ソレ相応に多くの人を下してきた人間です」
心の中で、必死に否定するも。
ただ、少女の言葉が脳内へと響く。
なんだ……なんなんだ……。
目の前の、この少女は……。
君は……誰だ!?
「戦わなければ、生き残れません。 人を下さねば、次のステップに上がれません」
そんな言葉とは裏腹に、少女の顔は、終始笑顔で。
声のトーンは、不気味なほどに明るかった。
戦わなければ……生き残れない……。
人を下さねば……上へと行けない……!
グラスを握る手が震える。
そんなこと……許されるわけないんだ……。
そう思っていると、紅色の髪の毛の女性が口を開けた。
「なぁ青年。 日本は法治国家だ。 人を殺めることは決して許されることじゃない。 それは罪で、いずれ罰が訪れる。
しかしSAO、アインクラッドはどうだ? 確かにそれは罪で、オレンジという名の罰が訪れる。
けれど、本当にいけないことなら、PKなんてものはないハズだ。 本当の罪ならば、存在していいはずがない。
このアインクラッドは、それが出来る。 罰を無くすことも出来る。 同属が同属を殺めることは、どの時代でも、どの種族でもやってきた。
人は何故気づかないのか。 人は何故疑わないのか。 罪があるというのは人だけだということに」
「……ッ! 当然だろう。 それが人間である証明だ、人が人である証なんだ!」
喉から絞るようにして、ようやく反論できた言葉がこれだ。
しかし、女性は一向に表情を変えず。
ただ、薄ら笑みを浮かべながら。
「それは自分が殺されたくない人間がでっち上げた言い訳にすぎないよ。
人も動物の一部で、自然の一部なんだ。 この世の理は弱肉強食。 勝利を重ねた者のみだけが生き残ることが出来る。
人が何事にも序列をつけたがるのはそれの表れだ。 私はリアルで中学校教師をやっていたがね、ゆとり教育の考え方には賛同できなかったよ。
あれを試しに導入したら、クラス全体の成績が著しく下がったからね」
脳裏に響く、その凛とした声。
鼓膜が震える旅に、脳が揺れる。
僕の考えは……間違っているのか?
「青年、君が否定したい気持ちもわかる。 今の世の中は、とても住みやすくなった。
アインクラッドも、リアルも、人が無意識に罪の意識を持っているお陰で成り立っている。
あくまでも保守的に、あくまでも今までの全てが大事すぎて。
しかし、それで行動を起こさず、人と争うことをやめた人間は、ゆっくりゆっくり、腐っていくんだ。
『ここでいいや』『これまででいいか』『ここまでくれば十分だ』『別にもうこれでいい』『まぁこんなもんだろう』
そんな言葉を並べて、浮かべて、言い訳して、結局、自らが折れる。 自らが作った重みに耐え切れずにね。
じゃあ問おう。 君は、ここまででいいのかな?」
いいわけ……ない!
監督を見返すために……僕はっ……!
しかし、けど……けどっ……!
彼女らの言う、『そんなこと』は、僕には出来ない……!
苦悩していると、再び、別な声。
それは、男性の声だった。
「女性陣は中々厳しいことを言うよね。 まぁ気にすることはないよ。
君は君のやり方でいけばいい。 所詮そこまででいることも、ある意味君らしさなんだから。
上がりもせず、下がりもしない。 きっと君はそこにいるべき人間なんだよ」
あくまでも、柔らかい物腰で。
それでいて、確実に、僕の中の何かを削り取るその言葉に。
僕の中で、何かがちぎれた。
「違う……! 僕は、ここで終わりたくない! 終われない!」
右手で机を叩き、感情が露になっていく。
この感覚……久しぶりだ。
自分を、解放した、この感触。
「まぁまぁ、そこまで言うなら、自分の道を貫き通した方がいいんじゃないかな?
それに君はその方が似合ってるよ。 自分の意見を言うのに、自分を偽る必要なんか、演じる必要なんかないんだから」
そうだ……これが、僕だ。
幾ら善人ぶっても、幾ら演じても……。
芯にある、その目的だけは、偽ることなんかできやしない。
「君が本当に見たいことは知ってるよ。 それを躊躇う必要はないんだ。
そのために、君はこのゲームをやっている。 その目的を見失っちゃいけないよ」
そう言うと、男性は優しく微笑み、僕の肩をポンと叩いた。
そうだ……忘れていた。
これはゲームで、人の表情、感情を知ることが僕の目的なんだ。
そのために偽り、演じてきた。
だから……これまでの努力を、苦悩を無にしないためにも。
次のステップに、進む時なんだ。
戦わなければ生き残れない。 人を下さねば上へは行けない。
一度得たものを壊す覚悟でなければ、先へは進めない。
これは合法で、これは必然で、これは目的のための過程だ。
善も悪もない。
ただ、これは僕のエゴイズムなんだ。
「……覚悟は決まったまったようだな」
最後に、紺色の髪の女性がそう口にすると。
紅色の髪の女性と、少女が薄ら笑みを浮かべた後。
同時に、こちらに手を向けてきた。
「「ようこそ、こちら側の世界、0の酒場Diracへ。 当店は、お客様を歓迎します」」
機械的に、けれど、人の声で放たれたその言葉に。
僕は、一度も使うことの無かった表情を使いながら。
ただ、全ての鎖から解き放たれたかのような開放感と共に。
「ああ、よろしく。 僕は、今日からこの店の常連になるよ」
そんな言葉を、返した。
アルス達と狩りをしながら、時間を見ては酒場へ行く日々。
そこで、僕は素晴らしい方法を教えてもらっていた。
紅色の髪の女性。 ザサーダという名の女性に、その手口を、授業を受けるように教えてもらっていた。
流石教師だけあって、人に知識を教えるのが非常に上手い。
お陰で僕は、たった四日で、その方法を実践で使えるレベルになった。
後は……これを使うだけ。
初めてだけあって、緊張はする。
だから、これを使う初めての瞬間は、よく考えないといけない。
そのためにも、善人を演じることは必須で。
表面上は演じ続けていこう。
ただ、心に嘘はつかない。
僕はもう、そう決めて、只管、その瞬間を待つことにした。
――――――
「ねぇアルス。 最近野良ばっか行ってるけど、楽しいの?」
閉店した後のギルド酒場でゴロゴロしていると、桜花がそんな言葉をかけてきた。
「ああ、そりゃな。 いや、聞いてくれよ、知り合ったスラムってやつとシャムってやつがすげぇいいやつでさー。
スラムは餓鬼っぽいんだけど、若いのは若いなりに面白さがあるよ、なんていうの? 斬新だよね、俺みたいなオッサンからすればさ」
「ふーん、へー、そーなんだ」
桜花はどうでもいいという顔をしながらそう口にすると、俺の前へと腰かけた。
「あのさ。 ウチのスキル上げ手伝ってほしいんだけど。 酒場の仕事ばっかで最近料理スキルばっか上がっちゃうんだよね。
ソードスキル上げたいのに上げれないの」
「いいことじゃねーか。 つかスキル上げって、またかよ。 お前どんだけの武器のスキル上げてんだ」
半ば飽きれながらあくびをして返すと、桜花はムスっとした顔をしながらメニューを開き、スキルを確認し始めた。
「えーと……直剣100、大剣200、斧100、細剣120、曲刀200、刀500、戦槌100、メイス100、槍50、昆100、短剣100、投擲110。
あとは特殊武器と派生系が……」
そこまで聞いて、ため息が出る。
「どんだけ雑食だよ。 多くても四つくらいに絞れ。 実戦で使える細剣と刀と槍とメイスでそれぞれ使い分けできるからいいだろ。
最悪刀とメイスだけでいいよ。 あとはいざって時に盾役になれるようにそっち方面もスキル振ればいい」
流石に多すぎる……。
だから殆どのスキルが中途半端なところで止まってんだろうが……。
そんなことを思ってると、桜花はさらに不機嫌な顔をして、言い訳を始めた。
「だって、SAOって折角職業ないんだよ!? 誰でも好きな武器を幾らでも使えるのに、限定するなんて変だよ!
モーションいっぱいあるのに、それを使わないのはもったいない! だからウチは全部上げて全部使いたい!」
「いや……効率悪いだろ……」
まぁしかし……ゲームの楽しみ方は人それぞれだからな……。
ちと俺もあまり強く文句は言えないんだが。
まぁしかも、コイツのことだ。
どうせ断ったところで、やらせるまで言い続けるに決まってる。
「まぁ、いい。 わかったよ。 明日から野良PTに加えて一緒に狩ることにする。
そこでスキル上げしておけばいい。 クーレイトも俺もいるし、フォローくらいはしてやるから」
俺がそう言うと、桜花はようやく表情が明るくなったかと思うと。
「じゃ、約束ね! 天乃に明日から仕事休むって言ってくる!」
それだけ言って、天乃の部屋へと走っていった。
……たぶん俺が天乃から小言を言われるな。
桜花のやつ、たぶん理由言うだろうし。
ああ、なんだか嫌な予感がする。
胸の奥になんか引っかかってる感じだ。
まぁ……怒られることなんだろうな、と思いつつ。
俺は酒場を後にして、今日は自室でゆっくりと休養を取ることにした。
クーレイト達との野良PTが終わるまで、あと3日だ。