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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第115話 “ジュグロンデョ”



 親しい人間に怯えられ、傷つけてしまい。知らない人間は泣いて怖がるばかりで。紘汰の精神の消耗はピークに達していた。
 そこへ追い打ちをかけるように、レデュエはじめとするオーバーロードたちが、紘汰を「仲間だ」と言った。

(守っても否定されるくらいなら、自分から拒んでしまったほうがいい)

 紘汰は自らビャッコインベスに変貌し、追ってきた「鎧武」へと襲いかかった。
 先ほど過って傷つけたのとは違う。紘汰はビャッコインベスとして明確な意思で、「鎧武」に鉤爪を揮った。

 ダメージを蓄積した「鎧武」は、ついに変身が解け、裕也に戻った。

「やれるもんならやってみろ」

 這いつくばりながら、裕也の目から意志は消えていない。

「俺たち人間は決して貴様らには屈しない。俺が死んでも、俺の仲間が、必ずお前を倒す」
『裕也……』

 いざ「鎧武」にとどめを刺そうとした時、――その少女は、現れた。

 白い祭服をまとった小さな女。今までにたびたび会った白い女とは別物だ。舞と同じ姿をしていない。その女は、ヘキサと全く同じ姿をしていた。そして、背中には咲のヒマワリアームズと同型の、二対の翼。

 ヒマワリ色の翼の少女は、「鎧武」と紘汰の間に立った。これ以上「鎧武」を傷つけるな、とでも訴えるように。

(何だよ。君たちまで俺に味方してくれないのか)

 その想いと裏腹に、少女は全てを受け入れるように両手を広げて、慈愛深い笑顔を浮かべた。


 “紘汰くん”


 呼ばれた。ただ、それだけ。――それだけで全て伝わった。

(咲ちゃん)

 自身が世界の摂理から外れたモノになろうと、その世界の中には守りたい人たちがいる。
 そして、人々がどれだけ敵になっても、必ず味方でいてくれる人間が、葛葉紘汰には確かにいる。

 悩んでいた自分が馬鹿みたいだ――紘汰は思い、人を傷つける鉤爪を、

『俺がどんなに変わり果てても、守りたいものは変わらない!』

 オーバーロードたちに向かって、揮った。

『人間は必ずオマエを拒む! そんな連中のために犠牲になる気か!?』
『犠牲なんかじゃない! 俺は俺のために戦う!』

 すると、裕也の前にいた翼の少女が、ふわりと飛んできて紘汰に後ろから寄り添った。
 ビャッコインベスだった紘汰が七色の粒子に包まれ、紘汰は極アームズの鎧武として再誕した。

(俺が信じた希望のために。俺が信じた未来の先に、あの子たちが夢を描けるように)

 見上げると、翼の少女は、微笑んで後ろを指差した。

 裕也が、笑っていた。

 幻の、夢の世界の登場人物に過ぎないはずの、彼なのに。
 裕也は笑ってくれていたのだ。

 それはどんな激励よりも、強く紘汰の心を鼓舞した。

(先に進む。そう誓った。そうだったよな、裕也――)






『うおぉ――――おおおおおお!!!!』

 鎧武が咆哮した。

 月花はとっさに鎧武から離れた。
 鎧武は火縄DJ大橙サーベルを持ち、レデュエに斬りつけた。

『バカな……!』

 斬られたレデュエは撤退した。月花は追わず、変身を解いて鎧武に再び駆け寄った。

「紘汰くん、だいじょうぶ!?」

 鎧武の変身が解ける。紘汰は汗だくで膝を突き、地面の石ころを握り潰さんばかりに掴んだ。
 途端、ヘルヘイムの植物の蔓が石庭に無尽に広がった。


 “オーバーロードになるしかないって……”


(紘汰くんが、オーバーロードに、なる。オーバーロードは、ヘルヘイムの植物をあやつれる)

 両者の視線が交わった。

 伝えたいことがたくさんある。知ってほしい想いがたくさんある。でも、言えない。言葉にならない。

「咲ちゃん……」

 紘汰が咲に手を伸ばそうとして、その手を握りしめて引いた。傷つけることを恐れている。その手はすでにヒトの手ではなく、オーバーロードの手だから。

 だから、咲のほうから手を伸ばして、紘汰の拳を両手で包んだ。
 紘汰は一瞬身を引いたが、咲を振り解くことはしなかった。 
 

 
後書き
 ジュグロンデョはただの勝利の女神というだけではありません。
 今回、紘汰の壊れかけた心を救ったように、ロシュオもまた“森”や黄金の果実を巡る戦いの中で、彼のジュグロンデョに心を救われたことがあったでしょう。
 戦う意思が折れかけた時、原点に立ち返って戦おうと思った理由を思い出させてくれる。
 作者はそんな意図で“ジュグロンデョ”という、原作にない存在を作り出しました。 
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