アセイミナイフ -びっくり!転生したら私の奥義は乗用車!?-
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第18話「Uへの道/危険なクマ野郎」
前書き
ようやく続き。風邪も治った!
それからしばらくして、イダは町の外へ向かう大通りを仲間とともに歩いていた。
ズシン、ズシン。
歩くたびに地震が起きるようだ。いや、それも当然のことだろうと彼女は思う。
―――3mくらい?であの太り具合だと、450~500kgくらい体重有りそうだもんね。
実際にはそれより軽いのか、宿の床は抜けはしていない。
或いは、何らかの強化措置がされているのかもしれないが。
「…まあ、ファンタジー世界だもんね。どんなのがあっても不思議じゃないか」
強度そのものが前の世界とは異なるのかもしれない、とシドの巨大な背中を見上げながら
イダは誰にも聞こえないようにひとりごちた。
「…!」
見聞を深めるように歩くイダの隣を進む若き魔女は、魔法の後遺症で喋れないながらも
あまりジロジロと見つめすぎるのは失礼だ、と身振り手振りで注意してきた。
「あ、ああ…あははは、ごめんなさいフェーブル。たしかにそうよね」
イダの謝罪に、それよりはまずシドに謝れ、と態度で示して微笑むフェーブル。
それを察していたか、前からは「私は気にしませんよ、些細な事です」とシドの声がした。
その言葉を聞いて、イダは軽く「すいません」と会釈するとシドを追い越して、前を行く
ストランディンに話しかけた。
「ストラ、ウヴァの街までどのくらいかかるんだったかしら」
「4日くらいだよ。急げばもう少し短くなるけど…」
少し顔を曇らせた彼女を見て、はっとイダは思う。
―――ストラとフェーブルは父親の命を救うために来たんだったわね。
そんなストランディンを見れば、拳を握りしめて何かに耐えているようだった。
なんとか急ぐ方法を考えなければいけない、とイダは考えていた。
―――マーチは…積載量、シドさんだけで軽くオーバーしちゃうよね…
日産マーチは精々軽トラック程度の積載量しかない。そしてそもそも座席にあの巨体が
入るはずが全くないのが最大の問題点だった。
更にウヴァの街と冒険者の中継点をつなぐ街道は通行量も多い。
未知の魔物として討伐対象になどはなりたくはなかった。
―――自動車さえ使えれば、2日分は短縮できるというのに。夜だけでも使えれば…
道路状況を考えて時速20kmほどで移動したとしても、信号機など無いこの時代である。
1~2時間で1日歩く分の距離を稼げることは明白だ。
つまり、昼は普通に進み、その上で日が落ちてから車で移動する、というのが効率的だと
イダは思ったのだが…ネックとなるのはやはりシドの大きさと重さである。
彼が見た目より軽くても300kgは下るまい。
―――まあ、考えても仕方ないよね。
イダはそう思って考えを途中で打ち切り、
仲間とともに街の出口へ向かうことに専念することにしたのだった。
それから暫し後。
「ところで、そのヒモ、何?」
イダはグウェンが、突然何かを見つけたように露店に駆け込んだのを追いかけ、
その店でそんなことを桃色のグラスランナーに聞いていた。
「ふふふ…これは魔法のロープなんにゃ。使い方はそのうち教えてあげるニャ。
使いようによっては全力で役に立つんにぇ?」
ふうん、とイダは軽く感想を述べる。
「ほう。珍しいな。たしかにこれは役に立つ。ひとつ買っていってみるか」
追いついてきたリックも購入に賛成のようだ。
「―――まあ、いいけど。いくらくらいするの?」
その言葉に、店の主人が莞爾と微笑み値段を告げた。
「金貨1枚ってところでさ、お嬢さん。ヘヘヘ、こりゃなかなか無いもんでして…」
どこか下卑た調子で言う店の主人に、イダが叫んだ。
「はぁ!?なんでそんなにすんの!?ちょっと待て!?」
…まあ、当然だろうな。金貨1枚つったら、庶民の数カ月分の生活費だ。
リックはそう思いながらイダを抑えて、「魔法の品は高いんだよ」と言う。
「これはほんとうに役に立つ代物なんだ。空間湾曲の魔法が付与された代物なのさ。
親父、これはどのくらい使えるんだ?」
「まあ…100回は使えまさ。ええ、御信用ください。この露店はドライベール様の
許可があってやってるんだ。信用できねえもんは売ったら、首に縄がかかっちまう」
リックはドライベールの名前が出たことに、一瞬驚き、そして納得した。
「よし、買った。それと、気付の水にポーションをそれぞれ10ずつくれ。
携帯食料もあれば売ってくれないか?」
イダの口を抑えながら、リックは品物の吟味を始める。
元冒険者で宿の店主をしている彼の鑑定眼は、本職の商人には当然劣るが、
それなりに確かだ。
…なるほど、これならいいだろ。
心のなかでそうつぶやくと、後から来たフェーブルに品物を渡す。
「どう思う、お嬢さん?これ全部で金貨2枚は安いもんだろ?」
コクリ、と笑顔のリックに頷いたフェーブルを見て口を抑えられたままイダは
ため息をつく。言い出したら聞かないのはいつもと同じだ。
おかーさんに怒られてしまえ、と内心毒づくイダであった。
―――この後、この露店に寄って良かった、と舌の根も乾かぬうちに思うのだが。
―――その頃。
「…予定通りです、サー」
サー…Sir。英語による敬称表現。特に騎士の位を持つ者への。
この世界には存在しないはずの言葉。その言葉が闇に響き渡る。
その言葉で呼ばれた男…齢は40を超えた頃だろうか。
…その服装は、我々の世界でもいわゆる軍事に詳しいものでなければ、正確な名称を
答えることはできないだろう。
―――大英帝国陸軍の第四種礼装。淡色の軍服を着た、金髪の男性だ。
だがその瞳は…人のものではない。怪しげな光を湛える獣の瞳。
「予定通り、か。確かにそうだ。奴らごときでできるとは思わなかったしな」
その男は、自分をサーと呼んだ声に語りかける。
「―――ああ、そうだ。その通りだ。予定通り…試せ。耐えられぬようなら殺せ」
「…は」
低い肯定の言葉とともに気配は消え去った。残ったのは金髪の男のみ。
「―――嬉しいな。素晴らしい。素晴らしい。生きているうちに会えるとは
思わなかった。心躍る。ああ、素晴らしい。これで始められる」
心底嬉しそうに唇を歪め、男は獣の瞳を細めて一人笑う。
「ああ、楽しい。嬉しい。これで始められる。これが始まりとなる。
呪いは我に、我は呪いに、我らは呪いとともにこの運命を享受する」
―――黙示録の日まで、と軍服の男は呟いた。
黙示録、ヨハネの黙示録。七つの教会、七つの喇叭。世界の終焉と再生を描く物語。
…それを知るもの。それは自ずから、己の出自を―――
とっぷりと日は暮れて、今は焚き火を全員で囲んでいた。
街を出て8時間ほど。およそ20km程度は歩いただろう、とイダは計算している。
それは彼女が想定していた一日分の移動距離とほぼ同じだったことに安堵しつつ、
イダは万が一のための携帯食料には手を付けず、自分の能力で出した食べ物を調理する。
大食漢のシドのために、鍋とフライパンは新しいものを街で買い求めていた。
調理担当はイダだ。ニラと細かく刻んだ鶏肉を炒め、
それを卵で閉じ軽く塩と胡椒で味付けをする。
肉入りニラ卵だ。イダ…つくしという日本人は昔からこれが好きだった。
簡単に作れてスタミナもつくし、何より飯のおかずとして素晴らしいものだ。
その思い出に浸りながら、もう一つの鍋を見やる。
それは皮をむかれ茹でられているじゃがいもだった。
おそらくは粉ふき芋を創るつもりなのだろう。
旅の途中では致命的となるほどの水の
ムダ遣いっぷりだが当然のようにズタ袋からは水も出せるので問題はないのである。
当然というべきか、僧侶であるシドが「真水をこの様に無駄遣いするとは…」と
気色ばむ一幕もあったが、今はおとなしく座っている。
―――醤油と精米済みの米さえあれば。
作り終えたニラ卵とゆでじゃがいもを更に盛りつつ、イダはギリギリと歯ぎしりをした。
彼女の持つズタ袋からは籾米…つまり、原材料しか取り出すことは出来ない。
当然のように加工された調味料である醤油や味噌など夢のまた夢だ。
ニラ卵に使った胡椒も、グリーンペッパー…つまり精製前の胡椒のため風味は
彼女にとって馴染みの深い黒胡椒や白胡椒とは異なる。
その上、保存液に漬け込む前のグリーンペッパーのため、本来のそれともぜんぜん違う味
となってしまっていた。
―――なんとしてでも、いつか醤油と味噌を自作してみせる。
彼女はそう誓っていた。この世界に麹があるかどうか。もし知っている人がいれば…
「ほう…これは素晴らしい。なんという野菜ですかな。スタミナが出そうな…」
シドはニラ卵を豪快に口に入れると、そう言って破顔した。
―――葷酒山門に入るを許さず、って言うけど、まあ和尚様もそんな感じだったし。
前の世界での「寺にニンニクやニラなどの精のつく食べ物や酒を入れてはならない」という
言葉を思い出しながら、シドの賞賛に「ニラという野菜なんですよ」と彼女は答えた。
「にゃー…こんな料理、できたん?知らなかったにゃ」
グウェンもじゃがいもを頬張りながら、イダに語りかける。
リックも同じように頷いている。まあ、双方とも「前世の記憶」だろうと思って、
それ以上は何も言わなかったのだが。
「うーん…このままだと、やっぱり4日かかっちゃうなあ…」
ニラ卵を半分に切ったじゃがいもに乗せて食べながら、ストランディンは肩を落とす。
フェーブルもその姿を見て、瞳を焚き火に落として同じように肩を落とした。
「そう焦るな。マナの流れが狂う病は、進行性でそうそう簡単には死なん」
リックはそう言って、ストランディンの肩に手をおいた。
焦っているのは傍目から見てもよくわかった。だが、焦っても仕方ないのは確かだ。
彼女らとイダたちが会ってからもう既に数日が経過している。
その間にどれだけ悪化しているだろうか、それを考えれば焦るのも理解はできた。
―――でも、どうしようもないんだよね。マーチにシドさんが乗れない以上…
もちろん、シドとグウェンあたりを残して先行する手はなくもない。
だが、彼女らの行く手にはストランディン達にセリとドクゼリを取り違えて教え、
下手をすれば死ぬような毒草の自生地に行くよう促したことはおろか、
ストランディンを誘拐せんと盗賊たちを使った相手である。
シドの戦力を欠かすのは非常に惜しいし、道中を考えれば危険であると言えた。
「にゃー、考えてても仕方ないにゃ。ご飯食べにゃよ」
「あ…うん、わかった…っておい。ちょっと待て」
ストランディンにつられて、自分も箸が止まっていたのだ、と思い至った時には、
皿に盛り分けられた粉吹き芋がごっそりなくなっていたのであった。
「早い者勝ち、という言葉を知らないのかにゃ?わちきに隙を見せると…」
ニヤリとグウェンが不穏な笑みをうかべる。
「いいかげんにしろ」
ゴンッ
「ふぎゃあ!?」
それを見逃すリックではなく、ゴスッと脳天にゲンコツを叩き落とす。
「あははは!もう、そういうのやめてよね!」
その光景にストランディンはカラカラと笑う。
まだ笑う余裕はあるのだ、と少しイダは安心した。
―――空元気でも、元気。それがまだ出来てるうちは大丈夫ね。
思えば昨日も、不安から眠れなかったのではないか、とイダは思う。
なんとか早く彼女らの父のもとへたどり着かねば、と思うイダであった。
―――その夜。
ザザザザザザザザ…
ただならぬ気配と風の音にイダが目を覚ましたのは、夜半を過ぎた頃のことだ。
目を覚ましたイダはリックに「気付の水」を渡される。
酸っぱい味の薬草を煎じたポーションの一種だ。眠気覚ましに使われる。
「スッパ…!何?何があったの?」
気付の水を一口含んで眠気を飛ばしたイダは、リックに状況を確認した。
「魔物だ。それも…やばいぞ。これは…」
「ええ。ここでこのようなものがいるとは…街道に現れるはずが…」
珍しく焦った声のリックのもたらす情報と、それを肯んずるシドの言葉に、
空気が張り詰めたのを感じた。
「―――どういうこと?」
「…この気配は…現役でヴァレリーと一緒なら何とかなったんだがなあ。ったく…」
黒月と蒼月が放つ光が大地を染める。その光のなかに、リックは一滴の汗を落した。
娘の問には答えず、ただ緊張感だけを増していく。
それは、気配がそれだけ危険であるということを端的に示していた。
「…万が一の場合、イダとお嬢さんたちだけでも頼むぞ、グウェン、坊さん」
「ちょ、ちょっと待って!?」
まるで死を覚悟したかのような父の言葉に、娘は声を落としながらも気色ばむ。
「まあ、万が一だ。逃げるだけならなんとかなる…はずだ」
緊迫した、今までに聞いたことのない父親の声にイダは真芯が冷えていくのを感じた。
一体、何が来ているのかわからないことも不安を助長している。
「落ち着いてください、イダさん。大丈夫」
言葉がようやく回復したのだろう、フェーブルがイダの肩に手をおいた。
「熊のようなシルエットが見えます。おそらく、魔法を使わないタイプのモンスター…
力は強そうですが、速さがなければ…逃げることはできると思います」
そう言う彼女の目は、瞳孔が猫の目のように開いていた。
死体を見たことが何度かあるイダは、一瞬肝を冷やすが、死んでいるわけがないことは
明らかだった。
―――まさか、暗視の魔法か何か?
イダの感想は的を得ていた。猫の目のように瞳孔を開き、僅かな光を捉えて暗視を
可能にする「猫の瞳」(キャッツアイ)という魔素魔法の一つだ。
「上位の魔法「梟の耳」なら、正体も分かりそうなんですけどね。
とにかくまだ大分離れているので大丈夫です。早く離れましょう」
「わかった。とにかくさっさと逃げちゃ」
ギン!
…気配が変わった。周囲に対して無差別に向けられていた威圧が、指向性を持って
こちらを睨んでいるのがイダにもわかる。
「気づかれた!?やばいぞ!この反応は、間違いない!ミスリルベアーだ!!」
姿を見もしないでリックはそう断言する。
そして、その言葉が正しいことは数瞬後にわかることになる。
ドゴォン!!!
「ぶっぁぁぁぁ!?」
ドシャアアアッ!!
巨大な槌で壁を殴るような音がして、シドの胸当てが無残に凹み、その巨体が
草むらに突っ込んで擦過音を盛大に立てた。
「にゃあああ…何、こいつ…!?嘘でしょ。北の…樹氷が生えるようなところにしかいない
凶悪モンスターじゃにゃい!!」
「ええ…私も書物でしか見たことがありませんでしたけど…まさか」
グウェンとフェーブルの目に絶望が宿る。こんなもの相手では逃げることも出来ないと。
―――ミスリルベアー。緑がかった銀色の体毛を持つ熊の魔物である。
分厚く硬い筋肉と、それ以上に硬い体毛…ミスリル、つまり魔力を帯びた銀に似た鉱石で
出来た体毛を武器と防具とする魔物である。
我々の世界の灰色熊がそうであるように、強力な対物銃がなければ相手にならないように
この熊によく似た魔物は、魔法の武具を持たない冒険者ではどれほど熟練でも倒せない
と言われるほどの強力なモンスターなのだ。
その大きさはシドよりも一回りほど小さいが、シドがやすやすと吹き飛ばれたことを
見ても分かる通り、見た目通りの膂力ではない。
「コルルルルルルル…」
まるでエンジン音のような唸り声と、体毛と同じく月の光を受けて銀に輝く瞳の魔物は、
今しがたまでシドがいた場所で、イダを睨みつけていた。
「まずい!逃げろイダ!!」
ターゲットは自分。そう思った瞬間、もうだめだと思った…が、彼女の命運は
尽きてはいなかった。
「ぶぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
機関車のような雄叫びを上げて、起き上がったシドが突進する。
その手には、既に宿で見せた巨大な鉄棍が握られていた。
イダの頭を削り飛ばそうとしていたその巨大な爪は鉄棍によって上に弾き飛ばされる。
「ぶぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一瞬の隙にオークの僧侶は、その腕の凶器をミスリルベアーにたたきつけた。
だが、ミスリルベアーは身じろぎもせず、その口端を笑みの形に歪ませた。
―――意志がある、ですと!?
シドは驚き、鉄棍を熊から話すと構え直した。
それを見て、ミスリルベアーもまた威嚇するかのように両腕を店に掲げる。
その姿を見て、シドは確信した。獣ならば、笑わない。
この獣は笑う生き物ではないのだ。
「いけません!このミスリルベアー…何者かに操られているようです!意志を感じる!」
「なんだとおおお!?イダ!こっちへこい!!」
グウェンとストランディンとともに、リックの側まで行こうとする。
だが、にじり寄るようにシド、イダ、男爵の娘たちとリック、グウェンの間に割り込み、
その行動を阻害するミスリルベアー。
「グゥルルルルル…」
「なんとしても逃さないつもり!?くっ…今の私じゃ、叶わないッ!」
獣の唸り声にストランディンが悔しげに叫ぶ。
―――そんなこと、わかっている。だったら、どうにかするしかない。
イダは逡巡することをやめて、自分の最大の技をぶちかますことを決めた。
シュ、とバッグを取り出すと、それをミスリルベアーに向ける。
一発限りの勝負。避けられる訳にはいかない。ならば…
「シドさん!よけて!!」
イダの声があたりに響く。その声を聞いた瞬間、弾けるようにシドが後ろに飛び退いた。
「まずは畳をくらあえええええ!!!」
ドガァッ!
バッグから畳がとび出す。イダの気合に答えてか、盗賊たちに使った時よりも
射出速度が早い。時速100kmは出ていそうだった。それがまともにミスリルベアーの
鼻っ面に叩きつけられた。
「があぁぁぁっ!」
当たりどころはそれほどダメージを与える角度にはならず、ダメージも少ないが、
怒りを注ぐことには成功したようだ。
「シドさん!一瞬でいいから!そいつ突き飛ばして!!お父さんたちとまっすぐに
ならないようにして!!お願いします!!」
「おおおおおおおううううううう!!」
つんざくような懇願の叫び。その叫びに答え、シドが鉄棍を全力でミスリルベアーの喉に
叩きこむ。グシャア、という音がするが、熊はひるまない。
「ゴッアアアアアアアアア!!!」
だが、痛みはあったのか、シドへ向けて突進しようとする…だが、それは叶わなかった。
「いまにゃあああ!!リックしゃん!全力で引っ張れえええええ!!」
「おう!!」
リックたちが「射線」から離れた瞬間、父とグウェンが何かを引っ張ったのだ。
それは…細いロープ。露天で買ったあのロープだ。よく見ると、いつの間に草むらに
仕掛けられていたのか、ミスリルベアーの進行方向に張られていた。。
そしてその端は…よく見れば…グウェンの手が消えている。
そしてその手は草むらからにゅっと生えて、ロープの端を握っていた。
「あの時のロープ!?」
―――前に購入したロープ。それは「場所交換」の魔法のかかったロープだった。
様々な応用の効くアイテムで、片方にあるものともう片方にあるものを交換したり、
同じ場所にいながら、崖と崖の間にロープを張ったりすることのできるものだ。
「がァッ!?」
その強度も魔法で強化されているのか、折り紙つきだ。
シドに突貫しようとしたミスリルベアーはその強靭な紐に引っかかり、
そのまま前のめりに倒れようとする。
そして、その。倒れかけたミスリルベアーの横っ面をめがけて。
「いけえええええええええええええ!!!!」
カッ!!!
閃光とともに現れた日産マーチが、時速100kmオーバーで突っ込んでいたのだった。
続く。
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