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リリカルなのは
俺の戦闘機人がこんなにかわいいわけがない
深夜。
とうに日付が変わり、いつもは賑やかな道にも人通りはない。
寒々しい光景から逃げるように、家路を急いだ。
カモフラージュのためとはいえ、病院に務めている以上、仕事は真っ当にこなしている。
アルハザード仕込の技術を遺憾なく(それでいて技術を地球レベルに抑えて)発揮している。
科学者として作品(手術)に手抜きはない。
そのせいか、最近は名医と評判になっているらしい。
俺は、人の命を助けている。
その実感を得たくて、医者に偽装したのかもしれない。
思い出すのは、管理局の脳みそどもに酷使された日々。
ただいわれるままに、違法な実験に手を染めた。
中には当然人体実験も含まれており、俺は外道になった。
きっとこれは贖罪であり、自己満足なのだろう。
ただ、人気になったせいで、患者が増えすぎた。
おかげで、連日連夜、超過勤務状態である。
今日も急患が指名で3件も入ったせいで、気づいたらすっかり夜は更けていた。
灯りのともっていないわが家を見上げる。
はあ、とため息をつきながら玄関をくぐった。
玄関の明りのスイッチを入れて、真っ暗なリビングのドアを潜ると――パパン、という破裂音が響いた。
と、同時に辺りが急に明るくなる。
「ドクター、誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとうございます!」
わらわらとあらわれるのは、ナンバーズにはやて達。
クラッカーを片手に、口々にお祝いの言葉を掛けてくる。
あまりに予想外な光景に、思わず硬直してしまう。
思考が停止したまま、オウム返しに問い返す。
「誕生日……?」
俺に誕生日などない。
強いていえば、この身体に憑依した日だろうが、日付なんぞ覚えていない。
それでなぜ誕生日?
「はい、ドクターが、誕生日がないことを気にしていらっしゃったので、私たちで誕生日を考えたんです」
ウーノが代表して、解説をしてくる。
あー、そういやそんなこと言ったかもな。
はやてやナンバーズたちの誕生日は欠かさず行っている。
俺の誕生日はないのか?と問われたときに、ない、とだけ答えた。
少しばかり寂しかったのは事実だけに、反論できない。
「今日は、何の日かご存知ですか?」
今日?普通の平日じゃないか?
いやまて、何かのイベントが合っただろう。
幸い俺の頭脳はハイスペックのなので、速やかに過去を検索できる。
そして、ひっかかったのは――
「はやての家に住み始めた日……」
――はやてと出会い、しばらくして居候するようになった日だ。
はやての両親の事故に関する諸事がひと段落して、はやてに言ったのだ。
俺の家で暮らさないか、と。
そのとき、はやては何て答えたか。
『ドクターの家?だって、ドクターは帰る処ないんやろ?なら、うちに居ったらええ』
帰る場所のない根無し草だった俺にとって、そのセリフは衝撃的だった。
両親を失った直後だというのに、気丈に振る舞う姿に感銘を受けた。
結局、これがきっかけで、スカリエッティ一味は、八神家に居候することになったのだ。
「そや。わたしたちがこの家で暮らし始めた日を、ドクターの誕生日にしたんや」
「『俺はこの家で生まれ変わる』って、ドクターは言っていたからな」
得意顔なはやてに続き、チンクが補足する。
そのあと、眠そうなはやてを寝かしつけ、久々のナンバーズ勢ぞろいで、盛り上がった。
思えば、彼女たちもずいぶん人間らしくなった。
昔ならば考えられない光景である。
だから、あえて言おう――
――俺の戦闘機人がこんなにかわいいわけがない!
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