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神に反しても

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第一章


第一章

                          神に反しても
 キリスト教においてはだ。
 同性愛は禁じられている。それも絶対にだ。
 とりわけ聖職者でのそれは忌まれる。神に仕え人々を導く存在がタブーを犯しては話にならない。そうした理由からだ。忌まれているのである。
 しかしだ。この彼モナコ神父はだ。それが変わろうとしていた。
 彼は真面目かつ熱心な神父としてだ。ラヴェンナでも有名だった。
「あそこまでの人は少ないよな」
「だよな。神父様っていっても色々だし」
「けれどあの人は違うよ」
「真面目で熱心で」
「しかも勉強家だ」
「公平で清潔だしな」
 信仰心だけでなくだ。人格も認められていた。
「やがて神父じゃなくてな」
「枢機卿にもなれるかもな」
「そうだよな。どうもバチカンでも知られているみたいだし」
「それならな」
 そこまでの人物だと評判になっていたのである。
 そうした彼だった。しかしであった。彼は今だ。
 ある人物を愛していた。とはいってもカトリックの聖職者は結婚できない。そもそもこの時点で問題になるのだがそれ以上にであった。
 彼が愛しているのはだ。異性ですらなかった。男性だった。
 その彼はサッカー選手だ。ラヴェンナのチームにおいてキーパーとして活躍しているだ。ジュゼッペ=ヘルナンデスという選手だ。
 イタリアにおいてナンバーワンのキーパーと言われている。そのセンスだけでなく敏捷性も高くだ。イタリアはおろか世界屈指のキーパーと謳われていた。
 その彼を見てだ。彼はいつも恍惚とさえなっていた。試合だけでなく彼が出ている雑誌も集めてだ。そうして彼に夢中になっていた。
 その彼にだ。教会で彼の助手を務めているシスターミレッラはだ。こう尋ねるのだった。
「ヘルナンデス選手がお好きなんですね」
「あの選手ですね」
「はい、そうなんですね」
「はい、そうですね」
 真実を隠してだ。そのうえで答える彼だった。
「いい選手です」
「はい、本当に」
「あの人なら」
 こうだ。神父はシスターに話すのだった。
「きっともっともっとも素晴しい選手になります」
「今以上にですか」
「サッカーの歴史に残るキーパーになります」
 ここまで言うのであった。
「いや、これは本当に」
「サッカーの歴史に」
「シスターもそう思われますか?」
 シスターにだ。熱い声で尋ねた。
「あの人は」
「あの人は?」
「いえ、彼は」
 こうした言葉から察せられるのを恐れてだ。すぐに言葉で訂正した。
 そしてそのうえでだ。神父はヘルナンデスについてだ。シスターに対してあらためて、何とか本心を隠してだ。話をするのだった。
「まずキーパーとしてのセンスが凄いですから」
「そうですよね。パンチングもキャッチングも」
「パスも凄いものです」
「とにかく殆んど点を取られません」
 そこまでのキーパーだとだ。話すのである。
「そしてそのうえでです」」
「しかもですね」
「敏捷性もあります」
 それもあるというのである。
「キーパーは動かないイメージがありますが」
「サッカーの中ではですね」
「けれど彼は動きます」
「フットワークも凄いですよね」
「だからいいのです。体形もすらりとしていて」
 これも普通のキーパーのイメージとは違いだ。そうなのだ。
 
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