絵に出てる
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5部分:第五章
第五章
「こうなるの」
「待ってたって」
「わかってたし」
理沙の顔が赤くなる。自然にだ。白い顔がそれで急にだった。
「それも」
「ええと、一体何が」
「あっ、言えないわよね」
どうして今の状況になっているかを考えればだ。それもだった。
「じゃあいいわ」
「あの、ええと」
「とにかく絵はね」
戸惑う田所にだ。理沙はまた告げた。
「喜んで受け取らせてもらうわね」
「うん、有り難う」
「それとね」
絵を受け取った。そしてそれを両手に抱き抱えながらだ。また雄一郎に話した。
「これからも御願いね」
「これからも?」
「絵を御願いね」
それをだというのである。
「田所君さえよかったら」
「また。持って来ていいんだ」
雄一郎は呆然としながら理沙に問うた。
「また」
「何時でも待ってるから」
理沙は今度は満面の笑顔になって彼を見上げてだ。そうして告げた。
「楽しみにね」
「うん、それじゃあ」
雄一郎も応える。そうしてだった。
彼は描いた絵を理沙に贈るようになった。それが二人だった。
やがてそれが自然にだ。より深くなってだ。二人はいつも一緒にいるようになった。
そんな二人を見てだ。周囲は微笑んで話すのだった。
「ハッピーエンドか?」
「結果としてはそうなんじゃ?」
「だよな。ああなったし」
「それじゃあ」
二人を見ながらの言葉だ。
「あいつ告白してないけれどな」
「動いてないんじゃ?」
「いえ、してるわよ」
そしてだ。こんな話も為された。
「ちゃんとね」
「ああ、絵か」
「絵を贈ったの」
「あれがそうか」
「あれが告白か」
「あんな強烈な告白ってないから」
女の子の一人が言うのだった。美術部の部員の一人だ。
「自分を描いた絵をそのまま贈られるなんてね」
「じゃああいつは一歩踏み出した」
「それができた?」
「つまりは」
「そういうことなのね」
「そうよ。もう言葉は絵に出てたし」
彼が描いたその絵にである。
「それじゃあ。それを本人に差し出すってことは」
「これ以上はない告白」
「そういうことか」
「つまりは」
「そう、そういうことよ」
まさにそうだというのである。
「あいつ。それができたのよ」
「そして理沙ちゃんも受け取った」
「そうなんだ」
「あの娘も」
「あんなの。受け取らない奴はおかしいわよ」
こんな言葉も出た。
「あそこまで強烈に思われたらね」
「そうそう。もう応えるしかないから」
「女の子でもね。そうだから」
「そういうものだから」
女組がだ。こう男組に話す。
「あんた達もわかってなさいよ」
「その辺り」
「いいわね」
「じゃああれか?」
その男達のうちの一人が女組の話を聞いていて述べた。
「あいつ最初から理沙ちゃんゲットしていたんだな」
「そうよ。あそこまで強烈に想う」
「そのことでよ」
まさにそれでだという返答だった。
「もうその時点で決まってたのよ」
「そうだったのかよ」
「そう。だっていつも絵に描いてるのよ」
それも昔も今もである。
「じゃあねえ。誰だってわかるし」
「そうそう。しかも純粋だしね」
「一途にあそこまで想われたら」
「応えないと。もうね」
「そういうものよ。女の子ってね」
こう話す女組だった。
「かくしてああなったのよ」
「全部絵に出てたからね」
「言葉も答えもね」
「そうなんだな。今回って」
「ああ、実はか」
「そうなってたんだな」
男組は女組のそんな言葉に納得して頷くのだった。何はともあれ話は幸せな結末を迎えた。雄一郎は理沙を描き続け理沙も雄一郎の絵を受け取る。そんな二人の幸せは深まるばかりだった。
絵に出てる 完
2011・1・28
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