絵に出てる
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3部分:第三章
第三章
「そんなな。誰でもって訳じゃないからな」
「言うねえ。一途だねえ」
「その一途さ嫌いじゃないけれど」
「もう少し素直になれよ」
「ちょっとばかりな」
「だから何だっていうんだよ」
雄一郎は絵に向かいながら彼等に言い返す。
「モデルは。誰なんだよ」
「ああ、来ていいよ」
「お待たせ」
「どうぞ入って来て」
ここでだ。彼等が言うとだ。部室に入って来たのは。
何と雄一郎が今描いているその女の子が来たのだった。学校の制服を着た小柄な女の子である。彼女が入って来たのである。
その女の子を見てだ。雄一郎は急に狼狽しだした。
「な、何!?」
「何って何だよ」
「だからモデルになっていいって人だけれど」
「連れて来たんだよ」
「どうしてなんだよ、おい」
最初は目だけで見ていたが今は身体全体を皆の方に向けてだ。そうしてそのうえで言う雄一郎だった。
「どうしてその人が来るんだよ」
「いやあ、俺達がどう?って言ったらさ」
「来てくれたのよ」
「絵のモデルになっていいってね」
「それでなんだよ」
「それだけだよ」
部員達はにこにことしながら彼に話す。
「たったそれだけだよ」
「美術部だから当然だろ?」
「それ違う?」
「いや、そうだけれどな」
そう言われては認めるしかなかった。雄一郎は顔を真っ赤にしながらもそのことは認めた。美術部員として認めるしかないことだった。
だがそれでもだ。彼は言うのだった。
「何でこの人なんだよ」
「だからってなあ」
「さっきから理由言ってるし」
「絵のモデルになってくれるんだよ」
「喜んでってな」
「喜んで?」
それを聞いてまた言う雄一郎だった。
「モデルになってくれるってのかよ」
「丁度御前描いてるしな」
「どうよ、それで」
「実際にモデルの人がいてくれた方が描きやすいでしょ」
「本人はいいっていってるぜ」
そしてだ。本人もだ。にこりとして言ってきた。
「田所君」
「う、うん」
顔を真っ赤にしてだ。理沙のその言葉に応える。
「ええと、絵の」
「モデルになっていいかな」
こうだ。にこりと笑って彼に言ってきたのである。
「田所君がよかったら」
「そ、それはまあ」
雄一郎は真っ赤な顔で慌てふためきながらだ。理沙に答えた。
「ええと。丁度モデルもいなかったし」
「それじゃあいいのね」
「本当にモデルになってくれるの!?」
雄一郎は戸惑いながら理沙に尋ねる。
「いや、これって」
「夢じゃねえから」
「何なら頭から水被ってね」
「それで確かめてみろよ」
部員達は狼狽し続ける雄一郎にこう告げた。
「とにかく。間中さんはいいっていうから」
「後はあんた次第よ」
「どうするのかはね」
決断を迫られていた。そしてだ。
雄一郎もだ。遂に言うのであった。
「わかったよ。それじゃあな」
「で、どうするんだ?」
「モデルになってもらうんでしょ」
「やっぱりな」
「御願いできるかな」
何とか表情を元に戻してだ。理沙に言った。
「それじゃあ」
「うん、それじゃあね」
理沙もだ。笑顔で応える。そうしてだった。
雄一郎は理沙本人を前にして描くようになった。そうしてだった。
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