戦国異伝
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第百七十六話 手取川の合戦その十五
「期待出来るな」
「そうかと」
「さて、それではじゃ」
「安土に入られてから」
「既に竹千代と徳川家の面々も呼んである」
「その徳川の方々と共に」
「宴じゃ。それは十兵衛が仕切る」
明智がだというのだ。
「あ奴もしてくれるわ」
「では、ですな」
「竹千代にはこれまでにない馳走を食ってもらう」
「そうされますか」
「全く、あ奴はどうも貧乏臭いからのう」
家康の質素さを冗談めかしての言葉だ。
「質素なのはよいがな」
「それが過ぎますか」
「派手にする時は派手にすればよい」
だからだというのだ。
「ここはあ奴に派手に見せるわ」
「そして召し上がって頂きますか」
「堺に都から馳走を取り寄せてある」
そして、というのだ。
「竹千代にはそれを腹一杯食ってもらおう」
「徳川殿には武田との戦で苦労をしてもらいましたし」
「余計にな」
是非にというのだ。
「そうしてもらうわ」
「では」
「あと酒もじゃ」
宴には欠かせないこれの話も出た。
「それもじゃ」
「酒ですか」
「名酒を用意しておけとな」
明智に命じたというのだ。
「そのことも楽しみであるな」
「楽しみですか」
「うむ」
丹羽に確かな笑顔で答えた。
「左様じゃ」
「殿は酒は」
「飲めぬがな」
「我等が飲む姿を見ることがですか」
「それが楽しみじゃ。じゃからな」
「その名酒をですか」
「御主達で楽しむのじゃ」
こう丹羽に言うのだった。
「わかったのう」
「ではお言葉に甘えまして」
丹羽も頭を垂れて信長に応えた。
「そうさせて頂きます」
「まずは祝いじゃ」
城が築かれたそれだというのだ。
「祝ってな」
「それからですな」
「政をするとしようぞ」
「天下の為の」
信長はまた戦を凌ぎそのうえで新たな城に入るにだった。そしてそこでまた新しいことをはじめようというのだった。彼の歩みは止まらない。
第百七十六話 完
2014・3・27
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