戦国異伝
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第百七十六話 手取川の合戦その十一
「だから御主達もな」
「はい、そのつもりはありませぬ」
「我等は織田家の臣です」
「公方様の臣ではありませぬ」
「幕臣ではありませぬ」
「そこで幕臣と言う者は用いぬ」
やはりだ、最初からだというのだ。
「そんなことはせぬ」
「だからです」
「我等にこの様なものを送ってきても」
「心が動く筈がありませぬ」
「間違ってもありませぬ」
「それは」
「全く、何を考えておられるのやら」
信長は袖の中で腕を組んで述べた。
「あの方は」
「どうやらです」
ここで言ってきたのは蒲生だった。
「殿がご自身をないがしろにしておられると」
「思っておられるのか」
「その様です」
「そんなつもりはないがのう」
「殿は公方様を立てておられますな」
「そうじゃ、仮にも武門の棟梁じゃ」
信長にもわかっているのだ、このことは。
「幕府も立てておられるが」
「しかしです」
「それでもか」
「殿はまず朝廷を立てておられ政を執られておると」
「公方様に断りなくか」
「そのことがご不満の様で」
「朝廷を第一に立てずしてどうなるのじゃ」
信長は蒲生にすぐに返した。
「帝じゃ」
「帝だからですな」
「そうじゃ、立てるのは道理じゃ」
第一にそうするのは、というのだ。
「言うまでもないことじゃ」
「しかし公方様は」
「武門の棟梁であられるからか」
「まず己を立てよと」
「そしてご自身に断りなく政を執るなとか」
「そうお考えなのかと」
「しかし最早幕府は何の力もないのじゃ」
このことから言う信長だった。
「それではな」
「それもですな」
「そうじゃ、致し方あるまい」
力がなければ何も出来ない、それでだというのだ。
「わしが政を執るのもな」
「その通りですが」
「しかし公方様はか」
「おわかりになられませぬ、それで」
「朝廷からもじゃな」
「近頃帝も不安に思われているとか」
義昭のことでだというのだ。
「あれでは幕府は残っても益なしと」
「天下を乱すか」
「かえって」
「帝がそう思われているのか」
「ですから殿」
蒲生は身体を前に出して信長に言った。
「若し公方様がこれ以上よからぬことをされれば」
「その時はか」
「幕府も」
倒そうというのだ。
「そうしてはどうでしょうか」
「ふむ、しかしな」
「しかしですか」
「それはまだ少しな」
どうかというのだった。
「時を置くか」
「そうされますか」
「難しい話じゃ」
少なくともすぐには断を下せないというのだ。
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