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憎まれ口

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第三章


第三章

 ある時京介はだ。こんな話を聞いたのだった。
「三ノ輪が最近変なことになってるってな」
「何だ?変なことって」
 こうだ。男子生徒達が学校の食堂で話しているのを聞いたのだ。彼はその話を聞いた瞬間に無意識のうちにうどんをすする手を止めた。
 それで話を聞く。するとだった。
 その男子生徒達はさらにこんなことを話していた。
「この前何か万引きしてたアホを通報したんだよ」
「それっていいことじゃないのか?」
「ああ、それ自体はよかったんだよ」
 そうだというのだった。
「けれどな。そのアホがな」
「逆恨みしてなんだな」
「それであいつ探してるらしいんだよ」
「で、探してやり返すってことか」
「そうらしいぜ。その相手が何か相当タチの悪い奴らしくてな」
 京介はさらに話を聞く。うどんは今は食べていない。
「もう手段を選ばないっていうかな。女の子でもな」
「平気で殴ったりか」
「ほら、いただろ」
 ここで男子生徒の一方が言った。
「培読中の仙谷」
「ああ、あいつか」
「知ってるだろ。万引きにカツアゲの常習犯のな」
「それで高校一ヶ月に退学になったんだな」
「ああ、そいつが三ノ輪をつけ狙ってるって話だ」
 こうした話だった。
「三ノ輪正義感は強いけれど小さいからな」
「腕っ節も全然だしな」
「だからまずいぜ。仙谷は身体でかいしな」
「それ利用して悪事働くから余計にまずいんだよな」
「だからな。あいつこれから用心しないとな」
「まずいよな」
 こんな話だった。京介はその話を最後まで聞いた。
 それでだった。何気に小真のところに来てだ。それで言うのだった。
「なあ」
「何?馬鹿が移るから近寄らないでよ」
「それはこっちの台詞だ。とにかくだ」
「ええ。とにかく?何だってのよ」
「御前最近どうなんだよ」
 何気なくというにはいささかはっきりした口調だがそれでも声をかけたのである。
「何か今にも倒れそうだな」
「全然。元気なままよ」
「顔色悪いぞ」
 それでも言う京介だった。
「というか顔自体がな」
「あんたに顔のことで言われたくないわよ」
 やり取りはいつもの調子だった。
「で、何なのよ。喧嘩なら高く買ってやるわよ」
「ほら、これな」
 京介はここでだ。小真にあるものを差し出してきた。それは。 
 丸い球だった。何個かある。それを差し出したのである。
 そのうえでだ。こう彼女に言った。
「やるよ」
「何、これ」
「あれだ。人にぶつけると赤い色がつくあれだ」
「ああ、最近出てきたあれね」
「やる。全部な」
 顔は彼女から背けたままだがそれでも差し出したのだった。手でだ。
「ありがたく使え」
「どういう風の吹き回しよ」
 小真はその彼の顔と彼が持っているその数個の球を見ながらだ。また言うのだった。
「あんたが私にプレゼントなんて」
「いいから取れ」
 京介の言葉は今度はいささか強引なものだった。
「早くな」
「後で何か寄越せとか言わないでしょうね」
「それなら最初から言うか」
 また言う京介だった。ここで小真はその球を受け取ったのだった。
「いいから受け取れ。いいな」
「相手にぶつけたらそこに赤い色がつくのね」
「そうだ。防犯にもなる。それに」
「それに?」
「これもやる」
 こう言ってだ。今度は黄色い球を何個か出してきたのだった。
「これもだ」
「それも?今度は何よ」
「マスタードだ」
 それだというのだった。
 
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