相州戦神館學園 八命陣×新世界より 邯鄲の世界より
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第2話 絶望の未来、そして新たなる力
「本当に日本からバケネズミを一掃する気?」
「ああ、もうこれ以上犠牲が出るのは沢山だ」
スクィーラは甘粕の力で、自分の死後十年間の映像を見ていた。礼拝堂全体が映画館のようになり、上下左右どこを見ても映像が目に飛び込んでくる。
これが甘粕という男の力だろうか? 甘粕の持つ超常の能力に驚嘆するスクィーラだったが、甘粕が見せている未来で起きた出来事を見たスクィーラは更に驚愕した。
塩屋虻コロニーの残党勢力が神栖66町に対して十年の潜伏期間を経て蜂起したのだ。何故蜂起したのか?
それは単純明快だった。大雀蜂コロニー傘下の勢力、その他独立系のコロニーに対する支配が更に凄惨且つ過酷なものだったからだ。
確かに町の長となった早季は奇狼丸との約束を守り、大雀蜂傘下のコロニーを生き残らせることはできた。が、消えなかったことがイコール幸運な結果になるとは限らない。そう、あくまでも「残させて」もらっただけで、バケネズミに対する待遇そのものは以前以上に苛烈を極めた。
些細な失敗ミスをしただけでバケネズミは容赦なく呪力によって殺害された。数少ない独立系のコロニーも強制的に町に忠誠を誓わされ、過酷な徴収、労働、奉仕を強要された。
幾ら早季が長になろうが、スクィーラの起こした反乱によってバケネズミに対する感情は確実に悪化しているのだ。自分達は元々バケネズミ達と「信頼関係」で結ばれていたと心の底から思っていた町民だ。反抗イコール裏切りと見ているだろう。長とはいえ町の住民の感情全てを無視できる筈もなく、バケネズミに対する無情な仕打ちを見て見ぬ振りをしていたのだ。
生き残ったバケネズミ達は特に理由のないまま町民の呪力の餌食になっていった。大人の立会いの下、子供達の呪力の練習台にさせられる個体も
数多くいた。
呪力によって飛ばされた石で全身の骨を砕かれた者。
身体を火達磨にされ、焚き火代わりにされた者。
手足を呪力で引き裂かれ、苦しむ様子を町の人間から嘲笑された者。
呪力で操られ、同じバケネズミ同士で殺し合いをさせられた者。
特に理由などない気軽さで町の住民のストレス発散道具にされた者。
余りにも凄惨だった。余りにも無慈悲だった。余りにも残酷だった。こんな状況が十年も続いたある日、地下に潜った塩屋虻コロニーの生き残り達が、町の住民の玩具にされ、苦しめられる大雀蜂コロニーを糾合し、町に反乱を仕掛けた。
が、結果は無残なものだった。スクィーラがいたからこそ、あそこまで町に対して打撃を与えることができたのだ。それにメシアの存在があったことも大きい。しかし明晰な頭脳のスクィーラ、町民に対抗できるメシアがいない弱体化した残党の塩屋虻の反乱はあっけなく鎮圧された。
町の人間にも五十名程の被害が出たものの、この反乱によって日本全国に生息するバケネズミを一掃する声が町の上層部や町民から上がり始めた。
「よく考えてくれ早季、良好な関係を二度も裏切られたんだぞ俺達は! この信頼を踏みにじったバケネズミ共を生き残らせたらまた同じ悲劇が起こるかもしれない!」
「わかった、そこまで覚が言うのなら。バケネズミは所詮私達とは違うケダモノ。醜い存在に対して慈愛の心を見せた所で付け込まれるだけ。スクィーラは決して許されない
最悪の行いをした悪魔。今考えれば同情なんて無意味だったのかもしれない。何故バケネズミという存在に姿を変えられたのか分かる気がするわ。信頼を裏切る存在に対して
掛ける情けなんてあるわけない」
覚に押されて早季がバケネズミの殲滅に同意する姿を見てスクィーラは茫然自失としていた。所詮は自分達を理解などしてくれる筈がないのだ。
「渡辺早季……! 貴様は偽善者だ……!!!」
唇を噛み締め、映像の中の早季、覚に対して怒りを露にするスクィーラ。
「悔しいだろう? 悔しいよね? よくよく考えてみなよ。君達バケネズミの苦労なんかこの女はな~~~んも分かっちゃいないっ。呪力っていう力に溺れて、自分達とは
違う存在を対等に見れないのさ。夏季キャンプの時に「本当の敵はあいつらじゃない」な~~んて台詞がよく言えたもんだよ。結局自分は町の方針に逆らえず、妹や親友の死の原因を作った町に抗議の一つもあげやしない!! 町に対して「大嫌い」なんて愚痴零すのが精々な偽善者、臆病者の典型だよ! 強いのはバケネズミみたいな自分より
も格下の存在に対してだけ! 涼しい顔して町の長になるって信じらんなーーーい!!」
神野は軽いステップを踏みながらスクィーラの狂騒的なまでのテンションで周囲を回る。耳元まで裂けているかのような笑顔、ダラダラと口からは涎を垂れ流しながら、一人で熱狂していた。
「分かるだろう、スクィーラ。神を気取っていようが、その中身は全く伴ってない。常に自分達の同胞の中から誕生する悪鬼、業魔の脅威に怯え続ている。その上自分達よりも遥かに非力な存在に対して、支配者を気取り、その命をゴミのように扱う。まぁ、同じ呪力者の中から危険分子を出さない為に最善を尽くすのはよしとしよう、しかしお前達バケネズミに対して散々に扱っておきながら反乱を起こされても何も学べない時点で愚か者でしかない。こんな薄っぺらい連中のどこが大それた存在だというのだ?」
確かに甘粕と神野の言う通りだった。何故バケネズミのコロニーから反旗を翻されたのか。自分達の支配体制に問題はなかったのか。この二つについて永遠に神栖66町は理解できないだろう。
自分達が生き残る為には最善を尽くしていても、旧人類の末裔であるバケネズミは徹底して嫌悪し、蔑視し、支配するのが当然だと思っているのだ。
歩み寄ることも、同情することも、理解し合うことも、和解することも、助け合うことも、信頼し合うこともない。
ただひたすらに一方的に支配する者とされる者の関係が五百年も続いた。だがもうよいのではないだろうか? そこまで力を持つのであれば、バケネズミを従える必要などどこにあるのか? バケネズミを支配させることで神の気分に浸りたいだけなのか?
能力者と非能力者の戦いの歴史から何も変わっていない。非能力者を支配していた暗黒時代の奴隷王朝とどこに違いがあるのか。
「欲しい、力が欲しい!! もっと強い力が……! あいつらに負けない力が、強さが欲しい!!!!」
スクィーラは魂を込めた咆哮をした。
「スクィーラ、お前の意思を確かに見たぞ。俺がお前に新たなる肉体を与える」
甘粕がそう言うと、スクィーラの身体に異変が生じた。全身の骨が砕け、変形していくような激痛に襲われる。その痛み、苦しみは無限地獄の刑にも
匹敵しうるものだった。
「ぐぁああ!? がぁ!?」
これは単なる痛みではなく実際に自分の肉体が変異している。骨格、肌の色、体形のあらゆる面で別の存在に変化している。
自分の目からは自分の手足が変貌を遂げていくのが分かる。どんな存在になるのか? という疑問がスクィーラの脳裏をよぎる。
そしてようやく痛みが治まる。そして自分の身体を見たスクィーラは驚愕した。
「こ! これは……! 人間……!?」
間違いない、目の前にいる甘粕、神栖66町の人間達と変わらぬ人間の身体そのものだった。
「これはお前にとっての試練だスクィーラ。真に人間であるという誇りを持つお前が憎む、神栖66町の者達と寸分違わぬ姿形を持つことに耐えられるか? 誇りを持つのであれば、ありのままのバケネズミの姿の自分になるか? この状態からお前はいつでも自分の意思でバケネズミに戻ることが出来るだろう。これから「出会う者達」に誇りを持ってお前の「真実の姿」を曝け出せるのか俺は見てみたい」
確かに今のバケネズミである姿こそが自分にとっての普通だ。しかし本来の醜い姿をありのままに曝け出せば、当然普通の人間は自分を怪物の類として見るだろう。しかし人間の姿でい続ければ……、普通に接してもらえるのだろう。ケダモノと蔑まれなくなるのだろう。スクィーラは苦悩していた。信頼し合える仲間に出会えても自分の本来の姿を見れば対等な存在だと見做されないのでは? だがバケネズミの姿こそが自分の本来の姿なのだ。この姿だからこそ町の人間に対して立ち向かうことができた。それはスクィーラにとっての誇りだ。自分が憎む連中の皮を被るなど耐えられないことだ。しかし力を手に入れる為に必要なことならば……。
「いつもながら試練を与えるのが好きなお方だ。彼をどうするおつもりですか?」
「決まっているだろう」
スクィーラは自分の身に起きたことに思考が追いつかない状態だった。そんなスクィーラを尻目に甘粕と神野が会話を続ける。
「まさか主よ……、彼を?」
「そう、そのまさかだ。スクィーラには第四層ギルガルの戦真館に行って貰う。そこで邯鄲の夢を学ぶのだ」
「あははっ、貴方のいつものやり方ですねっ! 彼には試練が、鍛錬が必要と?」
「そうだ。スクィーラよ、戦真館に入るに当たってお前には新しい名を付けよう。『塩屋虻之』、お前の新しい名だ。そしてお前はそこで仲間と出会うだろう。彼等が本当にお前にとって信頼のできる仲間であれば自分自身のありのままの姿を見せるのだ。本当に信頼で結ばれた仲間がお前を受け入れるのかが見て見たい! 醜い姿形をした存在でも絆と信頼で結ばれるのかが俺は見たいのだ!! これはお前にとっての試練なのだ!! さぁスクィーラ! 私に絆の力を、人間の持つ愛の力を見せてくれ!!」
甘粕はマントを翻しながら、咆哮する。そう、これはまごうことなき試練なのだ。
スクィーラは力を欲していた。神栖66町の者達に負けない力を、強さを。そして自分を受け入れてくれる存在に出会ってみたかった。自分の世界で、バケモノの蔑まれ、人間として見てもらえなかった。だが、自分を受け入れる存在がいるのであれば……。
そんな者達がいるのならば是非会ってみたい、そして力と強さを手にしてみたい。そう、自分の未来を変える為に。
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