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戦国異伝

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第百七十六話 手取川の合戦その六

「戦え、よいな」
「はい、わかりました」
「では五郎左様の仰る様に」
「そうさせてもらいます」
 足軽達も応えてだ、実際にだった。
 織田家の将兵達は代わるがわる入れ替わって疲れた者は休み怪我の手当もしながらだった。そのうえで上杉の軍勢と戦った。信長も自ら謙信をその目で見つつ采配を振るう。
 鉄砲と弓矢、そして長槍で柵の中から戦う己の兵達にだ、彼は馬上からその高い声でこう言うのだった。
「柵は破られるな」
「決してですな」
「それだけはですな」
「そうじゃ、柵を破られなければじゃ」
 そうすればというのだ。
「よいのじゃ、だからな」
「ここはですな」
「そうして戦ってですな」
「そうじゃ、凌いでじゃ」 
 そうしてだというのだ。
「ここは死なぬ様にせよ」
「出来る限りですか」
「そうせよと」
「そうじゃ、御主達は生きる為に戦うのじゃ」
 死ぬ為ではなく、というのだ。
「わかったな、生きるのじゃ」
「ううむ。戦で生きよとは」
「殿はいつもそう仰いますな」
「当たり前じゃ、戦は手柄を立てる場所じゃ」
 足軽達にとってはだ、そうした場だというのだ。
「手柄を立てても死んでは喜べぬであろう」
「確かに。言われてみれば」
「それでは」
「だからじゃ。生きよ」
 絶対にだというのだ。
「何としてもな」
「そして手柄はですか」
「それは」
「本願寺、武田、そしてこの上杉と戦が続いた」
 この間殆ど休む間がなかった。本願寺との戦がとりあえず終わったところで論功をしようとしたところで武田との戦がはじまり今は上杉と戦っている。これでは論功も出来る筈がなかった。
 だからだ、この三つの戦のそれをというのだ。
「楽しみにしておれ、銭も禄も褒美もな」
「おお、そこまでですか」
「我等も」
「そうじゃ、手柄の分は出す」
 これが信長だ、家臣達に茶器や武具、馬も弾む男だ。ただその論功の見極めはかなりしっかりしている。
「わかったな、ではな」
「ではこの戦生き残り」
「そうして」
「手柄を喜べ、よいな」
 こう彼等に告げてだった、そのうえで。
 彼もまた前で戦う兵達が疲れたならばすぐに下がらせて後ろにいる兵達と交代させた。そして飯も交代で食わせ怪我の手当もさせた。そうして上杉軍の柵を突き破らんばかりの攻めに数と武器を使った守りで対した。
 そしてだった、夕刻になってだった。
 遂にだ、上杉軍を陣頭で指揮していた謙信が言った。
「もうこれ以上はです」
「攻められませぬか」
「我等は」
「はい、この一日戦いましたが」
 それでもだというのだ。
「織田家の柵は破れませんでした」
「思った以上にしぶとかったですな」
「数が多かったです」
「そうです、やはり戦は数です」
 謙信もこのことはよくわかっている、だからこそ上杉軍の全軍と言っていい五万の軍勢をこの場に連れて来たのだ。
 しかしだ、それでも織田軍の十五万の軍勢が堅固に守っていてはというのだ。
「その数に防がれました」
「では、ですか」
「ここは」
「夜の闇に紛れてこの場を去ります」
 上杉の軍勢もそうするというのだ。 
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