蒼穹のストラトス
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プロローグ
前書き
OPテーマ【Shangri-la】蒼穹のファフナー より
◇
時にみんなはツンデレ。クーデレ。ヤンデレ。デレデレ。どれが好き?
私はデレデレとクーデレ、でも暴力ないならツンデレも。ヤンデレは……二次だけで十分です
「おいおい、こりゃ一体どういうことだってばよ?」
携帯のワンセグを観ながら、誘拐を依頼された『合衆国ニッポン!\〈0〉/』のリーダーこと、人呼んで黄昏のザイチェフは怪訝な表情をする。
「このガキを誘拐すれば、織斑千冬は決勝に出場しないんじゃなかったのか?」
チラリと後ろで逃げ出さぬよう縛り付けられた今回のターゲットである少年、織斑一夏に視線を向けてみる。
彼の疑問に答えてくれる者など誰もいない。
別にこの場に彼と一夏しかおらず、口に猿轡をされている少年と二人っきりの中で話せる相手もいないボッチ状態に耐えられずについ漏らしてしまった独り言とかではない。実際に、両の隣には褐色肌の女性と金髪のちょんまげをカツラにして被ってる変人白人男性の他にも五人ほどの部下がいるのだ。
「さて、ね。単純に見捨てたってことなんじゃないかしら?」
「見捨てた?ありえんだろ。依頼人の話が確かなら織斑千冬ってのは家族を大事にしているって聞いてきたんだぞ?」
眉間を寄せながら、ザイチェフは褐色肌の女性に問い掛ける。
対して女性は「多分ね」と、曖昧な回答を口にした。
「おそらく、大事にしているのは有能な人材だけだってそれ以外はいらない……とかそういうのなんじゃない?」
それなんて、お坊っちゃんお嬢様優遇だよと内心突っ込みをいれながらザイチェフは手元の資料に目を落とした。
資料には織斑家の家族構成、氏名、年齢、生年月日、血液型、好き嫌い、趣味、特技、経歴、出身地、働き先または通学先。果ては得意な体位までずらりと記されていた。ちなみに最後のをどうやって知ったかについては企業機密ということで。
そして、肝心の織斑千冬についての資料には、まだ幼い頃に両親を蒸発させられてから以来、弟二人の親として育ててきたとある。それ故に家族愛が強いとも。
「所詮は織斑千冬も人間。欲には勝てなかったってことでしょうね」
「ま、そもそも来るなんて始めから有り得ないと思ってたけどね」
と、それまで黙りこくっていた金髪ちょんまげが確信を秘めていたかのようにつぶやく。全員がその言葉に首を傾げ、ザイチェフは尋ねた。
「おい、それはどういうこった?」
「うん。ほら、そこの織斑一夏君を誘拐した後にその旨を脅迫文に書いて送ったじゃん?あの後一応念のためにと確認に行ったんだけど━━あれ、政府の人間が彼女の手に渡った途端に読みもしないでビリビリに破いちゃったんだよね。しかも『こんなデタラメに騙されるな』みたいなことも言ってたし」
「 いやそれ早く言えよこのスカポンタン!? 」
思わずザイチェフは利き腕の左ストレート(メリケンサック装備)で金髪ちょんまげに華麗なアッパーカットを決めて見せた。
そりゃあ迎えなんて来るはずもない。だって誰も織斑一夏が誘拐されているなんて知らないし、信じてないんだもの。
「くっ!?殴ったね!━━━親父とお袋と兄ちゃんと姉ちゃんと弟と妹と祖父ちゃんと祖母ちゃんと甥と姪とお義父さんとお義母さんと親友と幼馴染みと初恋の人と初恋の人の彼氏と幼稚園時代のいじめっ子と小学生時代のいじめっ子と中学生時代のいじめっ子と高校生時代のいじめっ子と大学生時代のいじめっ子と大学院時代のいじめっ子と就職先の上司と先輩と後輩とお得意先と妻と娘と息子と妻の不倫相手と不倫相手の不倫相手と仮面ライダーとウルトラマンとトッキュウオーと宇宙刑事と近所の犬と近所の猫と極道と神室町のダニとセーラーマーキュリーとエスデス様と総理にしか殴られたこと無いのにっ!!」
「 いやむしろ殴られすぎだろ!?お前の人生にいったい何があったんだってんだよ!? 」
「けどお陰で今では総理と亜美ちゃんとはメル友だよ!」
自慢するようにちょんまげは胸を張る。子供のように、これでもかと。
「 ど う だ っ て い い わ !! いや、でも亜美ちゃん辺りなら確かに羨ましいけども!じゃなくてだな……はぁ、はぁ━━とにかくだ!」
ようやく沸点を下ろせるようになってきたところでザイチェフは未だ拘束されている一夏の方を見る。
助けが来ないという現実を叩きつけられたことが原因なのだろう。彼はハイライトを失った瞳でどこも見ないで、しかしどこかを見ているような、そんな不思議な眼差しをしていた。
「どうするかね、こいつは」
傭兵に引き込んで戦力に加えるのもアリだが、こうも露骨にトラウマレベルの経歴を知ってしまった以上、最悪壊れてしまいかねないと判断したザイチェフは即刻に脳内で却下を下した。
ならこのまま送り返してやるべきなのだろうが、こんな状態ではこれから先まともな生活を送ることは不可能に近いのも確実だ。
保護してやることも出来ない。返してやるのは論外。となれば残された道はただ一つだ。
「とか言って、結局のところはいつもみたいに逃がしちゃうんでしょ?」
「まあな、依頼人からはただ誘拐してこいとしか請け負っていないからな。そしてウチは無駄な殺生をしない。流さんで済む血は決して流させないってのがモットーだからな」
ザイチェフは目配りで仲間に指示を出し、仲間たちもそれに応えるようにすぐさま一夏を拘束していた縄を流れるような作業であっさりと解いた。
解放されても未だ生気を感じさせない一夏にザイチェフは問い掛ける。
「さて、坊主。お前さんはこれで自由の身だ」
「……じ、ゆう………?」
自由という言葉に反応して、ようやく下に垂れていた一夏の顔が上がる。
その声はひどく感情の起伏が薄かった。数時間前までは明るく元気な少年だったはずなのに……ほんの些細な出来事で(誘拐を些細と認識していいのか?)こうにまでなってしまったのだ。そう思うと、どこかいたたまれない気分に陥る。
「━━ああ、自由だ。あ、だからって自殺しようだなんて考えるんじゃあねえぞ?もう家族なんかと暮らしたくないって気持ちは何となく分かるが、まあ生きてりゃあきっと何か良いことの一つや二つはあるもんさ」
誘拐犯の俺らが言ったところで説得力の欠片も無いけどなー、とはちょんまげのせりふ。
兎にも角にも、ザイチェフは一夏の肩を軽くポンと叩いて捕らえていた倉庫の中から追い出す形で解放してやる。
その手にはいつの間にか日本額で一千万相当の金の入ったカードが握られていた。
「しっかり生きろよ。さっきも言ったが、生きてりゃあきっと何か良いことの一つや二つはあるもんさ。必ずな」
最後にそう言い残すと、ザイチェフは一夏に背を向けて仲間の下に歩き出した。
後には一夏だけが残されていた。
◇
「よっしお前ら、今日はラーメン食いに行くぞ。もちろんまぬけなちょんまげの奢りな」
「そんなっ!?━━━くそっ、俺がみんなにラーメンを奢らなきゃいけないのも乾巧って奴のせいなんだ…………」
「なんでもたっくんのせいにすれば許されるなんて思ってたら大間違いよ?」
「おのれディケイド!俺の財布の中身が破壊されてしまった!」
後書き
EDテーマ【Separation[Pf]】蒼穹のファフナーより
次回予告
誘拐事件(ほぼ未遂)から数時間。
家族に存在価値を見いだせていないのではないか?という疑惑から徐々に迫り来る恐怖と不安。帰るべきはずなのに歩みを向けることが出来ない一夏は雨の中、静かに崩壊を始めていく。
そんなとき一夏の目の前に、ソレは突然やってきた 。
次回、蒼穹のストラトス 第一話 消失-わかれ
『あなたは、そこにいますか?』
◇ 【おまけ】 ━どこでもないご都合空間━
???「馬鹿野郎!なんで消えた時用の二番を使った!言え!」
作者「いなくなったじゃないか!原作の織斑一夏という存在が!」
???「でも彼はまだあそこにいるんだぞ !」
???「やめてっ、やめてよ……」
作者「どうせ次回、いなくなるんだ……!たかが一話早いだけじゃないか!」
この話はこれから小一時間続いたとか続かなかったとか
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