絶望と人を喰らう者
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第四話 四
前書き
色々と書きたいシーンがあったが、結果的に長くなりそうなので省きました。(兵士との戦闘シーンとか)
ティアティラ。
周りが鉄板の壁によって囲まれているこの都市に、ナナシはようやく辿り着く事が出来た。
彼の前には錆び付いた鉄製の大扉があり、監視カメラらしきものまで高い場所に取り付けられている。
当然、ナナシはデセスポワールの姿だから、いくら彼が人間を守る為だと言っても襲ってくるだろう。
彼はどうしたものかっと考え、ある事を思い出した。
「そうだ、そういえば俺は結月を喰らったんだったな…… 結月、お前の力を借りるぞ」
ナナシはそう呟くと、カメラに向けて尻尾の先端を向ける。
すると、尻尾の先端がバチバチっという、電気のような音と共に光が集まりだし、やがてその光が雷となって一直線にカメラへ向けて飛翔した。
彼の放った結月の形見である電撃で、監視カメラを破壊した。
「これで良い」
ナナシはそう言うと、素早くその場から離れて身を隠せる崩れている建物へ行き、そこで隠れる。
数分もしない内に門が開き三人の兵士らしき人間達が現れる。
「一体何なんだ? デセスポワールの仕業か?」
「どうやら電気にやられたみたいね……」
「ちっ まあいいさ、また持ち帰って修理すれば良いだけの話だからな」
ナナシは兵士達の会話を盗み聞きしつつ、助走を付けて走り、別の建物へと移動した。
「あぁ…… ん?」
「おい、どうした?」
「いや、今さっき何か黒い影みたいなものが見えたが」
彼はそう首を傾げて答えると、隣の兵士が銃を構えて、
「もしかしたらデセスポワールが彷徨いてるかもしれない、確認しよう」
っと答えた。
「えぇ? 帰って門を閉じれば安全だしさっさと戻ろうよ」
「その通りだが、デセスポワールはまだ色々謎が多いんだ。もしかしたら俺達の想像付かない方法で街に侵入してくるかもしれないだろ? そうなる前に駆除しておいた方が良い。まあ、居たら…… だがな」
「じゃあ、さっさと見に行こうぜ」
「おう」
男二人と女一人の兵士達は固まりながら、先程ナナシの隠移動した建物へとゆっくりと偵察に向かう。
ナナシ的には彼らを無闇に殺したくは無いので、戦闘にならないようどうするか思案し、崩れている天井を見てあそこで待ち伏せしようと考えた。
彼はすぐに跳躍して天井に自身の爪を突き立てると、身体をまるで天井に張り付いたヤモリのように固定するや息を潜めて彼らを待つ。丁度彼の居る崩れた建物は光があまりない暗い場所なので、自身の身体がカモフラージュされ、天井の黒茶色の色と溶け込んでいる。
「なんだ、やっぱり居ないのか」
「ふぅ、良かった」
よって、そのおかげで彼は難を逃れる事が出来、奇襲をする事が出来た。
「ぎゃっ!」
ナナシは一人の兵士の後頭部を踏みつけて、地面に叩きつけるや尻尾を大きく振り、手近の二人を吹き飛ばす。
先端の刃を当てていない為、致命傷を与えはしなかったがそれでも豪速で振るわれた尻尾の攻撃はかなり強烈だ。
吹き飛ばされた二人は一撃で気絶し、ナナシは自分が踏みつけているまだ気絶していない兵士に低い唸り声混じりで尋問を始めた。
「少しお前に聞きたい事がある」
「な、なんだ…… お前は……!? 化け物が、しゃ、しゃべ……ってるだと!?」
「俺に喰い殺されたくなかったら、俺の質問に答えろ。いいな?」
「ひ、ひいい! い、一体化け物が俺に何を聞くんだ!?」
「間宮の居場所を教えろ、あいつはどこに居る?」
「ま、間宮司令官だと!? お、教えるものか! 教えたら俺は反逆罪で殺されるだろ!?」
「じゃあ、今ここで殺してやろう」
ナナシはそう無慈悲に言い放つと、前脚から刃をジャキンっという音と共に生やし、ゆっくりと彼の首元に狙いを定めた。
「まま、待ってくれ! 街の真ん中にあるデカイビルだ! 司令官はいつもそこの地下にある研究所に居る! だから、だから殺さないでくれ!!」
彼が自分の死に対する恐怖に負け、ナナシの尋問に震えながら答える。
ナナシは彼が答えた事により、すぐに刃を引っ込めると、男の身体から離れて門の開いているティアティラに向けて駆けた。
彼が去った後、男は依然震えながらも。
「デ、デセスポワールがティアティラに侵入した! すぐに応援を頼む!!」
っと職務を全うする為に彼が侵入した事を無線機で味方に知らせるのだった。
ティアティラの中へ入り、ものの数分もしないうちにナナシは十字砲火の雨あられを受けていた。
彼は今までの能力を駆使しつつ、建物を利用して彼らから姿をくらませたり、奇襲をしたりして無力化させたり等で兵士を確実に減らしながら間宮の居る場所へ向かう。
そして、何とか兵士達を振り払って、彼はビルへとたどり着いた。
彼は背後に迫ってくる複数の足音を聞き、考える時間も無くビルの中へと突入する。
それから中に居る兵士やエンジニア等の非武装をした人間を押しのけ、幾つもの階段を下り、間宮の居る研究所へ着く。
すると、そこには天羅や仲間達を殺し、自分の姿をこんな風に変えた男の姿があった。
「間宮」
「自分から来てくれるとは恐縮だね、夢見目覚君。君がここに来たという事は名前のとおり記憶が無くなったっという夢から目覚めたっという事かな?」
「あぁ、お前が言う悪夢からようやく抜け出せたよ。大切な妹のおかげでな」
「大切? 兄の存在を知らない妹を大切? なんとまあ素晴らしい妹想いな兄だ、あの子…… アリスかね? あの子は確か母親と君の事を知らない筈だ。まあ、それもその筈。健吾が君達二人の存在をあの子から隠していたのだからね」
彼はそうニヤニヤ笑いながら、話を続ける。
「君は既にほとんどがデセスポワール化し、母はとっくに意識ごとデセスポワールになって殺処分。気づいた健吾は私を殺しに掛かったが、私はそれを見越してあいつに反撃して無力化した後、君の素晴らしいサンプルを使った初の実験体に使わせてもらったよ。結果、忠実なペットになってくれた」
「とことんお前は俺達家族を貶めるのが好きなようだな」
「貶める? 何を言っている、むしろ人類に貢献した名誉な事だよ。君達のおかげで新たなより強くなった適合者が生まれ、しかも、不老不死になる事が出来る。人間が昔から求めていた不老不死だぞ? 素晴らしい事じゃないか」
「それは選ばれた人間だけだろう、もし、お前の作ったウィルスを受け入れない人間が出たら」
「あぁ、化け物に変異する。だが、その時は殺せば良いだけの話だ」
間宮がそう言葉を締めたその時。
ナナシは素早く彼の間合いへ駆け、彼の首筋に喰らいつこうと大きく口を開いて飛びついた。
だが間宮は彼の攻撃を既に見切っており、彼の大きな牙が並ぶ開かれた口を片手で掴むや、地面に叩きつける。
「いきなり襲いかかってくるとは酷いじゃないか、躾が必要なのかな?」
「お前が…… 人間を適合者にする前に俺がお前を、殺す!」
「妙に感情的になってしまったようだね、そんなものを捨てればきっと私の考えに賛同してくれるはずなんだがいやはや残念だ」
彼は全く残念そうに見えない風でそう言うと、ナナシを片手で持ち上げて、空いてる手で注射器みたいな物を取り出した。
「これで暫く眠ってもらうよ」
「果たしてそうかな?」
「ん?」
ナナシはぼそっとそう言い、間宮が首を傾げる。
それからすぐに間宮は自分の腹部に何かが貫いてきた感覚が走ってきて、下を向いた。
見ると、ナナシの尻尾が彼を貫いていた。
ナナシは一瞬の隙を突き、彼に攻撃を当てると、するりと彼の手から離れて尻尾を振る。
そして、彼を壁に叩きつけた。
「これは、油断したね」
ナナシは叩きつけた彼に一瞬で近づくと、その首を飛ばそうと、尻尾の刃を首筋にむけて振るう。
だが、それを彼は左手で掴んで受け止めた。
「いたいな…… 流石に一撃入れられて黙っている私じゃないよ、どうせ君はもう必要ないんだ。ここで駆除するのも悪くない」
彼はそう無表情で淡々と話すと、掴んだ尻尾を右手で手刀の形を作るとそれを尻尾に向けて縦に振る。
「ぐあああああああああああ!!」
間宮の手刀が彼の尻尾を切断し、彼は痛みで苦悶の悲鳴を上げる。
今まで使ってきた尻尾が容易く切り離され、彼の手元でビクンビクンっと痙攣し、やがて尻尾は物言わない肉塊になった。
「これでおあいこだ」
「ぐっ……」
相手は悠々とそう言い、彼の尻尾を捨てると血のついた汚れた右手を振って、血を落とす。
今まで強敵とナナシは戦ってきたが、間宮はそれを超える程の強さを持っており、彼の実力では確実に歯が立たない。
しかし、彼はそれでも逃げる事はしなかった。死ぬつもりも無い。
尻尾があった切り口からボタボタっと大量に流れる血。
彼は痛みで歯を食いしばりながらも、間宮に向かって駆け、前脚のブレードを振るう。
「ははは、そんな突撃だと同じ目に遭うだけだぞ」
間宮は軽々とブレードを躱すと、今度は彼のそのブレードを掴んでもぎ取る。
ブチブチっという繊維がちぎれたような音を出して、自分の肉ごとブレードは間宮によって奪われてしまい、彼の回し蹴りによってナナシは回避できずに吹き飛ぶ。
それにより窓ガラスに当たって、身体が窓を突き破り、研究所内へと身体を転がされる。
研究所内は様々なカプセルや、事件につかうような機器。そして、何に使うか分からないドラム缶があった。
そして、火気厳禁っと書かれた張り紙。
ナナシはそれを見て、頷いた。
「吹っ飛び過ぎだよ目覚君」
彼は大きく伸びをしたりして、リラックスしながらナナシが中に居る研究所へ足を踏み入れる。
「さてと、そろそろお遊びはここまでだ。もうすぐ馬鹿な兵士達もここへ来るだろう。その前に終わらせようか」
「あぁ…… そうだな、そうしよう…… ところで間宮、一つ質問がある」
「なんだい?」
「不老不死の奴が身体を木っ端微塵にまで吹き飛ばしたらどうなるんだ?」
「さあ、考えた事が無いね」
「そうか…… じゃあ、新しい実験の課題を与えてやるよ!」
ナナシはそう叫ぶと、口を開けて、結月の能力である電撃をゆっくりと貯める。
「しまっ!? おい、よせ!!」
「すまないアリス、また兄さんは約束を破ってしまうみたいだ。雫、約束を守れないですまない。だけど、どうかアリスを俺の代わりに……」
「よせええええええええええ!!」
間宮は先ほどの余裕だった表情が消え、真っ青な顔ですぐにナナシの電撃を止めようと、彼の身体を手刀で貫く。
ナナシは口から血を吐き出し、穴を開けられた身体から血が噴出するも、電撃を貯めるのをやめず。
やがて、ナナシは電撃を放ったのだった。
残してしまった、ただ一人の家族の事を想って。
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