呪われたイコン
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第五章
「あの人は」
「そうだろ、だからわしもな」
「渋々でもか」
「売ったんだよ」
ブロコヴィッチにだというのだ。
「そうしたんだよ」
「それでか」
「あの聖母さんはそそっかしいのじゃ」
このことをブロコヴィッチに話す。
「しかもガサツでのう」
「如何にもそうした人だな」
「物音は五月蝿いぞ。いいか」
「それが呪いか」
「そうなるな。それでもよいのじゃな」
「いいさ、夜の間に家事をしてくれるんならな」
それならと言うブロコヴィッチだった。
「おつりが来るさ」
「強いのう、あんた」
「強くないと生きれないだろ」
笑っての言葉だった、実に明るい。
「だからそれ位は平気さ」
「ならいいがのう」
こうしてだった、ブロコヴィッチとその一家はイコンから出て来る聖母と共に暮らすことにした。マリアは確かに何も飲まず食べず風呂にも入らない。しかも家事をしてくれる。だがその五月蝿さとガサツさはというと。
結構なものだった、だから夜に時折物音がした。タチヤーナはその音でよく目を覚まして隣に寝ている夫に言った。
「あなた、またよ」
「ああ、マリアさんな」
「お皿落としたのかしら」
「そうじゃないのか?」
「全く、あの人は」
「ガサツだよな」
「うちのお皿は金属だから割れないけれどね」
それでもだというのだ。
「それでもね」
「音がな」
「ええ、五月蝿いわね」
このことを言うのだった。
「毎日こうだから」
「水を出すのでもな」
水道から出すこれの音もだった。
「勢いよく出すからな」
「水の音が五月蝿いわ」
「掃除一つしてもな」
「何かっていうとぶつけたり落としたりするから」
それでもだった。
「五月蝿いからな」
「全く、困ったわ」
「気になるか」
「結構ね」
タチヤーナは寝惚け眼で夫に話した。
「どうしたものかしら」
「まあ我慢しろ」
「それしかないの」
「家事をしなくて済むんだ、それだったらな」
「いいっていうのね」
「ましてや飲み食いもしないしな」
「それなら音位はなのね」
「いいだろ、それじゃあな」
「そうね、おつりが来るわね」
五月蝿さと家事、それを天秤にかければだった。
「ならいいわね」
「そういうことだろ、いいだろ」
「わかったわ」
こうした話をしてまた眠りに入るタチヤーナだった、そしてその頃だった。
彼等の住んでいる地区で泥棒が問題になっていた、この泥棒はかなり巧妙だった。タチヤーナは仕事から帰ってきた夫にその泥棒のことを話した。
「何でも家の人が寝静まってからね」
「家に入ってか」
「ええ、そうしてね」
そのうえでだというのだ。
「密かに家のお金や価値のあるものを持っていくのよ」
「それはまた巧妙だな」
「本当にこっそりと入ってね」
家の中にというのだ。
「盗んでいって。気付かせないらしいのよ」
「じゃあうちにもか」
「来るんじゃないかしら」
「うちはそんなに金ないけれどな」
「けれどお金はあるわよ」
金持ちではないがあるにはあるというのだ、生活費がだ。
「だからそれを取られたらね」
「困るな」
「そう、だからね」
「泥棒が来られたらうちも困るか」
「かなりね」
「そうなるか、家に鍵をかけてもか」
「入って来るのよ」
その鍵を開けてだ。
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