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死んだ身

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第三章

「雷獣、久しいな」
「御主まで来るとはな」
「知っておろう、雑賀を抜けることはだ」
 そのことは、というのだ。
「死を意味するということはな」
「抜け忍は何処までも追って殺す」
「そうだ、必ずな」
「だから御主も来たのか」
「その命を貰う」 
 風狼は雷獣にはっきりと告げた。夜の山の中を疾風の如く駆けつつ。
「覚悟はいいな」
「いや、わしはだ」
「逃げるのか」
「そうだ、何としてもな」
「逃げてどうするつもりだ」
「忍としてでなく山人として生きる」
「山人とな」
 山人と聞いてだ、風狼は言葉を出した。
「聞いたことはあるが」
「そうなり生きる」
「完全にこの世の者でなくなりか」
「そうだ、わしは生きる」
 そうするというのだ。
「そう考えておる」
「忍ではなく、か」
「忍の何時死ぬかわからぬ生よりもな」
 それよりも、というのだ。
「山の中で人として生きたいのか」
「山人としてか」
「そうだ、そうして生きるのだ」
「別に何処かの家に召抱えられたり百姓にもならずにか」
「商いもせずにな」
 そうしたこともしないというのだ、老人の前にいた時はあくまで変装である。それ以外の何でもなかったのだ。
「そうしてな」
「生きるか」
「そうだ、わしはな」
「そのことはわかった、だが」
「それでもだな」
「わしもお頭から言われておる」
 頭領からというのだ。
「御主を消せとな」
「何としてもだな」
「確かに御主とは長い付き合いだ」
「赤子の時からだからな」
 共に雑賀の里で生まれ育ってきた、そうした付き合いだ。
「共に働いてもきたな」
「そうだったな、しかしだ」
「それでもだな」
「お頭の命は絶対だ」
 それ故にというのだ。
「御主の命を貰う」
「そう言うか」
「覚悟はいいな」
 己の横を駆ける雷獣に対して告げた。
「今より死んでもらうぞ」
「嫌だと言えば」
 駆けつつだ、雷獣は風狼に言った。
「そう言えばどうする」
「聞かぬ」
 これが返事だった。
「全くな」
「やはりそうか」
「ここで会ったことを運の尽きと思うのだ」
 そうして、というのだ。
「覚悟はいいな」
「生憎だがな」
 雷獣もこう風狼に返す。
「わしとしてもだ」
「そう言うと思っていた」
「見逃して欲しいが」
 雷獣は風狼に言った。
「駄目か」
「見逃す、か」
「そうだ、わしは安芸の奥に入ればな」
 そこで、というのだ。 
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