死に場所
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第二章
「左様です」
「御主、わしの後を追ったのか」
「いえ、それがしは生きております」
「生きておると」
「左様です」
その通りだというのだ。
「それがしは生きております」
「待て、わしは死んだのではなかったのか」
「いえ、殿は生きておられます」
「何っ!?」
「周りを御覧下さい」
彼の周りをというのだ。
「そうされて下さい」
「周りをというのか」
「左様です、そうして頂けますか」
「どういうことなのじゃ」
又兵衛はいぶかしみながらも顔だけで周りを見回した、身体を動かしてみるが動いた、あちこちの傷は痛むが動かせない訳ではない。
それでだ、痛みに耐えて起き上がって周りを見回すと。
そこが何処かわからなかった、だが。
空は暗く周りには文次郎と数人の家臣達がいた。その彼等を見て又兵衛も自身が置かれている状況がわかった。
「わしを落ち延びさせたのか」
「はい、左様です」
その通りだとだ、文次郎が主に答えた。胡座をかいてその場に座っている主の前に来ての言葉であった。
「殿のお言葉に反しましたが」
「何故そうした」
又兵衛は怒らなかった、彼等の心がわかっていたから。
だからだ、こう言ったのだった。
「わしを助けたのじゃ」
「はい、殿はまだ死ぬべきではないと思いまして」
「あの戦でか」
「そうです、まだ生きながらえられ」
「次の時を待てというのか」
「左様です、ですから」
「しかしわしは」
「死んではなりませぬ」
絶対にと言う文次郎だった。
「まだ時を待ちましょう」
「死ぬ時ではないのか」
「そう思いました」
文次郎は主の前で頭を垂れて語る。
「許せぬのならお斬り下さい」
「よい」
又兵衛は首を横に振ってだ、こう文次郎に述べた。
「御主達の心はわかっておる」
「だからですか」
「御主達は斬らぬ」
無論だ、文次郎もだ。
「それはせぬ」
「左様ですか」
「しかし。生きて何になるのじゃ」
又兵衛は文次郎の目を見て彼に問うた。
「一体」
「死に場所を求めておられましたな」
「そうじゃ、黒田家を出てからな」
それからは様々なことがあった、かつての主黒田長政の横槍で他の家に仕官をしてもその家を去らざるを得なくなったこともあった。
それでだ、彼はこう言うのだった。
「戦場で死ねればいいと思っておったわ」
「ですがこの戦では」
「死んではならぬか」
「そう思います、ですからここは」
「生きてか」
「次の戦を待ちましょう」
「死ぬつもりだった」
まだこう言う又兵衛だった、だが。
家臣達の真剣な顔を見てだ、遂にこう言った。
「わかった、ではな」
「はい、それでは」
「これより」
「落ちようぞ」
こう家臣達に言ったのだった。
「そして時を待とうぞ」
「そうしましょう、ここは」
「生きていればまた時が来ます」
家臣達もこう言ってだ、そのうえでだった。
又兵衛は大坂から去った、そして。
家臣達と共に落ち延びていった、その落ち延びた先はというと。
大和の奥だった、宇陀というところだ。その宇陀のさらに奥に入り文次郎は又兵衛に対してこう言ったのだった。
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