| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

支え合うもの

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第五章

「君達もだよ、結婚してもね」
「お互いに助け合って」
「そうしてやっていくべきですね」
「僕はそう思うよ、ではあらためてね」
 考えてくれとだ、実吉は二人に言った。だが二人はそう言われてもまだ怖かった。それで中々決心がつかなかった。
 しかしだ、その中でだった。
 ある日のことだ、俊蔵が自分のペンを探しているとだ。目の悪い彼が中々見つけられないでいると悠理がだった。
 そのペンを彼に渡してきた、そうして彼に言ってきた。
「はい、これよね」
「あっ、有り難う」
「探してたのよね」
「うん、君が見つけてくれたんだ」
「そうなの、じゃあね」
「使わせてもらうよ」
 こうして悠理が俊蔵のペンを見つけて彼に渡したのだ。目の見えない彼に代わってそうしたのである。そして。
 悠理がだ、補聴器をたまたま外していて放送が聞けずに困っていると。
 その彼女の耳元にだ、俊蔵が言ってきた。
「十時に。視察が来るってね」
「そうした放送なのね」
「うん、そうだよ」
 こう笑顔で彼女に言ったのである、
「そういうことだから」
「わかったわ、有り難うね」
 悠理は俊蔵が教えてくれて笑顔でお礼を言った、こうしたことがお互いに何度かあってだ、二人共わかったのだった。
 それでだ、ある日だった。二人だけで昼食を摂っている時にだ、俊蔵が悠理に自分から真剣な顔でこう言った。
「院長さんが仰ったことだけれど」
「結婚のことね」
「何となくだけれどわかってきた気がするよ」
「私も。だったら」
「少し前向きに考えてみようか」
「そうね、それじゃあね」
「まだ少し考えたいけれど」
 それでもだというのだ。
「前向きにね」
「そうね、考えていきましょう」
 悠理も俊蔵のその言葉に頷いた。
「一緒に」
「自信はまだないけれど」
 それでもだというのだ。
「このままやっていけるかも知れないから」
「そうよね、だから」
「二人でね」
「そうしていきましょう」
 悠理は微笑んで俊蔵のその言葉に頷いた、そしてだった。
 このやり取りから一年後だった、二人は入籍した。実吉はその二人に対して優しい微笑みでこうしたことを言った。
「おめでとう、これからはね」
「はい、これからも」
「二人で」
「うん、やっていくといいよ」
 こう言うのだった。
「助け合ってね」
「それが夫婦だから」
「私達もですね」
「そうだよ、そういうものだからね」
「だからこそですね」
「私達も」
「相手の耳になって目になってね」
 そうして助け合って、というのだ。
「やっていくんだ。幸せにね」
「そうですね、二人で」
「助け合って幸せになるべきですね」
「私達は」
「そうしていくべきですね」
「そのことを期待しているよ」
 実吉は二人を笑顔で祝福した、そうしてだった。
 俊蔵と悠理は相手の耳となり目となってお互いに助け合って暮らしていった、それだけに二人の愛情は本物だった。誰が見ても。


支え合うもの   完


                           2014・3・26 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧