トランシルバニアン=ラブストーリー
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第四章
第四章
やがて相手が向こうから来た。背が高く明るい感じの青年だ。実はナディア達と同じ学年の生徒なのだ。ついこの前転校してきたばかりである。
その転校生を二人一緒に好きになったのである。だからこそ二人はこんなに戸惑っていたのである。だがそれも終わりだと。二人は少なくともこの時までは思っていた。
相手が目の前まで来た。ナディアは心の中で十字を切った。そうして彼女から話を切り出すのであった。
「来てくれたのね」
「この学校にもこんな場所があったんだ」
「ええ」
彼の言葉にこくりと頷く。
「そうなの。意外と皆知らないけれど」
「所謂校舎裏だよね」
「そうね」
その通りだ。幾ら何でもこれは否定できなう。
「それで。何の用なのかな」
青年は何でもないといった様子でナディアに尋ねてきた。
「呼ばれたからやって来たけれど」
「それはね」
ちらりとイレアナの方を見る。見れば必死の顔でナディアを見ている。彼女を応援してくれているのはそれを見れば明らかであった。
(頑張りなさいよ)
(ええ)
目で言葉を交あわせる。そうして彼女から目を離してまた青年に顔を向けるのであった。
「あのね。ええと」
言葉を慎重に選ぶ。俯いているのが自分でもわかる。
「名前。聞いてなかったわよね」
「ニカエルっていうんだ」
「ニカエル君ね」
「うん。ニカエル=ガラツ」
あらためて自分の名前を名乗ってきた。
「宜しくね」
「わかったわ。それじゃあガラツ君」
「ニカエルでいいよ」
青年はにこりと笑ってナディアに言ってきた。
「気楽にね」
「そうね。それじゃあ」
まだ何かと戸惑っているのが自分でもわかる。それでも言うのだった。
「ニカエル君」
「うん」
一旦やり取りが仕切りなおされてからまた話が為される。
「あのね、ここに来てもらった理由はね」
「何かな」
「実は。どうしても言いたいことがあってなのよ」
「どうしても」
「ええ。その前に聞きたいけれど」
何か話をする順番が滅茶苦茶になっている気もするがそれでも言うのだった。言わないと話が進まないのが自分でもわかっているからだ。
「彼女とか。いるのかしら」
「今フリーだよ」
ニカエルはにこりと笑って答えてきた。
「転校したばかりだしね」
「そう。よかった」
それを聞いてほっとしたのはナディアだけではなかった。イレアナも同じである。見れば彼女は彼女で木の陰から二人のやり取りを見守っていた。今の話を聞いて胸を撫で下ろした顔になっていた。
「それじゃあね。いいかしら」
「うん。よくわからないけれど」
静かにナディアの言葉を聞いていた。それも彼女にとっては有り難かった。
「いいよ」
「あのね」
ナディアはすぐに出なくなりそうな言葉を必死に出す。彼女も必死だった。
「それだったら。彼女がいないんだったら」
「うん」
「私じゃ駄目かしら」
そう言ってきたのだった。
「私で。どうかしら」
「ナディアさんだったよね」
「えっ!?」
不意に名前を呼ばれて。思わず顔を上げてしまった。
「どうして名前を?」
「知っていたよ。だって奇麗だったかな」
「そうだったの。知っていたの」
「ナディアさんだたらいいよ」
ニカエルのこの言葉で天国と地獄がはっきりと別れた。ナディアは晴れやかな顔になりイレアナはどん底に落ちてしまった。まさに天国と地獄であった。
「僕はね」
「えっ!?」
この言葉はナディアにとってもイレアナにとっても思わない言葉であった。
「僕はって!?」
「だから。僕はいいんだよ」
にこりと笑ってナディアに告げる。
「ナディアさんなら。それで」
「それで?」
「ミハエルはイレアナさんが好きなんだ」
不意にそんなことを言うのであった。
「ミハエルって」
「あれっ、知らないの?」
今度はニカエルが不思議な顔をする番だった。今のナディアの言葉に目を丸くさせる。
「僕の従弟だけれど。一緒に転校してきた」
「一緒に!?」
実は二人はそれは知らなかったのだ。あっという間にニカエルに夢中になってしまったのとその従兄弟同士があまりにも似ていたからだ。とてもそれには気付かなかったのだ。そうした理由があるにしろ二人の注意不足と言えばそうなってしまう。
「そうだよ。ミハエルはね」
「ミハエル君は」
「イレアナさんが好きなんだ」
「嘘・・・・・・」
木の陰でそれを聞いたイレアナは思わず言葉を出してしまった。またしても思いも寄らない話だった。イレアナは何とか言葉を消すのに必死になっていた。
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