地味でもいい
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第六章
第六章
「それだけは言っておくよ」
「嘘じゃないって」
「じゃあさ」
冬美に対してさらに言ってみせた。
「今度はどの店に行く?」
「ええと。次は」
「アクセサリー探しに行こうか」
ここでも冬美をリードしてみせた。
「そこにね」
「アクセサリーなの」
「そうだよ。そこにね」
そうして今度はアクセサリーショップに入った。そうしたことを続けているうちにだった。一日が終わった。百貨店を出た時にはもう真っ暗だった。
涼平は冬美を駅まで送って行った。彼女はそのバス停から家に帰るのだった。
「じゃあまた明日ね」
「ええ」
ここでも涼平の言葉に静かに頷く冬美だった。コンタクトにしてそのうえでささやかなアクセサリーをその首にかけている。ネックレスだった。
そのコンタクトでネックレスをかけている彼女を見て。涼平は笑って言うのだった。
「あのさ」
「何?」
「その明日だけれどさ」
「明日?」
「その格好で来てくれないかな」
こう彼女に言うのである。
「その格好でさ。いいかな」
「この格好って?」
「だからそのコンタクトとネックレスでね」
学校に来て欲しいというのである。
「学校で待ってるからさ」
「これで学校に」
「駄目かな、それで」
少し照れ臭そうに笑って冬美に尋ねた。
「そのコンタクトとネックレス着けてね。それだけだけれど」
「眼鏡じゃなくて」
「そう、コンタクトでね」
それだというのである。
「来て欲しいんだけれど」
「コンタクトで」
それを聞いてまずは俯いて少し考える顔になってしまった冬美だった。
そのうえで、であった。彼女は言うのだった。
「何か凄く」
「凄く?」
「いつもと違うけれど」
最初に思ったのはこのことだった。
「今の私って。コンタクトしてネックレスかけただけなのに」
「それでも冬美ちゃんは冬美ちゃんだよ」
彼女に他ならないというのである。
「そうでしょ?冬美ちゃん以外の誰だっていうんだよ」
「今の私も私なのね」
「そういうこと。それでどうかな」
ここまで話してあらためて彼女に問う涼平だった。
「明日さ、このコンタクトとネックレスでね」
「考えさせて」
すぐに決断を下すことはできなかった。今の彼女には。
「明日登校するまでに考えておくから」
「そう、それまでにね」
「ええ。だから今はこれでね」
「そうだね。それじゃあまたね」
「ええ。それじゃあ」
こうして今は別れる二人だった。涼平はバスに乗り込む彼女の背中を見送りながら。こう呟くのだった。
「いいと思うんだけれどね、コンタクト」
しかし決めるのは彼女だった。彼の手からは離れてしまっていた。今は彼女がそのコンタクトとネックレスで来てくれることを願うだけだった。
そうして次の日の教室。例の三人組は朝早くから騒がしかった。
「それでさ、あそこでね」
「そうそう、あの回答はないわよね」
「相変わらず馬鹿だよね、あの人」
昨日のバラエティ番組のことで騒いでいた。朝からそのテンションはかなり高い。
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